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2017年2月10日

FinTechに代表されるX-Techビジネスの成功要因は “王道” にあり
~ 企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査 ~

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目次


調査概要

  • 調査対象:NTT コムリサーチ(*1)クローズド調査
  • 調査方法:非公開型インターネットアンケート
  • 調査期間:2016 年 10月 3 日~2016 年 10 月 24 日
  • 有効回答者数:12,521 人
  • 回答者の属性

《業種》

《会社規模(縦軸)×会社創業時期(横軸)》

《職位》

【補足】
(*1)NTTコム リサーチ http://research.nttcoms.com/

 NTT コム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(http://www.nttcoms.com/) が提供する、高品質で付加価値の高いインターネットリサーチ・サービスである。自社保有パネルとして国内最大級の延べ 217 万人の登録モニターを擁し、消費者向け調査から、法人向け調査、グループインタビューまで、さまざまな市場調査ニーズに対応している。(モニターの人数は 2017 年2月現在)


調査結果におけるグラフの見方

 本調査レポートにおいて大企業、ベンチャー、その他の企業に関して項目別に比較するグラフを多数作成している。このグラフについては、それぞれの企業種別において各項目の回答数を各企業種別に属する回答者の全体数で除して回答割合を導出し、それを3種別統合するという形で作成されている。統合されたグラフのバーの長さはあくまでも各企業種別内での回答割合の大小を表したものであり、回答の絶対数の大小を表しているものではないことに留意いただきたい。

調査結果におけるグラフの見方

X-Techの定義

 本調査レポートではX-Tech(エックステック)を、「その業界内部の企業のみならず業界の垣根を超えてきた異業種やスタートアップが、『業界の知見』とデジタルのような『洗練されたテクノロジー』をコアとして創り出す、今までの常識を打ち破るような新しいサービス・製品」と定義する。


調査結果

1. X-Techビジネスの取り組み実態

1.1. X-Techビジネスの認知度

 知っているX-Techの企業やサービスの業界を尋ねたところ、全体の17.9%が「金融:FinTech」と回答した。続いて、「医療:MedTech(7.1%)」、「ヘルスケア:HealthTech(6.3%)」、他は横一線3%~5%であった。一方で、「知らない/分からない(74.7%)」であった。

【図表1-1a】 X-Techの認知度

【図表1-1a】 X-Techの認知度

 加えて、アンケート回答者の業種について尋ねた。これは、携わっている業種とX-Techの認知度の相関を見るためである。結果としては、【図表1-1a】では全体の17.9%が「金融:FinTech」を知っていると回答したが、「銀行/信託/信金/信組/政府金融(2.4%)」「生命保険/損害保険業(2.2%)」「証券業/商品取引(0.6%)」「信販/消費者金融(0.5%)」「その他金融(0.4%)」と金融関連の業種の割合はそれほど多くなく、FinTechの認知とアンケート回答者が属する業種との相関は見られなかった。

【図表1-1b】 アンケート回答者の業種

【図表1-1b】 アンケート回答者の業種

【考察】

 近年、新聞や雑誌、Webニュースなど頻繁に「FinTech」が取り上げられているが、実際には「FinTech」を知っている人は2割にも満たなかった。一般的にイノベーター理論では「イノベーター(2.5%)」「アーリーアダプター(13.5%)」のセグメントを足し合わせた16%がキャズムと呼ばれ、これを超えるか否かが普及するかどうかのボーダーラインである。そういう意味では、認知度17.9%の「FinTech」はキャズムを超えるか否かの真っ只中にあると言える。
 一方、アンケート回答者の業種が必ずしも金融関連の人が多くなく「FinTech」の認知度との相関が見られなかった点より、インターネットやSNSが日常一般化した昨今、業種問わず感度の高いビジネスパーソンがそうしたメディアからの先進的な情報をキャッチしている結果と推察される。こうした認知では、「FinTech」というワードや概念は目や耳にしたことがあっても、そもそも「FinTech」とはどのような企業やサービスが存在するのか、どういうビジネスモデルで、既存の金融業界へどういうインパクトを与えるのか等、より深くより本質的な面まで理解できている人は少ないのが実態ではないだろうか。

1.2. X-Techビジネスの経験有無

 X-Techの認知度に関する質問(知っているX-Techの企業やサービスの業界)の回答において「知っている」とした3,168人に対して、X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験を尋ねたところ、「過去に経験したことがある (243人:1.9%)」「現在、経験している (取り組んでいる) (244人:1.9%)」を合わせると、X-Techビジネスの経験がある人は3.8%であった。また、「まだ経験はしていないが、今後そういう経験をすることが決まっている (300人:2.4%)」であった。従って、合計6.2%の人が過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する。

【図表1-2a】 X-Techビジネスの経験有無

【図表1-2a】 X-Techビジネスの経験有無

 続いて、同様の回答結果を大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。【図表1-2b】【図表1-2c】【図表1-2d】
 【図表1-2b】の大企業では、過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する人が4,982人中325人おり、7%相当であった。【図表1-2c】のベンチャー企業では、過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する人が423人中110人おり、26%相当であった。【図表1-2d】のその他企業では、過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する人が7,116人中352人おり、5%相当であった。

【図表1-2b】 大企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【図表1-2b】 大企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【図表1-2c】 ベンチャー企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【図表1-2c】 ベンチャー企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【図表1-2d】 その他企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【図表1-2d】 その他企業におけるX-Techビジネスの経験有無

【考察】

 【図表1-2a】より、過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する人が6.8%。つまり15人に1人がX-Techビジネスの経験を有することになるが、これは世の中の全業界において、正社員・派遣社員問わず営業職やエンジニア職など全ての職種を対象とした回答者の15人に1人と見た場合、X-Techビジネスの経験を有するのは割合として感覚的に多いように感じられる。
  特に【図表1-2c】のベンチャーにおいては、過去・現在・未来でX-Techビジネスの経験を有する人が26%、つまり4人に1人である点である。同様の切り口で、【図表1-2b】の大企業は7%相当、【図表1-2d】のその他企業は5%相当である点を踏まえると、顕著にベンチャーの割合が多いことが分かる。これは、昨今のベンチャーブームの中で生まれ出る新規ビジネスの中で、テクノロジーを駆使したX-Techビジネスの割合が多いように肌で感じていたが、実際にその実態としても多かったと言えよう。

1.3. X-Techビジネスに取り組む目的

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、そのX-Techに取り組む目的を尋ねたところ、最も多いのは「収益拡大のための新規事業(直近よりも将来の中核事業育成) (29.2%)」、次点が「収益拡大のための新規事業(直近の売上高へ貢献) (27.7%)」、「収益拡大のための新規事業(事業ポートフォリオの拡大) (23.0%)」と続いた。

【図表1-3a】 X-Techに取り組む目的

【図表1-3a】 X-Techに取り組む目的

 続いて、同様の回答結果を大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。
 大企業・ベンチャーとも、“収益拡大のための新規事業”の割合は総じて高い。特に、ベンチャーは「収益拡大のための新規事業(直近よりも将来の中核事業育成) (34.8%)」、「収益拡大のための新規事業(直近の売上高へ貢献) (33.7%)」の2つが他の目的に比べて高いことが分かる。
 大企業は、“収益拡大のための新規事業”に加えて、“既存事業の売上強化・コストダウン”が続く。大企業で特徴的な点が、「新たなデータ獲得のため (15.7%)」や「知見やノウハウ獲得、人材育成のため (14.3%)」である。

【図表1-3b】 X-Techに取り組む目的(大企業/ベンチャー比較)

【図表1-3b】 X-Techに取り組む目的(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 X-Techビジネスに取り組む目的は、全般的には “収益拡大のための新規事業” である割合が大きく、次いで “既存事業の売上強化・コストダウン” が続く。
 大企業においては、“既存事業の売上強化・コストダウン” と同程度で、「新たなデータ獲得のため」「知見やノウハウ獲得、人材育成のため」をX-Techに取り組む目的としている点は注目すべき点である。「新たなデータ獲得のため」を目的としているのは、本業(コア事業)において今後ビジネスの鍵となるのが “データ” である点を見極めた上で、データを集める仕組みとしてX-Techに取り組んでいる戦略的な企業であると言える。「知見やノウハウ獲得、人材育成のため」を目的としているのは、導入期にあるX-Techに取り組むことでその知見やノウハウの獲得、人材育成を実現することで、仮に立ち上げたX-Techビジネスが失敗に終わろうとも、その経験を活かしていこうとする “ヒト” 重視の企業であろう。

1.4. X-Techビジネスの取り組み結果

X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、そのX-Techを取り組んだ結果、期待していた成果の有無を尋ねたところ、最も多いのは「期待通りの成果が得られている (33.5%)」であり、更に「期待以上の成果が得られている (22.0%)」であった。逆に「期待していた成果は得られていない (6.8%)」であった。

【図表1-4】 X-Techビジネスの取り組み結果

【図表1-4】 X-Techビジネスの取り組み結果

【考察】

 「期待通りの成果」「期待以上の成果」という人が55.5%と、半数以上の人がX-Techを “成功” と位置付けている。さらに、「期待通りではないが一定の成果」という人も23.8%おり、約8割の人は一定の成果は得られたと感じている。一方、「期待通りの成果ではない」という人が6.8%と “失敗” と位置付けている人は少なかった。このように “成功” の割合が多い要因としては大きく3点考えられる。
 1点目としては、X-Techビジネスに取り組む目的やゴールとして、何を設定しているかである。例えば、単純に新規ビジネスの立ち上げというゴール設定の場合や、知見やノウハウ獲得・人材育成のためであるようなゴール設定の場合、その結果は “成功” と位置付けやすい。
 2点目としては、X-Techビジネスとしてまだ立ち上げてから十分な年月が経過していないことが予想されるため、現時点のゴールやマイルストーンが曖昧であったり、定量的でなかったりしている可能性がある。そうした場合、どうしても回答者の感覚で評価してしまっている可能性がある。
 3点目としては、X-Techビジネスに何らかの形で関連する人である以上、回答者自身に都合の良い捉え方、結果を良くみせようとするバイアスがかかっている可能性がある。特に、回答者の中には、X-Techビジネスが準備段階やPoC(概念実証)実施段階であるものの、そこまでのプロセスとして “成功” と位置付けている回答者もいる可能性がある点は留意が必要である。

1.5. X-Techビジネスの取り組み結果(大企業とベンチャー企業との比較)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、そのX-Techを取り組んだ結果、期待していた成果の有無を尋ねた結果について、大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。
 大企業では、最も多いのは「期待通りの成果が得られている (34.3%)」、次点が「一定の成果は得られているが、期待していた程ではない (26.2%)」であった。
 ベンチャーでは、「期待通りの成果が得られている (42.4%)」、次点が「期待以上の成果が得られている (34.8 %)」であった。

【図表1-5】 X-Techビジネスの取り組み結果(大企業/ベンチャー比較)

【図表1-5】 X-Techビジネスの取り組み結果(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 ベンチャーの人の約8割近くが “成功” と位置付けているのに対し、大企業の人は半数以上が “成功” と位置付けていながらも、「一定の成果は得られているが、期待していた程ではない」が26.2%、「実際の成果は不明(計測不能)」が16.2%と慎重な回答も目立った。
 ベンチャーの “成功” の割合が大きいのは、ベンチャーにとっては “失敗” =会社の存続危機であると共に、前述のように回答者自身に都合の良い捉え方、結果を良くみせかけようとするバイアスが大企業の人以上にかかっている可能性があることから、このような評価となったものと推察される。
 大企業の場合は、X-Techの目的が「新たなデータ獲得のため」「知見やノウハウ獲得、人材育成のため」のような副次的なものと位置付けている企業がベンチャーよりも多い点は留意されたい。

1.6. X-Techビジネスの種類

X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、経験のあるX-Techビジネスの種類を尋ねたところ、最も多いのは「金融:FinTech (39.0%)」、次点が「ヘルスケア:HealthTech (17.0%)」、「教育:EdTech (13.8%)」と続く。

【図表1-6a】 経験のあるX-Techビジネスの種類

【図表1-6a】 経験のあるX-Techビジネスの種類

 続いて、同様の回答結果を「過去に経験した」「現在経験している(取り組んでいる)」の2種類に分類した。
 全体的に「過去に経験した」「現在経験している(取り組んでいる)」の割合は概ね半々であるのが多かった。そのような中、「ヘルスケア:HealthTech」は「過去に経験した」が11.1%に対して「現在経験している(取り組んでいる)」が6.0%と “過去” の割合が多かった。
 一方で、「農業:AgTech」は「過去に経験した」が1.4%に対して「現在経験している(取り組んでいる)」が4.1%と “現在” の割合が多かった。【図表1-6b】

【図表1-6b】 経験のあるX-Techビジネスの種類(過去/現在の分類)

【図表1-6b】 経験のあるX-Techビジネスの種類(過去/現在の分類)

【考察】

 立案検討や立ち上げなどの経験がある人のX-Techビジネスの種類は認知度と同様、やはりFinTechが一番多いのは予想通りであろう。次点はHealthTech(ヘルスケア)となったがEdTech(教育)等との差は小さいため、世の中の動向としてHealthTechがFinTechの次に来ていると考えるのは早計である。とは言え、HealthTechやEdTechは、例えば農地や農作業に関するノウハウが必要なAgTech(農業)などに比べるとハードルが低く、スマホやタブレット端末などとの親和性の高いサービスを展開しやすいため比較的チャレンジしやすいと言える。また、AgTech・FoodTech(飲食)・GreenTech(環境)・AdTech(広告)などは利用者がどちらかと言えば専門家であるのに対して、HealthTechやEdTechは利用者が一般消費者である点も、ユーザーニーズを考えやすいと言える。こうした 背景より、次点がHealthTechやEdTechとなっているものと推察する。これは、後述の【図表1-8】にてFinTechを除き、HealthTechやEdTechはベンチャーやその他(大企業でもベンチャーでも無い中堅企業など)において割合が大きい点からもうかがえる。
 一方、過去・現在に分類して見ると、そのHealthTechは「現在、経験している」よりも「過去に経験したことがある」の割合が大きい。これは前述のように、他のX-Techよりもハードルが低くチャレンジしやすいが故に一巡して過去のものとなっている割合が多いものと推察される。逆にAgTechはハードルが高くチャレンジしにくいが故に、昔は取り組む人が少なかったのではないかと推察される。

1.7. X-Techビジネスの種類(大企業とベンチャー企業との比較)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、経験のあるX-Techビジネスの種類を尋ねた結果について、大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。  大企業では、「金融:FinTech (45.7%)」と最も多かった。また、「医療:MedTech (16.2%)」「小売:RetailTech (14.3%)」「環境:GreenTech (12.4%)」はベンチャーやその他と比較してその割合が大きい。  ベンチャーでは、「金融:FinTech (34.8%)」と最も多かった。また、「教育:EdTech (18.5%)」は大企業やその他と比較してその割合が大きい。

【図表1-7】 経験のあるX-Techの種類(大企業/ベンチャー比較)

【図表1-7】 経験のあるX-Techの種類(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業において、ベンチャーやその他と比較してその割合が大きいFinTech、MedTech、RetailTech、GreenTechのうち、MedTech、RetailTech、GreenTechは専門的知識・企業知名度・ビジネスに必要なアセットなどの面において、ベンチャーが新規参入するにはハードルの高い業界であるため、相対的に大企業の割合が大きくなったものと推察される。
 一方、ベンチャーにおいて、大企業やその他と比較してその割合が大きいEdTechは、前述のとおりスマホやタブレット端末などとの親和性が高く、ユーザーが一般消費者である点など比較的参入ハードルの低い業界であると推察される。

1.8. X-Techビジネスの種類(X-Techの種類に応じた取り組み結果)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、経験のあるX-Techビジネスの種類、及びX-Techの取り組み結果について尋ねた2つの結果のクロス分析を行った。
 取り組み結果として「期待以上の成果が得られている」「期待通りの成果が得られている」の2つを “成功” と定義した場合、“成功” と位置付ける人が概ね約6割である中、特徴的なのが「飲食:FoodTech」と「環境:GreenTech」である。
 FoodTechは “成功” と位置付ける人が76.9%であったのに対して、GreenTechは “成功” と位置付ける人が31.9%であった。

【図表1-8】 経験のあるX-Techの種類に応じた取り組み結果

【図表1-8】 経験のあるX-Techの種類に応じた取り組み結果

【考察】

 はじめに、取り組み結果の成功/失敗は様々な要因があることから、経験のあるX-Techビジネスと因果関係があるかどうかは不明である点は留意されたい。その上で、まず成功とする割合が小さかったGreenTechについては、FinTechなど他のX-Techに比べると比較的新しく、かつマイナーであるため、ユーザーの認知度や成熟度が低い点が要因としてあると思われる。加えて、「実際の成果は不明(計測不能)」とする人が20%以上であった点も見逃せない。
 一方、成功とする割合が大きかったFoodTechについては、その要因を推察するのは正直難しい。

1.9. X-Techに取り入れられた先進テクノロジー

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techに取り入れられた先進テクノロジーを尋ねたところ、最も多いのは「ビッグデータ (44.4%)」、次点が「AI (36.1%)」、「IoT (23.0%)」と続く。

【図表1-9】 X-Techに取り入れられた先進テクノロジー

【図表1-9】 X-Techに取り入れられた先進テクノロジー

【考察】

 全般的に、ビッグデータやAI、IoTはいずれもデータを収集・分析・活用といった “データ” を軸としたテクノロジーを取り入れられていた。こうした点より、X-Techはインターネットをインフラにデータを流通・活用したビジネスが大半であることをうかがえる。言い換えるとX-Techビジネスは、デジタルビジネス(ネットビジネス・プラットフォームビジネスのようにインターネット上のデータをコアとしたビジネス)であるとも言える。
 デジタルビジネスの競争優位性の源泉は “データ” であり、「如何に価値のあるデータを集め、素早く意味のある分析を行い、価値ある形で提供するのか」という点がポイントであることから、X-Techにも同様に当てはまると言える。従って、価値のあるデータを集めるためにIoTを活用し、素早く意味のある分析を行うためにAIを取り入れ、価値ある形で提供するためビッグデータの様相を成しているものと推察される。
 ここで1点触れたいのが「ブロックチェーン」である。FinTechへの注目により、ビットコインをはじめとする仮想通貨のキーテクノロジーとして脚光を浴びている汎用技術である。【図表1-6a】のとおり、経験のあるX-Techビジネスの種類として「金融:FinTech (39.0%)」は圧倒的に多いものの、「ブロックチェーン」の技術が取り入れられたビジネスは実態として少ないことがうかがえる。

1.10. X-Techに取り入れられた先進テクノロジー(大企業とベンチャー企業との比較)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techに取り入れられた先進テクノロジーを尋ねた結果について、大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。

【図表1-10】 X-Techに取り入れられた先進テクノロジー(大企業/ベンチャー比較)

【図表1-10】 X-Techに取り入れられた先進テクノロジー(大企業/ベンチャー比較)

 大企業では、「ビッグデータ (47.6%)」「AI (37.6%)」「IoT (32.9%)」が多かった。特徴的な点としては、「IoT (32.9%)」「画像認識/音声認識/自然言語解析など (9.5%)」が、ベンチャーやその他と比較してその割合が大きい点が挙げられる。他にも「ビッグデータ (47.6%)」「ウェアラブル端末 (14.8%)」「高機能センサー (13.8%)」「ロボット (7.1%)」もベンチャーと比較するとその割合が大きい。
 ベンチャーでは、「AI (41.3%)」「ビッグデータ (39.1%)」が多かった。特徴的な点としては、「AI (41.3%)」「ビーコン (9.8%)」「チャットボット (7.6%)」が、大企業やその他と比較してその割合が大きい点が挙げられる。

【考察】

 大企業において、ベンチャーやその他と比較してその割合が大きい「IoT」「画像認識/音声認識/自然言語解析など」「ビッグデータ」「ウェアラブル端末」「高機能センサー」「ロボット」は、一定規模の投資が必要なハードウエアの開発・生産、長い年月を要して蓄積するデータや高度な技術力が必要なものである。こうした資金やデータや技術力を必要とするテクノロジーを取り入れられるのがまさに大企業である。
 一方、ベンチャーにおいて、大企業やその他と比較してその割合が大きい「AI」「ビーコン」「チャットボット」は、比較的容易に取り入れやすいテクノロジーである。「AI」は一見導入ハードルが高いように思われるが、それ自体は高度な技術力や知識を必要とするものの、近年ではクラウド上にフリーのプラットフォームやオープンソースが提供されているため一定スキルを有するエンジニアであれば比較的容易に導入することが可能である。
 このように、ヒト・モノ・カネといった経営資源が限られるベンチャーに対して、それらを有する大企業の選択肢は広い。

1.11. X-Techに取り入れられた先進テクノロジー(導入テクノロジーに応じた取り組み結果)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人(過去もしくは現在経験のある487人)に対して、そのX-Techに取り入れられた先進テクノロジー、及びX-Techの取り組み結果について尋ねた2つの結果のクロス分析を行った。  取り組み結果として「期待以上の成果が得られている」「期待通りの成果が得られている」の2つを “成功” と定義した場合、“成功” と位置付ける人が概ね約6割である中、特徴的なのが「ビーコン」「チャットボット」「AR」「画像認識/音声認識/自然言語解析など」「脳科学」「SNS」である。  「ビーコン」は “成功” と位置付ける人が77.4%、「AR」は100%、「脳科学」は80%と平均以上であったのに対して、「チャットボット」は41.2%、「SNS」は40.5%と平均以下であった。ただし、「AR」や「脳科学」は回答数が少ないため有意ではない可能性がある点は留意が必要である。

【図表1-11】 X-Techに取り入れられたテクノロジーに応じた取り組み結果

【図表1-11】 X-Techに取り入れられたテクノロジーに応じた取り組み結果

【考察】

 はじめに、取り組み結果の成功/失敗は様々な要因があることから、導入された先進テクノロジーと因果関係があるかどうかは不明である点は留意されたい。その上で、まず「AR」「ビーコン」が取り入れられたX-Techを成功とする割合が大きかった理由としては、大きく3つ考えられる。1点目はスマホとの親和性が高い点である。「AR」はスマホのカメラを通じて実現する場合が多く、ビーコンも受信端末は一般的にはスマホであるため、ユーザーが使い慣れているという要因があるだろう。2点目は技術的な普及度合いの点である。ガートナー社は毎年テクノロジーのハイプ・サイクル* を発表しているが、「AR」「ビーコン」は新しく登場してから丁度良い普及時期に来ているという見方ができるだろう。実際、「AR」「ビーコン」とも技術者向けのSDKやオープンソースも数多く出ており実装しやすい環境にある。3点目は、データと組み合わせ易い点である。X-Techでは殆どのサービスが必ず何かしらかの “データ” を活用しており、サービスの良し悪しの観点の1つと言える。実際、アンケート結果を詳しく見ると「AR」を取り入れているサービスは同時に「IoT」「高機能センサー」も取り入れている傾向があり、「ビーコン」を取り入れているサービスは同時に「ビッグデータ」「AI」も取り入れている傾向があった。「IoT」「高機能センサー」「ビッグデータ」「AI」はいずれも “データの収集・分析・活用” に関わるキーテクノロジーである。
 また、「脳科学」が取り入れられたX-Techの成果が大きかった理由としては、従来とは異なる “技術的な新規性” が大きいと思われる。前述のハイプ・サイクルでも脳科学はまだ黎明期に位置しており、「どのような事ができるのか?」「どこまでできるのか?」を十分に理解している人間は少ない。そのような成果が予想しにくい中で先んじて導入したX-Techビジネスであるため、その成果として好結果が得られたと回答者は感じているのではなかろうか。
 一方、成功とする割合が小さかった「チャットボット」「SNS」が取り入れられたX-Techについては、「脳科学」とは逆に “技術的な新規性” の点で、普及しきっていることもありユーザーにとって斬新さ・革新性の面が不足しているものと考えられる。

*) ガートナー社のハイプ・サイクルは、市場に新しく登場したテクノロジーがまず過熱気味にもてはやされ、熱狂が冷める時期を経てから、市場が確立し、市場分野における意義や役割が理解されるようになるまでの典型的な経過を示したものである

1.12. X-Techビジネスの本質的な提供価値

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techのユーザーにとっての本質的な提供価値について尋ねたところ、最も多いのは「従来と比べ明らかに、“効率が良い” (30.8%)」、次点が「従来と比べ明らかに、時間的に “早い・短い” (29.2%)」、「従来と比べ明らかに、価格や費用が “安い・得をする” (28.3%)」と続く。

【図表1-12】 X-Techの本質的な提供価値

【図表1-12】 X-Techの本質的な提供価値

【考察】

 X-Techビジネスにおいても、一般的な新規ビジネスと同様でその提供価値で多いのが、“安価”、“時短”、“効率UP” であった。つまり、先進テクノロジーを駆使するX-Techビジネスにおいても、従来の一般的な新規ビジネスと同様に、当然ユーザーにとって魅力的な価値であり、かつユーザー自身がその価値を受け取っていることが分かり易い価値を提供している企業が多いと言える。

1.13. X-Techの本質的な提供価値(大企業とベンチャー企業との比較)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techのユーザーにとっての本質的な提供価値について尋ねた結果を大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。
 大企業では、「従来と比べ明らかに、“効率が良い” (34.8%)」、次点が「従来と比べ明らかに、時間的に “早い・短い” (29.5%)」であった。
 ベンチャーでは、「従来と比べ明らかに、価格や費用が “安い・得をする” (31.5%)」、次点が「従来と比べ明らかに、金銭的に ”儲ける” ことができる (30.4%)」であった。

【図表1-13】 X-Techの本質的な提供価値(大企業/ベンチャー比較)

【図表1-13】 X-Techの本質的な提供価値(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業においては “時短”、“効率UP” といった効率性の側面に比較的提供価値の重心を置いているのに対して、ベンチャーにおいては “安価”、“儲かる” といった金銭的な側面に比較的提供価値の重心を置いている。
 大企業は他にも「従来と比べ明らかに、“正確で明瞭” な情報を得ることができる」「従来と比べ明らかに、知らないことが “分かる・知る”」「従来と比べ明らかに、“信頼できる・信用できる”」などの割合が大きい。つまり、大企業においては効率性に加え、正確性や信頼性を提供価値としている傾向にある。これは、大企業は本業において既にビジネスが成熟している状況にあることから、利益を最大化するためにその日常的なビジネス活動は自ずと効率性・正確性・信頼性を重視する発想に起因している点とは無関係ではないと推察する。言い換えると、大企業の場合は、従来の課題を見つけ、それを改善するようなビジネスを考える傾向にあると言える。
 一方、ベンチャーにおいては限られた経営資源の中で、ユーザーにとってより直接的な価値を提供するビジネス、新たな価値を付加するビジネスを考える傾向にあると言える。

1.14. X-Techの本質的な提供価値(提供価値に応じた取り組み結果)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techのユーザーにとっての本質的な提供価値、及びX-Techの取り組み結果について尋ねた2つの結果のクロス分析を行った。
 取り組み結果として「期待以上の成果が得られている」「期待通りの成果が得られている」の2つを “成功” と定義した場合、“成功” と位置付ける人が概ね55%程度である中、特徴的なのが「金銭的に “儲ける” ことができる」、及び「“信頼できる・信用できる“」「“楽しい・ワクワクする”」「知らないことが“分かる・知る”」「“正確で明瞭” な情報を得ることができる」「多くのユーザーと “つながる・場ができる”」である。
 「金銭的に “儲ける” ことができる」は “成功” と位置付ける人が74.5%と平均以上であったのに対して、「“信頼できる・信用できる“」「“楽しい・ワクワクする”」「知らないことが “分かる・知る”」「“正確で明瞭” な情報を得ることができる」「多くのユーザーと “つながる・場ができる”」はいずれも“成功”と位置付ける人が約45%~約30%と平均以下であった。

【図表1-14】 X-Techの本質的な提供価値に応じた取り組み結果

【図表1-14】 X-Techの本質的な提供価値に応じた取り組み結果

【考察】

 はじめに、取り組み結果の成功/失敗は様々な要因があることから、本質的な提供価値と因果関係があるかどうかは不明である点は留意されたい。その上で、本質的な提供価値として「従来と比べ明らかに、金銭的に “儲ける” ことができる」というのはユーザーにとっては、やはり魅力的であるため自ずと良い成果を得られている。一方、成果としての評価が低かった「“信頼できる・信用できる”」「“楽しい・ワクワクする”」「知らないことが“分かる・知る”」「“正確で明瞭” な情報を得ることができる」「多くのユーザーと “つながる・場ができる”」は、ユーザーにとってはそれほど魅力的では無い提供価値であると共に、「実際の成果は不明(計測不能)」という割合が多い点も要因としてあると思われる。加えて、成果が計測不能ということは、“従来” との大きな違いを見いだせているかも不明であるとも言える。そうした点を踏まえるとユーザーにとって魅力的な価値を提供するのは勿論、“従来” の同様サービスと大きな違いを見せつける必要があると言えよう。


2. X-Techビジネスの成功要因

2.1. ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する成功要因

 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する成功要因を尋ねたところ、大企業では「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(40.9%)」が最も多く、次いで「顧客ニーズの明確化(40.0%)」であった。
 ベンチャー企業においても「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(39.4%)」が最も多かったが、次点は「有望なターゲットセグメントの特定(33.8%)」となった。

【図表2-1】 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-1】 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 新しいサービスを始めるにあたり(起業するにあたり)、「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感」というようなミッションやモチベーションを強く持っていることは、企業規模や事業内容に影響を受けず共通であることがうかがえる。大企業が「有望なターゲットセグメントの特定」よりも「顧客ニーズの明確化」を、ベンチャーが「顧客ニーズの明確化」よりも「有望なターゲットセグメントの特定」を上位に挙げているのは、顧客との距離によるものであろうか。大企業においては顧客やユーザーと距離があるため顧客ニーズの把握は手間がかかるが、一旦把握してしまえばセグメンテーションはマーケティング部門やリサーチ会社が実行可能であり、一方ベンチャーはユーザーと近いためニーズの把握は容易であるが、その後マーケット全体を対象としたセグメンテーションとターゲッティングには労を要しているのではなかろうか。加えて社内リソースの多寡もこの傾向に影響を与えていると考えられる。裏を返すと、大企業は潤沢な社内リソースを元に広範囲な顧客セグメントに対して製品・サービスを提供できる半面で顧客とは距離ができるためニーズの把握が曖昧になり、ベンチャーは限られたリソースでニッチなセグメントを狙っていくことが多いためその狭い領域の顧客とは距離が近くニーズも把握しやすい、という状況であろう。
 また、このマーケティングに関わる2項目が大企業でもベンチャーでも「コアとなるテクノロジーの先進性や洗練度合い」より上位に来ていることは、テクノロジーの活用が必須となるX-Techビジネスにおいても、まずは顧客を知り見つけることが重要であり、技術はあくまでもそれを実現する手段であると言える。

2.2. ビジネスの構築・運用における推進方法に関する成功要因

 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する成功要因を尋ねたところ、大企業では「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(41.8%)」が最も多く、次点は「とにかくスピード。全てをクイックに推進(38.2%)」であった。
 ベンチャー企業においては、項目は同じながら順が入れ替わり「とにかくスピード。全てをクイックに推進(33.8%)」が最も多く、次いで「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(32.4%)」となった。

【図表2-2】 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-2】 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業とベンチャーで上位2つの項目は同一となっており、割合の差も小さいため順位にあまり意味は無いようにも思われる。ITビジネスが従来求めてきたスピード感を持ち、その裏でしっかりとしたビジネスプランがあることが成功に必要な要因になるのであろう。敢えて言うのであれば、大企業においては新サービス・事業を始めるにあたりある程度の事業計画が作成されていないと稟議すら行えないため、「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進」が上位に来た可能性はありそうだ。
 大企業、ベンチャーともに「とにかくスピード。全てをクイックに推進」と「やってみて考えるトライ&エラーで推進」の回答割合が高いのは、世に“リーンスタートアップ”、“グロースハック”と呼ばれているようなビジネスのやり方が勝ち方のひとつとして定着してきたことを示しているのではないだろうか。

2.3. ビジネスの構築・運用における “組織”の面に関する成功要因

 ビジネスの構築・運用における “組織” に関する成功要因を尋ねたところ、大企業では「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ(39.1%)」が最も多く、次いで「経営層のコミットメントやリーダーシップ(36.4%)」であった。
 ベンチャー企業においても「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ(39.4%)」が最も多く、次点は「経営層のコミットメントやリーダーシップ(23.9%)」となった。また「組織横断のタスクフォースの活動」、「関連部署の調整や協力」、「クイックにPDCAを回す体制」といった項目について大企業の回答割合の高さが目立っている。

【図表2-3】 ビジネスの構築・運用における “組織” の面に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-3】 ビジネスの構築・運用における “組織” の面に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ」は大企業もベンチャーも重要であると考えており、これは新規事業に取り組むにあたりリーダーシップが重要であるという一般論を裏付けるものであろう。また「経営層のコミットメントやリーダーシップ」、「組織横断のタスクフォースの活動」、「関連部署の調整や協力」、「クイックにPDCAを回す体制」といった項目で順位は同等であるにせよ回答した企業の比率はベンチャーのほうが相当低くなっており、これも大企業においてはエグゼクティブ層の支援を得られるか、組織の複雑化、部門間の壁など、一般的な課題を裏付けるものであると考えられる。

2.4. ビジネスの構築・運用における “ヒト”に関する成功要因

 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する成功要因を尋ねたところ、大企業では「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」、「経営者やマーケターとしての知識やスキルセットを有する経営人材」「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材」が39.1%で並んだ。
 ベンチャー企業においては上位3項目という点では挙がった項目は同一であるが、「経営者やマーケターとしての知識やスキルセットを有する経営人材(46.5%)」が最も多く、「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(39.4%)」が続き、「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材(25.4%)」は項目間の割合の差はそれなりに大きなものとなっている。また「データアナリスト・データサイエンティストのようなデータの専門家」についても大企業では31.8%が回答しているがベンチャーでは18.3%にとどまっており、差が大きなものとなっている。

【図表2-4】 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-4】 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業においてもベンチャーにおいても上位にあがった「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」、「経営者やマーケターとしての知識やスキルセットを有する経営人材」「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材」がX-Techビジネスを成功させる上で必要な人材なのであろう。ベンチャーにおいて「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材」や「データアナリスト・データサイエンティストのようなデータの専門家」を回答する割合が他の2項目に比べて相対的に低かったのは、技術人材が核となって起業されている場合が多く、この領域での人材は比較的充実しているためであろう。特に “業界知見” × “デジタル技術” によって生み出されるX-Techビジネスにおいては、技術は必須の要素となっていて不思議ではない。
 また大企業でもベンチャーでも「技術者と経営者の両方の知識やスキルセットを有する人材」という回答はあまり見られず、チームとして人材が揃っていればよく、一人で複数のことをこなすスーパーマンは成功要因として重視はされていないことがうかがえる。

2.5. ビジネスの構築・運用における “モノ”に関する成功要因

ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する成功要因を尋ねたところ、大企業においてもベンチャーにおいても「知名度やブランド力」と「顧客基盤・人脈」という回答が上位を占めた。大企業では「知名度やブランド力 (37.3%)」、「顧客基盤・人脈(30.9%)」と挙げており、ベンチャーでは「知名度やブランド力(39.4%)」、「顧客基盤・人脈(30.9%)」が挙げている。また「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用」、「社外の安価なクラウドや共用ITプラットフォーム」については大企業とベンチャーの間で差が大きく、大企業のほうが挙げる比率が高かった。

【図表2-5】 ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-5】 ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業においてもベンチャーにおいても「知名度・ブランド力」という回答が最も多く、営業網・販売チャネルやデータの利活用よりも上位に来たことは非常に興味深い。背景には、3点の理由が考えられるのではないか。1点目は数多くのスタートアップが乱立するX-Techビジネスの世界において、類似のサービス・製品も多く、どれだけ認知されているかがユーザーに選ばれる決め手になることが多い、というものである。2点目は、新しいサービス・製品の利用にあたってユーザーには一定の不安感が付きまとうものであるが、それを知名度やブランド力は和らげることができるというもの。最後は、ユーザー数を増やしネットワーク外部性を得るためには認知度が必要不可欠である、というものである。いまやITがコモディティ化し、誰でも様々なサービスを容易に利用できるし提供できる。そのため、知名度・ブランド力というのが差異化において重要な役割を果たしているのかもしれない。
 「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用」と「社外の安価なクラウドや共用ITプラットフォーム」に関して大企業の回答割合の高さが目立ったのは、新しいサービス開発に臨むにあたり “既存ITシステムの有効活用” と “安価な新環境へのマイグレーション” がどちらも有効な手段であることを物語っている。オンプレミスから社外クラウドへのマイグレーションがトレンドとなっているという認識が一般的ではあるが、レガシーシステムを有効活用することも選択肢としてあり得ることに留意しておきたい。もちろんレガシーシステムの維持活用にあたり、アプリケーションのみを維持しITインフラはクラウド環境に移行するなど、必ずしもこのふたつが相反するわけではないことも理解しておく必要がある。

2.6. ビジネスの構築・運用における “カネ”に関する成功要因

 ビジネスの構築・運用における “カネ” に関する成功要因を尋ねたところ、大企業では「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(44.5%)」が最も多く、次いで「様々なプレイヤー(企業やベンチャーキャピタル等)からの出資を受けた(38.2%)」であった。
 一方でベンチャー企業においては「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった(45.1%)」が最も多く、次いで「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(38.0%)」である。順序は入れ替われども上位3項目は大企業とベンチャーで同一となっており、大企業の3番目には「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった」が、ベンチャーの3番目には「様々なプレイヤー(企業やベンチャーキャピタル等)からの出資を受けた」が位置している。

【図表2-6】 ビジネスの構築・運用における”カネ”に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-6】 ビジネスの構築・運用における”カネ”に関する成功要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業においてもベンチャー企業においても「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった」と「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった」の両方が一定数の回答を得ており、企業規模に関わらず、金額ならびにスピードに関して的確な投資を行うことが成功要因となることが見て取れた。またこれは結果的にX-Techビジネスは “スモールスタートが可能である” ことを示している。クラウドに代表される安価なITインフラ環境が、X-Techビジネスの初期コストを引き下げていると言ってもよいのではないか。
 大企業において約4割の方々が「様々なプレイヤー(企業やベンチャーキャピタル等)からの出資を受けた」と回答していることについては意外であった。大企業であれば社内リソースのみを用いても十分にX-Techビジネスを始められると考えていたからである。当項目が回答された理由としては具体的に3点が挙げられるのではないか。1点目は他企業とジョイントベンチャーを設立したケースである。2点目は企業自体がホールディングス形式を採っていたり、グループが大きく子会社・関連会社が多数存在しており、グループ内企業からの出資が行われているケースである。最後は、金銭を伴わない協業もしくはいずれかからのサービス提供契約に基づき金銭がやり取りされているが、それが勘違いされているケースである。1点目もしくは2点目が回答の多くを占めるのではないかと推測している。

2.7. 外部人的リソース活用状況

 X-Techビジネスで成功したと回答した方々の社外人的リソースの活用状況に関して尋ねたところ、大企業では「ITベンダーのようなITの専門家の活用(31.8%)」が最も多く、次いで「グロースハッカーと呼ばれるITとマーケティングの両方に精通する専門家の活用(30.0%)」であった。
 ベンチャー企業においても「ITベンダーのようなITの専門家の活用(31.0%)」が最も多く、次点は「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(29.6%)」であった。

【図表2-7】 X-Techビジネスに成功した企業の外部の人的リソース活用状況(大企業/ベンチャー比較)

【図表2-7】 X-Techビジネスに成功した企業の外部の人的リソース活用状況(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業でもベンチャーでも「ITベンダーのようなITの専門家の活用」が首位となっているのは、X-Techが名のとおりITと密接に関わっていることを裏付けていると考えられ、技術に強いベンチャーは除くとしても、デジタル化に直面している大企業やビジネスアイディアを強みにしたベンチャーなど多くの企業がITに関する支援を必要としていることを示しているのであろう。またITに強みを持つベンチャーにおいても、“IT” に含まれる領域が非常に広くなった現在においては得意分野以外について支援を必要とする状態となっていても不思議ではない。これは「 ITベンダーのようなITの専門家の活用」、「データアナリスト・データサイエンティストのようなデータの専門家の活用」、「グロースハッカーと呼ばれるITとマーケティングの両方に精通する専門家の活用」というITケイパビリティを持つ人材に関していずれの企業種別においても軒並み20%を超える回答割合となっていることからもうかがい知れる。
 大企業においては「ITベンダーのようなITの専門家の活用」、「グロースハッカーと呼ばれるITとマーケティングの両方に精通する専門家の活用」が上位となり、ベンチャーにおいては「ITベンダーのようなITの専門家の活用」の次に「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用」が来ているのは、お互いの起業タイプによって内部に不足しているコンピテンシーについて外部機関を利用して補っているのであろう。


3. X-Techビジネスの失敗要因

失敗に関する設問について、ベンチャー企業にご在籍の方々から頂けた回答数が10にとどまっており非常に少数であるため、割合が極端な値になっていること、ならびに回答から読み取った傾向の信頼性が高いとは言えないものとなっていることにご留意いただきたい。

3.1. ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する失敗要因

 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(33.3%)」が最も多く、次いで「顧客ニーズの明確化(20.0%)」と「マネタイズ(収益モデル)の設計(20.0%)」であった。
 一方でベンチャーにおいては「情報・データの収集・分析・活用(30.0%)」と「戦略やビジネスモデルは敢えて固めず、構築・実行フェーズへ(30.0%)」が同率で最多となった。

【図表3-1】 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-1】 ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業において「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感」が最も多い回答となっているのは、一般的に言われていることだが、できあがった組織・ビジネスの中で新しい価値を生み出したりイノベーションを起こしたりすることの難しさを裏付けているのであろう。一方でベンチャーでは「情報・データの収集・分析・活用」ができなかった、「戦略やビジネスモデルは敢えて固めず、構築・実行フェーズへ」進んでしまった、という計画不足が失敗の原因になっているように見て取れる。

3.2. ビジネスの構築・運用における推進方法に関する失敗要因

 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「やってみて考えるトライ&エラーで推進(35.6%)」が最も多く、次いで「とにかくスピード。全てをクイックに推進(31.1%)」であった。 ベンチャーにおいては「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(30.0%)」と「周囲は気にせず、とにかく自分達がやりたい事・作りたい事だけを推進(30.0%)」が同率で最多となった。

【図表3-2】 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-2】 ビジネスの構築・運用における推進方法に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 「やってみて考えるトライ&エラーで推進」と「とにかくスピード。全てをクイックに推進」が大企業では多い回答となった。この2項目が成功要因のほうでも上位に位置していたことから、現在のITビジネスにおいて重要視されるスピード感のある事業遂行について上手く取り込めれば成功要因となるが、反面取り込みに失敗すればただ拙速であるのみになってしまうのであろう。
 一方でベンチャーでは「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進」という計画の甘さが失敗の原因となっていることが3.1に引き続き見られるのに加え、「周囲は気にせず、とにかく自分達がやりたい事・作りたい事だけを推進」というベンチャーにおける自立心や主張の強さが悪い方向に出てしまった場合に失敗要因となることがうかがえる。

3.3. ビジネスの構築・運用における “組織”に関する失敗要因

 ビジネスの構築・運用における “組織” に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「経営層のコミットメントやリーダーシップ(35.6%)」が最も多く、次いで「関連部署の調整や協力(31.1%)」であった。
 ベンチャーにおいても「経営層のコミットメントやリーダーシップ(50.0%)」が最多となり、次点は20.0%で「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ」「関連部署の調整や協力」「メンバーへの権限移譲」「メンバーのモチベーション」の4項目が並んだ。

【図表3-3】 ビジネスの構築・運用における “組織” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-3】 ビジネスの構築・運用における “組織” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業とベンチャー同様の項目が上位となった。ビジネスを牽引するための「経営層のコミットメントやリーダーシップ」と、遂行を円滑にするための「関連部署の調整や協力」が欠如した場合、失敗の主たる要因となるのは一般論として頷けるところである。「組織横断のタスクフォースの活動」について大企業の回答率が高くなっているのも、企業規模が大きくなると分業が進み組織を跨いだチームを組織する必要があるということからであろう。

3.4. ビジネスの構築・運用における “ヒト”に関する失敗要因

 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材(33.3%)」が最も多く、次いで「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(28.9%)」と「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(28.9%)」であった。  ベンチャーにおいては「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(30.0%)」と「営業人材(30.0%)」が同率で最多となった。

【図表3-4】 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-4】 ビジネスの構築・運用における “ヒト” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業においては新しい発想やイノベーションのコアとなる「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」と「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」が不足し、その他企業においてはビジネス遂行においても力を発揮できる「技術者と経営者の両方の知識やスキルセットを有する人材」が不足しているのは違和感の無い結果であった。
 ベンチャーにおいては、良いアイディアや技術があってもまだ全領域に関する人材を揃えられているわけではなく「営業人材」が上位に来るのは納得のいくところであるが、「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」が上位に来る理由がすぐには思い浮かばない。技術は良いものがあったが、それを活かすようなアイディアが継続的に出てこなかった、ということであろうか。

3.5. ビジネスの構築・運用における “モノ”に関する失敗要因

ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「知名度やブランド力(24.4%)」が最も多く、次いで「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用(22.2%)」と「情報・データの収集・分析・活用(22.2%)」であった。
ベンチャーにおいては30.0%で「知名度やブランド力」、「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用」「情報・データの収集・分析・活用」が同率で最多であった。

【図表3-5】 ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-5】 ビジネスの構築・運用における “モノ” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業とベンチャーで上位の項目は同一となっており、「知名度やブランド力」が挙がるのは、2.5.の成功要因の裏返しであろう。また成功要因としてはあまり回答の多くなかった「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用」や「情報・データの収集・分析・活用」が失敗要因の上位にくるのは、“既に持っているもの” の活用の如何が成功と失敗を分けていることを示唆しているとも考えられる。

3.6. ビジネスの構築・運用における “カネ”に関する失敗要因

 ビジネスの構築・運用における “カネ” に関する失敗要因を尋ねたところ、大企業では「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった(44.4%)」が最も多く、次いで「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(35.6%)」であった。
 ベンチャーにおいては「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(30.0%)」と「すぐに黒字化を求めず、中長期的スパンで先行投資をした(3年間や5年間は投資期間)」が同率で最多となった。

【図表3-6】 ビジネスの構築・運用における “カネ” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-6】 ビジネスの構築・運用における “カネ” に関する失敗要因(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業では一見すると逆に思える「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった」と「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった」が上位を占める結果となっている。これは前述2.6で成功要因を尋ねた際にも同様の結果となっており、単にスモールスタートであれば良い、単に予算が潤沢であれば良い、というものではなく、“適切” であることが成功要因であり、適切でなければ失敗要因となることを示唆している。
 ベンチャーにおいて、「すぐに黒字化を求めず、中長期的スパンで先行投資をした(3年間や5年間は投資期間)」が挙がっているのは、リソースに余裕がある大企業とは異なり、ベンチャーはあまりに未来志向であっても資金繰りなどがつかなくなり失敗に終わるのだろう。

3.7. 外部人的リソース活用状況

 X-Techビジネスで失敗したと回答した方々の社外人的リソースの活用状況に関して尋ねたところ、大企業では「活用しなかった(社内人材で対応した)(33.3%)」が最も多く、次いで「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(20.0%)」であった。
 ベンチャーにおいては「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(40.0%)」が最も多く、次点は20.0%で「金融機関や監査法人のような財務の専門家の活用」「起業家のようなイノベーションの専門家の活用」「活用しなかった(社内人材で対応した)」の3項目が並んだ。

【図表3-7】 X-Techビジネスに失敗した企業の外部の人的リソース活用状況(大企業/ベンチャー比較)

【図表3-7】 X-Techビジネスに失敗した企業の外部の人的リソース活用状況(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 企業規模に関わりなく失敗した企業に共通しているのは「活用しなかった(社内人材で対応した)」について回答割合が高いことである。2.7.で成功した企業にも同様のことを聞いているが、こちらではこの回答は概ね5%を下回る。このことからX-Techビジネスで成功するには自社内に閉じず、必要に応じて躊躇せず外部の人的リソースを活用することが必要であると示唆される。また、失敗した企業の中でも相対的に高い比率で「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用」は実施しており、技術や金融、法律といった分野に比べ、ビジネス領域の結果には不確実性が付きまとうことがうかがい知れる。


4. X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収

4.1. X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techの構築・運用にあたっての提携・出資・買収のアクション状況について尋ねたところ、最も多いのは「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した (21.8%)」、次点が「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった  (21.4%)」、「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した (16.6%)」と続く。

【図表4-1】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況

【図表4-1】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況

【考察】

 最終的に提携・出資・買収のアクションを取った割合は、全体の約6割にあたる(「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した」「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった」「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した」)。加えて、最終的に提携・出資・買収には至らなかったもののオープンイノベーションの実施や有望企業の模索など、提携・出資・買収へ向けたアクションを取った企業は約24%あった。従って、8割以上の企業はX-Techビジネスのために提携・出資・買収のアクションを取っているということである。
 これは、X-Techビジネスの特徴として、先進テクノロジーの導入や事業スピードが問われる点があることから、自社で有していない経営資源を他社で補完する目的や “時間(スピード)をカネで買う” 目的のためであると推察される。

4.2. X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況(大企業とベンチャー企業との比較)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techの構築・運用にあたっての提携・出資・買収のアクション状況について尋ねた結果を大企業とベンチャー企業に分けて比較を行った。
 大企業は、「出資や買収、提携などは最終的にしなかったがオープンイノベーションを実施した (9.5%)」を除いては全ての項目がほぼ16%~20%であった。特に「出資や買収、提携などは最終的にしなかった(出資・買収・提携を検討・模索しなかった (19.0%))はベンチャーと比べ割合が大きかった。
 ベンチャーは、「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった (30.4%)」が最も多かった。次いで「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した (21.7%)」「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した (19.6%)」と続く。

【図表4-2】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況(大企業/ベンチャー比較)

【図表4-2】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況(大企業/ベンチャー比較)

【考察】

 大企業は、提携・出資・買収へ向けたアクションは取るものの、必ずしも最終的に実施に至っている訳ではない。これは、ベンチャーと異なり自社で大きな経営資源を有しているためアライアンスが必須でない。加えて、企業によっては、大企業にありがちな “自前主義” のカルチャーが残っている等の理由が考えられる。
 一方、ベンチャーは約7割以上(30.4%、21.7%、19.6%の上位3項目の合計が71.7%)の企業が提携・出資・買収に至っており、X-Techビジネス実現のためには必要不可欠であることがうかがえる。

4.3. X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況(提携・出資・買収のアクションに応じた取り組み結果)

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techの構築・運用にあたっての提携・出資・買収のアクション状況、及びX-Techの取り組み結果について尋ねた2つの結果のクロス分析を行った。
 取り組み結果として「期待以上の成果が得られている」「期待通りの成果が得られている」の2つを “成功” と定義した場合、“成功” と位置付ける人が概ね55%程度である中、「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した (80.2%)」「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった (71.2%)」「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した (64.2%)」と、最終的に提携・出資・買収のいずれかに至った企業は高い割合で “成功” している。

【図表4-3】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況に応じた取り組み結果

【図表4-3】 X-Techの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況に応じた取り組み結果

【考察】

 はじめに、取り組み結果の成功/失敗は様々な要因があることから、提携・出資・買収のアクションと因果関係があるかどうかは不明である点は留意されたい。その上で、結論としては成功の割合の高いX-Techビジネスは、提携・出資・買収を行っている場合が多いことがうかがえる。特に “カネも出すし、クチも出す” というやり方の場合、8割以上(80.2%)が “成功” しており、加えて「期待以上の成果が得られている」が54.3%もあった。“カネは出すが、クチは出さない” という大企業が近年よく採るスタンスの場合、“成功” が71.2%であるものの「期待以上の成果が得られている」は27.9%である点を踏まえると、カネを出す以上、積極的に介入して協業・交流していくほうが良い結果が得られると言える。これは、ベンチャーは、ヒト・モノ・カネと何もかもが足りない状況であるため大企業のリソースを積極的に注入していくことが有効であることは当然なことである。ただし、ベンチャーの唯一の強みであるスピードやダイナミックな経営判断(リスクを取った経営判断)を殺さないよう大企業は気を付ける必要があろう。

4.4. X-Techにおける提携・出資・買収の成功要因・失敗要因の位置付け

 X-Techのビジネスの立案検討や立ち上げなどの経験がある人に対して、そのX-Techにおいて提携・出資・買収が成功要因なのか失敗要因なのか、及びX-Techの取り組み結果について尋ねた2つの結果のクロス分析を行った。
 X-Techの取り組み結果が「期待以上の成果が得られている」とする人は、X-Techにおける提携・出資・買収は「どちらかと言えば、いくつかある成功要因の1つと言える (50.8%)」と認識していた。

【図表4-4】 取り組み結果に応じた提携・出資・買収の成功要因・失敗要因の位置付け

【図表4-4】 取り組み結果に応じた提携・出資・買収の成功要因・失敗要因の位置付け

【考察】

 X-Techビジネスは期待以上の成果を出して成功していると回答した人の半数以上が、提携・出資・買収は成功要因の1つであると回答している点を鑑みても、X-Tech成功のためには提携・出資・買収が必要不可欠であることがうかがえる。


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