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“不動産テック”(ReTech:Real Estate Tech)カオスマップ2017年版 考察レポート

情報戦略コンサルティングユニット
ビジネストランスフォーメーショングループ
マネージャー 川戸 温志

不動産テックの潮流

 世界最大の不動産見本市MIPIM。MIPIM2015~2017の3年連続で不動産テックがテーマとして大々的に取り上げられている。世界的にはFinTechの動きに数年程度遅れつつも、不動産テック(ReTech:Real Estate Tech)に対するベンチャー投資は急拡大している。一方、日本国内では、大きな盛り上がりを見せるFinTechの次に来るX-Techとして、にわかに不動産テックが注目を浴び始めている状況である。

 不動産テックとは、用地取得・開発、分譲・賃貸、資金調達(投資、融資)、取引(集客・相談・媒介・内覧・交渉・重説・契約・引渡・登記・アフター)などの不動産関連の各シーンに対して、インターネット・スマートフォン、ビッグデータ・IoT、AI(ディープラーニング含む)、SNS、位置情報、AR/VRなどのテクノロジーによって、大きな効率化や新たな価値を生み出すビジネスやサービスのことである。

 不動産テックは、次のような不動産業界の課題に着目して起きている。

  1. ① “情報の非対称性”や“不動産取引の不透明性”といった業界構造上の課題
  2. ② デジタル化の遅れ(“インターネットやスマートフォン”よりも、未だに“紙・電話・ファックス・立て看板”の商習慣)
  3. ③ 専門家しか分からないような不動産ローンや節税対策など“制度上の複雑さ”

日本国内の不動産テックはどのような状況なのか?

 注目すべきスタートアップ企業やベンチャー企業などを中心とした業界マップのことをカオスマップと呼ぶ。海外にはFinTechは勿論、ReTech(不動産テック)のカオスマップも存在する。一方、日本国内の不動産テックのカオスマップは私が知っている範囲ではまだ存在しない。この度、不動産テック企業のリマールエステート社やQUANTUM社、その他の有識者と共に不動産テックのカオスマップの作成を手伝う機会を頂いた。本稿も彼らとの議論をもとに執筆している。

 カオスマップをもとに日本国内の不動産テックの動向として、『業務支援』、『価格可視化・査定』、『マッチング』、『クラウドファンディング』、『シェアリング』などのカテゴリを注目すべき領域としてピックアップしたい。

図表1 REAL ESTATE tech カオスマップ

図表1 REAL ESTATE tech カオスマップ 【出所】リマールエステート株式会社(http://limar.co.jp)プレスリリースより引用

業務支援

 日本国内に不動産テックが広がる土壌が無いかというと決してそうではない。『SUUMO』『at home』『HOME’S』のように消費者向けには物件情報を提供しつつ、消費者を仲介会社へ送客しているプラットフォームサービスは不動産テックという言葉が生まれる前より市場に浸透していた。日本国内では、C(消費者)側の意識が育っておらず、業界団体の影響力が強いため、既存産事業者に受け入れられ易い業務支援・業務効率化のサービスから拡大していくものと思われる。例えば、イタンジの『ぶっかくん』や『nomad cloud』、プロパティデータバンクの『@プロパティ 不動産管理クラウド』、いい生活、三井情報、AQUAなどがその一例であり、ベンチャー企業だけでなく従来からの既存企業も存在する。

価格可視化・査定

 旧来より、日本の不動産業界における課題の1つが、物件の正確な価格が分からないという点にある。REINS(Real Eatate Information Network System)に登録されている価格は募集価格であるため、実際の成約価格ではない。従って、物件の正確な価格は誰も分からないという事が起きている。そうした背景を受け、2015年頃より不動産価格の可視化が小さなブームになっている。例えば、LIFULL(旧ネクスト)の『HOME’Sプライスマップ』、リブセンスの『IESHIL(イエシル)』、コラビットの『HowMa』、リーウェイズの『Gate.』などがその一例である。

マッチング

 不動産テックのテクノロジー部分としては、インターネットやスマートフォンなどは必須要素言っても過言ではないだろう。インターネットと親和性の高いサービス形態が「マッチング」である。つまり、ヒトとヒト、ヒトとモノとを時空を超えて簡単に結びつけるプラットフォームを提供するサービスである。例えば、ハウズジャパンの『Houzz』、ハンズシェアの『ツクリンク』、アクシスモーションの『PMアシスト』、アベンチャーズの『みんなのオフィス』などがその一例である。

クラウドファンディング

 個人投資が活発な海外では、多くの不動産クラウドファンディングのベンチャーが生まれているが、日本でも一般個人投資家の拡大や高齢化社会を背景にした相続・贈与の問題を受け、不動産クラウドファンディングの萌芽がみられる。更に、国土交通省の「不動産投資市場政策懇談会」では地方活性化の取り組みの方向性として、小規模不動産特定共同事業としてクラウドファンディングが注目されている。このように不動産クラウドファンディングは、小口化とも連動した実需が先行し、不動産マーケットのプライスリーダーとして大手不動産会社も無視できない存在になりつつある。国内の不動産クラウドファンディングの例としては、クラウドリアルティの『Crowd Realty』、ロードスターキャピタルの『OwnersBook』、インベスターズクラウドの『TATERU FUNDING』などがその一例である。

シェアリング

 近年、AirBnBやUBERなどに代表されるシェアリングエコノミー型のサービスが広がっている。不動産業界においては、空会議室や空民家、空駐車場など所謂“スペース・シェアリング”型の不動産テックが小さなブームとなっている。例えば、スペースマーケットの『スペースマーケット』、スペイシーの『Spacee』、百戦錬磨の『STAY JAPAN』、akippaの『akippa』、AirSalonの『AIR SALON』などがその一例である。

今後、日本国内の不動産テックはどうなっていくのか?

 大手の不動産プレイヤーも、日和見をしている訳ではない。不動産のエンドユーザーである消費者が、賃貸や購入のプロセスの入り口の約8割がインターネットと言われており、若い世代は“住宅すごろく“のしがらみから解き放たれ、中古物件や賃貸でも良いと考える人が増えてきている。また、民泊やルームシェア・レンタルオフィス、民家や会議室・駐車場などのシェアスペースビジネス(所謂、不動産系のシェアリングエコノミー)も広がってきている。少子高齢化や人口の都市圏集中、人手不足、ポスト2020年などのマクロ的な環境変化の対応も求められている。高度経済成長期の“作れば売れる”という売り手市場の時代から、一人一人の顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めなければいけない時代へと転換しつつある中で、大手の不動産プレイヤーのビジネスモデルはその変化に対応しきれていない。
 従って、こうした大手の不動産プレイヤー自身もテクノロジーによる破壊的イノベーション起こさざるを得なくなってきており、一部のプレイヤーは水面下では動きだしつつある。例えば、大手の不動産デベロッパーでは、三菱地所がスマートロックのライナフに出資し、スマート内覧に取り組んでいる。加えて、5月11日には新たな3ヵ年中期経営計画にてインバウンド、ベンチャー企業との協業によるテナントビジネスの価値向上に向けて1,000億円を投資することを発表した。三井不動産は、ベンチャー共創事業としてベンチャーキャピタルのグローバルブレインとファンドを設立し、有望ベンチャーへの出資を行っている。また、野村不動産は野村ホールディングスとして設立した「VOYAGE」というベンチャー支援プログラムに参画しており、東急不動産も東急グループとして「Tokyu Accelerate Program」というベンチャー支援を積極的に行っている。
 つまり、今後は不動産テックのベンチャー単独のオーガニックな成長というよりも、不動産テックのベンチャーと大手不動産プレイヤーとのアライアンスによる成長の可能性があると思われる。実際、日本国内のFinTechもメガバンクを中心に同様の様相を呈しており盛り上がりを見せている。

図表2 大手不動産プレイヤーによる不動産テックベンチャーの囲い込みの動き

図表2 大手不動産プレイヤーによる不動産テックベンチャーの囲い込みの動き 【出所】各社のプレスリリースよりNTTデータ経営研究所にて作成

さいごに

 このように不動産テックは、不動産という特別な商品特性と消費者の価値観、特殊な業界構造によるハードルはあるものの、“情報の非対称性”や“不動産取引の不透明性”といった業界構造上の課題やデジタル化の遅れなど、テクノロジーによる解決との親和性は他業界以上に高い。今後必ずやってくる人口減少や供給過多の時代に向けて、不動産テックは着実に盛り上がっていくものと考えられる。
 カオスマップに載っている企業の大部分はスタートアップ企業やベンチャー企業である。ベンチャーのスタートアップで成功する確率は1割以下とも1%以下とも言われている。ヒト・モノ・カネ・時間の無いベンチャーの武器はその“スピード感”である。読者が既存の不動産事業会社に居るのであれば、間違いなくベンチャーと比べると読者の会社は経営資源を有している。既存の事業会社がベンチャーの“スピード感”と“知恵”を持って動き出せば、成功確率は格段に上がることは間違いない。当社は、その“知恵”の部分においてお手伝いできれば幸いである。

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