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「人材開発」機能を強くする!

~Learning Management Officeの提案 (中編)

マネージャー 吉澤 牧人
「人材開発」機能を強くする!
前編
【中編】
後編

 

本レポートシリーズの「前編」では、人材開発機能の強化について考える前に、次のことを整理した。それは、企業において経営層や社員双方からの人材開発機能への要求レベルが大きく向上していること、そうした要求レベル向上に合わせて人材開発機能を組み立て直すにあたって、それぞれ人材開発の「(1)対象層」「(2)能力開発の対象領域」「(3)育成手法」「(4)育成体制」について、もしくはそれらの組み合わせについて考えるべき要素が格段に増加していることを整理した。

本レポート「中編」では、人材開発機能強化に当たり、その中核を担う人材開発担当組織(人材開発部や人事部教育担当等)に主眼を置き、その役割や機能を考えていきたい。

求められる人材開発担当組織の“Learning Management Office”(LMO)化

人材開発の業務は企画~運営まで極めて多岐にわたっており、人材開発担当組織は、さまざまな社内外調整や細かい研修実施計画策定や教室運営、施策評価、社員への日々の問い合わせやフォローアップ対応など多忙なことが多い。そのため、ともすると施策の実行・運営が主体になりがちである。

しかしながら、本レポート「前編」で述べたように、経営層や社員双方の要求レベルが上がり、考えるべき要素が格段に増えている中では、実行・運営主体としてだけでなく、(やや使い古された言い方であるが)「戦略パートナー」「事業・現場パートナー」としての役割への変革が求められる。

当社では、そうした役割を「Learning Management Office(以下、LMO)」と称し、主要な機能を下記のように整理している。

LMOに必要な「6つの機能」

機能(1): 戦略的人材開発のプランニング

経営方針・事業計画や社員のキャリア志向や働き方需要に合わせて、人材開発の対象者や対象領域を戦略的に構想・計画する

企業の経営方針や経営・事業計画の着実な実行と、社員の多様なキャリア志向や働き方需要への対応を実現し、かつ人材開発の予算等の制約をも満たせるよう、メリハリのある人材開発の実施に向けた投資配分の検討が重要になる。

本レポート「前編」で述べたように、人材開発の対象者は細分化する傾向にあり、能力開発の対象領域は複合化する傾向にある中で、一律的な施策のみでなく、効果的な対象者-対象領域の組み合わせを考える必要がある。一律的な施策についても、方針や価値観の全体浸透など戦略的に活用していく必要がある。人材開発の投資配分については、より熟考し、戦略的に実施しなければならなくなっている。

また、策定した計画を、マスタープランとして、関係者と十分に共有する必要がある。関係者とは経営層や事業部門トップ、各事業部門や管理部門における育成関係者、人材開発の主幹組織(人材開発部や人事部教育担当等)内の各担当チーム(企画だけでなく運営チーム等も)である。マスタープランの共有は、関係者間の同期を取った動きを担保するためのコントロールの面でも重要であるが、関係者間の施策検討や評価の際の「共通言語」としても有効である。

機能(2): 人材の成長目標提示(生きた人材像の提示)

人材像(スキル要件等)や人材開発方針といった会社からの人材開発メッセージを、具体的に社員に提示・共有・浸透させる

成長目標となる人材像や能力要件等や人材開発方針(会社の考え・想い)を、確実に社員に伝えるという機能である。以下では、特に重要な成長目標の伝達・浸透について述べていく。

多くの企業では、「人材像」や「能力要件」を定義しており、何らかの形態や媒体を通じて社員に開示していると思われる。しかしながら、一方の社員は「成長目標」として受け止められていないケースが見られる

【図表1】なぜ人材像は伝わらないのか?
出所:NTT データ経営研究所にて作成

なぜそうしたことが起きるのか? ここでは2つの典型例を述べたい(図表1)。その1つは、「生きた人材像」不在によるものである。「人材像(または能力要件)」といった場合、多くは文字で定義されていると思われる。近年、社内コミュニケーションの希薄化や“出会い”の減少が言われている中で、具体的な人物(ロールモデル)をイメージすることができなくなっており、文字の人材像定義が具体像の解釈の「フィルター」として機能しなくなっていると考えられる。これについては、文字による人材像定義だけでなく、組織等の壁を超えたロールモデルへの“出会い”の機会の提供も必要である。

もう1つは、さまざまな人材開発施策(例:研修やOJT、メンタリング、キャリア開発支援、スキル認定・資格制度等)の間の整合性や一貫性が保たれていない場合である。社員は、会社からのメッセージを人材像定義書のみで受け取る訳ではなく、上記1つめの例のような実在の人物であったり、実際の人材開発施策を通じて受け取ることも多い。人材開発施策間の整合性や一貫性が保たれていない、すなわち一枚岩に見えていない場合、会社からのメッセージにブレが生じてしまい、正しく伝わらなくなってしまう。これについては、今一度、施策間の整合性や一貫性を担保する必要がある。

※:当社「ITプロフェッショナル人材調査2008」(2008年度実施)において、IT企業で働く社員のうち約5割が、「会社から社員(自身)に必要なスキルを明示されていない」と感じており、人材育成施策の起点となるべきスキル明示が機能していないケースが多いことが推察される。

機能(3): 成長の「場」の創出

必要に応じて育成手法・体制を設計し、効果的な学習の「場」、すなわち成長機会に溢(あふ)れている「場」や“知”が流通し活用できる「場」を創出・提供する

成長の「場」の創出とは、社員が自律的に学習できる可能な限り多くの機会を提供していくことである。何か新しいものに触れられる(気づきを得られる)「場」であったり、実践を通じて経験を積める「場」(失敗が許される場/挑戦できる場)、自らの経験を体系的に整理できる「場」、他者に伝える(教える)ことにより自らも成長できる「場」等、さまざまな「場」が考えられる。「場」には、常に「知」が創出と流通されていることと、社員同士が共感・共鳴できることが必要である。

【図表2】集合研修も見方を変えればさまざまな「場」となる
出所:NTT データ経営研究所にて作成

手法としては、研修をはじめさまざまなものがあるが、社員が自律的に学習できる「場」にするためには、「常に」こうした場に参画できる環境づくりも重要である。例えば、半期に数日の集合研修をいくら工夫しても、どうしても効果としては限界がある(ただし、トリガーもしくはペースメーカーとしては、定期的な研修の場は有効である)。そうなると、「場」のインフラとしてのITの活用を考えなければならなかったり、社員にとって日常の場である「職場」について、学習機会としての機能の再構築を考えなければならない。

また、「場」が自律的に生まれ育っていくためには、「場」の推進・促進者や、「場」の育成者、「場」の生成者といった役割を担う人材や組織も育てていかなければならない。

なお、本節の最後に、最もメジャーかつ古くからある人材開発施策である「集合研修」についても、見方を変えると、さまざまな「場」として機能することを図表2にまとめた。

機能(4): ラーニングカルチャー(自律的な学習を促進する文化)の醸成

職場・社員の間に、社員が自ら学習する文化(ラーニングカルチャー)の醸成を促進する

【図表3】ラーニングカルチャーが醸成されている状態
出所:NTT データ経営研究所にて作成

いくら会社がプランを精密に策定して社員に対してメッセージを伝えようとしても(機能(1)(2))、いくら至る所に「場」を用意したとしても(機能(3))、社員の間に自ら学習しようという意識や意欲が溢れていなければ、メッセージや場は期待する効果を生まない。これでは、育成スピードは高まらず、人材開発施策の投資対効果も向上しない。「ラーニングカルチャー(自律学習の文化)」の醸成も、LMOとして担うべき不可欠な機能である。

では、組織内にラーニングカルチャーが醸成されている状態とは、どのような状態であろうか? それは、社員の間に学習の「機運」が高まっており、自ら学習の「機会」を見いだし、学習内容の積極的な「実践」を通じて、その成果を「成功体験化」し、社員がお互いに「伝承」し合っている状態と言える(図表3)。そして、そのベースには、自らのキャリアを自らで考えられている状態がある。

組織内にこうした状態を創(つく)り出していくためには、“なぜ学ばなければならないのか?”“どのようにしたら効果的に学べるのか?”といった基本を徹底的に考える機会づくりが有効である。いわば、社員が「学び方」を学べる機会を提供していくことである。

機能(5)現場の課題や「知」の吸い上げ

社員が抱えている喫緊的な業務課題や構造的な成長課題や、社員が現場で創出した独創的な“知”を吸い上げる

人材開発施策の実行現場は、現場の課題や創出された「知」といった情報に溢れている貴重な場である。分かりやすい集合研修を例に取ると、課題に対するグループ討議や演習の内容には、組織・職場の課題がリアルに描写されていたり、社員やチームの工夫や成功事例が交換されている場合が少なくない。ほんの一例ではあるが、こうした情報を吸い上げ、分析に活用すれば、社内の生の人材課題や「知」を把握することができる。

例えば、経営方針や経営・事業計画、価値観の社員への実際の浸透・共感度合い、現場で起きている問題(の芽)や、現場に分散している独創的なアイデアやノウハウ等である。

人材開発担当組織は、社内でも社員との直接的・間接的な接点が多い数少ない部署であると思っているが、そうした接点を上手に活用できていないのが多くの現状であろう。あらためて、社員との接点を洗い出し、情報収集のパスを設計することは効果的である。再度、集合研修を例に取ると、内部で講師を実施すれば直接に受講者から意見を聞けるし、外部講師の場合は講師からの収集スキームを設計すれば良い。受講後の受講者アンケートも、講師や運営の評価だけでなく、設問の工夫によってさまざまな情報が得られる可能性がある。

機能(6) LMO活動(成果や課題)のモニタリング

最後の機能として、機能(1)の戦略的な人材開発のプランニングが目標通り進ちょくしているか否かについて、LMO機能(上記(2)~(5))のモニタリングを行うことも必要である。

そのためには、機能それぞれについてKPI(=Key Performance indicator)を設定し、人材開発担当組織のメンバー、そして関係者(経営層や事業部門トップ、現場育成担当者等)との間で常に共有し、目標と乖離(かいり)があればその解消を考えられる体制構築が必要となる。

「後編に向けて」

本レポート「中編」では、人材開発担当組織のLMO化を提唱し、必要な6つの機能について整理し述べてきた。「後編」では、人材開発担当組織のLMO化への変革課題を整理し、実際の企業様の取組み事例も交えて、その解決方向性を考えていきたい。

以上

 「『人材開発』機能を強くする! (後編)」へ続く

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