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調査概要

平成19年度に当社がNEDOからの委託に基づき実施した「脳科学の産業分野への展開に関する調査事業」(※2)を継承し、各種調査及び調査委員会での討議等を通じて、以下のような脳科学の産業応用に関する課題点の整理・分析及び産業応用に資する支援策の検討を行った。

1.脳活動計測技術の産業応用に関する現状分析

  1. 脳活動計測技術シーズ保有企業に関する調査
    (国内外の民間企業約60社についての文献調査及び14社へのインタビュー調査による現状分析と、国内外23箇所(民間企業及び大学等の研究者)へのインタビュー調査及び委員会での検討を通じた課題点の整理)

  2. 脳活動計測技術ユーザー企業に関する調査
    (国内の民間企業約50社についての文献調査及び4社へのインタビュー調査による現状分析と、国内外23箇所(民間企業及び大学等の研究者)へのインタビュー調査及び委員会での検討を通じた課題点の整理)

  3. 産業応用を取り巻く外部環境等に関する調査
    (国内外23箇所(民間企業及び大学等の研究者)へのインタビュー調査及び委員会での検討を通じた課題点の整理)

  4. 国内外の脳科学関連支援策に関する調査
    (アメリカ、EU、イギリス、オーストラリアにおける支援策を対象にした文献調査)

  5. 脳活動計測技術の産業応用の課題点の分析
    (上記調査結果をもとに、総合的に分析)

2. 脳活動計測技術の産業応用に資する支援策の検討

    (上記調査結果をもとに、総合的に検討)

(※2) 平成19年度「脳科学の産業分野への展開に関する調査事業」(以下、「平成19年度調査事業」)では、3回にわたる研究会での議論と各種文献調査を通じて、産業応用される脳科学技術の定義、産業への応用可能性、産業応用における課題点の抽出、課題克服のための検討事項の整理等、我が国初の試みとなる脳科学の産業分野への展開に関する検討を行った。

 

【主な調査結果(抜粋)】 




脳活動計測技術ユーザー企業に関する調査:

既に幅広い分野で数多くの企業が脳活動計測技術の産業応用を進めている

国内企業54社を抽出し、それぞれの企業が属する業界と利用している脳活動計測技術シーズごとにマッピングした結果、既に非常に幅広い分野の数多くの企業によって脳活動計測技術が産業に応用されていることがわかった(※3)。

(※3) マッピングした結果は、調査報告書に掲載(P42 図9脳科学計測技術ユーザー企業の全体MAP)。

業界別では製造業での産業応用事例が最も多い

業界別では、製造業(自動車、電機・機械、ソフトウェア、住宅・設備、化粧品、化学・繊維、食品、一部のヘルスケア・リハビリ、一部の教育・教材)において産業応用の事例が最も多いことがわかった(42社)。

業界により応用事例の傾向に特徴も

食品や化粧品、衣料(化学・繊維)、住宅等、直接口にしたり肌に触れたりして、人の感性(味覚や臭覚、触覚等)への訴求が重要となる商品分野では、「生理的に好まれる、快適な商品」の開発を目指して、脳活動情報を分析・開発手法の一部として使用している。また、ゲームや情報通信分野では、端末操作の代わりに脳機能を利用したインターフェース開発の取り組みが盛んである。一方、自動車、電機・機械に代表される組立型製造業では、商品自身の快適性向上・高付加価値化に加え、脳活動情報による機器制御技術(BMI/BCI)への研究に取り組むなど、業界ごとに脳活動計測技術の応用事例には特徴的な傾向が見られた。

技術シーズ別では産業応用・商品化とも「脳活動を評価に利用する技術」が最多

技術シーズ(※4)別では「(2)脳活動を評価に利用する技術」の応用件数が最も多く(43社)、次に「(4)脳活動を外部機器の制御に利用する技術」(11社)、「(5)脳活動をユーザーに知らせる技術」(3社)の順で続いた。また既に商品化がなされている事例についても「(2)脳活動を評価に利用する技術」が最も多く(27社)、次に「(5)脳活動をユーザーに知らせる技術」(2社)、「(4)脳活動を外部機器の制御に利用する技術」(1社)の順で続いた。これは、「(2)脳活動を評価に利用する技術」は既に商品化段階まで進んでいる製品に対して応用されるケースが多いため、産業応用の障壁が低い一方、「(4)脳活動を外部機器の制御に利用する技術」や「(5)脳活動をユーザーに知らせる技術」の技術は開発段階での応用が必要であるケースが多いためであると考えられる。

(※4) 「平成19年度調査事業」において下図及び下表のような脳科学技術の分類を行い、脳科学の産業分野への展開に関しては少なくともこの6つの脳科学技術から応用が可能であると考えた。


【 図:産業応用しうる6つの技術 】

図 産業応用しうる6つの技術

 

【 表:各技術の説明 】

技術タイプ 概要
(1) 脳活動の計測技術 脳波や血流等の状態・変化を測る計測機器(fMRI、PET、EEG、MEG、NIRS等)やデバイス、インターフェースが該当する。
(2) 脳活動を評価に利用する技術 (1)の計測機器により得られた脳活動の計測結果を基礎として、脳へのINPUT情報を分析し、製品やサービスの評価等に用いる技術。製品やサービスに対するユーザーの客観的評価を探るニューロマーケティングやその結果を応用した商品開発を実現する技術(解析データを解釈するノウハウや計測情報を出力するアルゴリズム)が該当する。
(3) 脳活動に働きかける技術 侵襲的あるいは非侵襲的に脳活動に直接働きかける技術。現時点では薬や電極によって侵襲的に刺激する医療用途での応用がほとんどであり産業応用事例は存在しないと考えられる。
(4) 脳活動を外部機器の制御に利用する技術 (1)の計測機器を用いて得られる脳波や血流、脳内物質等の脳活動情報を利用して、外部の機器を動かす技術。ブレインマシン・インターフェース技術等が該当する。考えただけで意思疎通が可能なコミュニケーション支援器具や、脳波の情報を利用したゲーム用コントローラー等がある。
(5) 脳活動をユーザーに知らせる技術 (1)の計測機器が表示する脳波や血流、脳内物質等の脳活動の計測結果を、被験者本人に知らせることにより、本来は意識されない情報を意識させることで、コントロールを促すもの。ニューロフィードバック技術と呼ばれる。具体的な事例としては、各種リハビリテーションや居眠りの前兆を察知し注意喚起する製品等がある。
(6) 脳の仕組みをまねた技術 脳の仕組みを応用して開発された機器・コンピューターを指す。脳型コンピューター(ロボット、ニューラルネットワーク)等が該当する。

計測技術の種類別では脳波の利用が中心

利用している計測技術の種類(※5)別では、脳波(EEG)を利用している事例が最も多く(32社)、次にNIRS(11社)、fMRI(7社)、MEG(2社)の順で続いた。MEGは基礎研究が他の計測機器と比較してまだ十分に進んでいないこと、機器の利用環境が制限されることから、「(4)脳活動を外部機器の制御に利用する技術」を応用している事例でのみ見られ、産業応用があまり進んでいないことがわかった。

(※5) 脳活動計測技術の主な種類には、EEG(脳波 : Electroencephalogram)、NIRS(近赤外線分光法 : Near-Infrared Spectroscopy)、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法 : Functional Magnetic Resonance Imaging)、MEG(脳磁計 : Magnetoencephalography)等がある。

 

脳活動計測技術の産業応用に資する支援策の検討:

一方で脳科学の産業応用へは課題も多く適切な支援策が必要

既に幅広い分野の多くの企業によって脳活動計測技術の産業応用が進められている一方で、本調査から、下図のとおり、シーズ保有企業、ユーザー企業及び産業界を取り巻く外部環境(大学や学会等の学術界の環境と、社会環境)それぞれが抱える課題が負のスパイラルを形成し、その結果産業応用が適切に進まないという状況が浮かび上がった。

【 図:産業応用の各課題点の構造 】

図 産業応用の各課題点の構造

上記課題に対する適切な支援策を、関係各所へのインタビュー調査や調査委員会における討議を通じ検討した結果、

  • 計測基準の標準化や基礎データの蓄積を目的としたコンソーシアムの組成
  • シーズ保有企業とユーザー企業のマッチング機会の創出
  • 企業研究者を対象としたトレーニングコースの開設
  • 企業の脳科学研究を支援するオープンラボの創設
  • ニーズの高い研究テーマに対するグラントの拠出
  • 産業応用の適切な推進に資する明確な倫理基準の策定
  • 社会や消費者に対する適切な情報発信

が特に重要な支援策であると結論付けた。

【図:各課題の解決に求められる要件と想定される支援策】

図:各課題の解決に求められる要件と想定される支援策

今後は、これら各支援策を適切に講じることで、昨今飛躍的な発展を遂げている脳科学の基礎研究知見の産業応用が進むものと考える。

使用した図表はすべて調査報告書からの転載となります。
また本ニュースリリースでは、「脳活動計測技術ユーザー企業に関する調査」及び「脳活動計測技術の産業応用に資する支援策の検討」の調査検討結果のうち一部のみを抜粋し掲載いたしております。他の調査項目及び詳細に関しましては、調査報告書をご参照ください。

 


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