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社会インフラを支えるセンサーネットワーク 第1回

シニアコンサルタント  渡邊 敏康
『情報未来』No.38より

社会インフラにとってのセンサーネットワークとは

「エコシティ」や「エコタウン」「スマートシティ」といった街づくりの概念において、センサーネットワークはヒトとモノをつなぐために欠かすことのできない構成要素となってきている。本稿では、これまでセンサーネットワークがどのように活用されてきたか、そして、今後の社会インフラにとって、どのような活用が期待されるかについて、環境エネルギー分野の事例を交えながら述べていく。

図表1:センサーネットワークの活用分野の広がり(概念図)
出所:総務省 ICTを活用した街づくりとグローバル展開に関する懇談会 ICT街づくり推進部会 資料

従来のセンサーネットワークは、商業や工業分野において、遠隔からの個別機器の状態把握や制御に用いられてきた。例えば、ビルや、生産施設、交通・輸送といった、空調や機械の稼働状態、交通流量の監視や機器制御といったものが挙げられる。これまでは、日ごろわれわれが目にすることの少ない分野において、センサーネットワークが活躍してきた。

近年のセンサーネットワークは、われわれの身近なモノへとつながることで、日常生活への変化をもたらそうとしている。自動車を例にとれば、カーナビゲーションで車の位置の把握や渋滞状況を把握する目的だったものから、携帯電話網などを活用したカーナビゲーション(テレマティクスシステム)によって、対話形式でのルート検索や事故時の救急サービスなどが可能になってきている。また、携帯電話そのものも、GPSや加速度センサーの搭載によって、インターネットを経由したさまざまなサービスが提供されようとしている。このようにわれわれが利用するさまざまな機器や端末そのものも、センサーと同様の機能を有しているものが増えてきている。

センサーネットワークは、社会インフラにとって、これまで主に管理運営者側の活用範囲だったものから、社会・経済活動、そして個人レベルにまで密接につながる重要基盤へと変わろうとしている。

センサーネットワークの歴史

歴史を簡単に振り返ると、センサーネットワークは1970年代のマイクロプロセッサの登場によって、工業用機械とコンピュータをつないだ計測・制御の技術へと発展していったところから始まる。

個別機器を計測・制御していた時代(1対1制御)から、1980年代後半には、一つの通信路で複数の機器の計測・制御を実現するバス型の通信ネットワーク(1対多制御、そして多対多制御)へと発展してきた。そして2000年代に入ると、工業界やビル監視の業界においてインターネット(TCP/IP)を用いた計測・制御技術が入ってきている。

現在のわが国における社会インフラは、インフラ関連機器とICT技術のライフサイクルの違いから、これら新旧センサーネットワークの計測・制御技術が混在している状況になっている。

わが国の社会インフラのセンサーネットワークに求められること

従って、わが国において社会インフラにおけるさまざまな情報がつながるようなスマートシティの実現を考えた場合には、これまでに構築されてきた新旧センサーネットワークの通信規格やアーキテクチャを考慮した街づくりが必要になってくる。換言すれば、高度経済成長期において急速に建設されてきたわが国の社会インフラを考えるにあたって、IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)へ到達することを一つのゴールとして捉えた場合、その前提となるセンサーネットワークのアーキテクチャをどのように再構築していくかが重要なテーマの一つとして挙げられるだろう。

センサーネットワークに関する最新の国際標準規格IEEE1888

このような既存の通信規格との相互接続性に配慮しつつ、それらセンサーネットワークから取得されるさまざまなデータや制御情報を、インターネット技術によってオープンに通信できるプロトコルとして、IEEE 1888が挙げられる。このIEEE1888は、IEEE(アイトリプルイー、米国電気電子学会)から、2011年2月に承認を受けた最新の国際標準規格である。この標準規格化にあたっては、東大グリーンICTプロジェクト(GUTP:Green University of Tokyo Project)が2009年に開発したFIAP(Facility Information Access Protocol:設備情報アクセスプロトコル)を骨格として、中国と共同でIEEEへ提案を行っている。IEEE1888は、さまざまなセンサー情報や制御情報を扱うことが可能であり、例えばスマートグリッド(次世代送配電網)を始めとするエネルギー領域への適用も期待される通信規格である。

詳細は関連書籍(※1)に譲るものの、この通信プロトコルを用いたシステムの一番の特徴としては、データの「蓄積」を中心に据えたアーキテクチャを採用しているところにある。具体的には、ストレージ、ゲートウェイ、アプリケーションの3つの機能部品で構成され、これら部品間はHTTP/XML通信で情報が交換される仕組みになっている。

これら3つの特徴について、簡単に触れることとする。

まずストレージについて、ビルオートメーションの業界を例に取り上げて説明する。センサーネットワークの情報流通のプロセスに着目すると、IEEE1888は、データの「収集」「蓄積」「分析」「活用」という4つのプロセスをアーキテクチャとして具備している。これに対して、ビルオートメーション関連の従前の通信規格は、「蓄積」に関する規定が明確に存在しなかったことが大きな違いとして挙げられる。昨今、ビッグデータとして取り上げられる情報分析技術を実現するにあたっては、これら情報の「蓄積」なしには語ることができないものとなってきている。

続いてゲートウェイについては、IEEE1888のセンサー側のシステムアーキテクチャが従来の非IPの通信規格であっても、このゲートウェイを通じて相互接続性を担保しているところが特徴として挙げられる。

最後にアプリケーションについては、インターネットと同様に、さまざまなアプリケーションをオープンな環境下で開発を可能にしていることもメリットとして挙げられるだろう。

※1 落合秀也(著)、江崎浩(監修)『スマートグリッド対応 IEEE1888 プロトコル教科書』インプレスジャパン,2012年6月 江崎浩著 『なぜ東大は30%の節電に成功したのか?』 幻冬舎(経営者新書),2012年3月

節電を梃子にしたスマートシティの実現 ~情報未来研究会より~

さて話は変わるが、当社では社会全体の課題解決についてITが寄与できることを検討し、イノベーションを誘発するための知見を発展させることを目的に、「情報未来研究会」(座長 慶応義塾大学國領二郎教授)を開催している。例えば、医療や農業、エネルギー領域においてITがどのように貢献すべきかについて、有識者を交えながら議論を重ねてきている。

最近では、前述の東大グリーンICTプロジェクトの取り組みについて、東京大学大学院教授江崎浩先生より、「節電を梃子にしたスマートシティの実現」と題して発表いただいた。ここでは、当日の内容について紹介させていただく。

図表2:IEEE1888におけるシステムアーキテクチャ
出所:東大グリーンICTプロジェクトHPhttp://www.gutp.jp/fiap/outline.html 別ウィンドウが開きます

東大グリーンICTプロジェクトは、2008年に発足した産学連携プロジェクトである。キャンパスやビルのスマート化の実現に向けて、システムアーキテクチャをオープンで、かつマルチベンダ環境下で実現すべく実証実験を積み重ねてきた。前述のIEEE1888の国際標準化においても尽力を重ねてきている。また、東日本大震災を受けて、東大キャンパス内では、電力ピークを30%減、トータルで25%減という目標が掲げられたが、このプロジェクトの技術を大学全体へと拡大したことによって、それらの目標を達成する成果も出している。

このような成果を通じて、社会インフラにおけるセンサーネットワークの在り方として、それらインフラを構築していく関連企業がどうあるべきか(どのようにビジネスを捉えるべきか)を、当日の議論を通じて多くの示唆を頂戴した。それらの重要なメッセージについて、次に紹介する。

ある技術があった場合、その技術が開発された当初の目的以外の“出口(使われ方)”が、どこにあるのか探すことが重要である

節電を梃子にしてシステムを導入した結果、例えば工場であればラインの効率化や、企業のリスク管理を行うための仕組みとして活用されるケースもありうる。

同じ技術でも、使われ方を変えるだけで、潜在市場の規模が変わってくる

節電の技術に関して、「エネルギーが不安定である中で、いかにエネルギーを管理するか」や「業務効率化を進めるために、どのように情報を活用するか」といった観点に着目すると、例えば新興国の市場開拓のアプローチにつながってくるかもしれない。

データをオープンにしてあげると、そのデータの使い方は、勝手に考えられていく

センサーネットワークのデータをオープンな状態にすることで、インターネットの世界で実現したような、新しいビジネスが創出されていくこともありうる。

おわりに

以上センサーネットワークについて、環境エネルギー分野の事例を交えながら述べさせていただいた。この分野については、スマートグリッド(次世代送配電網)の在り方について、欧米で活発に議論がなされており、最近では、2011年9月、米国のNIST(National Institute of Standards and Technology)と、欧州のSG‐CG(Smart Grid Coordination Group)が、スマートグリッド標準化の推進を共同で取り組むことを表明している。欧米は、デファクト戦略(市場を占有した結果として標準化へつなげる戦略)を取りつつ、一方でデジュール戦略(公的機関から標準化を策定していく戦略)にも積極的に取り組んでいることが垣間見られる。

わが国のみならず、諸外国における社会インフラのセンサーネットワークの構築を考えていくうえでは、このような標準化戦略への対応や、オープンな通信規格のもとで、どのように強みを発揮していくかの戦略を練ることがますます重要になってきている。

わが国がこれまで得意としてきたモノづくりの技術の強みを生かしつつ、センサー技術とそれを支えるアーキテクチャをどのように構築していくかは、製造業のみならずIT業界からも積極的に参画することが求められるだろう。

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