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アフリカのオフグリッド電化と、再生可能エネルギーのポテンシャル

社会・環境戦略コンサルティングユニット
マネージャー 東 信太郎

1.アフリカにおける、オフグリッド電化の実情

 筆者は、2011年からケニアとエチオピアを中心に、オフグリッドエリアにおける再生可能エネルギーによる電化事業の調査に従事している。これまで、ケニアの独立型ミニ・グリッドに再生可能エネルギーを導入しようとする取り組みなどを紹介してきたが、本稿では視野をアフリカ、特にサブサハラ・アフリカに広げて、オフグリッド電化と再生可能エネルギーのポテンシャルを紹介したい。

 まず、次の図をご覧いただきたい。これは、ナショナルグリッドに接続されていない、オフグリッドエリアにおける既存のディーゼル発電所1,101か所をマッピングしたものである。この図では、相当数に上る小規模のディーゼル発電所は除外されおり、実際はより多くの点(=オフグリッドエリアのディーゼル発電所)がアフリカ大陸に散らばっている。こうした発電所は、独立型のミニ・グリッドを介して電力を供給しているが、IEA “World Energy Outlook 2015”によると、アフリカにおける地方電化率は26%、サブサハラ・アフリカにおいては17%に過ぎない。以下の図の空白エリアでは、6億人を超える人が文字通り「陸の孤島」といえる状況にあり、電気のない生活を営んでいる。

図1:1,101か所の既存独立型のディーゼル発電所

図1:1,101か所の既存独立型のディーゼル発電所

出典:Africa-EU Renewable Energy Cooperation Programme (RECP) “Mini-Grid Policy Toolkit”(2014年)

 以下の写真は、ケニアにおけるオフグリッドエリアの独立型ディーゼル発電所と、ミニ・グリッドの一例である。上図では、一つ一つの点で表されているエリアをイメージいただくことができよう。

図2:ケニア・ムファンガノ発電所(650kW)とミニ・グリッド

図2:ケニア・ムファンガノ発電所(650kW)とミニ・グリッド

図3:ケニア・ロドワ発電所(1440kW)とミニ・グリッド

図3:ケニア・ロドワ発電所(1440kW)とミニ・グリッド

2.独立型ミニ・グリッドの展望 ~再生可能エネルギーの導入拡大~

 地方電化率17%、6億人が電気のない生活を送るサブサハラ・アフリカの地方電化について、IEA“Africa Energy Outlook 2014”が興味深い展望を示している。サブサハラ・アフリカにおいて、2040年までに3.15億人を受益者とする地方電化プロジェクトが実施されるとし、下表に示す通り、2040年には38TWhの電力が、独立型ミニ・グリッドによって供給されることになる。実に、2.2億人がミニ・グリッドによって電化の恩恵を受けることというシナリオだ。

表1:2040年におけるサブサハラ・アフリカの電力供給予測

表1:2040年におけるサブサハラ・アフリカの電力供給予測

出典:IEA “Africa Energy Outlook 2014”

※IEAでは、オフグリッドシステムとミニ・グリッドを区別しているが出力による定義はしておらず、両者を合わせると10kW~10MWの独立型ミニ・グリッドを指すと考えらえる。

 この独立型ミニ・グリッドが供給する38TWhについて、IEAは次のような電源構成となることを予測している。つまり、2040年までに建設、整備される、独立型ミニ・グリッド(=ミニ・グリッド+オフグリッドシステム)が供給する電力量38TWhのうち、70%以上が再生可能エネルギーによって供給されると想定されている。
 この電源構成をみると、出力変動が少なく、ベースロードとなりえるのは、石油、水力、バイオとなる。もっとも供給量が多い太陽光発電や、風力発電は出力変動が大きいために、独立型ミニ・グリッドにおける運用においては、1.蓄電池を利用する、2.ベースロードとの組み合わせ(ハイブリッドシステム)の導入が必要となる。

表2:2040年における独立型ミニ・グリッド(合計38TWh)の電源構成の予測

表2:2040年における独立型ミニ・グリッド(合計38TWh)の電源構成の予測

出典:IEA “Africa Energy Outlook 2014”

 冒頭に示した、ディーゼル発電所がプロットされた地図から想像を膨らませると、現状ではほぼディーゼル発電で供給されている電力の70%が再生可能エネルギーで供給されるようになり、プロット数が著しく増大することになる。陸の孤島が、再生可能エネルギーで次々と電化されていくという、野心的なシナリオだ。

3.再生可能エネルギーによる、独立型ミニ・グリッドを推進させる各国の動き

 前節で示した、IEAのシナリオは野心的すぎるのだろうか? アフリカ各国における、独立型のミニ・グリッドをめぐる動向を簡単にまとめてみる。
 冒頭に示した、図1の通り、独立型ミニ・グリッドが数多く設置されているのは、サブサハラ・アフリカでは西アフリカと東アフリカとなる。東アフリカのケニアについては、独立型ミニ・グリッドに再生可能エネルギーを組み合わせたハイブリッド・ミニ・グリッドの整備が地方電化政策として進められている。西アフリカでは、民間セクターの主導による発電所の建設も進められている。
 ミニ・グリッドへの再生可能エネルギー導入については、海外の資金や技術が導入されつつある。単に、地方電化にディーゼル発電機を導入する計画では、海外からの支援を得ることは困難であるが、温室効果ガスの削減、新たな技術開発という視点から、再生可能エネルギーを独立型ミニ・グリッドに導入するという計画については、各国がアフリカ市場への参入という観点からも、支援する動きが広がりつつある。

表3:独立型ミニ・グリッドの各国動向

表3:独立型ミニ・グリッドの各国動向

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 民間セクター主導の注目すべき動向として、携帯電話の基地局におけるディーゼル発電と太陽光発電のハイブリッド化を紹介したい。サブサハラ・アフリカにおいては、携帯電話ネットワークの拡充が急速に進められつつある。携帯電話の基地局については、地方ではオフグリッドエリアに建設されることが多く、現状ではディーゼル発電によって必要な電力が賄われている。ここに、ディーゼル燃料の削減を目的に太陽光発電を導入する取り組みが進められている。
 携帯電話基地局への電力供給に限定されており、ミニ・グリッドとは性質を異にするものであるが、今後、街やコミュニティーを対象としたミニ・グリッドと、基地局への電力供給を組み合わせた仕組みが登場する可能性もある。携帯電話ネットワークの拡充と、電力供給の供給がセットになれば、民間企業主体で独立型ミニ・グリッドの整備が進められることになる。

図4:エチオピアの携帯基地局に設置された太陽光発電システム

図4:エチオピアの携帯基地局に設置された太陽光発電システム

4.むすび 日本企業の参入可能性

 これまで、サブサハラ・アフリカにおいて、地方電化の担い手である独立型ミニ・グリッドをテーマに、今後独立型ミニ・グリッドが急速に整備されること、その中心が太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーになることを紹介してきた。最後に、日本企業の参入可能性について述べたい。

 独立型ミニ・グリッドについて、不足している「技術」は、小規模グリッドに再生可能エネルギーを導入する際の「制御技術」である。前述の通り、2040年には独立型ミニ・グリッドが供給する電力量が38TWh上ることが想定され、その多くは太陽光発電で供給されることが予測される。一方、太陽光発電は出力変動が大きいという特徴を持つ。小規模のミニ・グリッドにおいて、既存のディーゼル発電システムと太陽光発電を組み合わせて導入することは簡単ではなく、アフリカに限らず失敗例も多くみられる。
 日本の太陽光発電技術は、長期信頼性という点において定評があるが、蓄電池と組み合わせた制御技術や、蓄電池を使用しない、ディーゼルとのハイブリッド制御技術と組み合わせることで、独立型ミニ・グリッドにおいて存在感を発揮することができると考えられる。

 また、独立型ミニ・グリッドは、最大でも数MWの発電所からの電力供給による小規模なものであり、電力需要と発電量を最適化させることが難しい。需要が発電量を上回ると停電するが、需要が少なすぎると発電効率が低下し、発電機の寿命を縮める原因となりかねない。小規模なミニ・グリッドにおける、電力供給と電力需要を最適化させる制御技術についても、大きな市場が存在しているといえる。

 2030年の日本の電源構成予測をみると、再生可能エネルギーでは、地熱が11TWh、バイオマスが44TWh、太陽光が75TWh、風力が18TWh、水力が96TWhとなっている(経済産業省「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月)。 2040年までに、サブサハラ・アフリカにおいて生み出される、38TWhの独立型ミニ・グリッドは、その多くが新規に登場するものであり、決して小さな市場として看過されるものではない。近年では、アフリカの再生可能エネルギー分野において、中国の存在感が高まっていることもあり、2016年に開催されるTICADを契機に、この市場へアプローチする日本企業が現れることを期待したい。

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