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情報のオープン化から見えてくるもの

アソシエイトパートナー 上瀬 剛
『情報未来』No.36より

はじめに

情報通信技術については、技術の進化とブロードバンド、インフラの普及等の環境整備が進む一方で、われわれの暮らしおよび経済・社会活動へのインパクトという面からみると、既に大きなインパクトがあったところと、そうでないところに大きく二分される。特に行政周辺について、電子政府、電子行政の遅れが指摘されるのも、具体的な便益、変化が十分に実感できていないところが要因と言える。今回は、こうした壁を乗り越えるためには「情報のオープン化」が重要ではないかという観点から、海外事例や現状の課題をあわせて整理したい。

情報のデジタル化は十分進んだか

現在では、一部の情報を除いて情報の作成や保存は電子的に行われていると言えよう。ただし、政府あるいは民間企業でも、情報の共有、活用が十分に行われていない要因としては、情報が仮にデジタルで保存されていても、データのコンテキスト、メタデータまで含めて標準化され、電子ファイル横断で簡単に検索、分析可能なフェーズまでにはいたっているとは言えない。すなわち、現在の情報や文書の作成が、個別のファイル単位で行われている段階は、デジタル化という点では初期段階に過ぎないと言えるだろう。

一方で、アナログでとどまっている情報も特に行政分野では多く存在し無視できない。これらの多くは1990年代前半までの情報(ワープロ時代あるいはそれ以前に作成されたもので、現在デジタルで再生可能な環境にないもの)や、情報の受け取りが紙で行われているため(作成主体と保管主体の分離)保管が紙で行われているものであるが、長期間紙媒体で放置しておくことは、時には外交や国民向けの行政サービスにおいても支障をきたす。

今後こうしたアナログ情報も、スキャニングし電子書籍化すれば、完全な形ではない(画像情報にとどまる)にしても、利便性が大幅に向上する可能性はある。イメージ化して保存の上で目録を作成し、関係者で共有されるようになれば、利活用のレベルは大きく改善するだろう。

情報のオープン化

次に、情報がデジタル化されていても、その利活用が狭くクローズドな状況であれば、情報の高度化はおぼつかない。特に政府、自治体には、さまざまなデジタル情報が眠っていて有効活用されていないことが多い。

代表的な例は行政の統計情報である。従来もマクロでの集計結果は公表されていたが、個票に関するデータは公表されていない。匿名回答の場合にはこうした個票の情報まで分析可能な状態にしてデータが整理され、外部に公開されることになれば、営利、非営利でも新たなニーズが生じよう。そのほかにも、地理情報、健康に関する情報などさまざまなものが考えられる。現在こうした情報については行政の側でも有効活用されているとは言えないことから、新たな利用シーンを創造するチャンスとも言えよう。

なお、現在の政府のIT戦略では(本年5月に取りまとめた「新たな情報通信技術戦略」でも)、こうした情報の活用を加速させることでブレークスルーを起こしうるのではとの指摘がされている(次は同戦略からの抜粋)。

  • 行政が保有する情報を2次利用可能な形で公開して、原則としてすべてインターネットで容易に入手できるようにするなど、行政が保有する情報の公開を積極的に推進する。
  • 行政が保有する統計・調査などの情報について、回答者の個人情報を保護する観点から、個人が特定できない形に情報の集約化・匿名化を行い、それらを原則としてすべて2次利用可能な形でインターネットで容易に入手し、活用できるようにすることにより、新事業の創出を促進する。

ちなみに、情報をオープンにするといっても何もかもオープンにすることが望ましいと言っているわけではなく、個人情報にかかわるもの、情報としての価値が古いものなどはあることから、費用対効果やニーズといったものを検証しつつ進めていくことになろう。

海外の参考事例(米国オバマ政権の「オープンガバメント」)

米国連邦政府では、デジタル情報のオープン化の取り組みが「オープンガバメント」としてオバマ政権によって強化されている。こうしたオープンガバメントの象徴ともいえるインターネット上からのサービスとして、data.govというホームページからさまざまな政府の情報・データを公開している。同ホームページの説明によると、次のような狙いがある。

図表1:data.gov上でのデータ提供画面
出所:data.gov
  • ソフトウエア開発事業者は、data.govから提供されているデータを活用することで、さまざまなアプリケーション、マッシュアップ、ビジュアル化を実現できる。
  • 市民にとっても、こうした民のサポートにより、必要な情報・サービスを必要なときに利用できるようになる。
  • 研究者(大学や民間研究機関)にとっても、より詳細な分析、研究活動が実現する。
  • オープンにされたデータを基盤にしたネット上のコミュニティが形成される。

データの種類にはさまざまなものがあるが、本原稿作成時に、利用頻度の上位データとしてホームページ上で公開されているのは、「世界中のM1以上の地震情報(過去1週間)」「米国連邦政府による海外への資金提供(Grant)や借款(Loan)」等だが、農業から金融、地理情報、住宅までさまざまな情報が、多様なファイル形式で提供されている。また、一方的な情報提供だけでなく、利用者からの評価、フィードバックの仕組みも整っている(図表1)。

活用する側の課題

新たなサービス、付加価値の実現:情報のステージから実際のバリューへと進化していくためには、組織、人材を含むさまざまなハードルを越えなければならない。また、情報のオープン化が実現した際には、ステークホルダーとして、利用者(国民、企業)の活用能力がスポットライトを浴びることになる。すなわち、ここで利用者側が十分に情報の活用能力を発揮できなければ、これまでの環境整備も成果をもたらすとは言えない状況になる。

ここで、活用する側での課題の一つは共有化である。当社では、JUAS(社団法人日本情報システム・ユーザー協会)や経済産業省のIT経営の支援や調査検討を進めてきたが、そこでも、情報の共有化が重要なステージとして位置づけられている。また、単に情報の共有化を進めるだけでは不十分で、共有された情報がいかに活用されるかもポイントになる。情報が経営にあるいは事業・業務上もつ意味、役割、メッセージにいかに気づき、かつ生かせるかになるわけだが、これは経営そのものといえるだろう。

制度面での課題

行政機関の縦割りや法制度による制約によって情報の活用、共有が損なわれているケースが多い。例えば、情報の活用に当たっては個人情報保護の対応が鍵となる。技術面では匿名性などいろいろ論点があるが、何より国民の理解、協力が不可欠である。

また、個人の情報コントロール権がポイントとなる。これは、自由な情報の活用とかぶるかもしれないが、自分の情報がどのように扱われているか(他人によって悪用されていないか)を知ることができる機能、権利とも言える。

個人からのフラットな情報発信の仕組み

従来と違って情報を発信するのが大きな組織であるとは限らず、個人による情報発信もポイントとなる。ボトムアップ、トップダウンという意思決定に関する見方も情報という面ではフラットであり、従来の考え方そのものが大きく変わっているとも言える。情報の発信スキームも今後整備していかなければならない。

今後のポイント

(1)共同でサポートする仕組み

情報の利活用が進むためには、情報の提供側、利用側の個別の取り組みに加えて、両者が共同するかたちで、利活用の高度化をサポートする仕組みが今後スポットライトを浴びる可能性が大きい。すなわち、情報の処理を行う専門チーム、センターの役割が今後大きくなっていく。こうした拠点では最新の情報を見分けて付加価値をつけて提供していくこととなるが、既にNTTデータにおいても、拠点作りの強化姿勢を示しており、今後注目される。

(2)行政の情報のオープン化の加速

情報公開の仕組みの充実が望まれる。米国の場合、電子メールでさえ一定期間経過後に公開されるが、日本の場合の情報公開は基本的には受け身である。したがって、政府に情報提供を求めても”無い“と言われれば、それまでとなりかねない。

現在の情報公開法と、各府省が定めている文書管理規則によって、各府省では、行政文書を(情報公開等のために)適切に管理しなければならないとされているが、管理の対象はあくまで公的な文書の正本、決裁を経た正式な文書、決定等が中心であり、途中段階での非公式文書はオープン化の対象とはされず、また、あくまで管理対象が文書であることから、文書の構成要素ともなる「データ」「情報」の公開に向けた仕組みはまだまだ不十分と言わざるを得ない。
米国の「オープンガバメント」の動きも参考に、あくまでデータの公開、利活用を前提とした制度、行政運営への転換が望まれていると言えよう。

(3)情報の新たな利用形態への対応

情報の利活用の初期段階としては、利用者自らが使う情報だけを利用者本人がアクセス、ダウンロードした上で加工、利活用するという形態が該当するが、次の発展段階として、情報を取り扱う規模が大規模、あるいは高度になるに従って、分析そのものがビジネスとして自立し、他人(顧客の)情報の加工、分析等を行うサービスが本格化する段階である。
こうした、分析サービスの本格化に当たっては、国内外のITサービス関係企業でもBI(Business Intelligence)の拠点を設けて強化する等の動きが見られるところであるが、この際には、「代理」という概念が一つの鍵となってくる。代理人による行政情報の扱いについては、電子政府でも代理を専門とする業(司法書士、税理士等)の活躍が既に見られるところであるが、本人(顧客)の情報を代理人が委任等を受けた上で扱うことに対する制度上の整理が必要となる。また、情報の処理サービスが具体的にどのような付加価値をもたらすのか、個人情報の安全な取り扱いを監視するための第三者機関の扱いなどについても今後、整理の必要性が生じよう。

幅広い利用者層への配慮

デジタル情報が多くの人に対して提供されるにあたっては、デジタル・デバイド対策も同時に考慮されなければならない。この段階にいたると、情報のデジタル化というよりは、デジタル化された情報がいかに幅広い人に処理、理解可能な状態になるかということであるが、画面の操作性、デバイスといった要素までかかわってくる。例えばデバイスの場合には、パソコンを十分に利用できない人に対してもタッチパネルや携帯電話で簡単に操作できるようになることが必要であるし、情報がより理解可能となるためには、情報のコンテキストを明確にした上で、ワンストップで関係する情報を同時に入手して分析することができるような仕組みも必要となる。

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