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金融機関システム部門のトランスフォーメーション

『情報未来』No.39より

金融コンサルティング本部
アソシエイトパートナー 桑島 八郎

 基幹システムのアウトソーシング、共同化、クラウドコンピューティングの登場、スマートデバイスの普及やビジネスでの利用、さらなるグローバル化の進展等、ITに係る環境は激変の時代を迎えている。従来の常識が非常識となる中で、金融機関のシステム部門のあり方も変革が求められている。

 しかしながら、現実には多くの金融機関のシステム部門が、環境が変化する中で従前の枠内に留まり、新しい姿へのトランスフォーメーションへ踏み出せていないのが実態ではないか。

 本稿では金融機関、特に、銀行におけるシステム部門の抱える問題の本質、解決の方向性を概観しながら、新しいシステム部門へのトランスフォーメーションの道筋を論じていきたい。

トランスフォーメーションが求められる背景

 金融機関、特に、地域金融機関では、日本銀行のレポートでも指摘されている通り、2012年末までに基幹システムの共同化を実施する比率が7割に達するとされており、その中でIT人材の問題についても論じられている。このように共同化やアウトソーシングをした結果としての問題点が指摘されることは多いが、本質的には共同化するよりも以前から問題は潜在していたものと考えられる。

 システム部門のトランスフォーメーションが求められている背景は、これまで主要な業務の対象であった基幹系システムがコモディティ化し、ビジネスの重点が当該システムの開発・保守から情報系やチャネルシステム(顧客とのインターフェースを提供するシステム)、及び拡散するEUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)等の周辺系システムへ移ってきたことにある。もちろん、その背景には顧客や業界の環境が大きく変化し、銀行ビジネス自体が従来のモデルでは成り立たなくなりつつあることがある。このため、比較的ルーティーン化した基幹システム関連の開発・保守は外部へ任せて、システムや情報を活用して成果を出すことがより重要となってきたのである。その結果として、どの分野にいくら投資するべきか、また、システムの乱立を防ぎ、全社横断的な情報を捕捉するため、EUCも含め全体の整合性を確保することが重要になったわけである。

 しかし、一方で、3・11や大手行でのシステム障害の結果、事業継続性やシステムリスク管理の観点からの重要性も再認識された。その結果、①主に基幹システムに関しては外部に任せながらも実効性のあるリスク管理ができる態勢の構築と、②新たな投資を効果的に実施しビジネスの成果をサポートしていくための態勢の構築、という2つの課題がシステム部門に対して同時に求められていくこととなったのである。①は特にアウトソーシングや共同化をしている金融機関の課題、②はすべての金融機関における課題と言えよう。①については昨今多く論じられており誌面の関係上議論はそちらに譲ることとして、本稿では②について論じることとしたい。

問題の本質 ~内向な体質

 永らくシステム部門の企画力強化、ITマネジメント力強化の必要性が認識される中、課題②が遅々として進まない原因はどこにあるのか。筆者は金融機関のシステム部門に関連するプロジェクトに携わる中でさまざまな意見を聞くことが多い。その中で、経営やユーザー側(ビジネス側)はシステム部門の提供価値や役割が理解できず、極端な例としてはその存在意義まで疑問視する声もある。

 一方で、システム部門サイドは、仕事量に比して要員数がより減少する傾向にある中、新たな価値の提供にまで充分に手が回らないという状況が多い。このため、システム部門と他の部門がお互いの状況を上手く理解できない悪循環が発生してしまっているのではないか。

 これに加えて、システム部門にありがちな内部へと向かう閉鎖性と保守性が、ユーザーの誤解を助長してしまっているのではないだろうか。多くの場合、システム部門の閉鎖性は次のようなものと考えている。

 システムの業務は上手くできてあたり前、失敗すると批判を受けるため、責任の所在をはっきりさせるインセンティブが働く。例えば、失敗プロジェクト等では「これはユーザーがきちんと要件を提示しなかったから」といった議論を聞くことが多い。あえて積極的に新しいこと、ユーザーサイドの分野(EUCも含め)まで踏み出さないという内部に閉じこもる閉鎖性、保守性があるのではないだろうか。

 このため、経営やユーザーサイドから見ると、IT部門の価値を感じにくく、かつ、経営やビジネスの観点で前向きなコミットをしない消極的姿勢に捉えてしまうのではないだろうか。システム部門が新たな姿になるためには、この誤解を解き、好循環を作り出す必要があると思われる。

解決の方向性 ~ビジネスへのコミット強化

 前項で述べた課題の解決に向けては、積極的にビジネスへのコミットを果たし、経営、ユーザー部門からその新たな存在価値を認知してもらうということが必要なのではないかと思う。

 例えば、ITガバナンスのフレームであるCOBITによるとITガバナンスを次のように定義している。「ITガバナンスは、経営陣および取締役会が担うべき責務であり、ITが組織の戦略と組織の目標を支え、あるいは強化することを保証する、リーダーシップの確立や、組織構造とプロセスの構築である」

 当然のことながらITガバナンスにおいて経営陣等の役割は大きいものの、それを支えるのはシステム部門であり、端的に言えば、ITがビジネスの役に立つことを保証し牽引することこそがシステム部門の存在意義と言えよう。

 このような役割を現在のシステム部門が果たせているかを、コスト、パフォーマンス、リスクといった3つの観点から整理したものが図表1である。状況は金融機関によって異なると思われるが、主に以下の点が共通した課題として挙げられるのではないだろうか。

  • システム部門が全社のコストを統括できていない
  • ビジネス別のコスト配賦を管理できていない
  • IT投資効果の説明について事前事後を問わず、ユーザー部門に任せている
  • ユーザー所管のシステムに関しては充分な関与ができていない

図表1:コスト・パフォーマンス・リスクの観点から見たシステム部門の状況

図表1:コスト・パフォーマンス・リスクの観点から見たシステム部門の状況

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 

 これらの課題は、システム部門が基幹システムを構築し管理することが主要業務であった時代においては良かったかもしれないが、業務の重点が移ってきた現在、ビジネスの役に立つITを保証するべきシステム部門としては充分な存在意義を発揮することができないのではないだろうか。

 従前より、これらの課題は指摘されてきたことと思うし、解決に向けては、a)新しい体制の構築、b)システム部門の役割の定義、c)IT人材のスキル定義と人材育成、等の必要性が論じられてきた。しかしながら、表面的に形を整え、育成研修を実施したところで、そこで実際に働くシステム部門要員のマインドや行動が変わらなければ、実質的な効果は得られない。

 その意味で、システム部門要員がよりビジネスへ、ユーザーの業務へコミットしていくための動機付けを行い、一つ一つ実績を重ねることで、ユーザーからの信頼を回復し、存在価値のあるシステム部門を確立して行くことが大切だと思われる。手始めに次のような対応が考えられるのではないか。

  • 全社のITコストを把握し、ビジネスライン毎の収支を提示することで、重点投資分野の特定、無駄なシステムの見直し等の議論をシステム部門が主導する
  • IT投資効果にコミットすることで、ビジネスにおける有効なITの活用についてシステム部門が知恵を出すとともに、利用状況をモニタリングし、より有効な活用に向けた施策を実施し、ビジネス目標の達成に貢献する
  • ユーザーが独自で作成しているシステムに関しても所管対象とし、全社横断的な視点で情報(データ)の管理を行い、データの発生~活用に至るまでビジネスをサポートする

 これらの実行には、必要に応じて要員の配置転換や増員は必要になるかもしれないが、試行錯誤の中で推進していくことで、組織としての方向性が定まり、要員への動機付けにもなっていくものと考えている。また、業績評価方法の見直しも必要となるだろう。

 何よりも、従来の枠を超えて活動を広げることで、ユーザーとの接点も広がり、システム部門がビジネスに積極的に貢献しているという認知が向上することが大事だと思われる。

トランスフォーメーションに向けて

 経営、ビジネス目標の達成にシステム部門としてコミットすること、これが金融機関のシステム部門のトランスフォーメーションに向けた第一歩だと筆者は考える。組織体制、人材等を整えるのも大事だが、今ある状況の中で実施できることは、ビジネスへのコミットを宣言し、できるところから一つ一つ実践していくことに他ならないのではないだろうか。スキルやノウハウは、試行錯誤の中から身につけていけばよく、変革すべきはシステム部門の持つ従来の枠やマインドセットと行動である。

 大切なのは、従来の所管の枠を超えて関与を拡大していくことで、全社横断的な視点でビジネスへの実務的なコミットをすることができる唯一の部署となりうるということである。

 このような活動を継続した結果として、システム部門が果たす役割は図表2の色付文字部分に示すようなものに拡大するのではないかと考えている。ビジネスにおいて発生するデータを管理し、これらがビジネスの役に立つように整備し、活用する方法まで提案できる、このような関与が求められていくのではないだろうか。今後、社内外で発生するデータを統合的に管理し、ビッグデータ化していく情報をビジネスの目的を達するためのインテリジェンスに転換するのを支える、データマネジメント等の役割が必要である。場合によっては、ビジネスで必要な情報を取得するために、業務フローや外部との連携の見直しにまで踏み込んで提言する。情報が最大の資産であり、商品でもある金融機関においてはこの役割の重要性は計り知れない。

 金融機関システム部門のトランスフォーメーション、それはビジネスへの積極的な貢献を果たすインテリジェンスサポート集団への進化である。

図表2:システム部門に求められる新たな役割例

図表2:システム部門に求められる新たな役割例

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

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