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CIOへのメッセージ 第13回

感動で新しい価値を手繰りよせる!

マネージャー 
櫻井 亮
【第1回】 マネジメントすべき3つの観点
【第2回】 IT投資効果の実現を確実にするための方策
【第3回】 CIOを支えるPMO(プログラム・マネジメント・オフィス)の機能
【第4回】 CIOの課題とアセスメントの効用
【第5回】 JISAによる価格の透明性向上のためのアプローチ
【第6回】 IT投資のゆくえ
【第7回】 「グリーンIT」への対処
【第8回】 米国連邦政府の調達方法に見る合理的なIT調達
【第9回】 工事進行基準の導入が及ぼすIT企業への影響
【第10回】 パフォーマンスベース契約によって実現するユーザとベンダの協働関係
【第11回】 CIOのコミュニケーション力とリーダーシップ
【第12回】 閉塞感を打破せよ
【第13回】 感動で新しい価値を手繰りよせる!
『情報未来』No.38より

どうやって次の金塊を見つけるのか

次の金塊を見つけるために参考書籍を読めば、そこにはたくさんヒントが転がっている。目の前の赤い海を捨て、誰も競争していない青い海(ブルーオーシャン)を目指そう。サービスはコモディティ化しているから、経験を価値(経験経済)にしよう。他の成功企業(ビジョナリーカンパニー)もそうやって成功しているのだから。世界はますますフラット化している。大切なのはイノベーションを起こすことだ!と。

しかし。いくら本を読めど目の前に広がるのは果てしない赤い海である。激しいコストダウン前提で寿命を縮めてでも前進せねば即、船が沈没する激しい競争の海である。

一体どうすればいいのか。

われわれは目の前の問題を解決することに集中するだけではなく、新たに問題を「発見する」ことに向かってかじを切らなければならない。ここにこそ、われわれが提唱する「デザイン型人材」を生かすカギがある。

価値の源泉がシフトした時代を生きる

経営の思考スピードが劇的に速まっている。産業革命以降続いた成長は、今やそのルールが変わりつつある。激化した競争の先にある最も過酷なものが価格競争だ。時代は価格を破壊し続ける努力を強いられるどころか、新たな価値を生み出し続けることを常に求められる世界になったことを意味している。モノ作りやサービス提供がコモディティ化したことが明確に裏打ちされる時代に突入し、効率化は必要条件。充分な価値提供のためには新たに別の価値を創造しなければならない。既存の活動から一歩踏み出し、新規の問題、そこに潜む価値を発見することを強烈に意識せざるを得ないという時代だ。

解消すべき問題が複雑すぎて誰もよく分からず、ささいな事象の中に複雑ないくつもの要因が絡まって存在していることも多い。問題に関連するステークホルダーが多すぎる。

これらが問題の発見を難しくしている。

端的には「目前のステークホルダーが発見した問題をいかに早く安く正確に解いていくのか」ではなく「問題かどうかですら分からない状態から多様なステークホルダーとともに、暗中模索しながら問題発見し、なぜそれが起きているのか探求することで解決策を検討する」ことに価値の源泉がシフトしている。

感動を生み出す人たちの言葉

デザイン型人材自体の説明をする前に、感動を基点に仕事をする人たちの言葉を共有したい。

京都の料亭「梁山泊」のオーナー、橋本憲一氏。「ただ、お客さんをあっと言わせたいだけですねん。自分が本当にこだわっている部分を分かってもらえるお客さまは一握り。それでもワシらはそのお客さまに常に驚きと感動を届けたいと思ってやってます」

プロアーティスト、カケラバンク。ボーカルとギター担当の櫻井幹也氏。「僕たちがサラリーマンの皆さんに向かって笑顔でもろ手を挙げて『業界が大変だ、頑張れ!』と歌ってもきっと響かない(※1)。かわいくて若いアイドルならともかく、お前はどうやって生きてきたんだと言われてしまう。旧友と居酒屋で飲んで語って、ただお互いうなずきあうような、そして明日もまた頑張ろうと思えるような、そんな歌を歌いたいと思うんです」

彼らは感動を軸に語る。そして感性と理論を巧みに組み合わせて、サービスやビジネスを緻密にデザインしていく。

橋本さんには培った舌と腕だけを頼りに築き上げた京料理の地図、そして徹底的に「その人」のためを想って感動を設計する仕組みがある。櫻井氏も同様だ。感動への拘り、泣くという指標。曲作りの徹底した理論と提供する経験価値の調和が見事だ。

彼らはわれわれとは違う? ビジネスの話ではない? 本当にまったく縁のない話だろうか。われわれはもっと顧客や社会に対して感動を届ける仕組みを真摯に見習わないといけない。われわれは彼らのような人たちと同様、この産業界で感動を扱うことができる人材こそをデザイン型人材と名付けた。

どんな人材が求められるのか

これまで経営は、必要人材として主に“ギーク”と“スーツ”の2つのタイプで成立してきた。

ギークとはつまり、技術を扱う人そのものだ。スーツとは、管理する人のことだ。経営管理者とも言える。

しかし、この2つの人材タイプのみでは、激変する環境における現在の経営には限界がある。ここにもう一つ新たにバランスを取るために投入したいのが、“デザイン型人材”なのである。

デザイン型人材はすでに世界中で活躍している。一般的にはデザイン思考を活用しビジネス推進する人材である。世界中に多くの事例が存在し、関連書籍も多く出ている。ここでは、主にデザイン思考に関する詳細はそれら書籍に説明を譲る。

デザイン型人材は、社会価値のある革新を基点に活動する人材だ。社会価値とは世の中で潜在的には欲されながらいまだまだ解決していない問題を解決できるような価値である。彼らは企業の中で今の常識を揺るがす触媒となる可能性がある。顕在ニーズの現状分析をして、出せる価値を合わせにいくのではなく、社会やユーザーの潜在的な欲求や希望に焦点をあて、あぶり出すように観察して示唆抽出し、共感できる真実を基点に活動を推進する人材だ。一部企業ではすでにデザイン型人材を活用し、彼らが提示する示唆を基点に技術開発やマーケティングが展開されるほど重要性を帯びている。

デザイン型人材とはまた、こころを扱う人材だとも表現できる。人はなぜそれを買おうと思うのか、背景は何か、動機は何か。人は何にワクワクするのか、感動するのか。その文化的背景やコンテクストは何か。

これらを扱うことができるデザイン型人材を、企業が経営にどう生かすかが注目されている。

※1 カケラバンクには業界が魅力的になるにはどうしたらいいのかの一環として応援するための歌を作って欲しいと依頼をした。
http://www.shin-shakai.com/program.html 別ウィンドウが開きます

もたらされる効果と恩恵

経営にとって何がうれしいのか。欲することを待っていても相手から出てこない現状で、デザイン型人材が活躍することで、潜在的な問題を可視化し、問題を特定し、課題解決に導くための道筋を提示することにつながる。顧客はエンドユーザーの真意を知るかもしれない。実践企業の声として「われわれは顧客のことを全然考えていなかったのかもしれない」という言葉も多い。観察をベースに共感点を探り、感動を基点に提供したい新たな経験をデザインしていくと、実際には自分たちが実は何も分かっていないことを実感する。

環境次第ではステークホルダーを巻き込み、多様な観点での対話で新たな価値を生み出せる可能性がある。何から手をつけるべきかさっぱり分からなかった問題に対し、参加者全員が明確にすべきことを共有できることもある。

当たり前だと思っていたことや、当たり前すぎて忘れていたことを再認識することが重要だ。

デザイン型人材は何を行うのか

私たちは現在、慶応義塾大学とコンソーシアム(※2)を実践しており、その中で企業におけるデザイン型人材を現時点で次のようにまとめている。

【OBSERVATION】

一つ目の要素は観察だ。観察を元にした示唆の抽出とも言える。ここで重要なのは、背景をふまえて文脈を捉えられる能力だ。抱えている問題、場合によっては問題だとすら思っていないような煩わしい点を見つけて共感できる能力が求められる。また「察する」ために「観る」という視点も大切で「多様」な人たちで観察することも有効だとされる。

【IDEATION】

二つ目は発想だ。観察から得られた示唆をしっかりと解決にひもづけていく。解くべき課題として認識し、定義し、解決するためのアイデアをあらゆる制約を外して発想する。ここでは制約をいかに外すことができるか、今までに考えつかなかった組み合わせやアイデアそのものをいかに生み出せるのかが重要な要素となる。あらゆることを絡めて今までにない着想を顕在化させようとする。

【FABRICATION】

三つ目は工作・制作だ。アイデアをカタチにするのに時間とお金がかかるという常識的発想は危険だ。三分でできる簡単なスケッチを書くだけでも立派な可視化手段である。この領域で重要なのは頭の中にある漠然とした考え、イメージ、構想をいかに伝えたい相手に対して具体的に伝えられるか、そこまで形を作ることができるかだ。

【FACILITATION】

デザインと一見関係のない領域に見えるが、私の見解では前記の三要素をつなぎ、新しい価値に迫る道筋をつけるため、まさに場をデザインすることだ。参加型デザインと呼ばれる領域でもあるが、ステークホルダーを巻き込み同じ方向を向いて課題解決していく雰囲気、議論の場においてできるだけ上下や力関係を意識しない雰囲気作りが重要である。

これらの要素を巧みに組み合わせて新しい価値を創る。創るものがいかに対象としている人たちの感動を生むかを考えて推進していく。

※2 ソーシャル・ファブリケーション・コンソーシアム
http://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ja/consortium/socialfab.html 別ウィンドウが開きます

みんなで船を出そう

問題解決から問題発見へ、活躍できる人材タイプが変わった。新しいチーズがいずこにあるのかを探せる人材が必要だ。これを、四象限で表すと図表1のようになる。

図表1:プロセスとゴールのマトリクス
図
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

一番残念なのは、霧だ。プロセスもゴールも不明確。まさに五里霧中。もがくようにして動き回らなければならない。逆に最も分かり易いのは、パズルだ。SUDOKUを思い浮かべよう。プロセスやルールが明確に決まっている。そして、ゴールも決まっている。ただ、単純にやるだけだ。

できるだけ霧を無くし、経営上はSUDOKUを解く案分を増やしたい。しかし、SUDOKUだけを解いていたら、価値は広がらない。今、意識したいのが、航海とスポーツの領域だ。目的に向け過程を楽しみながら実践する領域、プロセスは明確で結果が分からない領域の投資を続けていただきたい。そのための環境を用意して欲しいのである。船を出してチーズを見つけに行くための仲間を集めるのは、既存に評価されている人材と種類、目的が違う。間違っても、航海に出るべき人材に港を創らせないようにしたい。

新しいチーズを求めて出航するデザイン型人材の存在をいかに活用するかが企業価値を高める動きとなるはずだ。待っていても持っているチーズは増えない。発見するために出航すべきなのだ。

【第1回】 マネジメントすべき3つの観点
【第2回】 IT投資効果の実現を確実にするための方策
【第3回】 CIOを支えるPMO(プログラム・マネジメント・オフィス)の機能
【第4回】 CIOの課題とアセスメントの効用
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【第7回】 「グリーンIT」への対処
【第8回】 米国連邦政府の調達方法に見る合理的なIT調達
【第9回】 工事進行基準の導入が及ぼすIT企業への影響
【第10回】 パフォーマンスベース契約によって実現するユーザとベンダの協働関係
【第11回】 CIOのコミュニケーション力とリーダーシップ
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【第13回】 感動で新しい価値を手繰りよせる!
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