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アフリカの再生可能エネルギー動向
~エチオピア、ケニアの事例から~

社会・環境戦略コンサルティング本部
マネージャー 東 信太郎

1.アフリカにおける、再生可能エネルギービジネスの分類

 アフリカは「最後のフロンティア」とも称され、各国がビジネスチャンスを得るために様々な取り組みを続けている。本稿では、エチオピアとケニアにおける再生可能エネルギーに関する具体的な事例を紹介しながら、今後のアフリカにおけるビジネスについての展望を示したい。

 まず、図表1をご覧いただきたい。これは、アフリカにおける再生可能エネルギービジネスを、導入する出力規模によって4つに分類したものである。日本や先進国においては、ナショナルグリッドが整備されているために、領域ⅡからⅣは非常用の電源などとして考えられている。しかし、アフリカのように、ナショナルグリッドの整備が進んでおらず、電化率が低いエリアでは、領域ⅡからⅣのような「独立型グリッド」、「オフグリッド・ソリューション」に注目が集まっている。

 本稿では、以下の4領域、すなわち「Ⅰ グリッド接続を前提とした1MW以上の規模」、「Ⅱ 100kW~1MWの独立型ミニ・グリッド」、「Ⅲ 10kW~100kWの独立型マイクロ・グリッド」、「ⅣオフグリッドのBOPビジネス」にそって、再生可能エネルギービジネスの動向を紹介する。

図表1 アフリカにおける、再生可能エネルギービジネスの分類

図表1 アフリカにおける、再生可能エネルギービジネスの分類

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2.大規模プロジェクトの動向 日本は地熱発電でアフリカ市場に参入

 図表1で示した領域Ⅰは、グリッドに接続することを前提とした、1MW以上の再生可能エネルギープロジェクトである。ケニアにおいては、2008年に制定されたFIT(固定価格買取制度)が2012年に改訂され、グリッド接続の太陽光発電の場合は0.12米ドル/kWhが適用される。エチオピアでは、現在FITの制度化が進められており、5MW以上の太陽光発電の場合、0.08米ドル/kWhが適用される見込みである。ケニアでは、FITを活用したIPP事業への関心が高まっているものの、日本企業にとってはケニア政府の与信という問題があり、IPP事業への参入を判断することは容易ではない。エチオピア、ケニアに限らず、アフリカで現実的なのは、ODAなどの公的資金を活用した「BT(Built and Transferモデル)」による事業展開となろう。

 既にケニアでは、2011年より円借款を活用した、日本企業による14万kWの地熱発電所の建設がスタートし、2015年3月に営業運転が開始された。エチオピアについては、2014年1月に安倍首相が同国を訪問し、地熱発電所の建設に向けた円借款を検討することを表明した。ケニア同様、与信を円借款で担保した上で、発電事業者へ機器を導入するというプロジェクトが立ち上がることを期待したい。

 一方、他の国も公的資金を活用した大規模プロジェクトを計画している。アメリカは、2013年にエチオピア、ガーナ、ケニア、リベリア、ナイジェリア、タンザニアを中心に、サブサハラ地域の電力供給を2倍にすることを目指して5年間で70億ドルを出資する官民共同プロジェクト「パワー・アフリカ」を打ち出した。この一環として、エチオピアで合計300MWの太陽光発電プロジェクトが進んでいるほか、地熱発電や風力発電プロジェクトも予定されている。

 アフリカにおけるインフラ整備に積極姿勢を見せ続けている中国は、エチオピア、ケニア両国で政府系銀行とエネルギー関連企業が連携し、大規模な太陽光発電や風力発電プロジェクトを推し進めている。一方で、技術の信頼性については、現地でも批判されることも多い。日本企業は、価格競争に巻き込まれることなく、優れた技術と信頼性を武器に、プレゼンスを拡大していくことで、中国の攻勢に対抗することが期待される。

3.活性化する、独立型グリッド市場① ケニアのハイブリッド・ミニ・グリッド

活性化する、独立型グリッド市場① ケニアのハイブリッド・ミニ・グリッド

ケニア北西部のロドワに建設されたハイブリッド・ミニ・グリッド。現在、太陽光発電の出力は60kWだが、ノルウェー政府の支援により太陽光発電の出力が250kWに増強される予定。

 図表1で示した領域のうち、Ⅱの100kW~1MWの独立型ミニ・グリッド、Ⅲの100kW以下の独立型マイクロ・グリッド、Ⅳの個人レベルの再生可能エネルギーソリューションなど、「独立型グリッドへの再生可能エネルギー導入」は、ここ数年で急激な進化を見せている。

 領域Ⅱの具体例として、ケニアにおける「ハイブリッド・ミニ・グリッド」の事例を紹介したい。ケニアでは、電力需要が国土の南部に集中しており、ナショナルグリッドは首都ナイロビを中心に東西に延伸されてきた。ナショナルグリッドから離れた地方都市や町などにおいては、独立型のミニ・グリッドが建設され、数百kW~1MW程度のディーゼル発電機が電力を供給してきた。ケニア政府は、ここに、再生可能エネルギーを導入する「ハイブリッド・ミニ・グリッド」を計画している。これは、ベースロード電源であるディーゼル発電機と、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーを組み合わせることで、ディーゼル燃料の使用量を削減し、ランニングコストを節約しようとするものである。

 ここ数年でハイブリッド・ミニ・グリッド計画は、一気に現実的な方向に進み始めた。2013年にAfD(フランス開発公社)は、23カ所のハイブリッド・ミニ・グリッドを対象とした3000万ユーロの低金利ローンの拠出を決定した。また中国やノルウェー、ドイツは無償資金協力などで、ハイブリッド・ミニ・グリッドの整備・建設を実施することを約束している。資金面での目途がついたハイブリッド・ミニ・グリッドの建設は、今後ピッチを上げて進められると考えられる。

 しかし、独立型の小規模グリッドに、変動の大きい再生可能エネルギーを導入することは、ケニアでは容易とは言えない。ケニア政府関係者へのヒアリングにおいて「ハイブリッド・ミニ・グリッドを実現させるための技術が確立されていない。日本企業の技術に期待している」というコメントも得ている。リップサービスであることを差し引いたとしても、「新興国の独立型ミニ・グリッドにおける再生可能エネルギーの制御技術」には、大きなマーケットが存在していると考えられる。

 ケニアのみならず、サハラ砂漠以南のサブサハラ諸国においても、こうした独立型グリッドのハイブリッド化に対する関心は高い。ケニアにおいて、ハイブリッド・ミニ・グリッドの効果的なソリューションを示すことができれば、周辺諸国への展開も可能である。

4.活性化する、独立型グリッド市場② 日本企業の奮闘

活性化する、独立型グリッド市場② 日本企業の奮闘

ケニアの農業用水路へ、マイクロ水力発電システムの設置が進められている。2015年内には、コミュニティーへの電力供給が始まる見込み。

 図表1の領域Ⅲについては、マイクロ水力発電の事例を紹介したい。落差2mという超低落差で発電が可能な、世界で唯一の商用マイクロ水力発電システムを開発したJAGシーベル株式会社は、日本の農業用水路においてマイクロ水力発電の実績を積み重ね、2015年から経済産業省とUNIDO(国際連合開発工業機関)が共同で実施している「低炭素・低排出クリーンエネルギー技術移転プログラム(LCET)」の一環として、エチオピアとケニアにおいて、実機の導入を伴う、パイロット事業を実施している。両国において整備が進められる農業用水路を活用した発電を実証することで、無電化地域の電化ビジネスへ弾みをつけることを目指している。マイクロ水力発電の出力は10kW程度ではあるが、マイクロ・グリッドによって無電化コミュニティーを電化し、脱穀機やパッキングマシーンなどを導入することで、商品作物を生産し、出荷することが可能となる。コミュニティーに現金収入をもたらす電化プロジェクトとして、エチオピア、ケニア両国の地方電化セクターからの関心も高いプロジェクトとなっている。

 領域Ⅳについては、太陽光発電を活用した、個人向けのBOPビジネスに挑む日本企業が増えてきている。GSユアサは、新興国向けの家庭用小型ソーラー電源システム「AKARi SolarLight Kit」を開発し、2013年よりエチオピアでの市場開拓に挑んでいる。パナソニックは、新興国向けにソーラーランタンを開発、2013年に「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を立ち上げた。アフリカにおいては、ケニアなどにおいて国連などの公的機関との協力によって普及活動を続けている。2013年度に創業したベンチャー企業のデジタルグリッドソリューションズは、太陽光発電とICT技術を活用した、「電力量り売り事業」を、ケニアでスタートさせた。ケニアには支店も構え、現地起業家との連携による、普及拡大を目指している。

 JAGシーベル、GSユアサ、パナソニック、デジタルグリッドソリューションズの事例から、日本企業がアフリカの再生可能エネルギー市場に挑むため「鍵」を見出すことができる。第1に、「技術の現地化」である。日本の技術を、そのままアフリカに持ち込むのではなく、現地の実情に合わせた製品を開発することで、市場を開拓することが必要である。第2に「現地パートナーとの連携」である。日本企業が、遠く離れたアフリカに乗り込み、市場を開拓することは容易ではない。信頼できるパートナーとの連携により、市場にアプローチすることが肝要である。第3に、「公的セクターとの協力」である。いずれの事例も、日本の省庁による実現可能性調査などを活用して、製品やサービスのアフリカにおける普及戦略を策定している。また、日本の省庁のバックアップを得ることで、現地の公的セクターへアプローチも容易となる。

5.むすび 再生可能エネルギー市場へのアプローチ

 アフリカの再生可能エネルギーのアプローチについては、第4節で示したように、「1.技術の現地化」、「2.現地パートナーとの連携」、「3.公的セクターとの協力」が有効であると考えられる。本稿の最後に、もう一つの「鍵」を提示して、結びとしたい。

 今後、日本企業がアフリカの進出を目指すに当たっては、「イノベーターとのコラボレーションによる相乗効果による市場開拓」が必要であると考えている。本稿では紹介できなかったが、アフリカでは、日本企業の事例の他にも、民間セクター、NGOなどを主体とした再生可能エネルギー分野でのイノベーションと新しいビジネスが次々と誕生している。日本の再生可能エネルギー技術は、世界をリードするものであることに間違いはなく、アフリカ諸国からの信頼も高い。こうした技術を基に、現地化しながら製品やサービスを練り上げ、他のイノベーターとの協力によって、アフリカのマーケットに挑むこと、これが、活性化するアフリカの再生可能エネルギービジネスへの、最後の「鍵」である。

 2016年7月には、ケニアのナイロビで第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)が開催される。TICADは日本が主導するアフリカの開発をテーマとする首脳級会合を含む国際会議であり、1993年より日本で開催されてきた。第6回はアフリカ諸国の強い要望で、ケニアで開催されることになった。アフリカ諸国は、日本の高い技術やきめ細かい支援を評価しながら、一方でアフリカに対する「本気度」を探っているようにも見える。多くの日本企業が、活性化するアフリカの再生可能エネルギー市場に参入することを期待したい。

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