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選挙×デジタル
~選挙におけるデジタル化の可能性~

情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
コンサルタント 渡辺 郁弥

はじめに

 今般、選挙において新たなデジタル技術を活用しようとする動きが諸外国で見受けられる。主にブロックチェーン技術が注目されており、投票や情報操作等における不正行為を排除できるという点が期待されている。他方で、セキュリティ面等の懸念が挙がっており、議論すべき課題が多く残っている※1

 我が国においても、2014年5月に「投票環境の向上方針等に関する研究会」が発足し、選挙の公正を確保しつつ、有権者が投票しやすい環境を整備するための具体的方策等が約5年に渡り議論されている※2

 選挙のデジタル化には2つの側面があると筆者は考えている。前述の研究会のとおり新たなデジタル技術を活用した電子投票等の環境整備(政府・有権者側)とデジタルマーケティングを駆使して有権者とのタッチポイントをつくるデジタル戦略等の実行(政党・候補者側)である。(図1)

図1 デジタル技術が繋ぐ2つの側面

図1 デジタル技術が繋ぐ2つの側面 出所:NTTデータ経営研究所で作成

 本稿では、上記2つの側面を鑑みながら諸外国の動向を捉えつつ、我が国の選挙におけるデジタル化の可能性について概説する。

1 選挙の前提知識 ~公職選挙法について~

 選挙のデジタル化を述べる前に、まずは前提知識として我が国の公職選挙法について触れておきたい。

 公職選挙法とは、公職(国会議員、地方公共団体の議会の議員・首長)に関する定数と選挙方法に関して規定する日本の法律で1950年4月15日に制定された。

 近年では、2013年5月26日にインターネット選挙運動解禁が施行、2016年6月19日には18歳選挙解禁が施行され、選挙の性質が大きく変わった。(図2)

図2 インターネット選挙運動解禁でできること

図2 インターネット選挙運動解禁でできること 出所:NTTデータ経営研究所で作成

 昨今の公職選挙法の改定により、有権者のうち特に若者がSNSやブログ、インターネット等を介して政治・選挙に参画する機会が増えたことは記憶に新しい※3

 2019年4月には地方統一選挙が控えており、18歳選挙解禁後初めての地方統一選挙となるため、政党・候補者のデジタルマーケティング戦略に注目が集まっていると言える。

 他方で、電子投票等の環境整備については、我が国では多くの課題が残されているが※4、諸外国では新たなデジタル技術を活用した電子投票の動きが行われている。

2 諸外国における新たなデジタル技術の活用

 世界で初めて国政選挙の電子投票に成功した国は、エストニアである※5。電子投票は2005年の地方議会選挙から実施され、2007年には世界初となる国政選挙の電子投票を実現し、現在も幅広く利用されている。

 電子投票に必要なものは、PCもしくはスマートフォンとインターネット環境、エストニア国民一人ひとりに割り振られた一意の番号が入ったIDカードとカードリーダーである。

 電子投票の仕組みは、IDカードを用いた電子署名と合わせて、有権者の本人確認と投票内容の秘密を保護するための「二重封筒方式」によって、より便利で安全な電子投票を可能としている。(図3)

図3 エストニアにおける電子投票の仕組み

図3 エストニアにおける電子投票の仕組み 出所:General Framework of Electronic Voting and Implementation thereof at National Elections in Estoniaを基にNTTデータ経営研究所で作成

 エストニア以外の諸外国においても、ブロックチェーン技術を活用して電子投票に向けた取り組みが進められている※6

 ウクライナでは、選挙の投票プロセスにネム(NEM/XEM)のブロックチェーン技術を活用するための実証実験が行われている。ウクライナでは、2004年の大統領選挙で不正行為が発覚したため、選挙の透明性・不正を排除できる仕組みを目指している。

 ロシアの独立系選挙監視団体であるNational Public Monitoring(NOM)は、改ざん防止等を目的としてブロックチェーン技術を取り入れた電子投票システムのテストを開始している。

 アメリカ ・ウェストバージニア州においても、2018年11月にブロックチェーン技術を活用した投票アプリが初めて連邦議会選挙で使用された。今回の選挙では30カ国に駐在する144人のウェストバージニア州有権者が、ブロックチェーン投票アプリを利用して投票を行ったとされている。

 諸外国の動きから読み取れるとおり、電子投票等はまだ検証段階と言える。我が国において電子投票等が実現すると、滞在地不在者や障害者等の投票しにくい状況にある有権者の”利便性向上”等に結びつけることが可能である。

 これらを目指すには、局所的に施策を検証しながら我が国としての成功事例を集めることである。諸外国を参考にしつつアジャイル的にPoCを繰り返し、知見・ノウハウを蓄積して国家プロジェクトとして長期的な視野で取り組んでいくべきだと筆者は考える。

 一方、2019年は4月に地方統一選挙、7月には参議院議員通常選挙を向かえる"亥年選挙"が目前に迫っている。インターネット選挙運動と18歳選挙が解禁されている現在、政党・候補者にとって有権者とのタッチポイントをつくるためのデジタルマーケティングは欠かせない。

 そこで、政党・候補者が取るべきデジタル戦略を考察していきたい。

3 選挙におけるデジタル戦略の必要性

 インターネット選挙運動の始まりは、1992年に米国の民主党大統領候補予備選挙でブラウン候補が、初めて電子メールによる選挙運動を行ったとされている※7

 その後、米国では1996年の大統領選挙時、インターネット選挙運動を行う候補者が急激に増えホームページの開設や、2000年の大統領選挙時には選挙資金集めにインターネットを活用して多額の政治献金を集めたことが注目された。

 2012年の大統領選挙では、オバマ陣営がソーシャルメディアをフル活用し、政策発信や支持者の友達機能等の人的繋がりを利用するデジタル選挙を展開した。対立候補への誹謗・中傷等の懸念があるが、米国には「表現の自由」を尊重する見方が強く、インターネットを活用した選挙を後押しする風潮がある。

 我が国においても、各政党・候補者がウェブサイトやFacebook、Twitter等を始めとしたSNSを積極的に活用した動きが見られる※8

 インターネット選挙運動解禁後、初の衆議院議員総選挙となった2014年、各政党は選挙に向けた特設サイトの開設等を行い、インターネット広告を最大限活用するとともに、数種類のSNSを駆使したデジタル戦略を繰り広げた。(図4)

図4 各政党のデジタル戦略によるサイトアクセス推移(2014年)

図4 各政党のデジタル戦略によるサイトアクセス推移(2014年) 出所:SimilarWeb PROでの分析結果を基にNTTデータ経営研究所で作成

 デジタル戦略と選挙結果の相関関係を紐解くには、さらなるデータ収集・蓄積、分析等が必要となるが、従来と比べると選挙活動を目にする媒体が増えたことは自明である。

 しかしながら、選挙の世界はまだまだアナログと言える。

 例えば、選挙時に有権者に配布する選挙運動用ビラには、「証紙」と呼ばれるシールを貼らなければならないと公職選挙法で定められている。これは、候補者の資金力によって配付できる枚数が異なるため、公平性を担保するために「証紙」の上限を設け、配付できる枚数を制限している。配布できる選挙運動用ビラの上限は、例として都道府県議会議員選挙で16,000枚、政令指定都市議会議員選挙では8,000枚、政令市以外の市議会議員選挙と特別区議会議員選挙は4,000枚と定められている。言い換えると、選挙運動用ビラに「証紙」の上限分を”手作業”で貼る作業が発生するということである。選挙運動用ビラを電子化すれば、紙媒体にかかる”コスト削減”や”作業効率化”が実現できることは想像に難くない。

 また、選挙運動の代名詞として、電話・はがき・選挙カー等による投票の呼びかけがある。中でも選挙運動用はがきは、候補者の顔写真や名前が印刷されたもので、有権者にアピールする有効な手段の1つである。こちらも枚数に制限があり、例として都道府県議会議員選挙では8,000枚、政令指定都市議会議員選挙では4,000枚、政令市以外の市議会議員選挙と特別区議会議員選挙は2,000枚と定められている。はがきの印刷代は候補者負担となるが、郵送代金は公費で負担される。すなわち、国民の税金から賄われているということである。選挙運動用はがきを電子メールやSNS等で代替すれば、準備する手間も国民が負担するコストも削減することが可能と言える。

 選挙運動用はがきは、公費負担の氷山の一角に過ぎず、2014年の衆議院議員総選挙では約600億円の費用がかかり※9、国民1人あたり約600円を負担した計算となる。

 我が国において選挙のデジタル化が進まない要因の1つとして、候補者と有権者のタッチポイントが、デジタルよりもアナログ(紙媒体等)の方に有効性が認められるということである。言わばアナログの選挙は、古くから続いてきた一種の伝統芸能と表現することもできるが、デジタル技術の活用によって社会・市場の劇的な変革が起きつつある中、選挙においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の可能性を模索したい。

4 選挙×デジタル ~選挙におけるデジタル化の可能性~

 選挙のデジタル化とは、電子投票等の実現による有権者の利便性向上(付加価値創出)やIT・デジタルツール等を活用した作業効率化・コスト削減によって、豊かな社会の実現に寄与することであると筆者は考える。(図5)

図5 選挙のデジタル化で実現できること

図5 選挙のデジタル化で実現できること 出所:NTTデータ経営研究所で作成

 Society 5.0※10の実現を目指す我が国としては、選挙においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を筆者は提唱したい。

 なぜならば、デジタルの活用によって全ての人とモノが繋がり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、我が国における課題や困難を克服する一助となる可能性を秘めているからだ。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、豊かな社会を実現する。正にデジタルに期待されている役割であると筆者は考える。

おわりに

 選挙×デジタルの実現には、まだまだ多くの積年の課題が残されているが、我が国において避けては通れない道である。

 諸外国の動向に注視しつつ、政治・政策、選挙の分野やデジタル戦略の観点で筆者も支援していきたいと考える。

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