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顧客満足(CS)から顧客ロイヤルティへ(生産財を中心にCS経営を考える) 第2回

顧客接点における対応

アソシエイトパートナー  四條 亨
【第1回】 顧客満足度の再考
【第2回】 顧客接点における対応
【第3回】 組織とマネジメントの編制について
『情報未来』No.35より

 

今回はB2Bの顧客満足が組織対組織での満足追求であることに基づき、顧客接点における活動が、どのように満足に結び付いているのかという点を論じていく。

組織としての満足


図表1:生産財におけるビジネスパターンの4 象限分類
出所:西村(IMSC)&四條,“B2B の営業マネジメント”(未公刊)

生産財は、製品軸(定数か否か)と購買軸(意思決定の重さ)によって、特性別に4区分することができる(図表1)。いわゆる資本財は、左下の第Ⅰ象限に当てはまる。そこでは提供する製品サービスが変数であるため、顧客ニーズをスペック化していく能力が求められる。そして一般的に投資額が大きく購買頻度が少ないため、顧客は購買の都度、購買内容を設定し依頼先の選定を行うことになる。

各象限では財の性質が異なり、顧客満足の「鍵」も異なってくるが、顧客の組織としての満足には、2つの面がある。一つは、提供者組織のメンバー個々人が担う、直接的な接点への満足である。これは、営業やサービス等の活動への満足を指している。もう一つは、提供者の企業組織に対して抱く満足である。そこには、営業などの活動のマネジメントをはじめとして、スタッフが間接的な支援を通じて顧客貢献を行うこと、企業としてのレピュテーション等も包含される。

本稿では、主に前者の直接的な顧客接点での満足について触れ、後者は次回に取り上げることとしたい。

多様な顧客接点の重要性

生産財では、提供者は直接顧客を知っているため、顧客との接点をハンドリングできると考えがちである。しかし顧客企業の内部では、購買を決定し手続きをしていくプロセスにかかわる人々が多くいる。この関与者は、慎重かつ重要な購買の意思決定を行う組織として、「購買センタ」として定式化されている(※1)

※1:購買センタとは公式/非公式を問わず組織的購買のための検討組織として組成される。購買意思決定者、購買担当者、評価者、ユーザー、ゲートキーパーなどの役割機能からなる

この購買センタの機能を果たしている方々の期待に応え、各々の立場からの満足を得ていくことが、提供者には求められる。資本財ではとりわけ、財の構築(開発)に時間を要し、使用の期間が長期にわたることから、完成した財の機能(使い勝手)や保守運用に関するユーザーの評価も重視されてくる(※2)

※2:第Ⅲ、第Ⅳ象限の財でも、購買手続きそのものは購買部門であるが、その後は商品提供の数量とタイミングは ユーザーの満足度に直結していくので、プロセスで「相手」が替わることは同様と考えてよい

そのため生産財の顧客満足では、少なくとも購買センタの機能を担っている関与者をカバーしなければ、生産財の顧客満足度を把握することにならないと考えられる。前回ご紹介したNTTデータにおけるCS向上取り組みの事例では、この点を考慮して、意思決定者ならびに開発と企画の各責任者の3名を調査対象に据えているのである。

このような組織的購買においては、購買センタの関与者ごとに役割機能が異なるため、営業担当者だけで対応することは難しくなってくる。例えば第Ⅰ象限や第Ⅱ象限では、提供する製品やサービスが変数であるため、スペックを形にする必要がある。これについては価格(コスト)とのバランスや技術的な知見が求められるため、提供者の社内の技術者の支援を受ける必要が出てくる。時には営業の早い段階から、技術者を伴って顧客に赴いて話を進めた方が、受注確度が高まる場合もある。

図表2:顧客組織としての満足度評価の形成
出所:西村(IMSC)&四條,”B2B の営業マネジメント”におけるモデルをもとに作成

つまり組織的な顧客対応に際しては、直接間接を問わず、顧客接点は多様化することになる。仮に営業担当が顧客への直接接点を代表するとしても、多様化した接点を通じて満足度を確保するには、営業担当等の個人的な努力を超えるところが多くなる。そのため顧客満足についても、組織対組織でみていく必要が生じてくるのである。

このような組織的な満足を得ることは、個別案件ごとに、顧客内の関与者の立場(役割機能)からの評価が行われることを示している。また時間経過に伴って、複数の案件の取り組み経験と評価が累積していく。それらを通じて、提供企業全体への満足度評価が形成されていくと考えることができる(図表2)。

案件プロセスにおける満足

ここで前回と同様に、資本財において顧客が提供者から経験するプロセスを、仮に「営業(購買決定)」「開発構築(利用可能な形作り)」「保守運用(継続的な利活用)」の3段階に設定してみよう。提供者においては、「営業」「設計・開発」「保守・運用」にかかわる各部署や要員が対応することになる(※3)。その顧客接点がどのように満足にかかわっているかをみていくことにする。

※3:ただし顧客対応窓口が一元化されているとみれば、多くの場合で営業担当者は窓口として、これら全てのプロセスにかかわっている必要がある

営業

これまで営業では、個人依存が強調されてきた。例えば、営業担当者の努力や能力を顧客に買ってもらうこと(人的な関係)、あるいはノルマ達成を目標や手応えに頑張ること(個人の頑張り)が中心であった。その一方で提供者の企業としては、営業活動を数値ノルマ達成によって管理することが多く、営業活動の適切性(顧客対応における実態)を把握することはできていないことが多い。そのため売り上げが立ち、取引が継続している限り、顧客に不満足が生じた場合でも、その把握はしにくい。

営業ノルマが単なる目標を超えて、必達への強制や束縛になると、営業活動が営業担当個人のために行われることになる。自社の利益にならない低価格受注を行う、あるいは顧客に不要な過大スペックを押し付けてノルマ達成を図るといった営業活動は、顧客満足以前に自社も顧客も蔑ろにしているといえよう(※4)

※4:顧客満足にかかわる今日の営業問題は、組織的営業に脱皮できていない点に帰着すると考えている。購買プロセス支援のみならず新しい組織的営業については、SIMACというマネジメントの仕組みとして体系化している。

顧客の立場に成り代って、なおかつ自社組織としての商売を行うという点から、あるクライアントの方が「営業は51対49の立場で」と話されたのは印象的であった。双方を凡そ対等に扱い、ギリギリ過半の立場をとらせていただくという意味である。そのクライアント企業の先にいる顧客と直接話を伺ってきた私の経験では、その企業でも未だそのレベルには至っていないようである。

本来、提供者の営業活動とは、端的に言えば「顧客の購買意思決定」を促進支援することである。顧客個別の条件について、購買センタの役割ごとに的確な対応を行い、購買によって顧客が問題解決を行うことを支えることになる。営業を代表とする接点が、それらをどのように担うかが、営業プロセスの満足度を規定すると考えられる。その観点からすれば、従来のノルマ成果主義と営業個人主義を維持したまま、顧客満足を勝ち得ることは難しくなっている。

開発・構築

開発・構築の段階は、営業段階での購買条件に適った「要件の設定」と構築の「QCD(品質、コスト、納期)の遵守」を遂行することが中心となる。これらを充足することが、顧客満足の「必要条件」と言える。

しかし、従来から資本財の現場では、購買決定後にスペックを定める(具体的な形にする)際に、顧客ニーズによる要件変更が追加仕様となることがある。例えば、IT(ICT)産業のシステム構築では、仕様追加で費用が嵩んでしまったという顧客の指摘が生じることがある。あるいは建設業では、顧客に仕様追加が必要と思わせることが、営業と設計開発の腕の見せ所と言っていた担当者に会ったこともある。

提供者の思惑で受注後に仕様追加があってはならないが、ユーザー部門が欲して仕様追加が生じることがある。顧客企業としては、その要否を専門家として助言してほしいという期待を抱くようになってきている。また利活用に際して、本当に必要になると見通せるものについては、営業プロセス(購買決定時)に予め提案に組み込んで欲しいと思っている。これらは、専門家である提供者に向けた顧客の期待に他ならない。

図表3:顧客/自社の理解と判断のための3 つの軸
出所:四條他著“CIO のIT マネジメント”拙稿

このように、顧客企業の特性に適った支出と品質や要件のバランスを取れること、そのための判断や助言ができることが求められている。私はこれらが、顧客満足の「十分条件」となってきていると考えている。その充足のために、顧客理解と判断に資する3つの軸を想定している。これは主にIT(ICT)産業に即して検討したものであるが、他の財にも援用できるものと考えている(図表3)。

保守・運用

いわゆるアフターサービスや保守運用に関しては、提供者が顧客目線を失いがちになる点が問題であろう。例えば情報システムでトラブルが発生した場合、修復のために原因追究をして問題解決を行おうと試みる。しかし顧客にとっての優先順位は、業務そのものを維持することにある(人海戦術を含めてどのような手段を用いてでも)。これは提供者目線でのトラブル修復と併せて、顧客目線での取り組みが求められている場面であると言えよう。

このようなリカバリーの仕方や初期対応のスピードなどは、提供している財の種類や顧客の業種業態・考え方によって、取り組み方に相違がある。そのため重要な点は、対応の仕方と判断が、顧客とずれないようにしておくことになるだろう。

また、このような事態を生じる前に、どのような事前期待や安心感を得ておくかという点も考慮しておくことが望ましい。例えばあるCIOは、保守運用のサービスの質を垣間見る機会があって、安心を感じたため、運用コストは高くないと思ったと言う。適確な保守運用体制が用意され、それが顧客に適用されていることを知らしめることも、顧客の満足を高めるものとなるということが分かる。

個別の接点とその統合化

プロセスごとの個別接点では、組織対応と併行して、個人の努力や能力も求められていく。その活動は、顧客に「貢献する」視点に支えられている必要がある。さらに、個々の顧客接点で適応することは何か、それらを全体として統合し、どのような思想のもとに実施していく仕組みをつくるのか、ということが問われていく。これを担保して、組織としての顧客指向を徹底するためには、顧客貢献の活動に向けて組織とマネジメントが編制されていることが求められるであろう。

次回はこのような観点から、顧客の満足向上からロイヤルティを獲得していく際に必要となる、組織とマネジメント、その能力要件などについて論じていくことにする。

【第1回】 顧客満足度の再考
【第2回】 顧客接点における対応
【第3回】 組織とマネジメントの編制について

 

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