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「環境新聞」2015年1月28日より

リサイクルビジネス進化論(17)
~勝者のコアコンピタンス~
業界全体のブランド力強化を/「人材」が左右する競争力

株式会社NTTデータ経営研究所
資源循環ネットワーク代表理事
シニアマネージャー 林 孝昌

 国内の人手不足が深刻化している。特に派遣・日雇労働者の不足は、建設業や運送業の受注拡大の足枷となり、その影響はリサイクルビジネスにも直結する。ドライバーや工場作業員の単価は上がり、定着率は下がり、無理な求人が作業の品質を低下させる。オーソドックスな解決策は、正規雇用拡大である。それでも、売り手市場の今、他産業でなくリサイクルビジネスを選択してもらうことは容易ではない。

 環境産業という「冠」の価値は高まったが、産廃処理業というネガティブイメージが完全に払拭された訳ではない。一方、健全なビジネスとしての競争が本格化する中、濡れ手で泡の利益で人材を惹き付けることも有り得ない。必要な人材を特定した上で、その人材が望む待遇や機会を提供する、当たり前の経営努力を見直すべき時が来ている。本稿では、リサイクルビジネスに求められる人材像についての検証を行う

 まず、ドライバーや工場作業員等の現業人材である。身も蓋もないが、雇用条件や給与面の改善抜きに、優秀な人材を確保することはできない。廃棄物を扱う以上、コンプライアンスリスクは製造業以上に高く、人材の使い捨ては致命的な事故を招きかねない。昨今は選別作業員への障害者雇用も拡大しつつあるが、工場までの送迎等を含む作業環境の充実が大前提であり、「安価な労働力」との見方は間違いである。ただし、行政を巻き込んだ地域密着型の雇用創出という方向性は正しい。質の高いリサイクルには人手が必要な以上、一定水準の雇用条件が保たれる産業、さらには雇用創出力の高い産業として、地域単位の認知を高めることが、雇用安定確保のみならず、業界水準の底上げにもつながる。

 次に営業人材である。多品目を取り扱うトータルソリューションのニーズが高まる中、値決めと人脈頼みの営業には限界が来ている。有価物を含む収集品目、排出時の分別形態や収集頻度、処理手法、情報システム導入等、排出者側に提案できるサービスは多岐にわたる。ソリューション営業の強みは、排出事業者の細かなニーズを汲み上げて、横並びの価格勝負を避けることに尽きる。営業人材の提案力とはすなわちコンサルティング能力であり、会社側がその引き出しを少しでも増やすことが付加価値の高い営業の前提となる。

「人材」が左右する競争力

 最後に、経営人材である。国内市場が縮小する中での生き残りには、シェア(規模)を拡大するか、事業領域を多角化するか、海外市場に出るか、という3つの選択肢しかないため、明確な経営の意志が不可欠である。幸いにもリサイクラーは大手もほとんどが未上場であり、オーナー社長が会社の大方針を決断できる。それでも、個人の能力に限界があり、チームとしての経営力を高めることが決断の成否を握る。こと経営に限っては、専門性の多寡は決断能力と比例しない。幅広い人材を育成・登用して、その英知を絞り出す仕組みの整備がトップの役割であり、リサイクルビジネスもその例外ではない。

 リサイクルビジネスに特化した特殊な人材ニーズは存在しない。業界全体の地道なブランド力強化が、競争力強化に資する人材確保の王道である。



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