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「環境新聞」2015年11月11日より

本格化する廃棄物処理・リサイクルビジネスの海外展開(5)
フィリピン E-wasteリサイクル/地方自治体と連携した制度設計が必須

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティングユニット
マネージャー 佐久間 洋

 堅調な経済発展が続くアジアでは、経済成長に伴う購買力の上昇により、従来にないスピードで家電製品や携帯電話など電気電子機器の普及が進んでいる。近い将来、家庭由来の電気電子機器廃棄物(E-waste)が大量に発生することが予想され、各国の政府機関は、深刻な問題として認識している。

 E-wasteは、都市鉱山とも呼ばれるように、レアメタルなど有価金属を含み、高い資源価値がある一方、水銀や鉛などの有害物質が含まれていることが多く、適正な処理が行われない場合、環境汚染・健康被害を引き起こす原因となる。アジア各国では法整備を通じてE-wasteを回収管理し、適正にリサイクルを推進しようとする動きが出てきている。E-wasteを対象とした新たな法規制の整備に着手した国として、本稿ではフィリピン、次回はベトナムを取り上げ、2回にわたりE-wasteリサイクルをテーマに基礎情報と法規制の概要を紹介し、今後の展望を考察する。

 初めに、フィリピンにおけるE-wasteの発生・処理を紹介する。他の途上国と同様に、フィリピンでは可能な限りものを捨てない文化が根付いており、家庭は故障した電気電子機器を可能な限り有償で修理店等の業者に販売するのが一般的である。家庭から電気電子機器を買い取った業者は、機器本体の修理やパーツの再利用等により、再度中古品として販売する。このフローを限界まで繰り返した後、電気電子機器はE-wasteとして排出される。

 フィリピンではE-wasteを特別に規制する法律が存在しなかったため、現在でも、E-wasteは有償でインフォーマルセクター(非公式部門)に引き取られ、不適切な処理による資源回収が常態的に行われている。インフォーマルセクターは回収したE-wasteを手解体し、資源価値のあるパーツは売却、価値の無いパーツは自宅周辺や家庭ごみと一緒に廃棄するといった経済活動を行っており、環境汚染を引き起こしている。また、金属回収では、野焼きや十分な安全対策を取らない状態での薬品回収などを行っており、回収に従事する人員のみならず、周辺コミュニティへの健康被害が懸念されている。

 この状況を受け、フィリピン天然資源環境省は2013年12月にDAO2013-22を公布、家庭や小規模商業施設由来のE-wasteを廃棄物管理記号M507として個別定義し、地方自治体(バランガイ)に資源回収施設(MRF)で分別回収することを義務付けた。しかし、E-wasteは有償で取引される市場がすでに構築されているため、義務化を行っても地方自治体が回収を行うことは容易ではない。天然資源環境省は法律実施の詳細法を決めるのは地方自治体の役割との意向であり、E-wasteの回収に向けた規制づくりは、今後、各地方自治体の手に委ねられることとなる。

 日本企業がE-wasteのリサイクル事業をフィリピンに展開するポイントを考察する。途上国では、「回収」がE-wasteのリサイクル事業を行う上での最大の課題であることから、DAO2013-22の公布により、E-wasteのリサイクルシステム構築の成否は、地方自治体が回収に効果的な規制を策定できるかどうかによって決まると言える。以上から、E-wasteのリサイクル事業の展開に向け重要なことは、単純な技術のみの輸出にとどまらず、フィリピンの地方自治体と積極的に連携し、E-wasteを回収するための制度設計段階から支援することである。DAO2013-22の公布は実効性のある回収スキームを構築するための絶好の機会となり得る。ぜひ、この機会を活用して頂きたい。

挿入写真

インフォーマルセクターのヤードに保管された廃基板。最終的にはフィリピン国内で不適切処理をされるか、国外に密輸されるケースが多い。



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