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AR(拡張現実)
スマートフォンの次にくるもの:Augmented Reality端末

パートナー 山下 長幸
 

グーグル、拡張現実ARメガネの計画を正式発表

2012年5月4日、米国グーグルはGoogle+にて拡張現実メガネ(ARメガネ)の計画を正式発表し、プロトタイプの映像を公開した。拡張現実ARメガネを装着すると、口頭の音声指示内容に沿ってメガネを通して現実風景の中にさまざまな情報が表示される。例えば、天気予報を見たいとする音声に反応して空に天気予報が表示され、音声による目的地までのナビゲーション指示に反応して、現在地点から目的地までのナビゲーションを現実風景の中に表示する。拡張現実ARメガネには、スピーカーが内蔵され、モバイル電話、動画ライブチャットも可能である。

2012年5月のテレビ番組でグーグルの拡張現実メガネを試用したカリフォルニア州副知事のギャヴィン・ニューサム氏は以下のようなコメントをした。

図表1:グーグル、拡張現実ARメガネの計画を正式発表

「グーグルの拡張現実メガネをかけていることはすぐに忘れてしまう。大きな将来性を感じる」
「この拡張現実メガネは信じられないほど軽くて快適で、着用しても目立たないものだ」
「この部屋の照明は、この拡張現実メガネのデモには不十分なレベルであったにも関わらず、画像は極めてはっきりしていた」(図表1)

グーグルによると、この拡張現実ARメガネは2013年初めころにアプリケーション開発者向けに1,500米国ドルで販売される予定とのことである。PCやスマートフォンに続くインターネットデバイスとして、グーグルはこのようなAR(Augmented Reality)を活用したウエアラブル端末を進化させることに力を入れている。このようなAR端末は、スマートフォンよりも各種情報が自然な視覚の範囲に提示されるので、将来的にはスマートフォンを置き換えていく予感がする。

Augmented Reality 対 Virtual Reality

AR(Augmented Reality)とよく似た概念としてVirtual Realityがあるが、どのように違うのであろうか?

図表2:Augmented Reality 対 Virtual Reality
出所:NTTデータ経営研究所作成

Virtual Realityはコンピュータグラフィックス映像や音響などを活用して、人工的な現実感を創(つく)り出したものである。これに対して、AR(Augmented Reality)は、現実環境がベースにあり、そこにコンピュータグラフィックス映像や文字情報を付加したものである。したがって、ARは、VRとはコンピュータグラフィックス映像という共通性はあるものの、かなり異なる概念である。(図表2)

ビジネス界にARほど浸透していないが、MR(Mixed Reality)という概念がある。これは現実環境とコンピュータグラフィックス映像をシームレスに自然な感じで融合させる映像情報処理技術であり、コンピュータグラフィックス映像があたかも目の前で現実環境に存在しているような臨場感が表現できるものである。ARはMRの一種であるとされる。

ARのカテゴリー:ベース技術によるもの

図表3:ARのカテゴリー
出所:NTTデータ経営研究所作成

ベース技術によるARの主なカテゴリーとしては、Location based ARとVision based ARとがある。(図表3)

Location based ARとは、GPS(Global Positioning System)、地磁気センサー(電子コンパス)による方位(操作者の向き)、加速度センサーによる傾き(操作者の視線の仰角、俯角)など各種センサー類から得られた位置情報を利用してAR情報提示を行う。今後、準天頂衛星システムやWi-Fiベースのロケーションシステムを活用することにより位置情報精度向上が見込まれている。

Vision based ARとは、空間・画像認識技術を活用して眼前の環境を認識・解析することによりAR情報提示する技術である。その中には、マーカー型と非マーカー型の2つの技術がある。マーカー型は、現実空間にマーカーを設置し、それをWebカメラで認識することにより情報提示するものである。これは来店プロモーション目的の場合、店舗にARマーカーを設置することにより来店促進を図る等で利用される。マーカーレス型は、マーカーを利用せず、現実空間にある特定の形状や写真を認識することにより情報提示する技術である。マーカーレス型は、マーカー型に比べて、マーカーを利用しない分、形状認識に関して技術的難易度が高い。

ARのカテゴリー:ビジネスへの技術活用の仕方によるもの

主なAR技術のビジネスシーンでの活用の仕方としては、仮想画像合成現実と情報付加現実の2つがある。

仮想画像合成現実は、例えば洋服などを実際に試着しないでも、3D画像等で本人が洋服をあたかも試着しているように見えるなどARアプリを起動させたWebカメラを通して現実空間を見ると画像などが現実空間に合成されて見える使い方をするものである。

情報付加現実という使い方は、例えば、店舗に陳列されている商品にARアプリを 起動させたWebカメラを向けると、商品の詳細説明が商品映像に付加されて見えるなど、現実空間に関連する情報が付加されて見える使い方をするものである。(図表3)

スマートフォンは、GPS、電子コンパス、加速度センサーなど各種センサー類を搭載した手のひらサイズのデバイスであり、このようなスマートフォンの普及によりモバイルARサービス機会の可能性が急速に広がったと言える。

図表4:ARの市場規模想定
出所:シードプランニング

ARの市場規模想定

このようにビジネスシーンでの利用が想定されるARであるが、2010年7月、技術系シンクタンクのシードプランニングは、日本におけるAR活用サービス市場が、2015年には1,800億円、2009年の9倍に伸びると推定結果を公表した。年平均成長率(2009-2015年)は44.2%と高成長が期待されている。(図表4)

ARのビジネスへの活用

既にさまざまなビジネスシーンにおいてARの利用が開始されている。

図表5:オンラインショッピングでのAR活用

オンラインショッピングでの商品試着に、仮想画像合成現実が活用されている。 時計メーカーのTISSOでは、腕時計のバーチャル試着にARを活用している。(図表5)
http://www.tissot.ch/reality/ 別ウィンドウが開きます

活用の仕方は以下の通りである。

  1. (1)Webページから時計の形をしたARマーカーの紙を印刷
  2. (2)その印刷した紙を切り抜いて腕時計のように手首に巻く
  3. (3)紙を巻いた手首にWebカメラを向けると、時計の画像が手首にはめ込まれてディスプレイに表示される
  4. (4)腕だけや上半身など時計を試着した自分自身をさまざまな状況で見ることができる
  5. (5)Webページの商品カタログからさまざまなタイプを選択して、試着した状況を見ることができる

このような活用方法としては、インテリア商品、エクステリア商品、建築設計などさまざまな分野のへの活用が可能であろう。

リアル店舗での商品説明や商品試着にARを活用することにより、販売効率を上げることが可能である。

図表6:リアル店舗でのAR活用

ロシアのアパレル販売店であるTOPSHOPでは、ロシアのAR開発企業であるAR DOOR社製品を活用して、店舗内に設置した大型ディスプレイに、ビデオカメラを通して、自分自身を映し出し、映し出された自分自身の姿に洋服をどんどん試着させていくという形でARを活用している。このような活用方法により、接客効率が大きく向上するものと考えられる。(図表6)
http://www.doorltd.com/ARdoor/ 別ウィンドウが開きます

皮革製品で有名なスペインのブランドであるロエベ(LOEWE)では、店内の商品にARソフトを起動させたスマートフォンのWebカメラを向けると、スマートフォンのディスプレイに、商品の画像とともに、商品解説が表示される。来店客は、店員に話しかける必要なく、商品の詳細情報を知ることができるわけである。(図表6)

図表7:リアル店舗及びオンラインショッピングでのAR活用

商品選定・商品試着にARを活用することにより、リアル店舗では試着時間が短くなり販売効率が向上、オンラインショッピングでは返品率の低下を達成できる。英国Bodymetrics社では、リアル店舗およびオンラインショッピングの両方でAR活用している。英国大手百貨店Selfridgesや米国大手百貨店Bloomingdalesなどに出店したリアル店舗でジーンズの販売を以下のように行っている。(図表7)

  1. (1)店舗に設置された3D自動計測ブースで身体を計測(数秒で計測)
  2. (2)その計測結果をもとに、店員と顧客がタブレット端末を利用して、3種のジーンズのデザインの中から選択し、身体の3D画像に試着させながら決定
  3. (3)サイズに関して計測結果からシステムが自動選択
  4. (4)選択されたデザイン・サイズを実際の商品で試着

この方法により90%の購入者がベストフィットしているという回答をしている。

他方、オンラインショッピングで洋服の販売を以下のように行っており、返品率の減少に寄与している。

図表8:地域空間でのAR活用
  1. (1)自宅にて、Webカメラを活用して、身体を3D自動計測
  2. (2)その計測結果をもとに、各種洋服のデザインの中から選択し、画面に表示された身体の3D画像に試着させながら決定
  3. (3)サイズに関して計測結果からシステムが自動選択
  4. (4)自宅に配達されてきた商品を着用

http://www.bodymetrics.com/index.php 別ウィンドウが開きます

地域空間でのAR活用としては、ARにより地域空間に映し出された店舗の商品情報やクーポン情報を表示することができ、販売促進につなげることが可能である。東急電鉄は経済産業省「e空間実証事業プロジェクト」の一環として「pin@clipピナクリ」を実施し、現在も継続中である。これは、以下のような感じで利用できる。(図表8)
http://pinaclip.jp/what/index.html 別ウィンドウが開きます

図表9:ビジネスへのARの活用
出所:NTTデータ経営研究所作成
  1. (1)スマートフォンにインストールしたピナクリARソフトを起動
  2. (2)渋谷の街中に設置されたピナクルマーカー(ARマーカー)をWebカメラで写しだす
  3. (3)ピナクルマーカーを通して、店内画像、商品画像やクーポン情報が画面に映し出される

今後、ARは、商品開発支援、生産業務支援、営業支援などの直接業務支援のみならず、教育研修などの間接業務にも活用されていくものと想定される。さらには、顧客向けの取り扱い説明にもARが活用されることが予想される。(図表9)

ARの進化・普及によるパラダイムシフト

図表10:ARの進化・普及によるパラダイムシフト(1/2)
出所:NTTデータ経営研究所作成

今後、AR技術およびGPS搭載モバイルデバイスの進化・普及により、現実世界にバーチャル世界の融合が進展し、現実世界がバーチャル世界への入り口を占める割合が増大するものと想定される。(図表10)

これまでは、デスクトップパソコンとインターネットの普及に伴い、現実世界とバーチャル世界とが相互に独立しつつ、関連しあう関係を形成してきた。

今後の進化の方向性としては、GPS搭載モバイル端末の進化・普及とAR技術の発展とがあいまって、現実世界にバーチャル世界の融合が進展し、陳列された商品にモバイル端末をかざし、AR情報を得ることが購買の契機となったり、来店客の顔をWebカメラが認識し、その人へのお薦め商品が営業担当者に表示されるなど現実世界がバーチャル世界への入り口を占めることが進展するであろう。

図表11:想定される主なAR関連のビジネスタイプ
出所:NTTデータ経営研究所作成

想定される主なAR関連のビジネスタイプ

これまでのインターネットの進化・普及と同様に、ARの世界でも、AR端末やARブラウザの進化・普及に伴い、各種アプリケーションやネットワーキングサービスが進化・普及することが想定される。(図表11)

デスクトップパソコンのような端末ビジネスレイヤーに相当するものとして、ARグラスやARカーナビゲーションなどモバイルAR表示デバイス提供がある。

WindowsなどパソコンOSレイヤーに相当するものとして、モバイルARブラウザ提供サービスビジネスがある。現在、蘭Layar社、独metaio社、仏Total Immersion社などがそれぞれ独自のAR-OSを提供している。

図表12:地域空間でのソーシャルAR活用
サムネイル
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AR活用サービスレイヤーとしては、デスクトップパソコンの世界と同様に、モバイルAR検索ビジネス、モバイルAR企業サイト、モバイルAR広告サービス、モバイルARソーシャルネットワーキングサービスなどが考えられる。

例えば、頓知ドット株式会社によるセカイカメラでは、既に、AR技術活用によるソーシャルネットワーキングのプラットフォームを提供している。(図表12)

このようにARの世界でもさまざまなレイヤーでのビジネス化が進展するものと予想される。

モバイルARブラウザの業界標準化

図表13:モバイルARブラウザの業界標準化

業界標準のモバイルARブラウザができれば、ARアプリやARコンテンツの進化・普及に加速度がつくことが想定される。現状では、蘭Layar社、独metaio社、仏Total Immersion社などがそれぞれ独自のARブラウザを提供しており、一般事業会社やARアプリ開発企業では、さまざまなARブラウザの仕様に沿ったコンテンツやアプリを作る手間が大きい。

このような状況に対して、2010年3月米国ジョージア工科大学の研究者から世界初のオープンフォーマットモバイルARブラウザKamraが発表され、業界標準化の動きが出始めた。(図表13)
http://www.cc.gatech.edu/news/developer-preview-kamra-mobile-AR-browser-ARe2010 別ウィンドウが開きます

次世代AR:SixthSense

図表14:次世代AR:SixthSense(1/2)

MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの研究者Pranav Mistry氏がSixthSenseという次世代AR技術を公表している。

現状のPC、スマートフォンにおいて、操作デバイスは、キーボードやタッチパネルであり、人間の日常生活の動作としては不自然な動きであるし、情報表示はディスプレイを通して透かして見るというのは、視界がさえぎられ、わずらわしいものである。

このような現況に対して、Pranav Mistry氏は、ペンダント型SixthSense端末を試作し、操作デバイスとして身ぶり・手ぶりなど人間の日常生活の動作を活用した。情報表示も壁、手のひらなど身の回りのものに投影する。この表示の仕方だと視界がさえぎられないので、見やすいのである。このように人間の自然な動作によりインターネット情報を取り出し、日常生活の中に投影するのである。これらは単なるコンセプトではなく、実際に試作端末やシステムが開発され、デモンストレーションが紹介されている。(図表14)
http://www.pranavmistry.com/projects/sixthsense/ 別ウィンドウが開きます

次世代AR:SixthSenseの利用シーンとして、以下のようなものが紹介されている。(図表15)

図表15:次世代AR:SixthSense(2/2)
  1. (1)顧客プロフィール
    SixthSense端末が来店した顧客のプロフィールや購買履歴がその人の服にテロップのように流す。
  2. (2)写真撮影
    両手の親指と人さし指で長方形を作り、写真を撮るジェスチャーをすることにより、 SixthSense端末が写真を撮影する。
  3. (3)新聞写真解説
    新聞の写真をSixthSense端末が読み取り、新聞の写真上で動画が表示され解説する。
  4. (4)書籍紹介
    書店で手に取った本の表紙をSixthSense端末が読み取り、その表紙上に本のレビューが表示される。

まるでSF映画のようでもあるが、それほど遠くない将来にこのような状況が実現されることが予感される。現状、スマートフォンがデスクトップパソコンをしのぐような感じで進化普及しているが、それがゴールでないことが、このようなARデバイスの開発動向を見るとは分かるのではないだろうか?

デスクトップコンピュータの普及期において、WindowsOSがデスクトップコンピュータ業界を席巻したかに見えた。

しかし、インターネットの進化につれ、ポータルサイト企業や検索サイト企業がデスクトップコンピュータ・インターネット業界を席巻したかに見える。さらに、現在は、スマートフォンの世界的な普及により、新たな業界構造が形成されようとしている。しかし、それで終わりではなさそうである。さらにその後、AR技術やARデバイスの進化・普及による世界が控えているのである。そしてさらにその先もきっとあるのであろう。まだまだ技術の進化はすごいものである。

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