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スマートフォンマーケティングの推進

パートナー 山下 長幸
 

スマートフォンの台頭

図表1:スマートフォンの普及予測

米国アップル社によるスマートフォンiPhoneが、米国で2007年6月、日本では2008年7月に発売され、日米でスマートフォンブームが起きた。米国での発売から5年弱の2012年3月末時点での世界全体への累積出荷台数は2億1,600万台に達している。

日本では、それまで従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)がモバイルフォン市場のほとんどを占めていたが、iPhone発売以降、フィーチャーフォンからスマートフォンへの代替が急速に起きるものと予想されている。(図表1)

スマートフォンがもたらす生活行動革新とマーケティング利用ポテンシャル

図表2:スマートフォンの強み
出所:NTTデータ経営研究所作成

デスクトップパソコンは、ワープロ、表計算など文書処理、インターネットの利用、卓上印刷、キーボードとマウスを活用した操作など主として机上の情報処理として利用するものである。これに対して、スマートフォンは、端末を手軽に身につけて常に持ち歩け、タッチパネルで簡単に操作でき、人の全生活空間における活動を支援するなど、広大な実空間における多様な領域における情報処理として利用可能である。このようにスマートフォンによるモバイルコンピューティングは、PCにおけるデスクトップコンピューティングという限定された枠組みを大きく超えており、モバイルコンピューティングには大きな可能性が感じられる。(図表2)

企業の視点からは、スマートフォンは、個人が持ち運ぶ生活インフラとして高占有率のマーケティング媒体であり、口コミマーケティングなど各種マーケティングへの活用が可能となる。

スマートフォンは、マーケティングの観点から以下の5つの特徴を有している。

図表3:スマートフォンがもたらす生活行動革新とマーケティング利用ポテンシャル
出所:NTTデータ経営研究所作成
  1. (1)スマートフォンは個人が身につけて持ち運んでいるので、その場その時というオンザスポット・リアルタイムマーケティングが可能
  2. (2)スマートフォンは基本的に特定個人が保有しているので、One to Oneマーケティングが可能
  3. (3)スマートフォンは、ソーシャルネットワーキングサイトを通して、個人が気軽に情報発信をすることが可能であり、個人がメディア化しており、 口コミマーケティングのメディアとしての利用が可能
  4. (4)スマートフォンは、携帯ミニパソコンであり、リッチコンテンツマーケティングが可能
  5. (5)スマートフォンは、携帯ミニパソコンであり、検索連動型広告出稿など従来型のインターネットマーケティング媒体としても利用可能

このようなスマートフォンの特徴や強みを活かしたマーケティング施策を検討することが非常に重要である。(図表3)

スマートフォンの本質は、クラウドコンピューティング端末

図表4:スマートフォンの本質は、クラウドコンピューティング端末
出所:NTTデータ経営研究所作成

1人の消費者が多様なモバイル端末を活用する状況では、保有データをすべてウェブ(クラウド)上に蓄積・管理して、じかにウェブ(クラウド)上で情報処理する方が合理的である。そして、モバイル端末を活用することにより、現実空間での購買行動に、仮想空間情報を参考として利用することが可能となる。 このようにスマートフォンを利用することにより、モバイルコンピューティングによる仮想空間と現実空間のブリッジング が可能となるのである。(図表4)

企業としては、このような構造を持つスマートフォンの本質を活かしたマーケティング施策を検討・実施すべきである。

スマートフォンの強みを活かした主なマーケティング等のビジネス利用

図表5:スマートフォンの強みを活かした主なマーケティング等のビジネス利用分野
出所:NTTデータ経営研究所作成

スマートフォンの強みを活かした主なマーケティング等のビジネス利用については、以下のものが考えられ、マーケティング目的に応じて各種手法の活用を検討すべきである。(図表5)

  1. (1)ソーシャルネットワーキングサービスを活用したソーシャルメディアマーケティング
  2. (2)GPSによる位置情報を利用したジオマーケティング
  3. (3)ライフログを利用した行動ターゲティングマーケティングやリコメンドサービス
  4. (4)AR(拡張現実)を活用したマーケティング
  5. (5)非接触ICカード機能を利用した店頭などでの販売促進

スマートフォンを活用したソーシャルメディアマーケティング施策

ソーシャルネットワーキングは、個人による自由な情報発信、バーチャル世界・現実世界での人間関係ネットワーク(ソーシャルグラフ)の維持・拡大があり、個人から発信された情報が極めて広範囲に情報拡散するケースもある。

一方、スマートフォンを利用したソーシャルネットワーキングでは、その場、その時に投稿できること、少しの空き時間に活用できること、自分の居場所を知らせることができること、写真の投稿が容易、タッチ操作で素早く閲覧、更新できるなどの強みがある。

このようにスマートフォンとソーシャルネットワーキングの親和性は極めて高く、スマートフォンの普及・進化により、ソーシャルメディアの影響力も強まるものと想定される。

図表6:スマートフォンを活用したソーシャルメディアマーケティング施策
出所:NTTデータ経営研究所作成

スマートフォンを活用したソーシャルメディアマーケティング施策オプションとしては、以下のようなものがあり、商品・サービス特性に合わせて適切な施策を選択・検討すべきである。

  1. (1)企業ページの運営
  2. (2)ソーシャルメディアへの広告出稿
  3. (3)ソーシャルメディアCRM対応
  4. (4)企業ネットコミュニティの運営
  5. (5)ソーシャルプラグイン

(図表6)

スマートフォンにおける位置情報コンテンツを活用したジオマーケティング施策

スマートフォンには、GPS(Global Positioning System)やWi-Fi (wireless fidelity)という無線LANアクセス における位置情報把握機能が備わっているケースが多い。

一方、スマートフォンは、その場その時に投稿できること、少しの空き時間に活用できること、自分の居場所を簡単に友人・知人に知らせることができること、その場の写真撮影投稿が容易であることなど、スマートフォンを利用した位置情報の活用が容易である強みを有している。

バーチャル世界と現実世界のブリッジングの要になるのが位置情報であり、スマートフォンは現実世界にバーチャル世界情報の紐づけを容易にするものである。加えて、人間というものは、移動すること、その現場に行くこと、その場で人とつながること・協力しあうことに楽しみを感じるもので、このような人間の自然な感情に位置情報コンテンツのポイントがある。

位置情報ゲームに関して、日本では従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)の頃から携帯電話におけるGPS利用コンテンツ利用アプリとして発達してきた。位置情報ゲームはさまざまなパターンがあるが、一例として以下のようなものがある。

  1. (1)現在の位置を登録
  2. (2)移動
  3. (3)移動先で登録
  4. (4)移動距離や移動先でのポイント獲得
  5. (5)移動先などでのポイント活用
  6. (6)ある地域でしか手に入らないアイテムやイベントを提供

日本における従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)は、日本国内のみで独自の発展を遂げたガラパゴス携帯電話などと揶揄(やゆ)されることもあるが、位置情報ゲームや後述の非接触ICカードを活用したおサイフケータイなどは、日本人の創造性が発揮された好例であると筆者は考えている。欧米のものをまねするだけではなく、自らの頭で考えた創造性を発揮させていくことは日本の将来にとって非常に大事であるし、日本人にはその才能があると思う。

スマートフォンが米国で普及したことにより、ジオソーシャルネットワーキングというサービスが産み出された。日本においては、位置情報はゲーム性がベースにあるが、米国においては、位置情報をソーシャルネットワーキングに活用しているところが違いとなっている。ジオソーシャルネットワーキングにはさまざまなパターンがあるが、一例として以下のようなものである。

  1. (1)友人たちに現在どこにいるかを知らせる
  2. (2)位置情報を活用して日常のコミュニケーションを活性化 (ゲームを楽しむよりコミュニケーションにサービスの主軸)
  3. (3)場所周辺の関連情報表示
図表7:スマートフォンにおける位置情報コンテンツを活用したジオマーケティング施策
出所:NTTデータ経営研究所作成

スマートフォンにおける位置情報コンテンツを活用したジオマーケティング施策としては、以下のようなリアル店舗への来店誘導が基本である。

  • その場の近隣店舗の紹介
  • リアル店舗での会員登録、割引クーポン発行
  • その場でないと受けられないコンテンツ提供
  • ソーシャルグラフを活用した情報拡散
  • 消費者の居場所からの注文受付と配達

(図表7)

スマートフォンによるライフログを活用したマーケティング施策

図表8:スマートフォンによるライフログを活用したマーケティング施策(1/2)
出所:NTTデータ経営研究所作成

ライフログとは、ブログ、写真、購買履歴、位置情報、身体情報:身長、体重、血圧、天気、気温などの行動・状況情報と、性別、居住地、趣味など基本属性情報をWebサービス上に記録として残すものである。(図表8)

元来、人間というものは自分の行動の記録、歴史を残したいという欲求があるものである。GPS、加速度センサー、磁気センサー、デジタルカメラ、音声センサーとしてのマイク、NFCチップなどさまざまなセンサーやデバイスが搭載されたスマートフォンの普及により、ライフログの蓄積が容易となり、ライフログを活用することによりユーザーにとって有効な情報取得が可能となった。また、情報過多の状況において、ライフログを活用して、自分に有効な情報のみを簡単に得たいというニーズも強いものがある。

ライフログプラットフォームサービス会社が提供する行動ターゲティング手法を活用して、一般事業会社はライフログを活用した広告出稿が可能である。ライフログプラットフォームサービス会社は、登録ユーザーにライフログを蓄積するためのアプリケーションやサーバーのメモリーを提供している。ライフログ登録ユーザーとしては、自分の人生の記録を残すとともに、ライフログを蓄積することにより、必要な情報、面白い情報だけを効率よく収集できたり、リコメンド情報により情報の絞り込みや新たな発見ができたり、ライフログを提供する代わりに、割引などの還元サービスが受けられるなどのメリットを享受できるのである。

図表9:スマートフォンによるライフログを活用したマーケティング施策(2/2)
出所:NTTデータ経営研究所作成

このようにライフログプラットフォームサービス会社は、蓄積された各種ライフログに基づいて顧客層をクラスタリングし、それぞれの嗜好(しこう)やマインドに合った広告、リコメンド情報、メッセージを表示する行動ターゲティング手法を活用して、提供したい情報を必要としていると思われる登録ユーザーにだけ絞り込んで情報提供したり、それぞれの登録ユーザーに最適な情報を絞り込んで情報提供することができる。

一般事業会社にとっては、ライフログプラットフォームサービス会社が提供する行動ターゲティング手法を活用して、必要な人だけにタイムリーにコストをかけず情報提供できるのである。(図表9)

スマートフォンにおけるAR技術を活用したARマーケティング施策

図表10:Augmented Reality(AR) 対 Virtual Reality
出所:NTTデータ経営研究所作成

AR(Augmented Reality)とよく似た概念としてVirtual Realityがあるが、どのように違うのであろうか? Virtual Realityはコンピュータグラフィックス映像や音響などを活用して、人工的な現実感を創(つく)り出したものである。これに対して、ARは、現実環境がベースにあり、そこにコンピュータグラフィックス映像や文字情報を付加したものである。したがって、ARは、VRとコンピュータグラフィックス映像という共通性はあるものの、かなり異なる概念である。(図表10)

これまでの現実世界とバーチャル世界の関係は、相互に独立しつつ、関連しあう関係であった。Webというバーチャル世界に現実世界情報が大量に蓄積されていて、人間は検索エンジンなどを使って、バーチャル世界に蓄積された情報を現実世界に引き出す必要があった。

図表11:ARの進化・普及によるパラダイムシフト
出所:NTTデータ経営研究所作成

しかし、スマートフォンの普及によりモバイルARサービス機会の可能性が急速に広がり、現実世界がバーチャル世界への入り口を占める割合が増大し、バーチャル世界での蓄積情報を現実世界に重ね合わせることによって、バーチャル世界と現実世界との隔壁を低くできるようになった。ARはモバイルコンピューティングにおける実世界での役割を強め、現実世界にバーチャル世界の融合を促進するものである。(図表11)

主なAR技術のビジネスシーンでの活用の仕方としては、「仮想画像合成現実」と「情報付加現実」の2つがある。

仮想画像合成現実は、例えば洋服などを実際に試着しなくでも、3D画像等であたかも本人が洋服を試着しているように見えるなど、ARアプリを起動させたWebカメラを通して現実空間を見ると画像などが現実空間に合成されて見える使い方をするものである。

図表12:スマートフォンにおけるAR技術を活用したARマーケティング施策
出所:NTTデータ経営研究所作成

情報付加現実という使い方は、例えば、店舗に陳列されている商品にARアプリを起動させたWebカメラを向けると、商品の詳細説明が商品映像に付加されるなど、現実空間に関連する情報が付加されて見える使い方をするものである。(図表12)

スマートフォンは、GPS、電子コンパス、加速度センサーなど各種センサー類を搭載した手のひらサイズのデバイスであり、このようなスマートフォンの普及によりモバイルARサービス機会の可能性が急速に広がったと言える。

スマートフォンにおける非接触ICカード機能の活用

日本における従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)にはFelicaチップが搭載され、おサイフケータイという決済サービスが従来提供されてきたので、携帯電話を使った決済に日本人は慣れ親しんでいるものである。

これに対して、欧米ではスマートフォンにおける決済サービスは初体験という人も多い。スマートフォンには、国際標準であるNFC通信規格対応のICチップ「NFCチップ」を搭載している機種が増え始めている。NFCは、Near Field Communicationの略称で、NFCチップ搭載機器同士を10cm以内の近距離まで近づけると双方向通信が可能となる。

図表13:スマートフォンにおける非接触ICカード機能の活用
出所:NTTデータ経営研究所作成

NFCチップ搭載のスマートフォンは、おサイフケータイと同様に、決済に利用可能である。さらにNFCチップが貼(は)られた商品タグなどにNFC機能搭載スマートフォンを「かざす」だけで、そのタグの情報(クーポン・キャンペーン案内など)が簡単に取得することができる。 NFCチップの場合、Felicaチップと異なり、チップの片方には電源が不要であるため、商品タグやポスターにNFCチップを貼り付けることにより、商品情報提供が簡単にできるようになる。さらに、NFCチップの場合、Felicaチップと異なり、スマートフォン側でのアプリ起動が不要で、チップ情報の読み取りが可能という簡単さがあり、店頭でのマーケティング利用への利便性が高いものがある。(図表13)

まとめ

このようにスマートフォンは、端末を手軽に身につけて常に持ち歩ける携帯パソコンなので、さまざまな現実空間でのコンピュータの活用というデスクトップパソコンでは実現が難しいことも実現できるようになった。

位置情報やAR(拡張現実)の活用などスマートフォンの強みを活かした新たなマーケティング施策の創造が可能であり、企業の方々としては、自社の事業特性・商品サービス特性を考慮しつつ、スマートフォンマーケティングの推進で成果を上げて頂きたいと考えている。

そのようなご支援を当社で実施しているので、ご関心があればお問い合わせ頂ければ幸いである。

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