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ブロックチェーン技術の概要とその活用に向けて

金融政策コンサルティングユニット
マネージャー 加藤 洋輝
コンサルタント 桜井 駿
はじめに

 2014年2月、インターネット上の仮想通貨ビットコインの大手取引所である株式会社MTGOX(マウントゴックス)が破綻したことで、一躍有名になってしまったビットコイン。世間ではビットコインに対して「よく分からない、怪しい」といったイメージを持つ人も少なくないが、取引所の破綻によってビットコインの仕組みそのものが破壊されたわけではない。
 そのような中、仮想通貨ビットコインの基盤技術でもあるブロックチェーンに注目が集まっている。今年9月には、ニューヨークに拠点を置くスタートアップのR3社が、世界の大手金融機関22行と提携し、金融分野におけるブロックチェーン活用のためのフレームワークを構築すると発表し話題となった。世界中で注目を集めるブロックチェーンとはどのようなものか、今後どういった活用が期待されるのか。海外の取り組み事例を交え考察していきたい。

ビットコインを支える基盤技術ブロックチェーンとは

 海外や日本の有識者の間では、仮想通貨であるビットコインを、インターネット以来の革命だと評価する人も少なくない。ビットコインは、ナカモト・サトシという謎の人物が2008年にウェブ上で発表した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」が元になり、誕生したと言われている。この論文を読んだ有志の技術者たちが、ビットコインのネットワークシステムを作り出し、今日に至っている。2015年10月現在、ビットコインの時価総額は約4,500億円にのぼり、世界中の至る所で取引が行われている。(図表1)

図表1:ビットコインの価格(USD)と時価総額の推移

 なぜビットコインはここまで普及したのか。価格変動の大きいビットコインが投機の対象となっている点に加え、決済・送金時の手数料の低さに着目されたためであろう。海外へ送金する際も相手のビットコインの口座(アドレス)がわかれば、数円程度の送金手数料で送金が可能となり、銀行や決済事業者の海外送金と比較すると相対的に安価である。また、保有しているビットコインを日本円やアメリカドルといった法定通貨に両替することも可能である。

 ビットコインが革命的だと評価される最大の理由は、その仕組み自体にある。従来の電子マネーや法定通貨は「信頼できる第三者」が中央集権的に管理しているのに対して、仮想通貨であるビットコインにはそうした中央の管理者や発行主体は存在しない。(図表2) 決済システムに求められる二重支払いや過去の取引履歴の改ざんといった不正の防止を、ブロックチェーンとProof of Workを組み合わせることで実現しており、ソフトウエアと分散型のネットワークシステムのみで決済システムを維持している点が画期的なものである。
 マイニングと呼ばれる新しい取引の承認作業の際、難解かつ膨大な計算課題(Proof of Work)が参加者のコンピュータに課され、その課題を最初に解決できた参加者に取引承認報酬として一定量のビットコインが与えられる。ブロックチェーンを改ざんしようとすると、改ざんするすべての取引において再度この計算作業が必要となるため、膨大な計算リソースが必要となり、経済的に採算が合わない。通常の参加者としてマイニングに参加した方が経済合理性が高まるよう設計されているのだ。

図表2 ビットコインと他の通貨の違い

図表2 ビットコインと他の通貨の違い

出典:NTTデータ経営研究所にて作成

 また、ビットコインの取引に関する詳細な情報は各参加者がダウンロードしているソフトウエア内に保持しているコンピュータに記録されることになる。この取引の履歴が一般的にブロックチェーンと呼ばれている。「AさんからBさんに◯◯BTC送金した」といった取引情報が複数まとめられて一つのブロックを形成し、そのブロックが時系列に鎖状につながることで、記録されるのだ。また、ブロックチェーンは各参加者が同じ元帳を分散保持していることから分散型元帳とも呼ばれる場合がある。ブロックチェーンはWEB上で公開されているため、誰でも見ることができる。

ブロックチェーンの特徴

 ブロックチェーンは特性として、分散型管理(非中央集権型)で、一度データが書き込まれると改ざんができないといった点があげられる。ブロックチェーン上で取引するデータはビットコインに限らずあらゆる資産やデータに応用が可能と言われており、従来の中央サーバ型のシステムから分散型のブロックチェーンシステムに移行することで、あらゆる取引やデータ管理におけるコストの削減が可能になるのではないかと期待されている。
 ブロックチェーンに関する明確な定義は存在しないなか、利用目的や用途に応じてブロックチェーン自体の新しい開発が日々ベンチャー企業を中心に行われている。そのため、ビットコインに代表される①パブリック型だけでなく、②コンソーシアム型や③プライベート型が類型として出現している(図表3)

図表3 ブロックチェーンの種類

図表3 ブロックチェーンの種類

出典:NTTデータ経営研究所にて作成

 本レポートで取り上げているビットコインはパブリック型であり、あらゆる参加者が参加する可能性があることから、厳密な承認作業が求められる。一方で、限られた参加者で、不正のリスク等がパブリック型と比較して低くなる場合は、承認作業もそれに合わせて緩和していくことになる。目的や用途に合わせて、参加者や承認作業をコントロールすることが可能になるわけだが、従来のシステムと比較して何ができるようになり、何がメリットなのかは検証を行っていく必要がある。

海外金融機関のブロックチェーン活用の取り組み動向

 海外では、金融とITを融合した技術革新をさすFinTech(フィンテック)が盛り上がりを見せ、金融機関による積極的な投資や提携が行われてきた。最近では、ビットコインやブロックチェーン技術を活用したスタートアップへの投資に加え、独自に開発を行う事例や、スタートアップとの提携によりブロックチェーンの活用に向けた実験を行うといった事例も出てきている。ブロックチェーンの活用に対して積極的な金融機関もあり、あらゆる取り組みを行っている。(図表3)

図表3 海外金融機関における取り組み事例

図表3 海外金融機関における取り組み事例

出典:各社リリースや報道資料をもとにNTTデータ経営研究所にて作成

 ブロックチェーンに対する取り組みは、海外で先行する形となっている。その理由の一つに日本と海外における起業環境の違いが挙げられる。ニューヨークのR3の例から見ても分かる通り、海外では業界経験が長く、実績・ノウハウ・人脈を持ったエグゼクティブクラス自身が起業、あるいは起業直後のスタートアップに加わるという例は少なくない。大企業とスタートアップの提携は、組織の規模や事業のスピード感といった違いから課題が多いのは日本、海外でも共通であるが、そうしたプロジェクト推進の際にも、経験豊かな業界出身者がスタートアップの立場としてリーダーシップを発揮している。

ブロックチェーン活用に向けた今後の取り組みの方向性

 海外の取り組み事例から見てもわかる通り、ブロックチェーンの活用に向けた取り組みは外部との連携、いわゆるオープンイノベーションが鍵となるだろう。新しい技術であるブロックチェーンは、日本はもちろん世界的に見ても、専門家や技術者が不足している状況である。そのため、金融機関やITベンダーの取り組みの流れとしては、単独での情報収集だけでなくオープンイノベーションによってブロックチェーン技術の理解を深め、活用領域について検討していくことが近道であると考えられる。また、実際にブロックチェーンを作成するといった実証研究やナスダックのように考案されたサービスを実証実験していくことで、知識や知見を内部化していくことが望まれる。
 加えて、ブロックチェーン技術自体は、対応可能なデータ容量やマイニング(取引の承認作業)におけるコンセンサス・アルゴリズムについての課題は多く、現在も進歩していることから、技術としての進展状況を定期的に確認していく必要がある。

おわりに

 アメリカで最大規模のベンチャーキャピタルを運営するマーク・アンドリーセン氏は、「1975年のパーソナルコンピュータ、1993年のインターネット、2014年のビットコイン」とビットコインのテクノロジーについて評価している。同氏は自身で起業したネットスケープ社をIPO(株式公開)して資産を築いたのち、FacebookやTwitterなどに投資を行い投資家としても成功してきたことで知られる。海外では、マーク・アンドリーセン氏に代表されるように早い段階でビットコインやブロックチェーンに対して一定の評価がなされていたため、応用の可能性や課題・規制面についても広く議論されている。
 一方、日本ではいまだにビットコインに対するネガティブなイメージがあるため、その基盤技術であるブロックチェーンについても目を向けられていない期間が長かった。しかし、世界的にはさまざまな取り組みが実施されており、正しい情報を収集し、この技術革新について冷静な見極めを行った上での対応が必要となってくるだろう。

 また、優れた技術革新は、その技術に着目しがちだが、新規事業の開発や自社への活用の際にはそのアプローチについて配慮が必要である。技術革新によって何ができるようになるのか、自社にとって機会となるのか脅威となるのかを見極めた上で、自社として何をしたいのかを明確にする必要がある。

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