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ユーザー企業におけるIT活用力強化について

アソシエイトパートナー 瀬川 将義
『情報未来』No.35より

ユーザー企業におけるIT活用への積極関与の必要性


図表1:IT活用力強化が必要な背景
出所:NTT データ経営研究所にて作成

経営におけるITの重要性の認識は年々高まってきている。情報システムを利用する立場であるユーザー企業でも、ITの効果的・効率的な活用のためには、ITベンダーに任せきりにするのではなく、自らも積極的にIT活用について関与する必要性が高まっている(図表1)。

ユーザー企業が積極関与すべきところは、もちろん、システム構築そのものではなく、次の3つの領域である。

(1) ビジネス目的に対してどのようにITを活用し、どのようなシステムが必要かを企画すること(IT企画)、
(2) システムの品質を確保しつつ、計画通りの予算と期間で導入できるようマネジメントすること(IT導入)、
(3) 導入したシステムを十分に活用して効果をあげるために、エンドユーザーへの啓発や導入効果測定および継続改善といった利活用促進をすること(IT利活用促進)である。

例えば、IT戦略立案、IT企画/要件定義、発注者としてのプロジェクトマネジメント、業務改革の実行、新業務/システム定着化活動などがそうである。しかしながら、ユーザー企業の多くは、こういったことを十分に実施できているとは言えない。ただ、近年では、IT活用への積極関与の必要性の認識が高まっているため、「IT活用力」を高めようと対策を打つユーザー企業も増えてきており、我々がコンサルティングを行う機会も多い。

本稿では、コンサルティング活動を通して、聞かれることの多い課題と、ユーザー企業が実施すべきIT活用力強化施策をいくつかご紹介する。なお、本稿において「IT活用力」としているものは、前述の3つの領域を実施する能力のことで、「IT企画力」、「IT導入力」、「IT利活用促進力」として定義させていただく。

ユーザー企業のIT活用力における課題

IT活用力における課題として、次のようなものが聞かれることが多い。

IT企画力に関する課題(例)

  • 上流工程で何をどのレベルまで決めておくべきかわからない(または、人により認識が異なる)ため、上流工程が難航する
  • 要件定義書の書き方が曖昧であるため、ベンダーに要件が正しく伝わらない
  • ITと業務の両方がわかる人材が不足しており、要件が定義できる人がいない
  • ユーザー部門、IT部門、ベンダー(含むIT子会社)といった関係者の役割分担が不明確なため、ユーザー部門をうまく巻き込めず、要件がなかなか決まらない 等

IT導入力に関する課題(例)

  • プロジェクトの管理はベンダー任せのため、状況がユーザー企業側には可視化されておらず、想定外の遅延やコスト超過が発生することが多い
  • 発注者(ユーザー企業)として管理すべき項目を設定していなかったり、ユーザー部門、IT部門、IT子会社、ベンダーの役割分担が不明確であるため、発注者としての管理は属人化し、管理を全くやらなかったり、やりすぎたりしてうまくプロジェクトが進まない
  • 検収は、属人的に行うため、力の入れどころを間違えたり、不十分になったりして、システム導入後にトラブルが発生することが多い 等

IT利活用促進力に関する課題(例)

  • ユーザー部門をうまく巻き込めないため、ユーザーにシステム利用効果を訴えることができず、利用されない
  • システム導入効果を測定していないため、改善につながらない
  • IT部門、経営層、ユーザー部門のコミュニケーションがうまくなされていないため、システムの目的が共有されず活用が促進されなかったり、より効果をあげるためのシステム改善がなされずに効果が上がらない 等

これらの課題の根本的な要因としては、主に、(1)会社としてのルールや標準の不備、(2)役割分担なども含めた組織の不明確さ/不適切さ、(3)人材不足といったものが考えられる。

ユーザー企業におけるIT活用力向上施策(例)


図表2:ユーザー企業におけるIT活用力向上施策(例)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

ユーザー企業側のIT活用力に関する課題の解決策は、個別にはいくつも存在するが、ここでは、ユーザー企業へのコンサルティング実績にもとづき、根本的かつ継続的に効果を発揮すると思われる施策の中からいくつかを簡単に例示する(図表2)。

根本的かつ継続的に効果を発揮するためには、「ルール/標準の策定」、「IT推進体制の明確化・最適化」、「人材育成の仕組み」の観点が重要だと思われる。

(1)上流工程の標準化

上流工程のプロセスの明確化、IT企画書/要件定義書の様式、記述内容/粒度/レベル、責任/役割などを標準として定義する。上流工程の標準化に関しては、「ユーザー企業に求められる要件定義力の向上」(『情報未来』N0.27 2007年3月)にて詳しくご説明しているので興味があればそちらも参照いただければと思う。

(2)プロジェクトマネジメントの 標準化

ユーザー企業として管理すべき管理項目/指標、管理シートの様式、管理ノウハウなどを標準として定義する。また、統一した管理指標の予実データの蓄積・分析を行うことにより、プロジェクトマネジメントの高度化(改善)も実現できる。

(3)品質管理プロセス・基準の整備(標準化)

ユーザー企業として求める品質レビュープロセス、品質チェック基準または指標を標準として整備する。

(4)コミュニケーションプログラムの策定

システム導入に伴う変革の周知などのコミュニケーションに関して、システム導入時の混乱やエンドユーザーからの不満を軽減するために必要な情報、相手、方法、タイミングをあらかじめ設定しておく。

(5)効果測定指標/ガイドラインの整備

システムごとに効果は異なるため、効果測定指標は、個別に設定する必要があるが、その設定の際の観点や留意点、各システムの効果測定事例をまとめたガイドラインを整備する。

(6)IT推進体制の明確化・最適化

IT部門、ユーザー部門、IT子会社、ベンダーの役割分担を明確に定義し、それにあわせた組織体制、人材配置、育成を実施する。特に、責任/役割を明確にすることにより、各自の責任/役割遂行の担保が実現できるし、組織として必要な人材像を明確にするためには必須である。

(7)IT人材育成体系の整備

IT部門またはIT担当に必要な人材像とそれに求められる知識・スキル・経験を明確にし、それらを身に付けるための仕組みとして、研修、ローテーション、経験管理などの育成体系を定義する。人は、短期的な知識の詰め込みだけでは育たないため、中長期的な視点で必要な経験をさせることが特に重要であると思われる。

施策の効果を創出するためのポイント

ご紹介した施策は、単独で実施しても効果があるものもあるが、べき論としては、複数の組み合わせにより、実施すべきである。例えば、標準化や推進体制の明確化がなされていないのに、人材育成だけに取り組んでも、組織が必要とする人材が育つとは限らない。

ユーザー企業からは、「人が問題だ」、「(優秀な)人がいない」という声がよく聞かれる。では、外から優秀な人を引き抜いてきたり、人材育成に力を入れるだけでよいかというと、それで問題が解決するとは思われない。優秀な人であっても、一緒に仕事をする人同士で仕事のやり方などの認識があっていなければうまくいかないと思われるからである。

IT活用力は、「企業として」持つべきものであるため、個人レベルではなく、企業レベルで力をつける必要がある。つまり、(1)会社としてのルールや標準を整備し、(2)それに合わせて、役割分担なども含めた組織を最適化し、(3)それらを前提として人材を育成するという順序で考えるべきである。

また、特に、標準の内容や組織・推進体制などは、各社の現状レベルや事情、特性に依存するため、「これが正解」というものはない。実際に適用し、その効果や課題を検証し、継続的に見直して自社にフィットするものとしていくことが効果創出のために重要なことと思われる。

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