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デジタル社会経済のもとでの書店生き残り戦略

デジタルマーケティングユニット
ユニット長・パートナー 山下長幸
紙媒体の書籍・雑誌市場の市場規模の大幅減少や書店数の大幅減少

 紙媒体の書籍・雑誌の市場規模や書店数の減少トレンドが止まらない。最近、フジテレビ報道局の番組で、大手書店が著名作家の新刊本の9割を出版社から直接買い取りし書店販売するニュースに関してコメントを求められたりもした。

 まずは紙媒体の書籍・雑誌の市場規模の推移を確認しておきたい。出版科学研究所によると、紙媒体の市場規模は1996年のピーク時の1兆930億円から18年間基本的には減少トレンドで、2014年は7,544億円とピーク時から31%減少した。紙媒体の雑誌の市場規模は1997年のピーク時の1兆5,630億円から17年間基本的には減少トレンドで、2014年は8,520億円とピーク時から45.5%減少した。

 次に書店数の推移を確認しておきたい。アルメディアによると、書店数は1999年に2万2,296店あったが、その後15年間一貫して減少し、2014年には1万3,943店と、37.5%減少した。ただし、書店数は減っているが、書店の総床面積(総坪数)は微増傾向となっている。これは小規模書店が経営難で廃業する一方、地域大手や全国大手の書店チェーンが規模拡大しているという状況だと考えられる。これは市場規模が縮小傾向にある場合、大手企業は規模の経済性を追求し、規模拡大により売上・利益を何とか維持しようと動くものであるが、それが書店業界でも起きているものと考えられる。

 書店数の減少の要因は、紙媒体の書籍・雑誌の売上減少により書店経営採算性が合わなくなり、書店廃業したことによるものと考えられるが、書店の売り上げ減少の原因は主に以下の3つの要因が考えられる。

  • (1)インターネットの進化・普及の影響
     インターネットの無料コンテンツ増加、Google、Yahoo!などの検索サイトの普及・進化・利用増(広告収入モデル)に対して、有料の紙媒体書籍・雑誌が劣勢となったことが大きく影響し、紙媒体の書籍・雑誌の売り上げが大きく減少
  • (2)リアル店舗の書店vsインターネット書店
     リアル店舗の書店対インターネット書店の競合のもと、書籍・雑誌購読者層がAmazonなどインターネット書店の利便性を高く評価し、そこで書籍・雑誌を購入するようになり、リアル店舗の書店が劣勢となり、売り上げが浸食された。
  • (3)電子書籍の進化・普及
     インプレス総合研究所によると、2014年度の電子書籍市場規模は1,266億円(対前年比35.3%増)、電子雑誌市場規模は145億円(対前年比88.3%増)、電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は1,411億円となっている。また、2019年度の電子書籍市場規模は、2,890億円程度(2014年度の2.3倍)、電子雑誌市場規模は510億円程度(2014年度の3.5倍)電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は3,400億円程度と予測(2014年度の2.4倍)されており、着実に書籍・雑誌市場シェアを獲得するものと予測されている。その分、紙媒体の書籍・雑誌の市場規模を浸食し、リアル書店の売上の減少要因となってきており、今後さらに影響を拡大するものと考えられる。これは、スマートフォンやタブレットユーザーの増加により電子書籍・雑誌を利用するインフラが整ってきたことや、電子書籍・雑誌と紙媒体の書籍・雑誌との同時発売の増加、ジャンル別には電子コミックの市場浸透が電子出版市場を牽引していることが寄与している。
書籍流通における返品という商慣習

 構造的な書籍・雑誌売上高の減少に加え、書籍流通における委託販売・返品という商慣習により新刊本の返品率が3~4割という状況が、出版社の経営状況を圧迫している。出版会社数としては、1999年には4,406社あったが、2013年には3,588社と14年間で18.6%減少した。出版社の減少は魅力的な書籍・雑誌の出版が少なくなる要因ともなりうるもので、書籍・雑誌市場規模の減少の要因となるものである。
 書籍流通における委託販売・返品という商慣習は、書店側としては仕入れた書籍を店舗で売り切らなくても、返品すればコスト負担はなくなるという書店経営の甘さを引き出してしまうものだとも考えられる。大手書店が著名作家の新刊本の9割を出版社から直接買取り販売することは、仕入れ書籍のコスト負担を書店側で負うというかなり大きな経営的な決断だと考えられる。これは食品スーパーなどでは当たり前に実施していることではあるが、仕入対象本の選定力や仕入れ量を書店側で判断し、売り切る力をリアル書店側でつけるということであり、これまでの日本独特の書籍・雑誌流通構造から脱却し、長期にわたる書籍・雑誌売上高の減少トレンドへの歯止め策とし、インターネット書店への対抗策として実施することがリアル書店業界としての生き残りに是が非でも必要だという本気度が感じられる。

紙媒体の書籍・雑誌の市場規模予測および書店数予測

 現状の書籍および雑誌の減少トレンドが続くと、市場規模が現状の半分程度になるのはいつ頃なのかを試算してみた。非常に単純な前提条件であるが、書籍はピーク時の1996年から2014年までの市場規模の年平均減少率である2.0%、雑誌はピーク時の1997年から2014年までの市場規模の年平均減少率である3.5%の値を使った。その結果、雑誌は2014年の市場規模は8,520億円であるが、2032年に4,178億円と2014年の半分を切ると推定された。2015年からは17年後である。書籍は2014年の市場規模は7,544億円であるが、2049年に3,720億円と2014年の半分を切ると推定された。2015年からは34年後である。書籍よりも雑誌の方が市場規模の減少が短い年数で起きることになりそうである。(図表1)

図表1 紙媒体の書籍・雑誌の市場規模予測(ラフな試算)

図表1 紙媒体の書籍・雑誌の市場規模予測

予測値試算前提
・書籍は1996年から2014年までの市場規模の年平均減少率である2.0%が継続すると仮定
・雑誌は1997年から2014年までの市場規模の年平均減少率である3.5%が継続すると仮定

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 ちなみに、現状の書店数の減少トレンドが続くと、いつ頃、書店数が1万店舗を切るのかも試算してみた。非常に単純な前提条件であるが、2001年から2014年までの書店数の年平均減少率である3.0%の値を使った。その結果、書店数は2014年には1万3,940店であったが、2025年には9,973店と1万店を切ると推定された。2015年からは10年後である。(図表2)

図表2 書店数予測(ラフな試算)

図表2 書店数予測(ラフな試算)

予測値試算前提
・2001年から2014年までの書店数の年平均減少率である3.0%が継続すると仮定

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 このように紙媒体の書籍・雑誌の市場規模は、10数年かけて衰退してきたが、さらに長期間かけて徐々に衰退していくため、書店としてもなかなか思い切った手を打てないものである。
 市場が時間をかけて衰退というより、急激に主力事業の市場が縮小したもとで生き延びた企業がある。富士フイルムである。有名な事例なので、詳述はしないが、その当時、銀塩フィルムが主力事業であったが、デジタルカメラの進化・普及で、急速に銀塩フィルム市場が縮小した。同業のコダックが急速に経営悪化するなか、富士フイルムは銀塩フィルムで培った技術を、医療機器・医療薬品・化粧品などの新規事業に活用し成功させ、売上・利益の確保に成功している。

 書店としても、伝統的な業界構造の課題を解決していくことは重要なことである。伝統的な書店店舗の魅力度を向上させて集客力の向上に努めることは当然重要である。

 Web進化普及以前の書店の競合企業は、同業の書店であったし、同業他社の動向把握は書店経営上の重要課題であったと想定される。しかし、現在、書店として認識すべき競合企業は、Amazonや楽天などのECサイト、Google、Yahoo!Japanのような検索・ポータルサイト、FacebookやTwitterなどのSNSなのだと考えられる。その意味でこれまでの同業他社が競合であった状況と異なり、全く土俵の異なる企業が競合となっているのである。
 これだけインターネットが進化・普及し、デジタル経済社会の進化・普及が揺るぎないものとなっている状況のもと、書店としてもこれまで培ってきた店舗接客力、書籍・雑誌に対する目利き力、文化教養に関する知見など自社の強みを洗い出し、それらを活用しつつも、業態転換するくらいのこれまでと異なる発想で新たな事業ドメインやビジネスモデルを検討・実施する必要があると感じられる。

 経営学の格言に「茹でガエルの法則」というものがある。2匹のカエルの一方を熱い湯の中に入れ、もう一方のカエルは緩やかに水温が上昇する冷水に入れると、熱い湯の中に入れられたカエルはすぐに湯から飛び出すのに対し、もう一方のカエルは緩やかな水温の上昇を気持ちよく感じ、熱湯になることを知覚できずに死に至るというもので、ビジネス環境の変化に対応する事の重要性、困難さを示すものである。(ちなみに、実際には、後者のカエルでも温度が上がるとしっかり逃げようとするようで、「茹でガエルの法則」は生物学的な根拠のないビジネス界での寓話(ぐうわ)のようである)

 企業の幹部クラスは主力事業における成功体験を多く積み重ねているものであり、年齢を重ねて新たな物事にチャレンジするのは難業であることは間違いない。しかし、書店業界の方々におかれては、成功体験の罠から脱し、ビジネスを新たなパラダイムにシフトされることを願ってやまない。