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地域の持続的発展に向けたスポーツチームと地域金融機関の関わり方
~スポーツチームとの連携が地域金融機関の1つの生き残り策となる可能性~

情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット
シニアコンサルタント 竹中 大也
(監修 同アソシエイト・パートナー 河本 敏夫)

はじめに

 スポーツ産業は「日本再興戦略2016」の中で、成長分野と位置付けられ、2015年時点で5.5兆円だった市場規模を2025年には15兆円までに拡大する目標が設定されており、日本の成長を支えるエンジンの1つとなることが期待されている。また、「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」の中でも、スタジアム・アリーナなどのスポーツ施設やプロスポーツチームなどのスポーツ資源を活用した地域経済の活性化が掲げられており、地方創生においても期待される役割は大きい。
 一方、地方創生にて重要な役割を担っている地域金融機関は、少子高齢化や人口減少などの影響から厳しい経営環境に置かれている。金融庁からも、「持続可能なビジネスモデルの構築」や「地域企業などとの共通価値の創造」などが求められており、地域経済・社会の実態をより詳細に把握しながら、地域に根差した経営が必要になってくる。
 そこで本稿では、地域の社会課題解決に取組むという共通理念を持ったスポーツチームと地域金融機関がこれまで以上に連携する必要性について解説したうえで、あるべき連携体制や双方のビジネスメリットについて考察を述べたい。

「地域金融機関の共通価値の創造」と「スポーツチームの社会貢献活動」との連携

・地域金融機関は共通価値の創造に取組めているか?

 金融庁は地域金融機関に対し、顧客である地域企業との共通価値の創造に取組むことが重要で、共通価値の創造が持続可能なビジネスモデルモデル構築にもつながるとの指針を出している。ここでいう「共通価値の創造」とは、「地域金融機関が地域企業の真の経営課題を的確に把握した上で、その解決策の策定・実行に必要なアドバイスやファイナンス等を提供し、地域企業の生産性向上や地域経済の発展に貢献していくこと、この貢献が地域金融機関にとっても継続的な経営基盤の確保にもつながる一連の取組み」のことを指す
 地域金融機関は、これまで主体的に共通価値の創造に取組んでこなかった。例えば、新規顧客となる可能性がある地域課題解決に取組もうとするベンチャー企業への支援にそれほど積極的とはいえず、政府・地方自治体の後押しや地元有力企業の紹介などがあって初めて検討を始めるというケースが一般的であった。しかしながら、共通価値の創造には、地域のベンチャー企業やソーシャルセクター等と共に考え共に歩み、自らが主体的にリスクをとっていく姿勢が必要である。受動的な姿勢のみでは地域金融機関が直面する構造的な問題を打開することは難しいと考えられる。今後は、地域金融機関自身が主体的に地域課題解決に取組む企業などを発掘・支援し、共通価値を創造していくことで、持続的なビジネスモデルの構築をしていく必要がある。

・スポーツチームの社会貢献活動が進化している

 一方、スポーツ分野ではスポーツチームが様々な地域関係者に巻き込みながら、社会貢献活動を通じて地域課題解決に取組もうとする動きが活発化している。
 スポーツチームにおける社会貢献活動という言葉を耳にすると、真っ先に思い浮かべるのはJリーグチームのホームタウン活動ではないか。Jリーグは発足当初より、地域密着という思想を掲げ、地域社会と一体となったクラブづくりを行いながら、サッカーの普及・振興に努めている。このようなスポーツチームによる社会貢献活動は、野球やバスケット、ラグビーなどの他の競技にも広がりをみせている。
 2018年のJリーグクラブのホームタウン活動数は、全54クラブで年間約21,000回にのぼり、平均すると1クラブあたり年間約390回行っている計算となる。活動内容は地域の健康増進・振興・社会課題などに資する取組みとなっている。このJリーグの取組みは現在進化を遂げ、これまでのクラブが中心で行う活動から、地域関係者とより幅広く連携しながらクラブを使ってもらい、地域の社会課題解決などに取組むという形に変貌をとげようとしている。社会課題も少子高齢化・子育て問題など様々な要素が絡みあい複雑化しており、自治体・企業・NPO・住民などの関係者がそれぞれの強みを活かしながら、課題解決に取組む流れが主流となっている。このような流れを鑑みれば、Jリーグクラブ(スポーツチーム)が持つ夢・感動・地域の一体感などの強みを活用してもらう体制は、Jリーグクラブに不足している人的リソースなどを補いがら、社会課題解決という目に見える形での効果をスピーディーに出せる点からも、有効な体制であると考えられる。

スポーツと地域金融機関の関わり方の現状と課題

 これまで地域金融機関は、CSRの視点でスポーツチームやイベントのスポンサーになるという関わり方が主流であったが、最近ではスポーツの価値に着目し、主体的に地域活性化に取組む事例も増えつつある(下表)。

 これまで述べてきたとおり、スポーツチームは様々な地域課題に目を向けて社会貢献活動を行っているが、単独ではリソース不足などもあり、社会貢献活動止まりで地域課題解決までには多大な時間を要してしまうことが想定される。一方、地域金融機関は主体的な地域課題解決に取組めておらず、豊富なアセット(ヒト・モノ・カネ・ネットワークなど)も活かしきれていない。そこでお互いの強みを活かし、弱みは補完しながら、地域金融機関が主体となり、連携しながら地域課題解決に取組むことができるのではないか。これが、共通価値の創造が実現できる1つの手段となり、地域経済の持続的発展や地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築につながるものと考えられる。

地域金融機関の強みを活かした具体的な連携スキームの検討

 地域課題解決には、課題を整理しながら、様々な関係者を有機的に結びつけられる役割が必要である。そこで地域でのネットワークや経営管理ノウハウなどを有する地域金融機関に、そのハブ機能の役割が期待できる。その理由として、筆者はこれまでベンチャー企業の支援や地域企業の新事業展開支援に数多く携わってきたが、成功しているケースの多くは、経営や事業化のノウハウを有する社内外の人材が、新しい技術やアイディアを持った会社や人材をサポートできていた点が挙げられる。同様にイノベーション創出などにより社会課題を解決する際も、地域金融機関の金融支援や経営管理ノウハウを活かす体制が課題解決の近道となるのではないかと考えられる。
 具体的な体制としては、地域金融機関が組織責任者となり、地域プロモーター組織を設立(下図)。地域金融機関は、①地域課題の整理、②課題に応じた関係者との共創体制の構築、③イノベーション創出に必要となる資金の供給、④Fintechなどのテクノジーの活用などの役割を担いながら、地域課題解決に向けたイノベーション創出などを実施する。その際に社会貢献活動を数多く実施しており、感動や夢などを届けることのできるスポーツチームと連携することで、地域の一体感が生まれ、課題解決に向けたスピードの加速や課題解決可能性を高めることができるのではないかと考えられる。

連携により期待される効果

・スポーツチーム

 スポーツチームにとっては、これまで以上に関係者と連携することで、地域課題解決などのよりインパクトのある社会貢献活動を行うことができる。これにより、地域住民・企業はスポーツチームの存在価値などを再認識し、ファンが数多くスタジアムに足を運んだり、スポンサーとして資金提供を行うケースが増え、安定したチーム運営につながるのではないかと考えられる。また場合によっては、地域課題にも関連したスポーツチームの課題(例:住民の健康増進も促進できるスタジアム建設)を地域プロモーター組織に採り上げてもらうことで、チームの成長・発展にもつながるのではないか。

・地域金融機関

 地域金融機関にとっては、3つの大きな効果が期待できるのではないかと考えられる。
 1つ目の期待される効果は、地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築である。経済・社会問題などの地域課題解決に取組むことで、地域企業の既存事業の維持・発展や新規事業の創出などといった経済成長やイノベーションが地域に生まれる。そこに資金提供や経営支援アドバイスなどの金融機関のビジネスチャンスが生まれ、持続可能なビジネスモデルが構築できる可能性が高まるのではないか。
 2つ目は、地域金融機関自身のイノベーション創出である。本稿の連携スキーム案においては、金融機関の社員が組織責任者となり、自らが課題を整理したり、関係者などとの連携を行いながら、地域課題解決に取組む体制となっている。これにより、自らが考え、事業を創造し、関係者をコーディネートする能力などが新たに身に付くと考えられる。このような人材が育つと、新商品開発や新規事業などが生み出される機会も増えると考えられる。
 3つ目は、地域金融機関の地域でのプレゼンス向上である。地域に根差した課題に対し、主体的にスポーツチームなどと連携しながら解決に取組む姿勢は、これまでの地域金融機関にあまり見られなかった姿勢であり、この姿勢の変化は地域住民・企業からの高く評価され、地域には欠かせない存在であることを再認識させることができると考えられる。

 これから日本では、2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピック、2021年にワールドマスターズゲームズ関西などの大規模スポーツイベントが開催される。これを契機に、国民はスポーツから得られる感動体験などの価値を目の当たりにすることとなり、スポーツの価値を再認識するであろう。すると今度は、自らが居住する地域のスポーツチームなどを応援する気分が新たに醸成されてくるものと予想される。この際に生まれる地域の一体感などを上手く活かし、スポーツチームや地域金融機関が連携しながら地域課題解決などに取組むことが、地域の持続的発展につながる大きなチャンスとなるのではないか。
 弊社では、地域課題解決のコンサルティングや産学官連携の組織プロジェクトの立ち上げや運営支援などを手掛けております。また、スポーツ分野においても、ビジネスコンサルティング(※1)や弊社が事務局となり、異分野・異業種の連携、産学官の知見・技術の融合などによる事業創発プラットフォーム「Sports-Tech & Business Lab」(※2)の運営も行っています。ご興味があれば是非ご連絡ください。

(※1)https://www.nttdata-strategy.com/services/sports_business/index.html
(※2)https://www.nttdata-strategy.com/stbl/

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  • ⅰ. 金融庁「変革期における金融サービスの向上に向けて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」