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日本の電子書籍市場拡大に向けて

シニアコンサルタント 渡部 寛
『情報未来』No.35より

はじめに

最近、グーグルブックスの著作権を巡る報道や、アマゾン・ドットコム社の電子書籍リーダー「Kindle2」の発売などにより、電子書籍関連の記事を目にする機会が多くなった。本稿では、米国のKindle2のサービスを参考に、日本におけるネットワーク配信型の電子書籍の普及の条件について検討を行った。

電子書籍端末「Kindle」

米国ではアマゾン・ドットコム社が提供する、欧文専用の電子書籍専用端末Kindleを用いたサービスが注目されている。現行機種のKindle2は電子書籍端末Kindleの最新型として2009年2月に発売され、現在$259で日本でも入手可能である。大きさは一般的なシステム手帳よりもやや大きく、6インチの白黒液晶画面を持つ。Kindle2の特徴は、3G携帯電話回線を使ったデータ通信機能を内蔵していることで、Sprint Nextel社が提供するKindle専用回線を用いて、通信料無料で電子書籍コンテンツがダウンロードできる。

コンテンツは「Amazon.com」上の「Kindle Books」という専用カテゴリーから購入でき、最新のベストセラーや「フォーブス」「フォーチューン」といったビジネス誌、「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォールストリート・ジャーナル」のような新聞まで入手可能である。アマゾン・ドットコム社によれば、350,000冊の本に加え、各種新聞・雑誌が利用可能とされている。

一方で価格設定を見ると、ニューヨーク・タイムズ紙(新聞)の場合は、紙面の一部の写真や図表等が表示されない制限はあるものの、記事は紙媒体と同一で価格($27・99/月)は紙媒体をNYエリアで購読した場合の料金($11・70/週なので$46・80/月と換算)と比較して4割ほど安く設定されている。

このようにKindleのサービスは、専用の端末が必要であるものの、「Amazon.com」という認知度の高いオンライン書店から、ワンストップで書籍を探して購入できるなど利便性に富んでいる上、価格も紙媒体よりも安く設定されていることから、購入にあたって経済的なインセンティンブが働く形となっている。

日本における電子書籍普及の条件


図表1:2003-2008 年のモバイルコンテンツ市場の内訳
出所:総務省「モバイルコンテンツの産業構造実態に関する調査結果」

日本では、ソニーが「LiBRie」、パナソニックが「ワーズギア」などの電子書籍専用端末を販売していたが、2008年に相次いで撤退している(2008年12月LiBRie向けコンテンツ配信終了、2008年9月ワーズギア向けコンテンツ配信終了)。このように専用端末を使ったサービスが廃れる一方で、携帯電話向けの電子書籍市場は2004年以降拡大しており、2008年には395億円ほどの市場に成長している(図表1)。

これらから、日本では電子書籍閲覧用の端末として、スマートフォンを含めた携帯電話が一定の地位を築いていると考えて良いだろう。

しかし、日本の電子書籍サービスにおいては、コンテンツがコミックに偏っているのが実態である。また、携帯電話向け有料サイトで提供される記事は、紙媒体の代替サービスと言えるレベルに達していない。さらにKindleにおいてAmazon.comが提供している「電子書籍の探しやすさ」「購入のし易さ」などの利便性を高めるサービスも不足している。

今後、日本の電子書籍市場においては、コンテンツの偏りを無くすと同時に、紙媒体と同等の情報量を提供することと、電子書籍が探し易く購入し易い環境を提供することが当面の課題であると考える。そしてこれらの課題を克服することが、市場拡大の条件となろう。

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