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ソーシャルメディアマーケティングの推進

パートナー 山下 長幸
 

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の台頭

近年、ソーシャルネットワーキングサイトを活用した企業によるマーケティングが盛んになっている。

図表1:ソーシャルネットワーキングサービス
出所:NTTデータ経営研究所作成

ソーシャルネットワーキングサイトでは、自己紹介、写真などのプロフィール機能、近況報告などを投稿・共有する日記機能、メッセージ・チャット機能、コミュニティ機能、アドレス帳機能等を提供し、趣味や嗜好(しこう)、居住地域、出身校、友人・知人間のコミュニケーションを円滑にしたり、友人の友人といったつながりを通じて新たな人間関係を構築するなど、人と人のつながりを促進するコミュニティ型Webサービスを提供している。

このようなソーシャルネットワーキングサービス(SNS)により、個人個人がさまざまな生活体験や思い(コンテンツ)を発信したり、さまざまな生活体験や思い(コンテンツ)は人から人へ日常的に伝わりシェアされ、人と人とがつながり、人の輪を広げることが容易にできるようになった。人々は、このような対話交流の場を得て、マスメディアの情報を受動的に受ける存在から、自ら情報発信をする能動的な存在となった。(図表1)

図表2:ソーシャルメディアサービス全体像
出所:NTTデータ経営研究所作成

このようなSNSは、日本では2004年頃から普及し、数百万人、数千万人の人々が登録し、その存在感を大きく示し始めた。上記のようにSNSは個人と個人のつながりを促進するコミュニティなので、個人の参加が原則であり、当初企業の参加を認めないSNSが非常に多かった。加えて、個人が利用する場合でも、広告宣伝などの商業目的の利用は禁止するSNSが大勢であり、個人が商業目的で日記を投稿すると、登録個人全体ページが削除されることもあった。SNS提供企業のビジネスモデルとしては、ゲームや高機能サービスを受けるユーザーへの課金収入などとともに、SNS内に掲載される企業広告出稿を主な収入源としたことも、個人による商業目的利用や企業の参加を認めない方向になったものと考えられる。

図表3:ソーシャルメディアサービスの位置付け コンテンツ・コミュニティ特性とマーケティングへの活用シーン
出所:NTTデータ経営研究所作成

しかし、その後、米国でFacebookやTwitterなど、企業としてSNSページを登録し、企業と個人とが交流する新たなSNSが提供され始めた。これにより、企業が公式にSNSに参加できることになり、SNSをマーケティング活動に利用することが可能となった。企業の視点からすると、数百万人、数千万人が参加しているSNSは、テレビや新聞などと同様に有力なマーケティング・メディアの1つに認識でき、SNSをマーケティング活動に利用することを、ソーシャルメディアマーケティングと呼ぶようになった。

現在、このようなソーシャルネットワーキングサイトは、広義では、写真共有メインのサイト、動画共有メインのサイト、位置情報共有メインのサイトのみならず、商品・サービスのレビューサイト、Q&AメインのサイトなどさまざまなタイプのSNSが続々と出現している。(図表2)企業の視点としては、それぞれのSNSの特性を考慮したマーケティングプランを検討する必要がある。(図表3)

図表4:ソーシャルメディアの成長性
出所:「ソーシャルメディア白書2012年」(ビデオリサーチインタラクティブによる調査)をもとにNTTデータ経営研究所作成

企業による登録を認めている米国における2大有力SNSであるFacebookとTwitterであるが、日本においても、2010年・2011年頃から急速に普及しはじめ、日本における有力SNSであるmixiを凌駕(りょうが)あるいは迫る勢いとなっている。また、サイト滞留時間に関して、勢力を誇っていた検索サイトに対して、SNSが迫る勢いとなっていて、SNSはインターネットにおける存在感を大きく示し始めている。(図表4)

ソーシャルメディアマーケティングにおける先進企業事例

さまざまな企業におけるソーシャルメディアマーケティング事例を調査した結果、株式会社良品計画(敬称略。以下、良品計画)の実施事例は非常に優れていると考えている。その内容は、良品計画の事業特性・商品サービス特性に合致したものなので、他の企業の方々としては、自社の事業特性・商品サービス特性に合った内容にアレンジして活用することが必要なことは当然である。

図表5:良品計画の企業概要
出所:株式会社良品計画「第33期定時株主総会報告書」等をもとにNTTデータ経営研究所作成

その内容に入る前に、良品計画の業績や事業特性の概要を説明したい。(図表5)

2011年度の売上高は1,494億円、営業利益は128億円、大手百貨店や大手スーパーが軒並み売上減少傾向を示しているのに対し、2007年から2011年度の売上高の年平均成長率+1.5%と増加傾向を示している。

事業の基本は、売上の75%を占める直営店舗での生活雑貨や衣服雑貨等の販売である。無印良品という自社ブランド商品が主力で、自社でこだわりの商品企画を行い、商品生産は製造提携企業に委託をするという、いわゆるファブレス企業である。ちなみに無印良品(むじるしりょうひん)とは、既存の有名企業のブランド商品に対するアンチテーゼであるノーブランドグッズの日本語訳である。

図表6:良品計画におけるソーシャルメディアに関する取組み全体像
出所:株式会社良品計画Webページ等をもとにNTTデータ経営研究所作成

良品計画では、商品開発、販売、アフターセールサービスの各ビジネスプロセスでソーシャルメディアを非常に有効に活用している。(図表6)

基本的な取り組み姿勢は、商品の直接的な売り込みではなく、ブランドファン作りであることがポイントである。もともと良品計画には無印良品ファンと言われるロイヤルカスタマー層が存在していたが、それを基盤としてこのようなストラクチャーができあがっている。これらは一朝一夕にできあがったものではなく、長年の地道な企業努力の成果と言える。

最重要ポイントは、自社保有サイトに関しては、自社販売サイトのみならず、自社ファンのための自社コミュニティサイトを積極的に運用して、その内容をFacebookやTwitterといった外部SNSに拡散し、SNSにおけるソーシャルグラフ機能を活用し、無印良品ファンの友人・知人・フォロワーなどから新たな顧客基盤を拡大しているところである。

企業コミュニティサイトは、企業の公式サイトと一般的な外部SNSとの中間的な性格を有している。FacebookやTwitterといった外部SNSは、さまざまな人々が登録し、情報発信・共有している。企業公式サイトは商品・サービスの紹介や販売がメインの機能となっている。企業コミュニティサイトは、両者の中間的な位置づけで、基本的にはその企業やその企業の商品・サービスのファンと言う特定の顧客層が登録し交流しあうというものであり、その企業の商業目的での活用や企業ファン育成・自社ブランドファン育成・交流など、その趣旨や目的は特定されているので、コミュニティの運営がしやすいと言える。

図表7:良品計画:商品企画へのソーシャルメディアの活用
出所:株式会社良品計画Webページ等をもとにNTTデータ経営研究所作成

商品企画プロセスへのソーシャルメディアの活用

まず、商品企画プロセスであるが、「くらしの良品研究所」という名称での自社ネットコミュニティサイトで、自社とコミュニティ参加者がコミュニケーションしながら共同で商品開発を実施している。(図表7)コミュニティへの書き込みなどからテーマを設定し、開発プロジェクトを発足させ、参加者アンケートを実施しながら、コンセプトデザインやサンプル制作プロセスをコミュニティ参加者と共同で実施している。最近のプロジェクト例としては、自立するフローリングモップケース、紳士定番シャツの見直し、子供自転車などがある。このコミュニティに参加を誘導するためのくらしの良品研究所のメールニュースがとても魅力的である。皆さまの自宅パソコンには多くの販促メールが企業から多数送信されてくると思われるが、多くの人は、件名を見ただけで9割以上はゴミ箱に投げ込んでいるものと思われる。ポイント2倍セール、プレゼントセールなど売り込み姿勢バリバリのメールは開封されないケースがとても多いものである。これに対して、くらしの良品研究所のメールニュースは、夏場だと「浴衣の生活」や「麻の良さ」など商品の売り込みではなく、アクセスしてみようかなという気にさせる暮らしに関する雑学的な事柄や知識を提供するという内容なのである。このような工夫を施しているメールニュースは開封率が高く、サイトへのアクセス率も高いものである。

図表8:良品計画:販売プロセスへのソーシャルメディアの活用(1/2)リアル店舗関連
出所:株式会社良品計画Web事業部資料、Webページ、Facebookページ、Twitter公式アカウント等をもとにNTTデータ経営研究所作成

販売プロセスへのソーシャルメディアの活用

リアル店舗を運営している良品計画としては、店舗への集客促進はとても重要な課題である。良品計画による販売プロセスへのソーシャルメディアの活用もとても優れている。(図表8)くらしの良品計画では、全国を回りながら、その土地の風土に根差した良い物、良い食を取材して発信することにより店舗に誘導したりしている。また「進化した靴下」のはき心地を体験しませんかというキャンペーンをSNS活用して発信している。はき心地は店舗に実際に行かないと体験できないわけで、ネット販売ではできず、リアル店舗でしかできない優れた施策である。

自社販売サイト誘導に関しても、商品企画に関する自社コミュニティサイトであるくらしの良品研究所からの商品開発状況のレポートなどの発信や自社の商品レビューコミュニティサイトであるmy MUJIにおける商品ごとの「持っている」「欲しい」等の投稿サイトにソーシャルプラグインを組み込むことにより、SNSのソーシャルグラフ機能を活用して、友人・知人に拡散していき、MUJI.netという自社販売サイトに誘導されるという仕組みである。自社販売サイト内にFacebookのソーシャルプラグインを組み込むことにより、サイト内に仲間が表示され親近感が増し、コミュニティサイトにおける仲間の評判も見ながら購入判断ができるのである。(図表9)

図表9:良品計画:販売プロセスへのソーシャルメディアの活用(2/2)ECサイト関連
出所:「集客PRのためのソーシャルアプリ戦略」(西脇学 物部英嗣著)、株式会社良品計画Webページ、Facebookページ、Twitter公式アカウント等をもとにNTTデータ経営研究所作成

アフターセールサービスプロセスへのソーシャルメディアの活用

アフターセールサービスに関する自社コミュニティサイトであるmy MUJIをベースに無印良品ファンに、利用後の感想、改善点、ニーズ、優れた点など購入商品に関するさまざまなコメントを投稿して頂いて、それをソーシャルプラグイン機能によりFacebookやTwitterとも連動させ、友人・知人に情報拡散させている。

口コミ1回につき、MUJI COINを付与するなど、投稿を活性化させるための仕組みも整備している。これらの投稿内容は、現行商品の改善や次期商品開発に活かしている。(図表10)

図表10:良品計画:顧客アフターセールサービスプロセスにおけるソーシャルメディアの活用
出所:株式会社良品計画Webページ、Facebookページ、Twitter公式アカウント等をもとにNTTデータ経営研究所作成

ソーシャルメディアマーケティングによるコスト効果測定

ソーシャルメディアマーケティングによる各種施策に対して、定量的にコスト効果が示せているのかと迫るマネジメント層の方々も多々おられる。しかし、残念ながら、現状のソーシャルメディアマーケティングによるコスト効果測定方法論では、途中過程のアクセス数や投稿数などを定量的に示すことは可能であるが、売上増効果を精度高く示すことは難しい。しかし、これはテレビの広告効果も同様である。

企業活動である以上、種々の活動に採算性が問われるのは原則であるが、採算性が定量的に示せないからと言って、全く認めないというのも極端すぎるものである。ソーシャルメディアが活用の工夫次第では、企業ファンの育成に寄与することは確かであり、そのような基盤的な企業活動はビジネス常識的な範囲で認められるべきだと考えている。

図表11:ソーシャルメディアマーケティングによる効果測定
出所:株式会社良品計画Webページ、Facebookページ、Twitter公式アカウント等をもとにNTTデータ経営研究所作成

良品計画でも、ソーシャルメディアマーケティングによる売上増効果を精度高く示すことまでは実現できていないものと想定され、他のマーケティング施策で同等の成果を得る場合の費用とソーシャルメディアマーケティング施策費用を比較することにより、ソーシャルメディアマーケティング施策の効果を測定している。例えば、ソーシャルメディアマーケティングで1,000アクセスを達成したとして、検索サイトにおけるクリック保証型広告出稿で1,000アクセスのために要する費用とを比較するのである。(図表11)

まとめ

このように良品計画では、自社コミュニティサイトを起点に、ソーシャルプラグイン機能を活用してFacebookやTwitter などのSNSと連動させ、自社リアル店舗、自社販売サイトへの誘導で販売促進を図っている。

他の企業の方々においても、このような良品計画のソーシャルメディアマーケティングモデルを自社の事業特性・商品サービス特性に合わせてアレンジすることにより販売促進効果が得られるものと確信している。

そのようなご支援を当社で実施しているので、ご関心があればお問い合わせ頂ければ幸いである。

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