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データインテグレーションによるマーケティングイノベーション
:Data Integration Marketingの推進

デジタルマーケティングユニット
ユニット長・パートナー 山下長幸
はじめに

 数年前に「ビッグデータ」というコンセプトが話題になり始めた頃、“IT業界の流行語には惑わされないぞ”という声が一部にあがっていた。しかし、近年、スマートフォン、ウエアラブル機器、IoT(Internet of Things)など、インターネット関連のデジタルデータの入出力機器の進化・普及、機械学習・ディープラーニングなどの人工知能やHadoopなどのビッグデータを処理するコンピューティング技術の発展で、デジタル社会経済化の動きはゆるぎないものとなっており、ビッグデータを企業経営に活かすことは当たり前の世界になりつつある。
 そのような状況のもと、社内に蓄積されたデータのみならず、社外において日々膨大に生成されているデジタルデータも、企業経営に積極的に活用する動きが始まっており、本稿ではマーケティングの側面に絞って「データインテグレーションマーケティング(データ統合マーケティング)」のコンセプトを解説する。

社外データ活用のための法制度基盤

 数年前、ICカード乗車券による乗降駅データなどを大手鉄道会社から大手IT企業が提供を受けて駅利用状況分析など駅に関連するマーケティング分析データをさまざまな企業に作成・販売するサービススキームが発表されたところ、鉄道利用客から反発のコメントが多数寄せられ、サービス提供が中止に追い込まれたことがあった。鉄道会社からは、提供されるデータには個人が特定されるものはなく、法令面では何ら問題はなかったが、鉄道利用客への事前の説明が十分とは言えなかったとコメントが出された。

 日本政府としては、さまざまなビッグデータを企業経営に活用することを経済の成長エンジンの一つとしたいとの意志があり、社内外のデータを円滑に利用する法制度基盤の整備に向けて努めてきた。その結果、2015年9月3日に「改正個人情報保護法」が国会で可決・成立し、個人情報取り扱い事業者は、個人情報を匿名化(個人の特定性または識別性が低下した情報に加工)することで、本人の同意なしで第三者への提供が可能となった。具体的な個人情報の匿名化加工基準などは、法律公布後、2年以内に政令や規則などで定められる予定となっている。
 このような法制度基盤の整備により、自社保有データを匿名加工して他社に提供したり、他社保有の匿名加工データを自社経営のために利用することが活発化するものと考えられる。

ID連携によるデータインテグレーションマーケティング

 このように社外データ活用のための法制度基盤が整備されつつあり、2017年頃までには政省令などの細目も制定される予定となっているが、現行の法制度下でも、顧客の同意を得ることにより、自社保有データを他社に提供することが可能であり、そのような事例は既に存在している。

 共通ポイントカード会社とインターネット検索ポータルサイト会社の協業のケースである。両社の協業は、共通ポイントカード会員IDを検索ポータルサイト IDに統一し、検索ポータルサイトポイントを共通ポイントカードポイントに切り替えるところからスタートした。これにより、それぞれの会社に別々に会員登録していたユーザーとしては、検索ポータルサイトポイントと共通ポイントカードポイントで別々にしか貯められなかったポイントが、この両ポイント制度の統合で、検索ポータルサイト関連で貯めたポイントを共通ポイントカードサービス加盟店で利用したり、逆に共通ポイントカードサービス加盟店で貯めたポイントを検索ポータルサイト関連のサービス等で利用することができるようになるというメリットがある。

 ポイントユーザーとしては、共通ポイントカード会員IDを検索ポータルサイトIDに統一することに関して「合意」した場合のみ、このメリットを享受でき、合意しないことも可能である。このポイントユーザーからの合意により現行の法令下でも両社のデータのやり取りが可能となる。ちなみに共通ポイントカード会社とインターネット検索ポータルサイト会社の協業のケースでは、個人識別ができないように加工した上で、データの相互提供をしており、その意味では改正個人情報保護法における制度趣旨を先取りしたものと言える。

 データ相互提供の概要としては、以下の通りである。共通ポイントカード会社は、個人を識別できないよう加工した上で、共通ポイントカードユーザーによる購入商品・利用サービスの履歴や履歴などから分析された顧客特性データを検索ポータルサイト会社に提供し、検索ポータルサイト会社はこのデータを、行動ターゲティング広告の配信精度を向上させるために活用している。
 逆に、検索ポータルサイト会社は、個人を識別できないよう加工した上で、特定広告主企業が検索ポータルサイトに出稿したWeb広告の閲覧履歴や、検索ポータルサイト会社独自基準で判定したユーザーの興味や関心のある分野に関する情報を共通ポイントカード会社に提供し、共通ポイントカード会社はこの情報を活用して、共通ポイントカード会員向けに電子メールや加盟店の店頭でのクーポン配布などの広告・販促の精度を高めるために利用している。

 この2社の保有データは相互補完が利きやすいと言える。共通ポイントカード会社はコンビニやファーストフード店など、リアル店舗をよく利用するカード会員が多いことが強みであるのに対して、インターネット関連の会員データに弱みがある。逆に、検索ポータルサイト会社は、インターネット関連の会員データに強みがあるが、リアル店舗の購買データには弱みがあり、両社保有データの協業による相互補完の効果が高いと考えられる。

 このように自社保有データの弱みを補完できる他社保有データを、ID連携することがデータインテグレーションマーケティングの1つの手法であり、上記の事例以外にも取り組みが進んでいる。しかし、ID連携のための本人同意を得るためには、ポイントプレゼントキャンペーンなどを地道に実施する必要があり、経費・労力・時間が結構掛かってしまうという課題が大きい。

データ指標化によるデータインテグレーションマーケティング

 ID連携のための本人同意を得るためには、ポイントプレゼントキャンペーンなどを継続的に地道に実施する必要があり、経費・労力・時間が結構掛かってしまうという課題が大きく、100万人単位・1000万人単位などの会員の同意を得ることは非常に困難である。この課題を克服するための手段として「データ指標化」という手法がある。

 自社保有の顧客の生データから顧客特性を表すことができるような定量的な項目を設定し、個別の顧客ごとに特性項目別の値を求めることにより顧客特性を把握できるようになる。次にID連携した顧客データをサンプル収集し、これを教師データとして、全顧客データに関して顧客特性を推定することにより、自社保有顧客データと他社保有顧客データとのインテグレーションが可能となる。

 データ指標化と一部の教師データを活用したデータインテグレーションなので、完全にID連携された高精度なデータではないが、キャンペーンコストや時間を考えると現実的な施策だと考えられる。これによりID連携を完全に実施しなくても、自社保有データに加えて、自社では捉えきれないデータが他社から得られることにより、マーケティングのイノベーションが可能となる。

 データインテグレーションの手法は、上記でご紹介したもの以外にもいくつか存在するが、デジタル社会経済化の動きはゆるぎない状況下のもと、自社顧客データのみならず、他社保有顧客データとのインテグレーションによるマーケティングのイノベーションを推進していきたいと考えている。

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