欧州におけるコアバンキングシステム共同化状況と日本への示唆
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はじめに
他の国々よりも早く、1990年代に金融危機を経験した日本では、大手、中堅クラスの地方銀行の半数以上を巻き込む形での勘定系システムの共同化が進展している。
2007年の米国サブプライム問題によって表面化した金融危機は、グローバルワイドな金融危機となって先進国経済を混乱に陥れており、長期化の様相を呈している。規制面からもバーゼルⅢの導入により再発防止が図られているため、これらの外部環境が当時の日本と同様に、欧州の大手、中堅クラスの銀行のIT調達行動に対して大きく影響することが想定される。
本稿では、日本、欧州におけるシステム共同化の現状を整理した上で、日本の共同化スキームの特徴を明らかにし、欧州を含めた海外への展開について論じるとともに、欧州における共同スキームから日本の共同化の将来への方向性に関して示唆を抽出することとしたい。
日本におけるシステム共同化の状況
これまでの歴史
日本の銀行システム共同の開始は、第二地方銀行において1970年に開始されたシステムバンキング九州共同センター(SBK)が先駆けである。これに続き、信用金庫業界において1972年に共同化が開始となり(2011年3月時点で271金庫中243金庫が利用)、それ以降、系統金融機関である農協組織がJA共同化を1999年に開始(2011年3月時点で715すべてのJA信連が利用)した。これら創成期の共同化は、比較的小規模の金融機関におけるシステム投資額の抑制と機械化のトレンドへのキャッチアップを目的に進められてきた。
一方で、1990年代後半に日本は大手金融機関の破綻等、金融危機の時代に突入し、都市銀行の再編(13行→4行)が進む中で、地方における資金仲介機能を担う地方銀行は、リレーションシップバンキングが推進される中でドラスティックな再編を免れてきた。この間、地方銀行では、BISⅡ等の規制対応や新たな金融商品への対応に向けたIT投資を行う必要が生じてきたが、新規IT投資案件に対する投資分散効果、開発と運用のアウトソーシングによる劇的なシステム経費削減効果と業務の品質向上を両立すべく、21世紀初頭にかけて複数の共同化スキームが立ち上がった。
本稿では、歴史的な流れを踏まえて、主に中央組織が中心となり小規模金融機関が共同化を推進するスキームを第一世代、それぞれ独立性が高い大手、中堅地方銀行が共同化を推進するスキームを第二世代と呼ぶことにする。
地方銀行による共同化の現状
近年では多くの地方銀行が勘定系システムの開発.運用に関して共同化を推進しており、2011年末時点で、半数以上が共同化システムを利用している。将来移行が決まっている銀行も含めると全体の7割超にのぼる。
このように過半数以上の地方銀行が共同化のユーザーとなり、共同システムは地方銀行にとってシステム調達の一般的な選択肢の一つとなっている。一方で、日本銀行が2009年6月に公表した「金融機関におけるシステム共同化の現状と課題」において、共同システムを利用している銀行の6割が不満を持っていることを述べたうえで、銀行における主体性、開発スピード、人材育成、次期システム検討といった課題を挙げている。つまり、地方銀行の間において定着してきた共同化スキームは、その黎明期から成長期を終え、これまでに発生してきた課題を克服し新たなステージへの展開が求められていることも認識される。そのためには、共同化自体が将来に向けてどのような姿になっていくべきかを議論することが必要な時期に差し掛かっていると考えられるのである。
共同化の種類
地方銀行の共同化にはさまざまな形態があるが、共同スキームの事業主体を軸に分類すると、①銀行主導型、②ベンダー主導型の2類型に分けることができる。銀行主導型は、メガバンクや有力地方銀行が中心となり、自行が利用している勘定系システムを他行へ展開していくものである。一方でベンダー主導型は、ITベンダーが開発した勘定系パッケージを複数の銀行で利用する形態である。他にも、共同化の範囲や深さといった観点でも種類を分けることが可能であるが、本稿では事業主体をベースに考察していくこととしたい。
欧州におけるシステム共同化の調査
調査の概要
本年1月~3月にかけて、当社では欧州におけるシステム共同化の状況を調査した。対象国は、NTTデータグループの主要拠点がある国について現地の協力を得て実施したことから、ドイツ、スイス、イタリアの3カ国となっている。もちろん、他の諸国においても共同化は導入されているものと思われるが、他国への展開は今後の取り組みに譲ることとしたい。
各国の銀行構成
■ ドイツ
図表1に示す通り、ドイツにおける銀行は、民間商業銀行、協同組合、貯蓄銀行(公的金融)、専門銀行の4セクターによって構成されている。このうち、民間商業銀行は、大手銀行4行と地方銀行170行などに分かれ、マーケットに占めるシェアは36%と最大である。次いで貯蓄銀行が31%、信用協同組合が12%と続く。特徴としては、日本では証券会社が行う業務をユニバーサルバンキング方式で銀行が担っているのに加え、州や自治体が出資、保証する公的金融機関のプレゼンスが高いことが挙げられる。
業態名 | 合計 | 民間商業銀行 | 貯蓄銀行G (公的金融G) |
信用協同 組合G |
専門銀行 | |||
普銀 合計 |
大銀行 | 地方 銀行 |
不動産 信用 (民間) |
特別目的 銀行 (公的金融) |
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銀行数 | 1903 | 284 | 4 | 170 | 437 | 1123 | 41 | 18 |
銀行資産規模 (バランスシートの合計) 単位:10億ユーロ |
8,039 | 2887 (36%) |
1951 (24%) |
743 (9%) |
2519 (31%) |
960 (12%) |
759 (9%) |
914 (11%) |
従業員数(人) | 646,650 | 181,900 | 288,350 | 163,300 | 13,100 | |||
平均資産規模 単位:10億ユーロ |
4.2 | 10.3 | 487.7 | 4.3 | 5.7 | 0.8 | 42.1 | 50.7 |
※POSTバンクは、Deutscheに買収されたため、民間商業銀行に含めた。
■ スイス
スイスは国際的な金融センターであり、金融業が全GDPに占める割合は10.7%である(金融関連産業も含めるとスイスのGDPの1/5は金融関連)。金融業は国にとって重要な基幹産業と位置づけられており、特に銀行業はGDPの6.7%を占める有力な産業である。(米国6.3%/日本3%/イタリア2.2%/ドイツ4.6%/フランス5.6%)
図表2に示す通り、民間商業銀行における大手銀行2行がマーケットシェアの半分を占める圧倒的なポジションを築いており、これに州政府銀行が続く形となっている。従って、大手銀行以外は、中小規模の銀行で構成されていると言うことができる。
業態名 | 合計 | 民間商業銀行 | Cantonal Bank 州政府銀行 |
Raiffeisen Banks 信用協同組合 |
その他銀行 | |||
Big Bank |
地銀・ 貯蓄銀行 |
その他 (外資系銀行等) |
Private Banker |
Stock Exchange Bank |
||||
銀行数 | 132 | 2 | 69 | 164 | 24 | 1(350) | 13 | 47 |
銀行資産規模 (バランス シート の合計) 単位: 10億CHF |
2,714 | 1,482 (54.6%) |
96 (3.5%) |
399 (15%) |
421 (15.5%) |
147 (5.4%) |
46 (1.5%) |
123 (4.5%) |
従業員数 | 金融セクター195,045(うち銀行セクター141,900):スイス全体の労働者人口は3.3百万人/2008 ※スイス金融機関の在外勤務者177,000を入れると 342,045人がスイス関連で金融業に従事している。 ※2009/12 SNB |
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平均資産規模 単位: 10億CHF |
20.5 | 741 | 1.39 | 2.43 | 17.5 | 0.42 (1信組あたり) |
3.53 | 2.61 |
■ イタリア
イタリアにおける銀行は、メガバンク(5行)、地域貯蓄銀行(224行)、庶民銀行(N.A.)、信用協同組合銀行(412行)から構成されている。1992年にアマート法が成立し、金融の自由化が進展し再編が起こったことから、マーケットシェアは、トップ2グループの銀行が32.9%を占めており寡占化が進んでいる。一方で、中規模の上位行で18.9%、下位行で36.9%であり、小規模行は全体の11.3%を占めている。
共同化の状況
対象の3カ国におけるシステム共同化の導入状況については図表3の通りである。3カ国ともに共同化の事例はあるものの、スイスにおいてはプライベートバンク専門銀行も多く、勘定系システムの共同化自体は割合として低いことがわかる。ドイツ、イタリアにおいてはそれぞれ銀行における導入率は78.9%、47.6%と相当程度共同化が進んでいるものの、導入業態としては小規模の組合組織金融機関や公的金融の貯蓄銀行が主体であり、民間の大手、中堅規模の銀行による利用は積極的ではないものと考えられる。ただし、スイスにおいては中小地銀による共同化が一部で行われており、その運営形態に特色があることから、次項にて紹介することとする。
国名 | 共同化ビジネス市場 | |||
共同化参加行数/ 銀行数(普及率) |
共同化の 事業形態 |
共同化 事業者(数) |
導入済業態 | |
ドイツ | 1500/1903(78.9%) | 銀行主導 | 銀行子会社(3) 今後2社となる予定 |
貯蓄銀行(公的) /信用協同組合 |
イタリア | 360/756(47.6%) | 銀行主導 | 銀行子会社(4) | 貯蓄銀行 /信用協同組合 |
スイス | 40/320(12.5%) | 銀行主導※ | 銀行子会社(1) | 一部の中小地銀 (RBA) |
共同化の種類としては、事業主体としては銀行子会社によるサービス提供が主であり、本稿で言うところの銀行主体のみが見られるものと考えられる。各国ともに、金融危機の影響は最近まで受けていないことから、大手行、中上位行を巻き込んだ共同化が進展している状況ではなく、その点では本稿にて定義した第一世代の共同化の状態でとどまっている状況と考えられる。
(参考)
スイスにおける地銀の共同事例
図表4:RBAグループによる共同化サービスの概要
出所:ホームページをもとにNTTデータ経営研究所にて作成 |
スイスでは、中小地域銀行69行のうち一部の銀行が利用する共同化サービスを、銀行免許を持つRBAグループ傘下のENTRIS銀行が提供している。同行は、自らは営業活動を行うことは無く、共同システムの提供にとどまらず、銀行業務のBPO(プロセスBPOのみならずリスク管理・マーケティング・人事管理・財務・外部パートナー選定・IT企画等)も行っている。(図表4)
RBAグループはこの他、60以上の銀行に対して内部監査人の品質チェック、IT部門の内部監査サービスを提供するENTRISオーディット社、資金決済と証券プロセシングのBPOサービスを提供するENTRISオペレーション社も保有しており、地域銀行に対して総合的な共同サービスを提供する体制を整えている。
まとめ~ 日本と欧州のシステム共同化の比較から
今回の調査結果から、欧州におけるシステム共同化と日本の状況を比較すると次の点について相違があると考えられる。
- ①ベンダー主導による共同化は日本固有の形態であること
- ②欧州では地域銀行の大手、中堅行も巻き込んだ共同化は進展していないこと
これらの相違は、日本が欧州に比較して早い時期に金融危機を経験し、より大手の地域銀行にとっても、共同化によるコスト削減、他銀行との連携の動きが促進されていたことに起因するものと考えられる。
また、独立性が高く、場合によっては競合する可能性もある大手、中堅地域銀行にとっては、お互いの自立性を尊重するために、リーダーを明確に特定すること無く、あえて中立的なベンダーを中心に共同化スキームが形成されたということが、ベンダー主導が登場した背景だと推察される。
このように考えると、銀行構成の違いはあるものの、欧州において金融危機の克服の過程において、より規模の大きい銀行同士による第二世代の共同化が形成される可能性があり、かつ、これらのスキームがITベンダーにより提供される可能性もあるものと考えられる。
一方で、スイスにおける共同化事例は日本の第二世代の共同化スキームにとって、次のステップへ移行するうえでの一つのヒントになる可能性があると考えられる。共同サービスを専門に提供する銀行により、システムにとどまらない多様なサービスへと幅を広げていく共同化のあり方は、今後の日本におけるシステム共同化にとって一つの示唆となるのではないだろうか。各地域の有力地方銀行が、それぞれの独自性、自立性を維持しながら、経営基盤については銀行免許を持った組織を利用して共同化し、そのネットワークを広げる、いわばバーチャルな全国銀行の形成が図られていく可能性を秘めているのではないだろうか。