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財務省のデジタル化の側面からみたタイ王国の電子政府化戦略

株式会社NTTデータ経営研究所
社会システムデザインユニット
シニアコンサルタント 栗原 章

1 本レポートの趣旨

 2018年9月にバンコクで開催された「DIGITAL THAILAND BIG BANG 2018」では、タイ王国政府がパネル出展し、国民に対して電子政府化戦略をPRしていた。

 展示物および配布資料は全てタイ語のみの表記であったためその場での情報入手が困難ではあったものの、担当者へのヒアリングにより、従来から進めている電子政府化に益々注力していくとともに、ASEAN域内におけるデジタルハブ化を目指していく意向を確認した。また、日本政府のデジタル・ガバメント実行計画にも関心を示していた。

 そこで、本稿では、タイ王国の電子政府化戦略および各種プロジェクト事例、ASEAN地域連携との関連性に係る情報を整理するとともに、電子政府化戦略における重要な観点を再確認する。

2 タイ王国の電子政府化計画の概要

2.1 タイ王国版“デジタル・ガバメント実行計画”

 タイ王国の電子政府化計画は、2016年に制定された「Thailand Digital Economy and Society Development Plan」である。同計画は、国家の長期的な発展戦略を定めた「20-year National Strategy 2017-2036」および産業等のデジタル化を推進するThailand4.0等の実現に向けた文脈の中で、「Twelfth National Economic and Social Development Plan 2017-2021」(国家経済社会発展12カ年計画)の一環として位置づけられた計画である。(図表1)

 同計画は、①全国規模のデジタル基盤の構築、②デジタル技術による経済成長加速、③知識主導型のデジタル社会の創造、④電子政府への転換、⑤デジタル時代の人材育成、⑥デジタル技術に対する信頼の構築をその戦略として、段階的にそれらの戦略を達成しようとするものである(図表1)。

 一期目は2016年~2018年、二期目は2017年~2021年となっており、本稿においては二期目の「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」1 について整理をする。

「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」の位置づけ

「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」の位置づけ 出所:政府の関連機関の公表資料を基に筆者作成。

 Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021では、5つの戦略(①国民の生活の質向上、②産業の競争力向上、③国家安全保障の向上、④行政の業務効率向上、⑤行政サービス能力の向上)により、4つのゴール(①デジタル関連指標の世界順位向上、②行政サービスの迅速化および正確性向上・ペーパーレス化、③公共データへのアクセス容易化による政府運営の透明性と市民参加率の向上、④統合データベースの整備・機関連携の支援・電子政府基盤の構築)を実現するものとなっている。(図表2)

図表2 Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021の戦略および目標

図表2 Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021の戦略および目標 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を基に筆者作成
2.2 Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021の5つの戦略におけるプロジェクトの詳細

 以下では、先に挙げた5つの戦略それぞれの施策に対応するプロジェクト事例を概観する。

 ①国民生活の質の向上

 国民生活の質の向上については、4つの施策(公共の福祉、労働、教育、健康)が挙げられており、国民の日常生活に深く関わる社会基盤のデジタル化が目的となっている。(図表3)

 そのなかでも、「公共の福祉」におけるPrompt Payについては、導入する仕組みや技術、および国民生活への普及スピードの観点で他国との比較において引けを取らない先進的な取組み事例であるといえる。 2

 Prompt Payは、2017年に「National E-Payment Project」の一環として導入されたモバイル送金アプリケーションである。Prompt Payの利用にあたり、個人の場合は個人IDもしくは電話番号(銀行口座に紐付けられた番号)、法人の場合は納税番号をアプリに登録する。個人においては互いの電話番号を知っていれば送金が可能となるうえ、手数料が従来よりも低価格となる。

 政府としては国内におけるキャッシュレス化を推進することで紙幣の管理や印刷等のコスト削減とともに、国民にとっての利便性向上の両立を実現させたい考えである。

 なお、金融機関によるPrompt Pay利用促進PRの奏効もあり、2018年7月時点の登録者数は4,260万人、国民(約6,900万人)の過半数に達している。1年半という短い期間にもかかわらず、迅速かつ着実に国民生活のなかに取り込まれている。3

図表3 国民生活の質の向上に係るプロジェクト事例

図表3 国民生活の質の向上に係るプロジェクト事例 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を本に筆者作成

 ②産業の競争能力向上

 産業の競争能力向上については、9つの施策(農業、観光、投資、貿易、SMEs、歳入、交通、公共事業)が挙げられており、「ヒト」、「モノ」、「カネ」の流通環境の合理化による経済成長とそれを支える情報基盤の構築が試みられている。(図表4)

 「ヒト」に関しては観光のDigital Tourism Platforms、「モノ」に関しては交通のNational Multimodal Transport Integration Centre(NMTIC)によるマルチモーダル輸送管理システムの構築、「カネ」に関しては歳入のNational E-Payment等のプロジェクト事例が該当する。

 ここでは、上記に挙げたプロジェクト事例の概要を簡潔に紹介する。

✓Digital Tourism Platforms4

 タイ政府(観光スポーツ省)は2018年10月19日、国内観光情報のプラットフォームの整備状況に関するプレスカンファレンスを開催した。同省では、ビッグデータ解析技術を用いた観光情報プラットフォームの構築に注力しており、これらのプラットフォームのPRを通じて、インバウンドを含めた国内観光業の活性化に取組みでいる。

 観光プラットフォームの具体例としては、Thailand Tourism Intelligence Center5やThailand Tourism Directory6が挙げられる。これらのプラットフォームでは、国内外の観光者数等の統計情報や地域別の観光情報を閲覧することができる。

 また、スマートフォン向けアプリケーションの開発に加え、ディベロッパー向けにAPIを公開することで、国内観光情報の普及促進に取組んでいる。

✓National Multimodal Transport Integration Centre(NMTIC)によるマルチモーダル輸送管理システムの構築7

 NMTICは、各種の輸送システムを制御・管理するプロセスを構築し、輸送効率および安全性の向上を目的に2011年5月に設立された交通省傘下の組織である。

 NMTICでは、マルチモーダル輸送システムを制御および管理するプロセスで使用するデジタル情報の管理をしている。具体的には、静的データ(地図データ、交通ルート、交通インフラの仕様等)と動的データ(車両の位置、リアルタイムの交通情報、気象情報等)の全ての情報を連携させた交通管理システムである。

 NMTICは、これらのシステム構築を推進していくことで下記の成果の実現を目指している。

  • ①管理プロセスを強化することで、公共交通機関における安全性を向上させる。
  • ②情報関連プロセスの連携を強化することで、各種サービスの質を向上させる。
  • ③輸送における研究開発を促進し、交通システムをシームレスかつ持続可能なものにする。

✓National E-Payment8

 政府が定める「National e-Payment Master Plan」に基づき、電子決済システムの導入により国民の生活の質を向上させるとともに、産業部門の競争力を向上させることが同計画の目的となっている。

 例えば、低所得層の国民に対してキャッシュカード機能を備えた個人電子カード(Welfare Card)を配布することで、個人の所得情報等を収集し社会福祉データベースを整備する(2017年10月に導入済み)。

 政府は整備したデータベースに基づき、国内の低所得者に対し適切な福祉と補助金を分配する。Welfare Cardの所有者は、特定の商業施設(Blue Flag outlet)での買い物の際に割引を受けることが出来る。

 また、電子税申告書と電子領収書の発行により納税申告の手続きを簡素化することで、民間企業における納税手続の所要時間と手順を削減することが可能となるため、企業の競争力を向上させることが可能となる。

図表4 産業の競争能力向上に係るプロジェクト事例

図表4 産業の競争能力向上に係るプロジェクト事例 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を本に筆者作成

 ③国家安全保障の向上

 国家安全保障の向上については、4つの施策(公安、国境管理、自然災害、危機管理)が挙げられており、ビッグデータの解析技術やAI技術の導入による国家安全保障基盤の構築が試みられている。(図表5)

 ここでは、代表的な施策事例の一つとして、データ基盤を活用した洪水対策プロジェクトの概要を簡潔に紹介する。

✓Water Disaster Management9

 2011年7月にチャオプラヤー川で発生した大洪水は、タイ国内の住民および産業に甚大な損害を与えた。タイ政府(Department of Disaster Prevention and Mitigation、以下DDPM)では洪水を含めた災害対策の強化を試みている。直近では洪水発生から10年後の2021年に向けた5カ年計画10が遂行されている。

 同計画では、災害リスクの軽減、災害対策における国際連携、地域内における防災知識の共有、防災人材の育成が戦略として掲げられている。

 なかでも災害リスクの軽減においては、データ活用による災害予測および災害情報の管理が重点課題となっている。このため、政府は災害警報システムや災害情報管理システムにおける革新的な技術の導入とリソースの開発・投資に注力している。

 2011年の大洪水を受け、タイ政府は「Water management strategic plan」を制定し、これに基づく施策として水源データベースおよび水源データ解析システム、洪水監視・警報システム、洪水リスク・分析システムを構築した。

 これらのインフラにより、洪水災害の事前予測や災害発生時の対策等のための情報収集および情報活用基盤が整備されている。

 なお、洪水対策に関してはDDPMを含め複数な政府機関が連携している。実際の洪水対策に特化した機関として機能しているのはDDPMではなく、DWR(Department of Water Resources)である模様。

 DWRでは、2011年の洪水発生当時において複数の洪水対策関連組織による施策がそれぞれ整合するものではなかったことを反省し、OOPM(One Page Project Management)と題して洪水対策関連の情報を統合し、洪水発生の要因シナリオ別の2P2R (Prevention, Preparation, Response, Recovery)プロセスを取りまとめている。

図表5 国家安全保障の向上に係るプロジェクト事例

図表5 国家安全保障の向上に係るプロジェクト事例 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を本に筆者作成

 ④行政の業務効率向上

 行政の業務効率向上については、4つの施策(財政、調達、資産管理、人事)が挙げられており、行政業務の合理化に指向した施策という点で、主に個人や法人を対象とした行政サービス向上を目的とした①~③の戦略とは施策の性質が異なる。(図表7)

 以下では、4つの施策と関連性が高い財務省(Ministry of Finance11 )全体のデジタル化計画である「Digital MOF」のプロジェクト概要を紹介する。

✓Digital MOFにおけるプロジェクト概要12

 ここでは、「Digital MOF」における戦略および主なプロジェクト事例の紹介を行う。同計画は「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」と同じ2017年~2021年の5年間をプロジェクト期間として設定されている。

 なお本項目では「Digital MOF」の戦略のうち、財務省におけるデータ活用基盤の整備および業務合理化に焦点をあて、セキュリティ対策やインフラ整備、人材育成については、内容の関連性を鑑みて⑤行政サービス能力の向上で紹介する。

戦略1:財務情報活用のためのデジタル基盤の構築

◆財務ビッグデータ活用基盤の整備(MOF Fast Big data project)

  • タイ政府では、Thailand4.0政策を下支える情報基盤として、官民全てのセクターにおける財務データ(ビッグデータ)基盤の整備を進める方針。財務省では、ビッグデータの活用および分析が経済政策および個々の経済活動(イノベーション活動を含む)に大きく寄与すると考えており、基盤整備を進めている。

◆オープンデータの開示およびデータセットの開発(MOF Open Data Services)

  • ビッグデータ利活用のための基盤整備の一環として、オープンデータの整備およびデータセットの開発により、国の経済や財政等の情報を一般市民にもアクセスを容易にするプロジェクトが進められている。

◆内部情報の統合データベースの整備

  • 財務省では、政策決定を支援するための公的債務管理センター(PDMO-DOC)を整備する計画である。異なるシステム間における内部情報のリアルタイム連携が急務となっている。

◆最新技術活用に係る研究開発

  • 財務業務のパフォーマンスを向上させるための最新技術(フィンテック)の適用に係る研究開発を進めている。

戦略2:業務合理化

◆シングルサインオン(Tax SSO)

  • 財務省は今年、税務シングルサインオン(Tax SSO)システムを構築し、納税者が一つのユーザーIDとパスワードで3つの税務局(歳入、消費税、関税)における納税手続を行うことが可能となった。なお、Tax SSOはモバイル端末でも利用可能となっている。

◆電子決済システムの導入

  • 財務省は、国内企業における電子データ収集(EDC)システムの導入を進めており、これにより税務業務が合理化されるとともに、今までの現金や小切手発行等に係るコスト削減、およびキャッシュレス化の進捗が期待される。

◆付加価値税徴収・還付システムの開発

  • タイへの旅行客がタイ国内で物品を購入し、購入額が5,000バーツ以上の場合、旅行者は物品購入に係るVAT分を帰国時に還付される。VAT還付に係る手続の合理化および精緻化を図るべく、財務省では電子決済機能およびデータ分析ツールを導入している。

◆電子納税申告システムの開発

  • 電子決済システムおよびアナリティクスツールを活用した源泉所得税申告に係る事務プロセスの最適化を図っている。タイでは、雇用者が社員に支払う毎月の給料から源泉徴収分を差し引き、納税申告(Por Ngor Dor 1)をすることが義務付けられている。この納税申告のデジタル化が進められている。

◆税関業務におけるNSW(Thailand National Single Window)

  • 関税局では、国際貿易における税関業務の合理化を進めており、タイではASEAN Single Window(ASW)構築の文脈の中で、他のASEAN諸国と同様に国内におけるNational Single Window(NSW)の整備に注力している。
  • ASWとは、ASEAN域内における物品貿易における通関手続き合理化のためのEDI(Electronic Data Interchange)システムである。ASEAN各国でNSWが構築されており、各国のNSWがインターネット環境で連携されている。(図表6)
  • タイの場合、「Digital MOF」が公表された2017年3月時点では、30弱の政府機関がNSWの電子文書交換システムに連携されていたが、現在(2018年11月時点13)では36機関に増加している。

図表6 ASWの仕組み14

図表6 ASWの仕組み 出所:AWSのHPより引用

◆GFMISのアップグレード

  • 財務省は2005年度以降、GFMIS(Government Financial Management Information System=国家財務管理情報システム)にSAP社のソフトウェア(SAP ERP 4.7)を導入してきたが、外部システムとの互換性を持たせることを目的に、これをSAP S/4 HANAにアップグレードする。

◆E-GP(電子政府調達)システムにおける保守性(Serviceability)の強化

  • 財務省では、2010年4月1日より電子政府調達システム(e-GP)を導入している。2017年5月時点の政府調達情報の保管データ量が22.7TBに達し、調達情報のアーカイブ化および災害時等におけるシステムのバックアップ体制等の強化に迫られていることを受けた取組みである。

◆人事情報統合管理基盤の構築

  • 行政職員の給与計算システムを含む人事情報統合管理基盤を構築し、予算配分野の最適化等に寄与させる取組みである。

◆電子文書管理システムの構築

  • ペーパーレス化によるコスト削減及び業務プロセスの改善等を目的に、電子文章管理システムを構築し、さらに財務省関連機関の文書管理システムを統合する取組みである。

図表7 行政の業務効率向上に係るプロジェクト事例

図表7 行政の業務効率向上に係るプロジェクト事例 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を本に筆者作成

 ⑤行政サービス能力の向上

 行政サービス能力の向上については、6つの施策(行政データの統合、行政データの認証・検証、行政情報、国民の声、電子政府基盤、電子政府化人材の育成)が挙げられている。(図表8)

 ここでは、タイ政府が目指す電子政府基盤の概要を整理するとともに、電子政府化人材の育成に向けた取組みを紹介する。なお、紹介する取組みにおいては、④行政の業務効率向上と同様に「Digital MOF」で挙げられている事例を紹介する。

戦略3:セキュリティ・災害リスク対策

◆情報通信技術の革新および多様化を背景に、タイ国内においても情報セキュリティ対策の重要性が増している。そこで、財務省では情報通信機器および情報セキュリティシステムの更改に取組んでいる。特にe-GP(電子政府調達システム)やe-Payment Portal(電子決済ポータル)は利用者及びネットワークの利用率の拡大により情報セキュリティ対策が急務となっている。

◆また、データセンターのリスク管理計画および災害時のバックアップ体制等の構築を進めている。特に年金や給与を含めた社会福祉関連情報システムのRASIS(Reliability=信頼性、Availability=可用性、Serviceability=保守性、Integrity=保全性、Security=機密性)は最重要課題とされており、データセンターの可用性については稼働率99.00%以上を目標としている。

戦略4:電子政府化のためのインフラ整備

◆財務省では、クラウドコンピューティング技術の導入により、行政業務の効率化及びコスト削減を目指しており、ネットワークインフラの拡張および既存システムの更改、災害時の予備発電機を含む関連機器の刷新が主な取組み課題となっている。

◆また、モバイルアプリケーションによる電子取引システム(Excise Smart Service)の開発を進めている。これは本レポートの冒頭部分でも取り上げた「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」におけるKPIの一つとして設定されたスマートサービスの開発に対応するものである。同システムは消費税の払い戻し(控除および減額)をモバイル端末上で申請できるアプリケーションである。政府はこれらのスマートシステムを電子政府基盤の一環として位置づけて開発に取組んでいる。

戦略5:人材育成

◆財務省では、財務省のデジタル化を支えるデータ分析スペシャリストの育成に取組んでいる。例えば、先に紹介したGFMISのソフトウェア更改において、新規ソフトウェア利活用に係るトレーニングセンターを設置している。

◆なお、タイ政府全体としても、Thailand Digital Government Academy(TDGA)を運営し職員のデジタル関連スキルの向上を図っているほか、ACIOA(ASEAN Chief Information Officer Association)への人材育成協力事業(ASEAN各国におけるICTリーダーの育成)も実施している。15

図表8 行政サービス能力の向上に係るプロジェクト事例

図表8 行政サービス能力の向上に係るプロジェクト事例 出所:EGA「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」を本に筆者作成

3 「Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021」が実現する社会像

 上記までは、同計画が目指すゴールとそれらに向けた5つの戦略およびそれぞれの施策内容について、関連する他の政府計画を交えつつ、概要を整理した。

 各戦略におけるプロジェクト事例等を調査するなかで、2021年までの期間におけるタイの電子政府化の実態として、行政業務効率および能力の向上の側面においては財務省のデジタル化(Digital MOF)が重要政策であることが大きな特徴である。

 このほか、各種プロジェクト事例のなかで筆者が特に関心を抱いたのは、自然災害リスクへの対応である。2011年に発生した大洪水においては、タイの政府機関の職員がなすすべもない状況に困惑している様子が報道されていた。過去の失敗経験を糧にしつつ、将来においては失敗を恐れることなく最新技術を意欲的に取り入れていこうとする姿勢が、今後のタイの国家発展に大きく寄与すると思われる。

 また、タイ政府はヒト、モノ、カネの移動におけるデジタル化を進める過程において、ASEAN諸国との連携にも平行して取組んでおり、そのなかでも財務省のデジタル化(Digital MOF)は極めて大きな役割を担っている。

 経済規模や政治体制の状況が明確に異なる国々が混在するASEAN域内では、ASWにおける取組事例にもみられるように、域内各国が協調してヒト、モノ、カネの移動における合理化を進められており、これが相互の経済発展につながっている。

 今年年末に発効するTPP(太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、新NAFTA(USMCA)等の広域経済連携が世界経済への影響度を強めていくことが想定されるなか、例えばTPP協定第5章(関税当局及び貿易円滑化)の6条では「輸出入手続を単一の窓口に置き、電子的に完了することができるよう努めること」と規定されているように、国家単位においても他国との通関等のシステム連携は必然的に重要課題となるだろう。

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  • 1 EGA『Thailand Digital Government Development Plan 2017-2021』〈http://www.eabc-thailand.org/uploads/files/Digital%20Government%20Development%20Plan%202017-2021%20(executive%20version).pdf〉 2018年11月アクセス.
  • 2 Bank of Thailand HP〈https://www.bot.or.th/Thai/PaymentSystems/PSServices/PromptPay/Pages/default.aspx〉 2018年11月アクセス.
  • 3 The Bangkok Post (2018年7月30日)〈https://www.bangkokpost.com/tech/local-news/1512462/bot-e-payment-climb-hastening〉 2018年11月アクセス.
  • 4 Digital Tourism Platforms HP〈https://www.mots.go.th/ewt_news.php?nid=10920&filename=index〉 2018 年11月アクセス.
  • 5 Thailand Tourism Intelligence Center HP〈 http://thailandtic.com/th/page/item/index/id/1〉 2018 年11月アクセス.
  • 6 Thailand Tourism Directory HP〈https://thailandtourismdirectory.go.th/en/home〉 2018 年11月アクセス.
  • 7 National Multimodal Transport Integration Center HP〈http://nmtic.itsconsultancy.co.th:8080/NMTIC/pdf/filename04.pdf〉 2018年11月アクセス.
  • 8 National e-Payment HP〈http://www.epayment.go.th/home/app/〉 2018 年11月アクセス.
  • 9 『One page project management application on flood preparedness: case study of Thailand』(2018年)Science Direct,〈https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877705818300602〉 2018年11月アクセス.
  • 10 Department of Disaster Prevention and Mitigation, Thailand HP〈http://www.disaster.go.th/en/about_strategy.php〉 2018年11月アクセス.
  • 11 Ministry of Finance, Thailand〈http://www2.mof.go.th/〉 2018年11月アクセス.
  • 12 Ministry of Finance, Thailand『Digital MOF』 〈http://www.MOF.go.th/home/plan/digital/Digital_MOF_update031117.pdf〉 2018年11月アクセス.
  • 13 ASEAN SINGLE WINDOW HP〈http://asw.asean.org/nsw/thailand/thailand-nsw-services〉 2018年11月アクセス.
  • 14 ASEAN SINGLE WINDOW HP〈http://asw.asean.org/about-asw〉 2018年11月アクセス.
  • 15 The Government Public relations Department, Thailand〈http://thailand.prd.go.th/ewt_news.php?nid=3566&filename=index〉 2018年11月アクセス.
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