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広告クリエイティブイノベーション

デジタルマーケティングユニット
ユニット長・パートナー 山下長幸
はじめに

 筆者が担当している部署では、これまでさまざまな商品・サービスに関するTwitter投稿情報分析を実施してきた。その際、分析を担当しているチームメンバーに共通の事象が起きることに気づいた。
 分析対象の商品・サービスに関して「この商品はとてもおいしい。また買ってみたい」などのポジティブな投稿コメントをいくつも見かけると、分析を担当しているチームメンバーはその商品を購入して試してみるというケースが非常に多かったのである。
 本稿では、ブランドマーケティングにおける広告クリエイティブのイノベーションのために、このようなソーシャルネットワークサービス(SNS)における投稿者の素直な心理・感情をもっと活用すべきではないか、ということを考察してみたい。

Twitter投稿情報分析の担当メンバーによる購買行動(1)コンビニ商品評判分析

 コンビニエンスストアチェーン関連会社の依頼で、コンビニ大手3社の商品評判に関してTwitter投稿情報分析を実施した。コンビニの商品の良しあしに関するTwitter投稿情報は非常に多く、多様な切り口での分析が可能である。

 コンビニスイーツに関するTwitterには以下のような投稿情報が多数あった。(XXXはコンビ二チェーン店名)
 「このシュークリームうまい。XXXのシュークリームは生地もクリームもめっちゃ美味」
 「あたし、シュークリームそんなに食べる方ではないけれど、XXXのシュークリームめちゃうま。」
 「XXXのシュークリーム、シューが美味。クリームも甘過ぎないところがとてもよい。」

 この分析の担当スタッフは、ダイエット中で体重コントロールに気を遣っていたにも関わらず、会社の昼休みにそのコンビニ店に出掛けて行ってシュークリームを購入して3時のおやつとして食べたのであった。担当スタッフは「ダイエットのことは気になりましたが、Tweetでおいしかったとのコメントをたくさん見て、無性に食べたくなりました。実際食べてみるとTweetにあった通り、とてもおいしかったでした」とコメントしていた。

Twitter投稿情報分析の担当メンバーによる購買行動(2)食品メーカーの調味料利用シーン分析

 大手食品メーカーの依頼で、中華調味料の利用食事メニューに関してTwitter投稿情報分析を実施した。昨今は有名料理人による推奨レシピ紹介サイトや、レシピサイトでの料理が好きな方々による食事メニューなどさまざまな情報源が存在しているが、Twitter投稿情報では、普通の生活者による中華調味料の利用食事メニューが多数あり、多様な切り口での分析が可能である。

 中華調味料の利用食事メニューには以下のようなものがあった。(YYYは中華調味料名)
 「YYYで野菜炒め、めちゃうま」
 「YYY試しに買ってみた。とりあえずチャーハン作ったが、とても美味だった」
 「YYYで作った中華スープは、格別」
 「今日の昼飯はYYYのうどんにしよう!これプチマイブーム」

 この分析の担当スタッフは、1つのTwitter投稿情報に紹介されていた中華調味料の利用食事メニューで家族に料理をふるまってみたいと思い、その中華調味料を近所の食品スーパーで購入して、週末家族に料理を振る舞った。担当スタッフは「この料理メニューなら自分でもできそうだし、この調味料を使うとそんなにおいしいのかと思い、購入してチャーハンをつくってみました。実際、家族からはとてもおいしい。お姉ちゃん、女子力が上がったねと言われてうれしかったでした」とコメントしていた。

Twitter投稿情報分析の担当メンバーによる購買行動(3)ネットIT機器ユーザー利用行動分析

 IT会社の依頼で、ネットIT機器ユーザー機器利用行動に関してTwitter投稿情報分析を実施した。さまざまなネットIT機器をどのようにユーザーが利用しているかを把握することにより、自社の商品・サービスの開発に活かすことができる。

 ネットIT機器の利用行動には以下のようなものがあった。(ZZZはネットIT機器名)
 「最近購入したものではまっているものはZZZ。今までほぼ動画を見ないライフスタイルだったが、今はかなり観ています。」
 「とうとうZZZを買ってしまいました。なかなかGood!見たいと思える動画が結構あります。PCではなくTV画面で見ます。」
 「ZZZはお買い得でした。Hulu,Netflixなど見まくりで幸せ!」
 「ZZZリモコンアプリは使える!音声でタイトル検索できるのはめっちゃ便利。」

 この分析の担当スタッフは、動画投稿サイトを見るのが趣味だったが、小さなパソコンのディスプレイで見るのにストレスを感じていたのが、このネットIT機器を利用するとテレビの大画面で見ることが快適にできることを知り、速攻、購入したのであった。担当スタッフは「SNSの投稿情報でとても評判が良かったので、安心して購入することができました。テレビの大画面でネット動画を楽しんでいます」とコメントしていた。

広告クリエイティブへのソーシャルネットワークサービス(SNS)投稿情報の活用

 NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組でシンガーソングライター・スガシカオ氏の作詞・作曲の様子が放映されていた。スガシカオ氏はSMAPの「夜空ノムコウ」の作詞などで有名なシンガーソングライターで、小説家の村上春樹氏などからもその独特の歌詞が高く評価されている。その番組内でスガシカオ氏は作詞の着想を得るためにTwitterを利用されていた。例えば「自分が諦めた日が、夢のゴールかと思う?」とTwitterに投稿して、その問いかけに応えてきた人々のレスポンスから、今の時代の空気感を感じ取って作詞の着想に活かすのだそうだ。

 前述のようにTwitter投稿情報分析の担当者が商品・サービスに関するポジティブコメントに多数接すると、その商品・サービスを購入し利用する傾向が強まることからすると、マスマーケティングにおけるブランド訴求よりも、ネットにおけるクチコミの方が購買への影響力を持つような構造変化が起きているように考えられる。これらの構造変化を捉えて、Twitter投稿情報を広告クリエイティブに活かし、広告効果を高めるべきと考えられる。そこで、某金融機関の金融サービスの広告販促の際に、関連するTwitter投稿情報分析にもとづいて、顧客ターゲティングを実施し、その顧客層がその金融サービスを活用した際の心理・感情をベースに広告クリエイティブを生成し、デジタル広告を出稿したところ、CPA(Cost per Acquisition:顧客一人の獲得コスト)を大きく削減することができた。

ソーシャルネットワークサービス(SNS)の経済・社会的な意義

 これまで、経済社会全体に幅広く情報発信できるのは、大手テレビ局や大手新聞社などのマスコミを通じて著名人、専門家、記者など一部の限られた人たちがメインであり、マスコミサイドから生活者への一方通行の情報発信になりがちであった。
 SNSは、人と人のつながりを促進するコミュニティ型Webサービスで、これらのSNS登録ユーザーである生活者は、個人個人のさまざまな生活体験や思い(コンテンツ)を発信し、投稿された情報は、人から人へ日常的に伝わりシェアされるなど、一般の生活者でも社会に対して情報発信ができる能動的な存在となった。このような場において、共感を呼ぶコンテンツの拡散スピードは非常に速い。まさにSNSはクモの巣状(Web)のような形での情報拡散・情報共有のサービス基盤の役割を果たしている。
 このような状況のもと、生活者による商品・サービスの購買行動も、マスメディアからのブランディング広告をベースとした商品・サービス訴求による影響力は徐々に減退し、逆に友人・知人やネット上の評判などのクチコミからの影響力が徐々に増していると言える。広告宣伝主体が広義の意味で一般の生活者に拡大し、ロングテール化が進行していると言えそうである。

 SNSの普及で普通の生活者が経済社会全体に対して情報を発信し、その情報を共有する状況が出現したことにより、商品開発・販売促進・採用活動など各種の企業活動にも大きな影響を与えることになった。これまでのような、企業から生活者への一方通行のマーケティングコミュニケーションではなく、今後は企業も生活者との双方向のコミュニケーションに本格的に取り組むことが必須となるであろう。

破壊的イノベーションにかかる想定年数

 近年、破壊的イノベーションという言葉をよく耳にするようになってきた。破壊的イノベーションとは、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場が、新たな技術やビジネスモデルによって破壊され、既存の業界構造が劇的に変化してしまうイノベーションのことである。
 破壊的イノベーションが、今まさに進行中の業界の1つとして、雑誌出版業界がある。1990年代後半からインターネットにアップされるコンテンツが増加するとともに、Google・Yahoo!などの検索サイトが、検索キーワード連動広告という広告収入モデルでWebコンテンツの無料利用を容易にしたことで、紙媒体書籍・雑誌の有料コンテンツ販売というビジネスモデルに対して大きく優位に立った状況になった。その影響を受けて、紙媒体の雑誌市場規模は、紙媒体の雑誌の市場規模は1997年のピーク時の1兆5,630億円から17年間、基本的には減少トレンドで、2014年は8,520億円とピーク時から45.5%減少した。ピーク時の1997年から2014年までの市場規模の年平均減少率である3.5%となっている。
 現在の市場規模を100として、年平均減少率3.5%で減少していくとすると、市場規模が30を切るのは35年後である。紙媒体の雑誌市場規模がピーク時の1997年から35年後は2032年で、2015年からは17年後である。市場規模が100から30に減少する過程では、既存業界サイドにおいてリストラ、企業合併、倒産・廃業などネガティブな事象が多数起きるものであるが、破壊的イノベーションと言っても、既存の商品・サービスに慣れ親しんだ顧客層がいて新商品・サービスにすぐに代替するわけでもないので、破壊的イノベーションには35年という長期間を要するものと考えられる。
 これだけの期間があれば、破壊的イノベーションが進行していく中で、既存事業サイドとしては、業態転換するなどで企業の生き残りを図ることが可能であるとも考えられるが、現実には「イノベーションのジレンマ」により、生き残りは容易でないといえる。「イノベーションのジレンマ」とは、伝統的な企業においては、企業内において規模が大きく歴史のある既存事業に対して、新興の技術やビジネスモデルは、取るに足らないものと感じられたり、既存の事業を浸食するリスクもあるため、新興市場や新興技術への参入が遅れがちとなることである。既存の主力事業の成功体験が数十年にわたり豊富にある企業の経営幹部層クラスに、業態転換に近いような新たな発想でのサービススキームにチャレンジするのは容易ではないものである。

広告クリエイティブと破壊的イノベーション

 インターネット、SNS、スマートフォン、スマートテレビ、ウエアラブル機器、Internet of Things(IoT)、ロボティックス、人工知能などデジタル経済社会の進化普及が不可避な状況のもと、広告ビジネスも伝統的なマスメディアマーケティングから、今後20年弱かけて破壊的イノベーションが起きるものと想定される。
 それに応じて広告クリエイティブもイノベーションが必要となることであろう。すでに、SNSや掲示板などインターネット上におけるWebユーザーのクチコミによる生活者の購買意思決定への影響力が徐々に増しており、破壊的イノベーションの萌芽(ほうが)は既に存在していると考えられる。
 Web上に膨大に分散する生活者のクチコミ情報をどのように収集し、どのように広告クリエイティブに活かすかまだ確立された方法論は存在しないと考えられるが、残された期間は長いようで短い。関係の方々にはイノベーションのジレンマを克服し、広告クリエイティブのイノベーションを成し遂げていただくことを切に願ってやまない。

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