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2012年8月7日

株式会社NTTデータ経営研究所、京都大学経営管理大学院、京都大学大学院情報学研究科

暗黙の背景情報に支えられた価値共創型サービスに関する学際的研究を推進

株式会社NTTデータ経営研究所
京都大学経営管理大学院
京都大学大学院情報学研究科
株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:豊田 充、以下 NTTデータ経営研究所)と京都大学経営管理大学院(京都府京都市左京区、院長:徳賀 芳弘)および大学院情報学研究科(研究科長:佐藤 亨)は、暗黙の背景情報に支えられた価値共創型サービスに関する研究を、共同で推進します。
これまでの脳科学を活用した新産業創出のコンサルティングを通じ獲得した、NTTデータ経営研究所の脳科学の応用手法と、京都大学が取り組む、エスノグラフィーを通じたサービスサイエンスの研究方法論およびウェブマイニングによる知識循環のビジネスモデル創出手法を連携させた、学際的アプローチを取ることにより、価値共創型のサービスを多面的に分析し、そのメタ認知的理解を深めるとともに、産業応用への橋渡しを実現することを目指します。

【背景】

近年グローバル社会においては、サービス業の拡大はもとより、製造業においてもサービスシフトが著しく加速しています。このようなサービス化の流れの中では、より均質のものを、より低価格で届ける従来型サービスの流れに加え、提供者と利用者の暗黙の背景情報に支えられた、価値共創型のサービスが求められつつあります。

日本においても特徴的な価値共創型サービスとしては、顧客の些細な動作にまで配慮し、顧客がどのような人物であるか、どのようなニーズを持っているかを深く把握することにより、細やかな点まで行き届いたサービスを提供する旅館や料亭等の存在が知られています。このようなサービスは、生活習慣や文化的背景、経験などを暗黙に相互で交換し、価値をともに創り上げるサービスであることが特徴的であり、世界的にも高く評価されています。

しかし、価値共創型サービスは、暗黙的であることもあり、これまでその理解は不十分であり、それぞれのサービス提供者や利用者の勘や経験に頼った発展がなされてきたと言えます。実際、価値共創型サービスは、国や文化を超えて共通性を有しながらも、深層心理に隠れてしまう無意識的な側面と、文化に深く根ざしているがために、異文化はもちろん、自文化ですら理解が難しい文化継承的な側面や、さらに、状況に応じて価値の流動性をもたらす一過性の側面が、複雑に絡み合っているものです。

そこで、NTTデータ経営研究所および京都大学側は、脳科学、エスノグラフィー、ウェブマイニングを活用することにより、価値共創型サービスの分析を可能とする学際的研究を、共同で推進します。

【研究内容について】

価値共創型サービスの分析のためには、①深層心理に隠れてしまうサービスの無意識的な側面の理解、②文化に深く根ざしているサービスの文化継承的な側面の理解、③それら両側面に起因するサービスの一過性を超えた定量的な理解が必要であるため、多面的な検討が求められます。

そのため、①については、脳科学を活用した新産業創出のコンサルティングを実施している、NTTデータ経営研究所が、近年、研究成果の蓄積が著しい脳科学を用いて、サービスの無意識を含む認知の特徴を理解することを目指します。②については、京都大学経営管理大学院が、エスノグラフィーや相互行為の分析を活用し、サービスを深く観察することにより、文化の中に潜むサービス提供者と受容者のインタラクションの特徴を把握することを目指します。③については、京都大学大学院情報学研究科が、ウェブマイニングを活用し、Webにおけるサービスの評判情報の評価と活用を目指します。これらを統合し、学際的アプローチを取ることにより、価値共創型サービスを多面的に分析し、そのメタ認知的理解を深めるとともに、産業応用への橋渡しを実現することを目指します。

そこで、研究推進の端緒として、これら学際的アプローチを、日本の価値共創型サービスの代表的サービスである伝統的な寿司店に適用し、予備的な研究を実施しました。

図

① 脳科学を用いたサービスの無意識を含む認知の分析結果

脳科学の社会的認知に関する知見を基に、サービスの認知に関するソーシャル・ブレイン・モデルを構築し、本モデルに従って、今回の実験で実施した心理アンケートやデプスインタビュー結果を分析しました。その結果、サービスの無意識を含む認知は、性別はもとより、利用者のサービス知識や、例えば上司との会食といった社会的文脈により異なることが明らかになりました。具体的には、寿司に関する高い知識を有する利用者や、社会的に高い立場にある利用者は、そうでない人に比べ、寿司そのものよりもその提供方法など、より暗黙的な行為に関心を向けており、それが価値共創に繋がっていたことが分かりました。

つまり、日本の寿司店においては、サービス知識の保有とその利用が、価値共創における重要な要因と言えます。脳科学的にも、相手の行為を理解し内面を評価する、高次の認知的な脳領域(背内側前頭前野:DMPFC)と、その結果として得られる成果を評価する、情動的な脳領域(腹内側前頭前野:VMPFC)は、異なっていることが分かっており、具体的な脳計測の研究を待たねばならないものの、今回の結果はそれらとも整合性が高いと言えます。

図

② エスノグラフィーや相互行為分析を用いたサービス提供者・受容者の関係性の文化的特徴の分析結果

伝統的な寿司店においては、注文の順番に一定のルールが存在することや、メニューが掲示されていない状況で注文を決めなければならない等、文化的に特徴のあるサービス様式が取られています。これらサービス提供者・受容者のインタラクションをビデオ撮影や音声記録、またサービス受容者へのインタビューを通じて、その特徴を分析しました。

その結果、サービス受容者は、単に自身が食べたいものを注文するだけではなく、これまでの経験や知識を踏まえて、文化的に妥当な選択をするよう振る舞っていることが分かりました。また、サービス提供者が、その振る舞いを評価することにより、より良いサービスの提供を志向することに繋がり、サービスに緊張感が醸成され、その結果、価値共創を実現していることが分かりました。このような行為を通じた知識のせめぎ合いは、たとえ日本人であっても、言われるまでは気づきにくいのみならず、異なる文化においては、理解すら難しく、文化的側面を捉える深い観察の成果と言えます。

伝統的すし店のイメージ写真

③ ウェブマイニングを用いた顧客のサービス評価と活用の分析結果

前述の脳科学およびエスノグラフィーを用いた分析結果を参考にすると、価値共創型サービスにおいては、サービス知識に基づいて行動に配慮することが重要であり、そのせめぎ合いが日本の寿司サービスにおける価値共創の本質であると考えられます。そこで、この仮説を前提に、ウェブマイニングの手法を用いることにより、Webに投稿されるレストランの評判情報を知識の観点から再評価し、より効果的な価値共創型サービスの評価方法を試行しました。

具体的には、サービス評価者の専門性を、評価の確かさから推定し、その評価者の発言に重みをつけた評価アルゴリズムを開発しました。その結果、サービスに対する知識の専門性が、サービスの評価にとって重要であり、より高精度の価値共創型サービスの評価方法が実現できることが明らかになりました。

図「Proposed Method based on HITS Algorithm」

以上の通り、脳科学、エスノグラフィー、ウェブマイニングを連携させる予備的な取り組みの中で、まずは、日本の価値共創型サービスの代表例である伝統的な寿司店のサービスの特徴を捉え、サービスの評価方法に繋げる研究に適用しました。

今後、日本のその他のサービスはもちろん、その他の地域、文化圏での価値共創型サービスに関する多面的な分析を進めていくことで、そのメタ認知的理解を深めるとともに、産業応用への橋渡しを推進することを目指します。

これら研究成果は2012年7月27日に米国シリコンバレーで開催されたSRII(Service Research and Innovation Institute) Global Conference 2012にて発表されました。

なお、本研究は文部科学省グローバルCOEプログラム(知識循環社会のための情報学教育研究拠点)の支援によるものです。


【本件に関するお問い合わせ先】

報道関係のお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所
プラクティスサポート部 
井上 国広
Tel:03-5213-4170
E-mail:webmaster@keieiken.co.jp

内容に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所
マネジメントイノベーションセンター
山川 義徳・藤澤 順也
Tel:03-5213-4160(代表)/03-5213-4115(直通)
E-mail:can-neuroscience@keieiken.co.jp

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