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ビジネスバリュー貢献志向のITマネジメントフレームワーク
“IT-CMF”

情報戦略コンサルティングユニット IT戦略コンサルティンググループ 
アソシエイトパートナー 瀬川 将義
IT-CMFとは

 IT-CMFとは、IT-Capability Maturity Frameworkの略称であり、グローバルで活用されているビジネスバリュー志向のITマネジメントフレームワークである。企業・組織がITを活用しビジネス貢献するために必要となるケイパビリティ(能力)とその成熟度が定義されているものである。
 IT-CMFは、アイルランドに本拠地を置くコンソーシアムであるIVI(Innovation Value Institute)により研究・開発され、グローバルに普及展開されている。IVIは、2006年にアイルランド国立大学メイヌース校とIntel Corporationにより、企業・組織がITを活用してビジネスバリュー創出を可能にするITマネジメントの変革を促すために共同設立された非営利の研究・教育機関であり、現在90以上のグローバル企業・組織がIVIに参画している。IVIにはITを活用するユーザ企業だけでなく、NTTデータのようなITサービスを提供する企業やコンサルティングファームも多く参画している。

IT-CMFの構成

 IT-CMFを構成しているものは、主に、ケイパビリティとその成熟度の定義、アセスメントツール、ベンチマークデータ、ケイパビリティ向上施策である。
 ケイパビリティは大きく4つのマクロ・ケイパビリティに分類され、さらにそこから35のクリティカル・ケイパビリティに分類されている。また、各クリティカル・ケイパビリティを構成する要素を、ケイパビリティ・ビルディング・ブロックとして細分化しており、それは合計308に細分化されている。アセスメントは、全体俯瞰(ふかん)型と深堀型の2種類が提供されており、設問数は合計で800程度存在する(全体俯瞰型の設問は70問+α)。また、IT-CMFは、単にケイパビリティの成熟度モデルを定義しているだけではなく、ケイパビリティを向上させるための施策等についても提供されており、それらは合計で3,400程度あり、非常に充実したものとなっている。

図表1 IT-CMFの構成

図表1 IT-CMFの構成

出典:IVIの資料をもとにNTTデータ経営研究所にて編集

IT-CMFで定義しているケイパビリティ

 IT-CMFでは、大きく4つのマクロ・ケイパビリティとそれを細分化した35のクリティカル・ケイパビリティが定義されている。(図表2)
 また、それぞれのケイパビリティが互いに与える影響、関係性についても示されている。そのため、IT-CMFを活用することにより、企業・組織はIT活用に向けて必要とされるケイパビリティは何かを把握することができるだけでなく、あるケイパビリティを向上させるために根本的にメスを入れるべきケイパビリティとその施策まで知ることができる。

図表2 IT-CMFで定義しているケイパビリティ

図表2 IT-CMFで定義しているケイパビリティ

出典:IVIの資料をもとにNTTデータ経営研究所にて編集

 IT-CMFの成熟度定義(ビジネスバリュー貢献志向)

 IT-CMFが目指しているITマネジメントの姿は、ITを活用して得られるビジネスバリューの最適化の実現である。すなわち、IT組織は、言われたことを遂行する作業者である“コストセンター”から、利益を生み出す主体者である“バリューセンター”、もしくは利益創出に向けた経営・ビジネス部門の協業者である“インベストメントセンター”へと変革すべきとするビジネスバリュー貢献志向のコンセプトが根底にある。
 これは、IT-CMFの成熟度定義に強く表れており、5段階で定義されている成熟度のイメージを見ればよくわかる。(図表3)
 IVIが提供する資料では、4つのマクロ・ケイパビリティごとに5段階の成熟度を表すイメージを「バリューセンター」、「インベストメントセンター」、または「戦略的なコア能力」、「戦略的ビジネスパートナー」などと一言で表しているが、当社はそれを参考に5段階の成熟度について、経営層から見た場合、IT組織がどういう状態であるのかを説明できるように以下のように定義してみた。

【経営層から見たIT組織の状態(IT-CMF成熟度別)】
  • レベル5:IT組織が主体的に中心となって利益の多くを創出している状態
  • レベル4:IT組織が経営層や事業部門に対して利益創出に向けた提言やサポートができている状態
  • レベル3:経営層や事業部門からの要求に対して効率的かつ高品質に対応している状態
  • レベル2:経営層や事業部門からの要求に対応している状態
  • レベル1:管理されていない状態

 IVIによると、現時点でレベル5にある企業はほぼいないということである。アセスメントを受ける多くの企業はレベル2から3の間であることが多いようである。われわれがアセスメントしたいくつかの企業でも同様の状態であった。こうしたアセスメントを受けようとする企業の多くは、ビジネスバリュー貢献をできる「攻めのIT組織」への変革を目指していたり、ワールドクラスのレベルを目指していたりと意識の高いIT組織を持つ企業であることが多い。それでもこの状態であるので、広く世の中を見たときにはレベル1もしくは2の企業が大半を占めているものと推察される。

図表3 IT-CMFの成熟度定義

図表3 IT-CMFの成熟度定義

出典:IVIの資料をもとにNTTデータ経営研究所にて編集

2種類のアセスメント

 IT-CMFでは、全体を俯瞰して強み弱みを認識するための全体俯瞰型の“ハイレベル・アセスメント”と特定のクリティカル・ケイパビリティを深堀して具体的な改善点を洗い出すための深堀型の“クリティカル・ケイパビリティ・アセスメント”の2種類が提供されている。また、それぞれベンチマークデータも存在している。
 この2種類のアセスメントの使い方としては、多くの企業では、まず初めにハイレベル・アセスメントを行い、自社の弱いまたは重視すべきケイパビリティを把握することが多い。それから、課題所在箇所についてクリティカル・ケイパビリティ・アセスメントを行い、具体的な改善策を検討するというやり方を行うことが多い。しかしながら、あらかじめ改善したいケイパビリティが絞り込めている場合は、クリティカル・ケイパビリティから実施することも可能である。
 ただし、できれば、ハイレベル・アセスメントから実施するやり方の方をお勧めしたい。ハイレベル・アセスメントを実施することにより、全体的な強み弱みを把握できるだけでなく、ビジネスバリュー貢献のために行うべきITマネジメントの全体像をアセスメントを通じ学べるというメリットが享受できるためである。

IT-CMFの活用メリット

 IT-CMFを活用するメリットは、ビジネスバリュー貢献を志向するIT組織へと変革するために、現状のITマネジメントの可視化/成熟度把握の客観的な「モノサシ」として活用できることである。また、この「モノサシ」がITマネジメントの改善施策の参考とできることも大きなメリットである。
 それ以外にもメリットはある。いくつかのIT-CMFアセスメントを通じて感じる一番のメリットは、IT-CMFを「あるべきITマネジメントのリファレンス」として活用し、IT組織のメンバの意識を高めることができる点である。IT-CMFにはIT組織がビジネスバリュー貢献をするために、やるべきこと、考えるべきことがたくさん盛り込まれているため、非常に参考になる。実際にアセスメントをした企業からも同様の感想が述べられている。

日本でのIT-CMFの認知度と今後の動向

 これまでIT-CMFは主に欧米を拠点とするグローバル企業の活用実績が大半であった。しかし、ここ数年で日本での認知度も上がってきている。当社もいくつかの日本企業に対してIT-CMFを活用したアセスメントを実施しており、ここ数年でその数は増えてきている。こうした状況から推察すると、活用企業も増えているものと思われる。
 日本でのIT-CMFの認知度が高まっていると思われる背景は他にもある。東京工業大学社会人教育院では、IVIから講師を招へいし、2015年9月、1~3月に合計3回のIT-CMFの研修コースを一般向けに開催している。また、日刊工業新聞では、「IT活用効果指標・IT-CMF、労働生産性向上後押し-投資価値最大化へ採用進む」(2016/1/5)、「東工大、IT-CMFの習得講義を1月開講-企業のIT有効活用後押し」(2015/12/3)として記事を掲載している。そのほか、IT-CMFの認知度を上げるためのセミナーも何度か行われている。
 ITサービスマネジメントのベストプラクティス集である「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」の日本での普及組織である特定非営利活動法人itSMF Japanでは、それまで英語版しか存在しなかったIT-CMFの日本語化をボランティアメンバで実施しており、2016年以降は、IT-CMFについて研究する分科会「IT活用能力研究分科会」の立ち上げを発表している。
 NTTデータは早くからIVIにもメンバとして加入しており、2011年に自社での試行活用、その後は顧客企業へのコンサルティングサービスをNTTデータ経営研究所を中心に提供している。また、前述した東工大やitSMFとも協力し、IT-CMFの日本語化やIT活用能力研究分科会などの日本国内への普及活動を推進している。 

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