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「環境新聞」2015年12月9日より

本格化する廃棄物処理・リサイクルビジネスの海外展開(6)
ベトナム E-wasteリサイクル/パイロットプロジェクト実施と制度設計への働きかけが重要

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティングユニット
マネージャー 佐久間 洋

 「このまま法律が実施されても、廃棄製品はインフォーマルセクターに流れ、メーカーは回収・処理義務を果たすことが出来ない。天然資源環境省はこの点を考慮した制度設計を行って欲しい」。本年11月13日にベトナムハノイ市で開催された、リサイクル法の細則策定に向けた非公式な意見徴収会での参加メーカーの発言である。意見徴収会には日本政府関係者や多くの日系メーカーが参加し、2016年7月1日からのリサイクル法実施に向けた盛んな意見交換が行われた。

 前回はE-waste(電気電子機器廃棄物)の分別回収義務を、地方自治体に法律で規定したフィリピンの事例を紹介した。一方、フィリピンとは異なり、拡大生産者責任の観点から、メーカーおよび輸入業者にE-wasteを含む廃棄製品の回収・処理の責任を法律で新たに規定した国がある。ベトナム社会主義共和国である。本稿ではベトナムにおいて整備されつつあるリサイクル法の概要と日本企業の進出に向けたポイントを紹介する。

 ベトナム天然資源環境省は、2015年5月22日に首相決定16号「廃棄製品の回収および処理に関する規定」を公布した。同決定では、メーカー及び輸入会社が、廃棄製品の回収拠点の設置と、回収した廃棄製品の運搬及び処理の責任を負うことを規定している。対象品目は多岐にわたっており、メーカーおよび輸入会社は、電池・電気電子機器・潤滑油・タイヤは2016年7月1日より、モーターバイク・自動車は2018年1月1日より回収を始めなければならない。冒頭の意見徴収会は、首相決定の下位法に該当する細則を検討するための会である。当社では、平成26年度からリサイクル法の所轄部局と実現性の高い法制度整備に向けた協議を支援してきた。現状、回収と費用の両面で課題がある。

 まず、回収面での課題はインフォーマルセクター(非公式部門、個人バイヤーなど)との競合である。フィリピン同様、ベトナムでもE-wasteは有価物としてインフォーマルセクターが有償で回収しているため、メーカーが回収拠点を設置したとしても、E-wasteを回収することは容易ではない。費用面での課題は、処理費用の負担の考え方が定められていないという点である。有価物を多く含む携帯電話やパソコンなどのE-wasteの場合、回収する貴金属などの資源により処理費用を賄うことが可能である。一方、蛍光灯や電池などは処理費用に対して回収可能な資源量が少なく、回収すればするほど、メーカーの費用負担が大きくなる。天然資源環境省は、これらの課題に対して、明確な対応方針を示していない。そのため、各企業は先行してパイロットプロジェクトを実施し、得られた課題と成果を基に法制度への反映を働きかけることで、リサイクル事業の実現および拡大を行う戦略をとっている。

 米国アップル社とヒューレット・パッカードは、E-wasteを対象としたリサイクル会社、ベトナム・リサイクリング・プラットフォームを立ち上げ、欧州のリサイクル企業と連携し、ホーチミン市およびハノイ市でE-wasteの回収プロジェクトに着手している。他方、我が国は、我が国の地方自治体及びリサイクル企業と連携し、今後、E-wasteの回収パイロット事業をベトナムの地方都市で実施する予定である。同事業の結果はベトナム政府に適宜共有し、リサイクル法制度への反映を目指している。

 一般に環境ビジネスが法制度と密接な関わりを有することは、良く知られている。ベトナムのリサイクル法制度に働きかけを行い、将来のリサイクルビジネスを実現し易い環境を整備することは、重要なビジネス創出活動である。ベトナムの法制度にどの程度、日本側の主張が反映されるかは、今後の推移を見守る必要があるが、法制度の整備段階にパイロットプロジェクトと組合せた働きかけを行うことは、一つの方策と言えるのではないだろうか。

挿入写真

首相決定16号「廃棄製品の回収および処理に関する規定」の対象廃棄製品と回収開始時期



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