現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

(「環境新聞」2014年1月8日より)

リサイクル制度見直しへの期待

リサイクル先進国としての運用最適化へ合意形成を

株式会社NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

「見直し作業」の本格化

 昨年来、「容器包装リサイクル法」、「家電リサイクル法」、「食品リサイクル法」の見直し作業が進められており、2014年度からは「自動車リサイクル法」、「建設リサイクル法」の見直しが始まる見込みである(図1)。1995年度の「容器包装リサイクル法」制定を皮切りに順次整備されてきたわが国リサイクル制度には、それぞれ「5年に1度見直し(評価・検討)を行う」との趣旨の条項が設けられている。見直し作業は審議会を舞台に行われ、関係者へのヒアリング、論点整理、報告書作成などのプロセスを経て、必要に応じて法改正などが行われる。「小型家電リサイクル法」の施行をもって主要な個別リサイクル制度が出そろった今、社会システムとしてのトライ&エラーの成果は、見直し作業の場で集約される。

【図1】個別リサイクル法の見直し(評価・検討)スケジュール

【図1】個別リサイクル法の見直し(評価・検討)スケジュール

出典:「第三次循環型社会形成推進基本計画(別表)個別法の実行に向けたスケジュール」を加工・作成

 環境政策の区分で整理すると、わが国のリサイクル制度は「枠組み規制的手法」に該当する。「枠組み規制的手法」の場合、制度が定める手順や手続き、役割分担などの範囲内で、行政・市民・事業者などの関連主体が自主的・自発的な環境保全努力を行うことが求められる。その上で「レジ袋有料化」のような自主的取り組み、「粗大ごみ処理の有料化」のような経済的手法などとのポリシーミックスが定着することで、社会システムとしての実効性が高められてきたのである。

 欧州の一部や他のアジア諸国とは異なり、いったん決まったルールをほとんどの主体が徹底して守るのはわが国の長所であり、各制度とも目に見える成果を上げてきている。その結果、マクロ的に見ても循環利用率が高まり、最終処分量が低減され、ごみ処理事業経費も減少傾向にある(図2、3)。十分な成果が上がっているにも関わらず各制度を定期的に見直す理由は、法律に明記された目的の「含意」とも言える役割の力点が、社会経済情勢に応じて変化するためである。

【図2】循環利用率及び最終処分量の推移

【図2】循環利用率及び最終処分量の推移

出典:「第三次循環型社会形成推進基本計画」の記載データを基に加工・作成


【図3】一般廃棄物処理コストの推移

【図3】一般廃棄物処理コストの推移

出典:「一般廃棄物の排出及び処理状況等について」(平成25年3月28日現在)

「リサイクル制度」の目的と役割

 「容器包装」、「家電」、「小型家電」のリサイクル法第1条の結びは全て、「廃棄物の適正な処理および資源の有効な利用の確保を図り、もって生活環境の保全および国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」で統一されている。「食品」、「自動車」、「建設」は若干前段の表現が異なるが、趣旨は全く同じである。この目的自体は柔軟で普遍性があり、改正されることは考えられない。ただし、関連主体にとっての現実の課題や喫緊に求められる便益が時代に応じて変わるため、各制度に期待される役割は大きく変化する。

 リサイクル制度がもたらす便益である「環境保全」と「経済発展」の軸を縦にとり、その実現方策である「適正処理」と「資源有効利用」を横軸にとると、現実の課題とそれに対応する具体的な制度の役割が見えてくる(図4)。4つの象限に現れる制度の役割は、(1)廃棄物対策(2)地域振興(3)産業振興(4)環境対策――である。

【図4】リサイクル制度の「目的」と「役割」

【図4】リサイクル制度の「目的」と「役割」

 一般論として、制度に期待される役割は(1)から時計と逆回りにその力点がシフトしてきている。リサイクル制度設計開始当初の20年前、市民レベルにまで浸透していた現実の課題は最終処分場の逼迫や不法投棄を背景とした「廃棄物対策」であった。その後、環境ビジネスの振興や自治体の処理コスト削減などの「地域振興」の色合いが強まり、技術と実績を身に付けたリサイクルビジネスの海外展開や資源確保に資するリサイクル手法の高度化といった国家レベルでの「産業振興」への期待も高まってきている。さらに、国内での省エネルギーや低炭素化、不法輸出などを通じた海外での不適正処理防止などの高度な「環境対策」も、制度が果たすべき役割のスコープに含まれるに至っている。

 各法が品目別に整備・運用されている以上、社会経済情勢の変化を踏まえた検討のスコープは制度ごとに異なる。以下では、現在見直し作業が行われている「容器包装リサイクル法」、「家電リサイクル法」、「食品リサイクル法」を例に、現実の課題と見直し作業の意義についての検証を行う。

「現実の課題」と見直し作業の意義

 まず「容器包装リサイクル法」の場合、「廃棄物対策」に最大の力点を置いて制定され、エコタウン政策により再生処理施設に大規模な補助金が導入されることで「地域活性化」にも寄与してきた。当時は、全国で地域住民の理解を得ながら施設整備を行うことで、収集量増加に対応可能な再生処理能力拡大が求められていたため、両者をパッケージで実現することが不可欠な情勢にあった。完全施行後12年以上たった今、制度導入以前はほぼ皆無であったその他プラスチック製容器包装だけでも「約65万トン/年」がリサイクルされ、再生処理能力は収集量を大きく上回り、円滑な再商品化が行われるに至っている。

 こうした中、関係団体からの要望書には、その他プラスチック製容器包装の再商品化手法の見直しなどが挙げられている。例えば東日本大震災を契機とした電力不足を背景に、「環境保全」に資する再商品化手法として、サーマルリサイクルと呼ばれる固形燃料利用の本格導入を求める声も高まっている。一方、制度立ち上げ段階から「優先」されてきた材料リサイクル事業者の経営状況等を勘案すると、コスト面で優位な固形燃料化事業者の入札システム参入が、雇用喪失などを通じて「地域振興」に水を差す結果にもなりかねない。こうしたトレードオフの存在を前提に、関係者による合意可能な着地点を見出すことが見直し作業の意義となる。

 次に「家電リサイクル法」の場合、法施行当初から「産業振興」に資するリサイクル手法の高度化を視野に入れた制度設計が行われてきた。特にBグループのリサイクル企業は、家電メーカ各社の出資により制度導入時に整備され、自社製品の環境配慮設計とそれを踏まえたリサイクル手法の最適化により、プラスチックの水平リサイクルなどを含む高度なリサイクルを実現してきた。実績ベースで見ても、4品目合計で「約1120万台/年」がリサイクルされ、その再商品化率は法定基準をはるかに超える80%以上である。

 ただし、同法のリサイクル料金は「後払い」で消費者に直接課金されるため、原始的な「廃棄物対策」としての不法投棄防止が現実の課題に浮上している。全国で「約16万台/年」の不法投棄台数は、発生量の約1.4%に過ぎないものの、常識的に見過ごせる台数ではない。「自動車リサイクル法」と同様に製品購入時の前払いを求める声もあるが、前払いでの無料回収システムが構築された「家庭系パソコン」のメーカー回収率が上がらない実態を見ると、制度変更が根本的な解決策になるとは考えにくい。不法投棄防止のみならず、不法業者による海外流出が引き起こすE|WASTE問題への対応などを含め、廃棄物処理法等強制力のある直接規制的手法(罰則強化を含む)とのポリシーミックスが有効な解決策と考えられる。見直し作業では、当該制度の枠組み検討を超えた解決策の具体化にもその意義が認められるのである。

 「食品リサイクル法」の場合、当初からの目標値である「再生利用等実施率」に「発生抑制」が含まれているという点に先進性が認められる。その量的な大きさからも「廃棄物対策」としての発生抑制が最優先されているが、再生利用の用途として「飼料化」を優先するとともに、製造・利用に係る認証制度(エコフィード)を整備することで飼料自給率の向上を目指すなど、「産業振興」の役割も果たしている。10年度の食品産業合計で見た再生利用等実施率は約82%に及び、うち9%は発生抑制が寄与している。12年度からは業種別に発生抑制の目標値(売上高当たりの原単位)が設定され、賞味期限切れ前の食品廃棄物発生を防止すべく、食品流通業界の商慣習(3分の1ルール)の改善にまで踏み込んだ議論が行われている。

 昨年7月に整理された論点整理を見る限り、目指すべき姿が「チャレンジ」と表現されていることからも、制度の実効性を高めるための方策の検討に力点が置かれていることが分かる。発生抑制については「国民運動」や「活動強化」、リサイクルについても「優良事業者の育成」や「先進的な取組の促進」など、自主的取り組みを促すとともに、補助金の導入の必要性などを示唆する論点が多い。見直し作業という名の下で、主要な関連主体による成果促進方策を検討する場としての役割を果たしており、その意味でも十分な意義が見出せる。

「リサイクル先進国」にふさわしい議論を

 以上の通り、同じ見直し作業でも各制度における現実の課題や、その解決に向けた検討のスコープは全く趣が異なっている。ただ一点共通することは、少なくとも上述の課題への対応策として、「直接的な法改正は必要ない」ということである。

 その他プラスチック製容器包装について、「緊急避難的、補完的手法」との運用面の制限付きではあるものの、「固形燃料等」製造はすでに再商品化手法として認められている。家電製品の不法投棄は廃棄物処理法に基づく明確な犯罪行為であり、そのインセンティブを削ぐために多大なコストをかけて「前払い方式」を導入するのは本末転倒である。さらに食品リサイクルが求めている「国民運動」や「先進的な取り組みの促進」に必要なのは政策的経費と関係者の努力であり、制度設計とは無縁である。すなわち、見直し作業は制度改正のためではなく、時代が求める役割を踏まえた制度運用の最適化に向けて、関係主体が合意形成を図るために行われる。検討の結果として法改正が必要となったとしても、社会システムとしての有効性を高めるための手段の一つに過ぎないのである。

 少なくとも公開データから定量的・定性的に判断する限り、各制度を枠組みとした関係者の取り組みが国際的な水準に照らして十分な成果を上げてきたことは事実であり、わが国が「リサイクル先進国」であることに間違いはない。見直し作業のプロセスでは各関連主体から制度改正を求める意見なども示されているが、少なくとも主体間の利害調整を目的とした枠組み変更に係る議論は不毛である。「時代に即した役割を果たすための最適なファインチューニング」という観点から、関係主体による前向きな議論が進められることを期待したい。



Page Top