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中国市場におけるECビジネス取り組みへの示唆

~「経済産業省 電子商取引レポート2011」を読み解くことを中心に

シニアマネージャー 内田 智英
『情報未来』No.38より

はじめに

中国EC(電子商取引)市場の規模拡大を伝えるニュースとともに、昨今、日本企業による中国でのECビジネス展開について、苦戦を強いられているというような記事を目にする機会が増えている。

“中国市場 ネット通販、壁厚く 楽天、ヤフー相次ぎ撤退(※1)

“楽天、中国ECから撤退、来月末、過当競争で採算悪化(※2)。”

当社ではこれまで、過去数年来「電子商取引に関する市場調査(経済産業省)」を通じ、日本および海外のEC市場動向、消費者動向についての調査や、実際に国内・海外でECビジネスを展開されているさまざまな事業者の方々と意見交換をさせて頂く中で、いかに中国のEC市場が魅力的で、また、いかに中国でのECビジネスの展開が難しいのかを感じさせて頂く機会が多くあった。

成長を続ける中国のEC市場とはどのような市場なのか、また、そのような市場で成功を勝ち取るために日本企業はどのような取り組みをしていくべきなのか、今、改めて考察したい。

中国市場でECビジネス展開を模索されている/これから展開を考えられている皆さまへの一助となれば幸いである。

※1 2012/04/25 産経新聞
※2 2012/04/23 日経産業新聞

中国のEC市場概要

要旨

中国のインターネットユーザー数は5億人を超え、それに伴いEC市場も急速なスピードで拡大し、消費者向けEC市場は10兆円規模に成長しつつあり、市場の大きさ・伸びの両面からみて、中国のEC市場は魅力的な市場に見える。

また、中国のEC市場はもはやPCのみならず、携帯・スマホなどを活用したモバイルEC市場が急速に立ち上がりつつあり、今後の主戦場はモバイルECに移っていくものと想定できる。

詳細

■ 中国のインターネット利用者数は5億人超(※3)

中国のインターネットユーザー数は2011年末時点で既に5億1310万人に到達。また、人口に占めるインターネット利用率も年々増加し、2011年末現在のインターネット利用率は38.3%となった。また、モバイル端末によるインターネットユーザー数は3億5558万人に達しており、モバイル端末によるインターネット利用が既に定着化しつつあると言える。

■ 中国のEC市場規模は7736億人民元(約9.7兆円(※4)

iResearchの調査結果によれば、2011年の中国の消費者向けEC市場規模は7736億人民元(約9.7兆円)に到達しており、同国の社会消費財小売総額の4.3%を占めるまでに至っている。

また、2015年時点においては、約2兆5510億人民元(約31.9兆円)の市場規模にまで拡大するものとも予測されており、日本の消費者向けEC市場規模が約7.8兆円(2010年(※5))であることと比較し、いかに中国のEC市場の規模が大きく、また成長のスピードが速いかがうかがえる。

■ 携帯電話ユーザー数が10億人超(※6)スマホユーザーの急速な立ち上がりとともにモバイルEC市場も急速に拡大

中国工業情報化部の発表によれば2012年2月時点において、中国における携帯電話契約者数が10億692万件に達しており、10億件の大台を超えた。また、iResearchの調査によれば、2011年時点でのスマートフォン出荷台数は7210万台、2015年時点ではスマートフォンの出荷台数は約2.6億台にまで拡大すると予測されている(※7)。なお、IDCJapanの調査によれば、2011年の国内のスマートフォン出荷台数は2010万台、2016年には3699万台になるものと予測されており(※8)、中国市場における、スマートフォンの普及がいかに急速に進んでいくかがうかがえる。

また、中国におけるモバイルEC市場規模については、09年時点には5.3億人民元規模であったものが、12年には350億人民元(4375億円)規模にまで成長するものと見込まれている(※9)

※3 CNNIC 中国互联网络发展状况统计报告 2012/1
※4 iResearch 2012/5/18
※5 経済産業省電子商取引レポート2011(p.52)
※6 中国工業情報化部 2012年2月通信业运行状况
※7 iResearch 2010-2015中国知能手机市场出货量规模
※8 IDC Japan国内スマートフォン出荷台数予測 2010年~2016年
※9 iResearch 2010年中国移动电子商务市场研究报告

中国EC市場における消費者像

要旨

中国の消費者がECで買い求める商品のジャンルについては、日本を含めた他国とさほど大きな違いは見受けられない。(衣料・アクセサリー、雑誌・書籍類等がECでの購入上位品目)

一方、消費者の購買行動については、日本や他国の消費者とは異なる特徴が何点かあり、中国でECビジネスを展開する事業者においては、それらの特徴を踏まえた上でマーケティング・プロモーション戦略の策定・実行や、フルフィルメント機能の整備が必要とされる。

主な特徴としては、
【利用端末】PCのみならず、モバイル(携帯・スマホ)でのEC利用割合も比較的高い。

【利用シーン】自宅のみならず、職場・学校でのEC利用割合も比較的高い。(職場で購入し職場で受け取る等)

【情報収集チャネル】さまざまな情報ソースからさまざまな情報を集め、慎重に購入判断を行っている。知人からの紹介、TV広告、インターネット広告、口コミサイト等のみならず、ネットで見た商品を実店舗で確認したのち購入するというパターンも多い。

【収集する情報の内容】収集する情報についても、商品に関する情報のみならず、ECサイト・販売事業者についての情報も収集した上で総合的な判断を行っている。

【EC事業者とのコミュニケーション・交渉】購入時の価格交渉、各種の問い合わせを行うケースも多く、交渉により値引きを引き出すことはもとより、情報収集の一環のコミュニケーション手段の1つとしてEC事業者へ問い合わせ・交渉を行っている。

詳細

■ ECでの購入品目の上位は衣料・アクセサリー、雑誌・書籍(※10)

中国において最もECでの購入経験がある商品は衣料・アクセサリー(72.7%)。次いで雑誌・書籍(61.3%)、食品・飲料・酒類(48.0%)の割合が高い。

■ ECのヘビーユーザーの割合が高い(※11)

ECを月に2~3回以上利用するヘビーユーザーの割合が67.7%と他国と比較し高い。また、1人あたりの年間EC利用額は3000人民元以上~5000人民元未満との回答の割合が最も高く、15.5%。次いで、5000人民元以上~1万人民元未満との回答の割合が14.8%。

■ PCに加えモバイル端末をECに積極的に活用(※12)

ECを利用する際の端末として最も割合が高いのはパソコン(91.1%)。次いで、割合が高い端末はスマートフォン(34.3%)、携帯電話・PHS(23.1%)との回答である。日本の消費者のスマートフォンでの購入経験割合は3.8%、米国の12.1%と比較し、中国の消費者のECへのスマートフォンの活用度が高い傾向にある。

■ 自宅以外では職場・学校でのEC利用割合も高い(※13)

EC利用場所については、自宅で夜という割合が最も高い(70.8%)ものの、中国の消費者は職場・学校でのEC利用割合も高い(37.7%)という点が特徴的である。職場での休憩時間帯等にECを利用し、職場で商品を受け取るというようなケースもあるとのことである。

■ 情報収集に積極的。実店舗で商品を確認してからECで買うというパターンも多い(※14)

情報収集・比較検討をする際に重視している情報源としては、知人からの紹介(対面、電話、メール等)が最も高い(38.3%)が、その他の情報源も幅広く活用しているという点が他国と比較し違いがある大きな特徴である(TV広告35.1%、インターネット広告34.4%、口コミサイト33.6%等)。また、購買に至る過程において、ネットで見た商品を店舗で確認してECで購入というパターンを取るケースも多い(25.4%)。

また、収集する情報の内容については、商品・サービスの情報のみならず、ECサイト・販売事業者についての情報も参考としている(※15)

■ 問い合わせ経験が多く、問い合わせ内容も多岐にわたる(※16)

過去1年の間にEC事業者への問い合わせ経験があるとの回答者は中国のEC利用者においては96.9%にものぼる。また、問い合わせ内容については商品機能についてが最も高い(58.0%)が、その他の項目(商品の規格/仕様、アフターサービス、商品価格、商品の真贋、在庫・納期等)についても軒並み高く、問い合わせの手段としてはチャット利用が圧倒的に多い(77.9%)。

■ 価格交渉経験が豊富(※17)

中国のEC利用者においては、過去1年間にEC利用時に価格交渉をしたことがあると回答をした消費者の割合が高く(64.3%)、また頻度についてもEC利用時には「必ず行う」と「大抵行う」の回答を合わせると5割超にものぼる。

また、価格交渉時間に活用するツールとしてはチャットツールとの回答が圧倒的に多く(88.1%)ECを利用する際にはチャットで交渉をしながらというスタイルが一般的な形であると言える。その一方で、仮に価格交渉を行った場合において、交渉の結果、価格が下がらなくとも購入するとの回答も39.5%にものぼる。

中国の消費者は、商品やEC事業者についてさまざまな情報ソースから情報を集めつつ、EC事業者に対する問い合わせや価格交渉などを通じて、その商品や事業者が信頼に足りうるのか見極めを行い、商品を購入するというようなプロセスを踏んでいるのではないかと推察される。つまり、価格交渉も情報収集手段・コミュニケーション手段の1つと考えているのではないだろうか。

■ トラブル遭遇経験も多く、返品経験も多い(※18)

中国のEC利用者における過去1年間のトラブル遭遇経験は61.3%と他国と比較し高い。遭遇トラブルの内容は、商品の配送/サービスの提供が遅れたとの回答が最も高く(23.3%)、次いで、購入した商品が不良品・偽物であった/サービスに不備があった、梱包が変形・破損していたとの回答が続く。なお、中国においてはトラブルに遭遇した場合、そのうち5~7割程度はクレームにつながる。

また、過去1年間の返品経験については、35.4%が経験ありとの回答であり、日本(19.5%)と比較し高い割合である。

※10 経済産業省電子商取引レポート2011(p.176)
※11 経済産業省電子商取引レポート2011(p.182~185)
※12 経済産業省電子商取引レポート2011(p.187)
※13 経済産業省電子商取引レポート2011(p.188)
※14 経済産業省電子商取引レポート2011(p.190,p.200)
※15 経済産業省電子商取引レポート2011(p.201)
※16 経済産業省電子商取引レポート2011(p.216~p.218)
※17 経済産業省電子商取引レポート2011(p.206~p.209)
※18 経済産業省電子商取引レポート2011(p.218~p.224)

中国EC市場への参入スキームと課題

■ 中国EC市場への参入スキームとしては、主に5つの形態がある(※19)
図表1:中国EC市場への主要参入スキーム
出所:経済産業省電子商取引レポート2011を元にNTTデータ経営研究所にて作成

中国のEC市場に参入するにあたっては、日本側/中国側のどちらのECサーバを使用するか、また、他社のプラットフォームを利用するか/自社独立したECサイトを構築するかにより、大きくは5つの形態があり、複数のスキームを複合し中国市場への展開を図っている事例が存在する。(図表1)

■ それぞれのスキームにより、メリットデメリットがある

中国向け国内ECプラットフォームの利用は手軽な反面、コスト高やノウハウ蓄積を阻害する可能性がある。また、独立サイト型(日本側/中国側)は、プラットフォーム利用に比して、自社サイトへの集客が難しい可能性がある。また、日本側サーバのスキームでは、サイト遮断リスクや表示速度の遅さなどの課題があることが上がっている。

また、物流面について、在庫をどこで持つのか?ということについても2つの考え方があるが、日本側に在庫を持つスキームでは、送料が高額になる上、配送リードタイムの長期化、通関による遅延リスクの存在などが挙げられる。

さらには、実店舗を既に中国にて展開している企業においては、実店舗の物流を含めた形でいかにして最適化を図っていくかということも大きな課題となっている。

※19 経済産業省電子商取引レポート2011(p.246)

中国でのECビジネス展開への示唆

図表2:都市別のインターネット利用者数推計と一人あたり可処分所得
出所:CNNIC 中国互联网络发展状况统计报告2012/1及び蒼蒼社2011年版中国情報ハンドブックよりNTTデータ経営研究所にて推計
■ ターゲッティング

まず、はじめに、自社のターゲットが誰なのかを明確に定める必要がある。例えば、中国人をメインターゲットとするのか、中国に住んでいる日本人をメインターゲットと捉えるのかで、そもそものターゲットのボリュームは大きく異なり(中国の在留邦人は約13万人に過ぎない(※20))、用意すべき商品ラインナップ、プロモーション手段、サービス内容・レベル(顧客対応、物流等)、価格帯等は大きく異なる。

中国人をメインターゲットに据えた場合、“人口が日本の10倍もいる”、“裕福層だけでもxx万人いる”という数的なボリュームは確かに魅力的に聞こえるかも知れないが、ひとくくりに「中国」と捉えることはあまり意味を持たない。国土の面積は日本の25倍もの広さがあり、また、地域により経済状況や各種のインフラ(通信、物流等)の整備状況は大きく異なる。また、商品に対する嗜好性がエリアにより異なるケースも当然ながらある。

図表3:衣料品購入者の年齢×性別比較
拡大
出所:経済産業省電子商取引レポート2011(p.177)を元にNTTデータ経営研究所にて作成

中国のどのようなセグメントの消費者にフォーカスして、自社の商品を訴求していくのかを明らかにすることが最初のステップとなる。(図表2・図表3)

■ ポジショニング

中国市場は大きく、競争すべき相手の数も多い。さらに中国市場の特徴的なこととしては、模倣品・偽物が市場に多く流通しており、そればかりか、本家に先んじて商標登録が行われているというようなことさえもまかり通っているということが実態である。模倣品・偽物についても、最近はパッケージデザイン、梱包方法のみならず、商品そのものについても、一見して本物と判別がつきにくいようなものも市場には溢れている。また、巨大モールにおいて自社の本物の商品が安価に売られているというようなこともあり、そのような環境の中で戦っていくのである。

このような市場において、自社をどのようなポジションに置くのかは競争を勝ち抜く上で極めて重要である。商品・サービスが提供する価値そのものにフォーカスするのか(品質・専門性、コスト、利便性、個別性等)、マーケットの領域を絞り込みその領域でNo.1/Only1を目指すのか(ニッチ)、ブランド(顧客の心に生み出す差異)の開発にフォーカスするのか、顧客とのリレーションシップの構築・維持にフォーカスするのか等。自社の強みがどこにあるのか、さらには他社の弱みが何なのか、について焦点をあて自社のポジショニングを今一度、明確に定めることが必要である。

■ マーケティングミックス

ターゲット、ポジショニングを設定した上で、訴求していく商品を定めることとなる。この際に、重要なポイントはMade in Japan/Made by Japanの商品ならば、どのようなものでも受け入れられるということではないということである。“日本製品”に対して信頼を寄せる中国消費者は確かに存在している。しかしながら、それは、既にブランドが構築された企業・商品に限られる。日本市場で“それなりに認知されている、地位を築き上げている、実績をあげている”というようなことは、前述したとおりの中国のような市場環境においてはあまり意味を持たない。信頼に足る事業者であると認知され、付加価値が高く、ブランドが確立されており、模倣品で満足できないからこそ一定の価格帯でも受け入れられるのであって、認知されておらず、ブランドも確立されておらず、差別化ができないような商品ならば、中国企業の類似商品の圧倒的な価格差により太刀打ちできず、認知される以前に埋没し、市場からの撤退に追い込まれることとなる。

ターゲットの設定、投入していく商品についての考え方を定めた上で、ではそれを消費者にどのように訴求し、顧客を獲得、拡大していくかシナリオを定める必要がある。プロモーションに多大なる費用を投入したものの、十分な効果を得られることなく、ターゲット層に認知される以前に市場からの撤退に追い込まれてしまう企業も多く存在している。例えばクリック数に連動した広告を打ったとしても広告単金は日本のそれより安いが、クリックされる数が膨大でありながらも購買にまでは至らない(コンバージョン率が低い)ということで、広告宣伝費を多くかけたわりに効果に結びつかないというような話を耳にすることがよくある。

また、消費者調査の結果でも見られたとおり、例えば中国人EC利用者のEC利用シーン・購買に至る前の行動様式は日本人のそれとは大きく異なる。情報収集するにあたっても、複数のメディアから情報を集め、比較検討し、知人からの紹介を重視しつつ、EC事業者へチャットで価格交渉をしながら問い合わせを行い、EC事業者および商品そのものが信頼できうるものかを見極めながら購買に至る。

また、情報収集から購買に至るまでの1つの行動パターンとして、ネットで見た商品について、実店舗で確認した上でECで購入するという形を取る消費者も多いという点も見逃すことはできない。中国市場において、自社のブランドを構築できていない段階においては、アンテナショップ等の実店舗で訴求・認知度を高めながらECへの展開を図る(O2O2O:Online to Offline & Offline to Online)という形も1つの手段として検討すべきであろう。

また、中国消費者はモバイルの活用度が高く、ECでのモバイル活用にも積極的である傾向がうかがえる。今後、中国市場でEC事業展開を図っていくにあたっては、最初の段階からPC、モバイル(特にスマホ対応)の両構えを前提としたサイト構築を行う必要がある。

さらにどのようなプロモーション手段がどのような効果をもたらしたかということを適時モニタリングし、チューニングを図りながら投資対効果の高いプロモーション施策を打っていくことが必要である。その際に、Web媒体/紙媒体、オンライン店舗/リアル店舗、PC/モバイル、マス/SNS、コンタクトセンター等、マルチチャネルで最適なプロモーション施策を打っていくという考え方が重要となる。

進出形態

中国EC市場への参入スキームとしては、大きくは5つの形態がある。また、あわせて、在庫を日本側で持ったまま都度EMS等で中国消費者に届けるのか/中国側で一定量の在庫を保持し、物流スピード、送料面で中国現地企業に劣らないレベルを目指すのか、方向性を定めることが必要となる。どのやり方が良い/悪いということではなく、どのやり方にもメリット/デメリットがある。それらメリット/デメリットを踏まえつつも、貴社がグローバル市場でどのようなECビジネス展開を図っていくかにより選択するという考え方が必要である。また、参入スキームについては、決して静的な考え方ではなく、自社のステージにあわせて動的に変えていくという考え方や、あるスキームとあるスキームを同時に展開するという考え方も必要である。

例えば、中国市場におけるタオバオ(淘宝)のシェアは圧倒的である。故に、タオバオのプラットフォームは活用しつつも(スキームⅢ、スキームⅣ)、ブランド力をより高めていくための自社独自サイト(スキームⅤ)も展開し、徐々に自社独自サイト側へ誘導していくというような考え方も必要となる。さらには、自社でのEC展開を、中国のみならずグローバル各国で進めていくのであれば、最初の段階においては、各地で市場特性に合わせ、個別にECの仕組みを構築(もしくは他社のプラットフォームサービスを利用)しつつも、市場への浸透状況を踏まえ、徐々に自社独自のグローバル共通プラットフォームへ乗せ変えていくというようなことを指向していくことも考える必要がある。

■ オペレーションの構築

中国でECビジネスを展開していくにあたって必要とされる各種機能をどのように構築し、運用していくか方針を定め実行していくことが必要である。マーケティング・プロモーション、MD、調達・仕入、顧客対応、受注管理、入出荷・在庫管理、配送、請求・入金管理、返品対応等、各機能について、どの機能を自社で対応し、どの機能をパートナー企業へ任せるのか。また、パートナー企業をどのように見つけ、どのようなスキームでパートナー企業とアライアンスをするのかを定める必要がある。

例えば、物流について言えば、物流センターオペレーション、中国全土への宅配、返品対応を1社ですべて担えるような企業はなく、自社で複数の企業を使い分けるか、信頼に足る3PL企業のもとで複数の物流関連企業をコントロールしてもらうかという形になるだろう。宅配についてはエリアによりリードタイムが異なり、また、エリアごと/物流事業者ごとにより、各種の付加価値サービス(貨物追跡、代引き対応、不在時対応等)が異なる。

必要な機能を実現するために誰が何ができる/できないのか、どの程度のサービスレベルが必要でそれを実現できる事業者がどこなのかを見極めながら、パートナーシップ関係を構築できる企業と付き合っていく必要がある。

また、オペレーションの組み立てをECビジネス単体での最適化にとどまらせることなく、実店舗販売、卸売等を含め、自社のサプライチェーン全体をどうしていくかという視点から全体最適化を図っていくという考え方が大切である。中国のサプライヤー工場から日本市場へ投入していくもの、中国サプライヤー工場から中国消費者へ投入していくもの、また、中国工場からそのまま海外市場へと送り込んでいくもの、等、中国でのECビジネスを立ち上げていくことを契機に、これまでの自社のサプライチェーンを大きく見直すということについても考えていくことが必要である。

※20 外務省 海外在留邦人数調査統計 平成23年速報版

おわりに

昨今の中国EC市場での日本企業の苦戦を伝えるニュースがセンセーショナルに取り上げられている。しかしながら、それをもって、「中国でECは成功しない」と考えるのは早計であると考える。今、改めて中国市場を捉えなおし、戦略を見つめなおすことで、成功といわれる事例を1つでも多く積み上げて頂けることに期待したい。当社もその一助を担えれば幸いである。

なお、本稿が公開される前後には、「電子商取引に関する市場調査(経済産業省)2012年」がリリースされているものと思われる。今後、グローバルでのECビジネス展開を図られる皆さまの参考となれば幸いである。

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