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デジタル・ガバメントとITガバナンス ~政府のITガバナンスに係る政策動向~

情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
シニアマネージャー 中西 淳一

はじめに

 現在我が国では、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年7月20日 デジタル・ガバメント閣僚会議決定)に基づき、デジタル・ガバメントの実現に向けた様々な取組が実行されている。デジタル・ガバメント実行計画では、「利用者中心のサービス改革」、「プラットフォーム改革」、「価値を生み出すITガバナンス」の3つの方向性が打ち出されており、ITガバナンスの構築は重要なテーマのひとつである。

背景

 新たな電子行政の方向性を議論してきた政府の電子行政分科会によると、従来の政府情報システムのITガバナンスにおいては、コスト削減、調達制度改革といったアプローチが取られ、一定の成果を上げてきたが、今後は「投資の最適化」や「マーケティング」、「職員の能力を最大化するための新技術・サービスの積極的導入」、「イノベーションを推進できる体制づくり」といったアプローチに変化していく必要がある。

図1 価値を生み出すITガバナンスについて

図1 価値を生み出すITガバナンスについて

  

 つまり「コスト削減」、「効率化」から、「価値や効果の最大化」、「新技術・サービス導入及びイノベーション推進」へとシフトすることが「価値を生み出す」ITガバナンスの狙いである。

 以上の議論を踏まえ、下記の流れに沿ってデジタル・ガバメント推進方針、デジタル・ガバメント実行計画、各府省デジタル・ガバメント中長期計画とITガバナンス見直しの方向性は具体化・詳細化されていくこととなった。

図2 IT政策の体系

図2 IT政策の体系

  

デジタル・ガバメント推進方針の策定

 電子行政分科会における議論を踏まえ、政府はデジタル・ガバメント推進方針(平成29年5月30日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)決定)を策定した。同方針においては、「価値を生み出すITガバナンス」について、以下の方針が示されている。

【方針3】価値を生み出すITガバナンス

【方針3-1】サービス改革に対応した推進体制の整備

  • ● 政府横断的な行政サービス改革を推進するため、政府CIOを中心とした政府横断的な体制を強化し、一府省では突破困難な改革を中心に、サービスの企画立案段階から改革を支援する。改革の支援に当たっては、内閣官房及び総務省を中心として、分野横断の改革を推進するチームを整備し、個別取組への支援、試行的な取組の推進や各取組から得られたノウハウの横展開等を行う。
  • ● 各府省のITガバナンスの強化を図るため、各府省CIO、副CIO、政府CIO補佐官、PMO、PJMO等からなる府省内の体制について、それぞれが果たすべき役割等の明確化を行うとともに、会計、人事及び広報等、関連部門との連携体制を構築する。また、果たすべき役割等に応じた適切な人材配置や、情報システムやデータを活用する職員のリテラシー向上も含めた人材育成を推進する。
  • ● 投資管理、コスト削減、オンライン推進等の電子行政推進に関する各種取組を統合し、各府省CIO及び副CIOのリーダーシップの下、中長期的な計画をもって戦略的に推進する。
  • ● 地方公共団体、特に中小規模の団体において着実な取組が進むよう、国における体制整備等の取組を踏まえつつ、国におけるIT化・業務改革によって得られたノウハウや、地方公共団体における成功事例の横展開等を各団体の実情に応じた形で実施し、地方におけるITガバナンスの強化を支援する。
  • ● 電子行政に関する国際対応については、継続的な情報収集や情報発信、海外主要関係者との人脈形成、国際標準化への関与等、国際貢献・連携を推進し、国際社会におけるプレゼンスを向上させる。

【方針3-2】ITマネジメントの徹底と投資効果の最大化

  • ● これまで政府CIOの下で行われてきた、コスト削減等の政府情報システム改革を着実に推進する。
  • ● 業務の効率化やコストの適正化だけでなく、利用者にとっての価値の最大化を重視する評価軸によって、従来の投資管理の枠組みを見直す。
  • ● 行政運営の透明性を確保し、国民と協働した取組を推進するため、サービス改革やIT投資等の取組について、結果だけでなくプロセスまで含めた可視化を実施する。
  • ● IoTやAI等の新技術の活用も含め、政策の企画、実施及び評価にデータを積極的に活用し、従来の課題対処型の行政運営から、将来発生が見込まれる事象を予見し、事前に対策を講じる予測・予防型の行政運営への転換を行う。
  • ● 環境変化のスピードに対応しつつ、コストの適正化と政策の適切な実現を可能とするため、情報システムの整備・運用に関し、調達のあり方の見直しと、予算を柔軟かつ適切に配分・執行できる仕組みについて検討を行う。
  • ● プロジェクトを成功させ、生み出す価値を最大化するという観点から、より効果的な調達手法の検討、品質管理機能の強化、リスクのあるプロジェクトに関する第三者検証スキームの導入等、ITマネジメントを強化する。また、セキュリティ等とのバランスを勘案しつつ、経済合理性を持ったIT投資を推進する。

デジタル・ガバメント実行計画の策定

 さらにデジタル・ガバメント推進方針を実現するために、デジタル・ガバメント実行計画(平成30年1月16日eガバメント閣僚会議決定、平成30年7月20日改定)が策定された。同計画においては、「価値を生み出すITガバナンス」に係る取組として、以下があげられている。

5 価値を生み出すITガバナンス

  • 5.1 サービス改革に対応した推進体制の整備
    • 1) 政府CIOレビュー制度の確立
    • 2) サービス改革支援チームによる支援
    • 3) 各府省ガバナンスの強化
    • 4) 各府省中長期計画
    • 5) 人材確保・育成
  • 5.2 マネジメント及びプロセスの強化
    • 1) 政府情報システム改革の着実な推進
    • 2) 情報システム関係予算に係る府省横断の推進体制の整備
    • 3) 情報システム調達に係る諸課題の検討
    • 4) 情報利活用と情報セキュリティの一体的推進
    • 5) 標準ガイドライン群の充実・拡充・定着
  • 5.3 デジタル・ガバメントの推進に係るその他の取組
    • 1) デジタル・ワークスタイルの実現
    • 2) 広報・普及及び国際展開

 従来からの取組の延長もあるが、代表的なものを中心に周辺の状況も含め詳細を説明する。

サービス改革支援チームによる支援(サービス・業務企画フェーズの強化)

 デジタル・ガバメント実行計画では、「サービスデザイン思考に基づく業務改革(BPR)の推進」が求められており、そのためのガイドブックとして、サービスデザイン実践ガイドブック(β版)(平成30年3月19日 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室)が提供されている。

 同ガイドブックは、サービスデザイン思考によるサービス・業務改革(BPR)を進めるため、その基本的な考え方やペルソナ、ジャーニーマップといった手法を案内し、実践することができるようにした参考書であり、従来の標準ガイドラインではあまり具体的に説明されていなかったサービス・業務企画フェーズの方法論が説明されている。

 しかし、新たな方法論について各府省のPJMOは未経験であるため、サービス改革支援チームを設け、自らサービス改革を実践するとともに、ワークショップ開催等でPJMOを支援し、さらにノウハウや事例の蓄積、ガイドラインや教育プログラム整備も行う。

各府省中長期計画

 デジタル・ガバメント実行計画を各府省の取組に落とし込んだ各府省中長期計画には、以下の取組内容や、計画期間における情報システムに係る投資内容・費用、計画により達成する目標が定量的に記載されている。

  • ● サービス改革(BPR)の取組
  • ● API整備の取組
  • ● オープンデータの推進に係る取組
  • ● クラウド化の取組
  • ● デジタル・ワークスタイルの推進に係る取組

 記載内容は、デジタル・ガバメント実行計画と類似している。また、個別サービス改革や各府省が重点的に整備するデータベースについては各府省の特徴がでているが、それ以外の部分については、記載内容は類似している。

情報システム関係予算に係る府省横断の推進体制の整備

情報システム調達に係る諸課題の検討

 予算の要求と予算執行(調達)については、まとめて説明する。

 まず、各府省の情報システム関係予算について、投資対効果を最大化するため、予算要求から執行までの各段階において、「一元的なプロジェクト管理」を強化する取組を現行制度上で可能なものから取り組むとともに、府省横断的な見地からより実効性のある審査機能が働く仕組みの検討を進め、2020年度(平成32 年度)から試行的に開始予定である。

 また、情報システムの調達においては、以下のような課題を解決するため、現状と課題を具体的に深掘りして事実を把握した上で検討を行うため、2018年度(平成30年度)中に内閣官房を中心に、各府省等の幅広い関係者で構成されるワーキンググループ等の検討の場を設置し、調達・契約方法の柔軟化について検討を進め、2020年度(平成32年度)から試行的に開始する予定である。

  • ● 従来のウォーターフォール型開発では、外部環境の急速な変化に対応し、利用者のニーズ等を適時、適切に反映するのは難しい。
  • ● 発注者である行政と受注者である事業者とが政策課題を共有し、対話を通じて相互理解を深めた上で契約することが重要であるが、現状では調達仕様書等のドキュメント以外の意思疎通手段は乏しい。
  • ● 根本的な人材の不足や短期間での人事異動等に起因する行政の発注力、交渉能力のばらつきは解消されていない上に、民法改正等の環境変化への対応も求められている。

 これらの予算要求及び予算執行(調達)に係る取組について、現在議論が行われているところであるが、先程決定された「デジタル時代の新たなIT政策の方向性について」(平成30年12月19日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)において、以下の方向性が示された。

①行政のデジタル化の徹底

各府省の情報システム関係予算について、予算要求から執行の各段階において、一元的なプロジェクト管理(調達手法の見直しを含む。)を強化することにより、政府の情報システム改革を加速化する。また、引越し等に関する手続のワンストップ化など、国民の手続負担を軽減する取組を進めるとともに、高齢者や障害者に寄り添い、また地域の成長・再生・維持につながる「人に優しいデジタル化」を実現するための施策を促進する。【情報通信技術(IT)政策担当大臣、総務大臣、経済産業大臣】

 上記の方向性については今後議論が行われ、2019 年(平成 31 年)春頃を目途に、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部)を中心に取りまとめられる「新たな IT 政策大綱」にも反映される予定である。

 また、「第3回デジタル・ガバメント閣僚会議」(平成31年2月15日)においても、以下のような議題認識と方向性が示されており、今後は議論が活発化すると想定される。

図3 情報システム予算・調達に係る課題認識

図3 情報システム予算・調達に係る課題認識

  

標準ガイドライン群の充実・拡充・定着

 内閣官房を中心として、デジタル・ガバメント実行計画において作成や検討を行うとされたルールやガイドライン等を含め、標準ガイドライン群の体系を整理し、効果的な調達手法の検討、品質管理機能の強化、リスクのあるプロジェクトに関する第三者検証スキームの導入等の検討を行い、以下のように継続的に標準ガイドライン群の拡充・定着を進めている。

● 標準ガイドライン

  • デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン

● 標準ガイドライン付属文書

  • Webデザイン指針
  • Webサイト等の整備及び廃止に係るドメイン管理ガイドライン
  • 政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針
  • 行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン

● 標準ガイドライン解説書

● 実践ガイドブック

● 技術レポート

  • 政府情報システムにおけるサポート終了等技術への対応に関する技術レポート
  • Javaのサポートポリシー変更等に関する技術レポート

● その他関連文書

  • 府省共通プロジェクトの指定について
  • 府省重点プロジェクトの指定及び解除に関する調整並びにWebサイトへの公表内容等ついて

● 標準ガイドライン群用語集

  • 標準ガイドライン群用語集

 特に、ガイドラインの定着に向けて、従来は標準ガイドラインと実務手引書という構成だったのが、標準ガイドラインと解説書に実践ガイドブックが加わった。特に、実践ガイドブックには、PJMOにとって有用なノウハウや教訓が詰まっており、また表現も平易で読みやすくなっている。

今後の見通し

 以上の政策動向を踏まえ、今後の見通しについて述べる。

予算と調達における一元的なプロジェクト管理

 実現可能なものから着手し、成功経験を蓄積し、議論を活発化させていくというアプローチであるため、具体的にどのようなシステムを対象にし、どういったスキームで行うのかといった議論が起こると思われる。例えば、対象システムとしては以下のようなものが考えられるのではないか。

表1 一元化(共通化)の候補

対象システム・業務 説明
行政LANシステム
  • メールや予定表、ファイルサーバー、職員ポータル、シンクライアント、端末、オフィスソフト 等が対象
  • 共通化が勧めやすく、規模の経済性も発揮しやすい
PaaS機能
  • 静的なホームページだけでなく、動的なホームページを構築するための基盤(オープンデータ・バイ・デザインを実現する基盤やGISエンジン等)や、情報連携の基盤(サービス改革やオープンデータ化を実現するための、標準化されたデータベースやデータ変換機能等)
  • 今後新たに整備する必要があるが、各省が個別に整備するのではなく、共通化・標準化した方が経済面に加え、相互運用性の面でも有益
DevOps要員
  • DevOps以外にも、アジャイル開発やRPAの導入支援。
  • システムごとに調達すると業務の繁閑があるが、プール制にすることで稼働を平準化し、機動的な要員アサインを実現

 また、予算要求や調達スキームについては、政府共通プラットフォームのスキームであれば、実現可能だと思われる。

DXの推進

 電子行政分科会では、「価値を生み出す」ITガバナンスを実現するには、「職員の能力を最大化するための新技術・サービスの積極的導入」や「イノベーションを推進できる体制づくり」といったアプローチが必要との方向性が示された。

 また、デジタル・ガバメント推進方針には、以下のようなDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進するための方針が記載されているが、デジタル・ガバメント推進方針を具体化したデジタル・ガバメント実行計画には、関連する記載が見つからない。

IoTやAI等の新技術の活用も含め、政策の企画、実施及び評価にデータを積極的に活用し、従来の課題対処型の行政運営から、将来発生が見込まれる事象を予見し、事前に対策を講じる予測・予防型の行政運営への転換を行う。

 今後、デジタル・ガバメント実行計画の改定においては追記される可能性があるが、経済産業省の取組が参考になるのではないか。

 経済産業省では、省内のDXを推進するための組織として、以下のようなDXオフィスを設けている。

図4 経済産業省におけるDXの方向性

図4 経済産業省におけるDXの方向性

  
図5 経済産業省におけるDX推進の体制と教育

図5 経済産業省におけるDX推進の体制と教育

  

 他の省庁においても、「新技術・サービス導入及びイノベーション推進」のための推進体制を効率する取組が想定される。

おわりに

 現在国会では「デジタル手続法案」の議論がなされており、また、「新戦略推進専門調査会・官民データ活用推進基本計画実行委員会」にて新たなIT戦略の方向性について議論されている。特に「予算と調達における一元的なプロジェクト管理」は省庁だけでなく、システムインテグレータ等の事業者にとっても影響が大きく、引き続き注視していく必要がある。