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グローバルHR 第1回

日系グローバル企業に求められる本社の国際化

マネージャー 金井 恭太郎
コンサルタント 秋野 良太
『情報未来』No.38より

はじめに

クロスボーダーM&Aの加速、海外拠点の現地化の流れに伴い、日系グローバル企業の日本本社は、海外グループ会社のマネジメント層をマネジメントできる人材を量的に確保する必要に迫られている。そのためには、日本人グローバル人材の育成はもちろん、外国籍人材の採用・活用も必須であり、日本本社の国際化(外国籍人材と日本語以外で働ける環境を構築すること)を推進する必要がある。

当社産業コンサルティング本部HRグループは、海外拠点1箇所以上、従業員数20名以上の企業に勤める社員1115人を対象に「本社の国際化に関する意識調査」を実施した(2012年5月にNTTレゾナント株式会社との共同調査を実施)。本稿では、本調査結果を中心に企業の国際化の実態と社員の意識を明らかにし、日系グローバル企業の今後のあり方について検討する。

日系グローバル企業の本社の国際化の実態

遅れる日系グローバル企業の国際化

本調査では、当社にて定義した国際化施策27項目(図表2・項目参照)について、実施しているかどうかを尋ね、その割合を実施率(※1)として分析した。実施率は、日系グローバル企業では20.7%、外資系日本法人では49.9%である。全体として日系グローバル企業は外資系日本法人と比べて、国際化の度合いが低いことが分かる。

国際化施策実施率に影響を与える変数を分析すると、海外売上高比率、従業員規模の与える影響が大きいことが見えてきた。日系グローバル企業の国際化施策実施率は、図表1に示すように海外売上高比率では10%、従業員規模では1000名を超えるタイミングで最も大きく上昇する。比較的実施率の高い、海外売上高比率10%以上かつ従業員規模1000名以上の日系グローバル企業のみを対象としても、平均実施率は33.3%と外資系日本法人の49.9%を依然として下回る。

図表1:海外売上高比率別・従業員規模別にみた日系グローバル企業の国際化施策実施率の分布
グラフ
出所:「本社の国際化に関する意識調査」(2012年7月)NTTデータ経営研究所/gooリサーチ

個別施策単位で比較しても、外国籍人材の採用(日本への留学生・海外の大学生)を除いたすべての項目について、外資系日本法人に比べて実施率が低い(図表2)。また、「グローバルでの異動の仕組み」の実施率についても、海外売上高比率10%以上かつ従業員規模1000名以上の日系グローバル企業は40.4%であり、外資系日本法人の44.8%を下回る。日系グローバル企業が採用セミナーの場で、“当社はグローバルのヘッドクォーターであるため、海外で活躍する機会が豊富”とアピールするのを耳にすることがある。しかし、実態はグローバルでの異動の仕組みという面では外資系日本法人に比べて遅れている。

図表2:日系グローバル企業・外資系日本法人の項目別国際化施策実施率
表
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

業態別に国際化施策の実施度合い(全体に占める着手できている企業の割合)をみると、実施度合いの高い業態は、製造業、金属・鉱業(70.9%)、卸売業(70.7%)、建設業・インフラ(70.3%)である。これらはいずれも比較的早い時期から海外進出をしてきた業態である。企業の国際化は、着手から効果を発揮するまでに時間がかかる。特に、ソフト(採用・異動、人材育成、組織文化)は、個人の価値観が影響するため、ハード(組織・戦略、人事制度・システム)と比較して時間がかかる。国際化にはハード・ソフトの両面が必要となるため、効果を発揮するまでの時間軸を意識した着手・実施が必要となる。

上位職ほど、短期での必要性を認識

日系グローバル企業に所属する社員の自社企業の国際化施策実施への必要性認識を、役職別に分析した。その結果、短期的(3年以内)または中期的(5年以内)に必要だと回答した割合は、一般社員クラス28.2%、係長・主任クラス45.2%、課長クラス48.2%、部長・役員クラス55.9%となった。広い視点で組織の方向性を検討する立場(マネジメント職)ほど、国際化施策実施への必要性を強く感じている。一方、一般社員クラスの必要性認識は低くなっており、役職間での認識にギャップが存在する。上位職が感じているほど、一般社員は危機感、切迫感を持ってグローバル化の必要性を捉えていない。この認識のギャップは、本社の国際化が遅れる要因の一つになっている可能性がある。国際化施策に着手する際は、この役職間の認識のギャップへの留意が必要である。

優秀なグローバル人材は国際化した環境を好む可能性

日系グローバル企業に所属する社員にグローバル人材(社内外の外国籍人材と日本語以外の言語でビジネスを遂行できる人材)としてのキャリア志向について尋ねたところ、考えている28.7%、どちらでもない35.8%、考えていない35.5%であった。他方、外資系日本法人に所属する社員の同割合をみると、考えている57.3%、どちらでもない27.1%、考えていない15.6%であった。日系グローバル企業は外資系日本法人に比べてグローバルでのキャリアを志向する社員が少ない(図表3)。

図表3:グローバル人材としてのキャリアアップへの志向
グラフ
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

その要因の一つに、日系グローバル企業がグローバル人材として成長する環境を社員に提供できていないことが考えられる。日系グローバル企業、外資系日本法人にグローバルキャリアを構築する上での自社環境の適合性を聞いたところ、日系グローバル企業では「望ましい」が18.5%だったのに対し、外資系日本法人では50.0%であった。グローバルでのキャリアを構築したいと考えている人にとって、日系グローバル企業の環境は魅力的に映っておらず、外資系日本法人への人材流出が起きている可能性がある(図表4)。

図表4:グローバル人材としてのキャリアを構築する上での自社の適合性
グラフ
出所:NTTデータ経営研究所にて作成
※1 実施率(%)=100×(回答者当たりの平均実施項目数)÷(全項目数27)

本社の国際化に向けた日系グローバル企業の課題と方向性

暗黙知的なルールと形式知的なシステムの不整合

「本社の国際化に関する意識調査」からは、日系グローバル企業の本社国際化が難航している実態が見えてくる。背景にある課題を、多国籍企業30社に対する自主調査・グローバル人事に関するコンサルティング経験を元に考察する。

多くの日系グローバル企業の課題は、同質性の高い環境を構築し、暗黙知的なルールを重視したマネジメントを行っているにも関わらず、形式知的なシステムがそれをサポートしていない点にある。例えば、重要な意思決定が暗黙知的なルールである根回しで決まる企業においても、形式知的なシステムとして会議体は設定されている。形式知的なシステムとしての会議体は、明示的には討議・意思決定の場として位置付けられているが、実態としては儀式的な確認の場に過ぎない場合が多い。

人事システムについても、人事制度(形式的なシステム)と、人事運用(暗黙知的なルール)が整合しない運用が行われている傾向がある。例えば、1990年代の成果主義ブームの際、多くの企業が「人材が優秀であれば登用する」という考え方から、「ポジションに対して人材を登用する」という考え方に人事制度を移行した。しかし、運用面は部長のポジションがなくなっても社員の降格は行わず、新たな部長クラスのポジションを無理にでも設置しているケースがほとんどであった。その要因は、人事制度というハード面の移行を重視し、それを運用する人の意識の変革が後手に回ったことにある。

前記に代表される形式知的なシステムと暗黙知的なルールが整合しない複雑なシステムは、長く勤務した同質化した社員以外には極めて分かりにくい。そのため、外国籍人材という異なる背景を持った人材が入社した際は、その分かりにくさがフラストレーションとなり、成果を発揮できず、早期に流出する結果となる可能性がある。

自社の意思決定や行動の基軸を定める

形式知的なシステムが暗黙知的なルールをサポートする状況を構築するためには、基準となる自社の意思決定や行動の基軸が重要となる。例えば、根回し(暗黙知的なルール)は合議を重視した手法であり、ボトムアップのリーダーシップスタイル(意思決定や行動の基軸)と整合する。ボトムアップのリーダーシップスタイルは、リスクをとって方向性を示すことより、現場マネジメントを育て、権限を委譲し、自律的な活動を促すことに力点が置かれる。このように、自社の意思決定や行動の基軸を明らかにした上で、必要であれば構築し直すことが必要になる。

日本企業は製造現場を始め、現場の行動規範を整えるのは得意としてきたが、マネジメントの意思決定や行動の基軸を構築することは苦手とする傾向がある。一方、欧米系グローバル企業では意思決定や行動の基軸である共有価値やリーダーシップスタイルをグローバルで共通化することで同質性の高い環境を構築し、効果的な経営を実現している例が多く見られる。共有価値やリーダーシップスタイルをグローバルに浸透させるために、繰り返し伝達するだけではなく、評価制度との連動や組織診断による定点観測等の形式知的なシステムを活用している。欧米系グローバル企業でも、日本企業と同様に暗黙知的なルールは存在するが、形式知的なシステムがそれをサポートしている。

日系グローバル企業でも、暗黙知的なルールが形成された同質性の高い環境であっても、意思決定や行動の基軸を明らかにし、形式知的なシステムによりサポートされている状況が構築されれば、新たに入社する人材は早期の立ち上がりが可能になる。また、意思決定や行動の基軸に合う人材が集まってくるため、その範囲の中では多様な人材の活用が可能になる。本社を国際化していくことの本質は、外国籍人材という多様な背景を有する人材と協業することにある。しかし、無条件に多様な人材を同じベクトルにまとめ上げることはほぼ不可能であり、求心力のある基軸が必須となる。

日系グローバル企業は徐々に、グローバル共通のプラットフォーム構築に着手し、外国籍人材を積極的に採用しているが、本社の国際化の事例としてベストプラクティスと呼べるものは少ない。その要因は、自社の暗黙知的なルールの背景にある意思決定や行動の基軸を踏まえずに、グローバル共通の等級制度等の枠組みのみを先行して導入していることにあるのではないか。日系グローバル企業が国際化を成功に導く上で鍵となるのは、自社の共通の意思決定や行動の基軸を定めることにある。それは、方法論としては欧米企業に学びつつも、中身は日本発でグローバルに魅力的な基軸を作り上げるべきである。

さらに詳しい調査(分析結果)は、当社Webサイト http://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/120723/index.html をご覧ください。
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