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店舗ーネット連携の進展

シニアマネージャー 木村 俊一
『情報未来』No.35より

店舗ーネット連携の必要性

近年、多くの企業が店舗とネットのシナジーを創出するため、これらの連携を推進している。このような取り組みの、概念は古く(クリック&モルタル)、従来から取り組んでいた企業もあるが、現在、より多くの企業が、これらの必要性を感じ、取り組みを推進している。

これまで、販売チャネルを、店舗中心に構築してきた事業者の間でも、ネットを1つの流通チャネルとして、物品、サービスの販売を行う電子商取引(以下、EC)の活用が広がりつつある。ECチャネル展開に熱心とは言いがたかったGMS(ゼネラルマーチャンダイジングストア)等も、ネットスーパー等の新たなチャネルの展開に力を入れ始めている。また、増えすぎた店舗を整理統合し、代わりにECを拡張するという企業も増えている。

図表1:わが国におけるBtoC-EC 市場規模の推移
図表1:わが国におけるBtoC-EC 市場規模の推移
出所:経済産業省「平成20年度我が国のIT利活用に関する調査研究」
(電子商取引に関する市場調査)

このように、各社がECチャネルに力を入れ始めた要因として、世界的な不景気で、店舗の売上が減少する中、「巣ごもり消費」等の影響でECの市場規模(ECチャネル上の取引総額)は拡大を続けていることがあげられる。

経済産業省が発表した「平成20年度電子商取引に関する市場調査」によると、2008年のECの市場規模は、6・1兆円に達し、対前年比13・9%増となっている(図表1)。

日常の食品や雑貨等をECで購入することも普通になってきた今、消費者は少しでも低価格で購入できるものを求めて、価格サイト等で検索、比較を繰り返している。

また、消費者は以前にも増して、ネットと店舗の利点を組み合わせた購買行動を取るようになってきている。例えば、ネットは広範かつ、詳細な商品情報を参照できる上、これらを比較することが容易という利点がある。店舗には、実際に手にとって見ることができる、または購入後、そのまま持ち帰ることができる(すぐに手に入る)という利点がある。双方の利点を上手く活用し、ネット上で商品を選んだ上で、店舗に出向いて購入する、もしくは逆に店舗で実際に商品を手にとって選んだ上で、ECサイトより注文するという消費者も出現している。

販売する商品にもよるが、これまで店舗展開を中心としてきた事業者にとって、EC専業の事業者にはない自社の利点(店舗網)を最大限活用し、ECとの相乗効果を狙いながら、ECチャネルを自社の1つの柱として強化することは、大きな課題であろう。

店舗ーネット連携事例

店舗、ネット間連携の取り組みは、大きく分けてフロント系とバックヤード系に分けて考えられる。

フロント系の取り組みは、顧客情報の統合、ポイントの共通化、統合された情報を利用した販促メール配信等、効率的、効果的なマーケティングや、営業を目指すものである。統合された情報の分析のため、ビジネスインテリジェンス(BI)ツール等が導入されることも多い。

バックヤード系の取り組みは、在庫情報の統合、在庫共有、EC注文品の店頭受け渡し等である。店舗在庫とEC在庫の情報を統合し、ECサイト上で店舗在庫・EC在庫の全てを一元的に検索可能とし、さらに店舗の在庫をEC上でも販売するケースもある。EC上で、店舗在庫を販売する仕組みを持つモデルとしては、現在急拡大中のネットスーパーが挙げられる。また、多くのネットスーパーでは、注文した商品を配送してもらうこともできるが、消費者が出向いて店頭で受け取ることも可能である。このような、店頭受け渡し型のECは、次第に増加傾向にあるという。ECサイトで商品を注文し、その決済、および受け取りを、指定した店舗(通常、購入者の住所の近辺の店舗)で行うことができるため、商品がすぐに手に入り、決済も安心である。このような、ある意味「小口物流に頼らないEC」は、わが国ほど、宅配便等の小口配送が発達していない欧州等では主流の方式である。英国でEC事業者として上位に位置するテスコ、アルゴス等は、何れも店舗を持つ事業者であり、自社のECサイトで販売したものを最寄りの店舗で受け取ることが可能である。また、米ウォルマートも近年、ECサイトで購入した品を、最寄りの大規模店舗で受け取り可能な方式を展開し、約100億円近い配送費削減を実現したという。

多くの事業者は、これらの店舗、ネット間連携の施策を、さまざまに組み合わせて自社に導入している。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)では、店舗におけるオンライン会員登録の勧奨や、オンライン会員に対する店舗からのクーポン発信による来店誘導、ネット上での店舗在庫の検索機能の提供等がなされている。また、チャネルコンフリクトを避けるため、オンライン収益の店舗とのシェアがなされているという(※1)

※1:NIKKEI NET「ネットとリアルの連携」で実績上げるTSUTAYAの次なる戦略

紀伊国屋書店では、ECサイトBookWebを展開しており、既存の店舗網との連携がなされている。BookWeb上では、各店舗の在庫の検索が可能となっており、すぐにでも書籍を入手したい場合や、一度中身を確認してから購入したい場合は、店舗に出向いて購入すればよい。ネットから店舗への誘導という意味では、大いに効果がある方法であろう。また、最寄りの店舗に在庫がない場合は、そのままBookWeb上で購入可能である。

統合された情報の分析のため、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを導入している例としては、HMVジャパンがあげられる。

同社は店舗販売とEC販売のデータを統合し、自在に分析できるビジネスインテリジェンス(BI)システムを構築している。リアル店舗とECサイトの両方を利用する顧客行動を分析することで、より正確な分析を実現し、効果的なマーケティングを目指している。効果の一例をあげると、メールでレコメンドした商品の購入率が4倍と、購入する確率が3~15倍に向上したという。また、店舗、EC双方の売れ行きのパターンを把握できるようになった結果、新譜の初期発注量を抑えて準新譜の売れ残りリスクを回避することが可能になったという(※2)

※2:日経コンピュータ 2009.2.1

店舗ーネット連携からマルチチャネル連携へ

今後は、店舗―ネット(PCやモバイル)での連携のみならず、さまざまなチャネルを自在に活用して、より最適なサービスを提供する試みが拡大するものと思われる。以前はリーチしたい顧客層によって、チャネルを分けるのが通常であったが、現在は1人の顧客でも、生活の中のさまざまなシーンによって、利用するチャネルが異なる。また、一連の購買プロセス(商品情報収集、比較、決定等)の中で、チャネルを使い分ける消費者が増加しつつある。

図表2:将来的なマルチチャネルの拡大
出所:経済産業省「平成20年度我が国のIT利活用に関する調査研究」(電子商取引に関する市場調査)

これに対応するためには、顧客接点チャネル(店舗、パソコン、モバイル、IPTV、ゲーム機等)の拡大は必須であり、さらにそれを支える各種基盤(顧客情報、在庫、決済手段等)も併せて統合を進める必要があると考えられる(図表2)。

現在、ネットチャネルを整備する際に、まず考えるのは、パソコン、もしくは携帯電話であろう。さらに特にECについては、パソコンからのアクセスを想定したものが多いと思われる。

ただ、今後はパソコンだけでなく、モバイル機器(携帯電話、スマートフォン等)や、IPTV等、さまざまなインターネット接続機器でのECが拡大してゆくことが想定される。

実際、モバイル機器(特に携帯電話)からのECは確実に活性化している。従来は、商品の品質を確認する必要がほとんどない、書籍やCD等の購入がほとんどであったが、現在は衣類等も購入されるようになってきている。また、商品の選定は紙媒体のカタログで行い、発注、決済のみ、携帯電話を介して行うといった消費者も存在するようである。

ゲーム機も爆発的な普及とともに、次第に顧客接点のインフラとしての位置付けを強化している。また、IPTVも次第に普及率が高まりつつあり、ECを展開する基盤(決済手段)等も整備されつつある。

現在は、店頭に在庫がなければ、取り寄せという形になるが、今後は、店頭に設置されたECが可能な端末で、顧客自らが発注し、届くのを待つ、もしくは店舗に受け取りに来るというスタイルが通常になるかもしれない。

今後自社の顧客、および商品特性を見極め、どのようなチャネルをどのように連携させていくかは、重要な検討テーマとなるであろう。


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