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CIOへのメッセージ 第14回

成功するIT組織の5つの条件

『情報未来』No.39より

情報戦略コンサルティング本部
アソシエイトパートナー 瀬川 将義

はじめに

 IT及びIT組織の意義は理解されにくいことが多い。自信を持って「経営や事業に十分貢献している」と言いきれるIT組織は多くはないのではないだろうか。ITはコストとしてとらえられることが多く、専門性も高いため、経営層・ユーザ部門からは経営や事業に対する貢献は見えにくいものである。

 当社と株式会社クニエが共同で実施した「IT組織の成功要因に関する調査」(2012年11月)の結果からも、「経営や事業に対して十分貢献している」としている企業(以下、先進企業)は、43・4%となっており、半数以上の企業は経営に十分貢献しているとは認識できていない。

 先進企業とそうでない企業(以下、途上企業)は何が違うのだろうか。先進企業になるための条件とは何であろうか。

 本稿では、「IT組織の成功要因に関する調査」で判明した先進企業と途上企業の違いから、「先進企業」=「成功するIT組織」の条件を、「IT組織の要員配置のあり方」と「マネジメントのあり方」の2つの側面から述べていきたい。

成功するIT組織の5つの条件

■IT組織の要員配置のあり方

条件①:自社のIT組織に要員を十分に配置している
 昨今のアウトソーシング化の進展、ITコスト削減、新規IT投資の減少という状況下で、IT組織を縮小させた企業も多いと思われるが、先進企業ではある程度の規模のIT組織を維持しているようである。

 前述の調査によると、IT投資額1億円当たりのIT要員配置数は、先進企業では7.48人と、途上企業の5.85人に比べて明らかに多くなっている。(図表1)

図表1:先進企業と途上企業のIT人材配置モデルの違い

図表1:先進企業と途上企業のIT人材配置モデルの違い

出所:NTTデータ経営研究所、クニエにて実施した
「IT組織の成功要因に関する調査」(2012年11月)

 ITが経営・事業に貢献するために必要なことは、経営・事業戦略と整合性が取れていることである。よくある例として、IT戦略立案・システム企画段階では、整合が取れていたが、その具体化(システム開発)段階において、当初の戦略と乖離してしまったというケースも少なくない。システム開発段階においても常に当初の戦略と整合を取り続けるためには、そのミッションを持つ自社要員が相応数必要となってくるであろう。

条件②:システム開発にも主体的に関与している
 機能別要員配置を見てみると、特に、システム開発機能においては、先進企業は途上企業の約1.5倍の要員を配置しており(図表1)、システム開発にも主体的に関与しているように見受けられる。システム開発に主体的に関与することで、IT戦略・システム企画で策定した目的・目標を達成すべくマネジメント(業務改革やシステム仕様管理など)を十分に行えているのではないかと推察される。同時に、自社内にシステム、業務に関する知識・ノウハウを留保できるため、さらにマネジメントがうまくいくという良いスパイラルになっているのではないだろうか。

条件③:IT戦略、ITマネジメントには、優秀な人材を十分に配置している
 機能別の要員について、質の面から見てみると、先進企業の特徴としてあげられるのが、IT戦略、ITマネジメントの要員の質が充足していることである。(図表2)

図表2:IT組織のIT要員の充足度(質と量)

図表2:IT組織のIT要員の充足度(質と量)

出所:NTTデータ経営研究所、クニエにて実施した「IT組織の成功要因に関する調査」(2012年11月)

 これらの機能は、個々の企業の戦略や環境に大きく影響を受けるため、アウトソーシングには不向きである。また、社内でも方法論やノウハウといったナレッジの可視化・共有も進んでいないことが多く、個人の質に依存することが多い。

 また、これらの機能は、少数精鋭というイメージが強いが、量の面でも充足できていることが先進企業の特徴となっている。特に、IT戦略機能においては、顕著である。(図表2)

 昨今では、ITの役割が拡大しているため、しっかりとしたIT戦略が求められるようになってきている。さらに、IT戦略のインプットとなる自社の経営環境・戦略やIT動向の変化のスピードが速いため、短期サイクルでのローリングも必要となるなど、スピーディな対応が求められる状況になっていることが量的な充実も必要とされる理由と推察される。

■マネジメントのあり方

条件④:計画(ミッション、目標等)を明確に定義しているだけでなく、成果を評価し、改善につなげている
 「IT部門のミッション明確化」、「IT投資判断基準の明確化」、「IT要員の現状(量、スキル)と課題の把握」、「求めるIT要員像の明確化」といった計画の明確化は、先進企業、途上企業ともに多くの企業が当たり前のこととして取り組んでいるようである。

 先進企業に見られる特徴は、「継続的なIT投資効果の測定/評価」、「IT部門ミッション達成度の測定/評価」、「ユーザ/顧客満足度の測定/評価と改善」などのように、成果の評価を行い、改善につなげていることである。(図表3)

図表3:IT組織強化施策の実施状況

図表3:IT組織強化施策の実施状況

出所:NTTデータ経営研究所、クニエにて実施した「IT組織の成功要因に関する調査」(2012年11月)

 計画をしっかり策定して、確実に実行し、その成果を測定、改善するというPlan-Do-Seeサイクルを絵に描いた餅にさせないためには、仕組みの導入などにより、強制力を持たせることが重要である。

条件⑤:人材育成に力を入れている
 先進企業では、人材育成に関する取組の実施率が高い。特に、注目すべき点は、「メンタリングや社内コミュニティによる育成」、「業務部門、関連会社間ローテーション」のように、単なる研修やIT組織内でのOJTのみではない、双方向でのナレッジの共有、幅広い経験の場の提供といった育成施策を実施している点である。(図表3)

 ユーザ企業のIT人材の課題としてよく耳にするものには以下のようなものがある。

●自社の業務知識が乏しい(現場の実情を踏まえた課題の理解力、原因把握力)
●ITに関する知識はあるものの、システム開発(上流工程含む)の経験が浅い

 これらは、いずれも経験不足という問題である。そのためには、経験することが最も有効であることは言うまでもない。また、ローテーションにより人的なつながりもできることもメリットである。ただし、全員をローテーションして育てるには時間がかかりすぎるため、「メンタリングや社内コミュニティによる育成」により、ノウハウをお互いに共有しあうことも必要である。

 さらに、業務部門や関連会社からのIT組織への人の受け入れなども、IT組織の知識・ノウハウ補てん、人脈形成に有効である。

IT組織強化に向けて短期的に取り組める施策

 以上、「IT組織の成功要因に関する調査」の結果から、成功するIT組織の条件を述べてきたが、特に、要員配置に関するものは、量・質ともに、解決すべき課題ではあるが、短期的に解決することは難しい。短期的に取り組め、IT組織強化施策として有効と考えられるものとしては以下のようなものがある。

●ノウハウ等ナレッジの形式知化(蓄積)と共有
 ナレッジの形式知化・蓄積を行うことにより、人材育成の土台を作ることができる。

●IT戦略、ITマネジメントのプロセス標準化
 IT戦略、ITマネジメントの質を向上させるためには、現在、属人化しているスキルをプロセスとして可視化・標準化することで、人による質の差を埋めること(底上げ)ができる。プロセスを標準化するためには、ナレッジの形式知化(蓄積)を行っておくことが必要である。

●外部リソースの有効活用
 ナレッジの形式知化、プロセスの標準化は、必要であると認識していても、取り組むにはノウハウと労力がかかる。このような取り組みには、コンサルタント等の外部リソースを有効活用することも望ましい。

 また、IT戦略立案においても、IT動向の調査や、戦略策定のためのフレームワークや考え方などは、コンサルタントの支援を受けることも有効であると思われる。

 ただし、長期的パートナーシップを結ぶなどといった方針でない限り、オーナーシップは自社で持ち、自社のIT要員の育成、プロセスの成熟を図ることは怠ってはならない。

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