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“Old Age”から“New Age”への胎動

パートナー 山下 長幸

さまざまな社会経済的混乱やリスクの高まり

日本経済は1991年のバブル経済崩壊以降、それまでの絶好調の景気から一転絶不調の景気となり、その後長期にわたりデフレ経済の状態に陥った。その間、何とか景気回復をさせようと日本政府により、さまざまな金融財政政策が打たれ、ネットバブルや日本企業による新興国への輸出好調などもあり、一時期、景気回復したかに見えた時もあった。しかし、2008年のリーマンショックを契機にグローバル規模で経済不調に陥り、多くの国々でさまざまな金融財政政策が打たれ、一時的には危機を脱したかに見えたものの、昨今の西欧諸国のソブリンリスクの高まりの要因となってしまった。

加えて欧州ソブリン危機の余波を受け、新興国におけるバブル経済崩壊のリスクの高まり、エネルギーや食糧などの国際商品価格高騰によるスタグフレーションの状況への恐れなども生じている。

さらに、異常気象、地震、火山噴火など世界的に大規模な天変地異が頻繁に発生し、地域社会の混乱や先行き不安を発生させている。

このような状況の下、中東・北アフリカ諸国で民衆による長期独裁政権打倒の動きが激しくなった。また、米国のウォールストリートの占拠運動を契機にOccupy運動が世界的な広まりを示した。これらは、既得権益を握る長期独裁政権や財閥などによる不条理・不公正に対する民衆の怒りであり、それを是正したいという市民の意志が強く働いているのであろう。これらの動きは、現状の枠組みを前提とした単なる改善レベルの動きではなく、現状の枠組みを打破するような政治・経済・社会の構造的な変化を促す動きのように感じられる。既得権益を握っている体制側も簡単には屈せず抵抗を示すケースも多く、両者の争いの過程で、ある程度の混乱期間を経るのは不可避であろう。

図表1:社会経済リスク
出所:NTT データ経営研究所にて作成

経済成長期においては、経済を発展させ、より豊かな生活を追求するなど社会が向かう方向性について、多くの人々の意識は合いやすいものである。これに対して、世界的なソブリンリスクやバブル経済崩壊リスクの高まり、エネルギー・食糧などの国際商品価格高騰、世界的な天変地異の頻発、長期独裁政権や財閥に対する打倒・批判運動などだけでは、今後、社会の向かうべき方向について、方向感が見えないような状況となっている。(図表1)

“Old Age”から“New Age”への移行

現下の経済社会情勢は、ただ単に景気循環のプロセスの1つであり、不況のサイクルは時間がたてばいずれ自然と好況のサイクルに戻るというようなものであろうか。何かこれまでとは異なるパラダイムシフトが起きているような気がするのである。

図表2:“Old Age”から“New Age”へ(全体観)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

そこで、現在は“Old Age”から“New Age”に移行する過渡期にあるのではないかとの仮説をおいてみた。現状の“Old Age”からパラダイムシフトが起きて“New Age”に移行するとは具体的にどのようなことなのであろうか。パラダイムシフトと言っても、ある日突然、何もかもが変わるわけではなく、“Old Age”の状況において既に“New Age”の萌芽があり、移行期・混乱期を経て“New Age”に至るのであろう。(図表2)

そこで、さまざまな分野での“Old Age”における“New Age”の萌芽を検証してみた。

“Old Society”から“New Society”への移行

“Old Society”と“New Society”に関して、テレビのニュースコメンタリー番組で、ヒマラヤの王国ブータンによる国民総幸福量(GNH: Gross National Happiness)の向上を目指すという考え方が紹介されていた。

国民総生産(Gross National Product, GNP)で示されるような、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えである。

「足るを知る者は富む」(老子)
「寛容、慈愛」
「仕事に生きがいを感じる」
「家族との生活に幸せを感じる」

清廉潔白で、つつましく、分かち合うような社会・政治・経済が目指すべき“New Society”のビジョンなのか、それを実現する社会・政治・経済の枠組みとは、どのようなものなのか、まだその具体的な構図はよく見えない。国内総生産向上追求の20世紀的な価値観である“Old Society”とは、弱肉強食、利己主義的、アンフェアな社会構造のもと、もっぱら経済発展、企業利益追求で、物質的豊かさ・金銭的豊かさを追求するということであったのであろう。これに対して、分かち合い、利他主義で、フェアな社会を追求し、国民総幸福量の向上を求めるようなものが21世紀的な新たな社会経済の価値観であり、このような“New Society”を今後具体的に構想していくことが求められている。

図表3:Facebook創業者マーク・ザッカ―バーグ氏が目指す世界観
出所:NTT データ経営研究所にて作成

全世界で数億人の登録者がいると言われているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)であるFacebookの創業者マーク・ザッカーバーグ氏は、「より透明性のある世界」「より公正な世界」を実現するためにFacebookのサービスを展開していると語っている。単に起業し、株式公開をしてお金もうけをするということではなく、なかなか高邁な志である。インターネットの進展が“Old Society”から“New Society”へのパラダイムシフトを加速化させているのであろう。(図表3)


“Old Politics”“Old Government”から
“New Politics”“New Government”への移行

アメリカ合衆国は“世界覇権国”と称され、強大な軍事力を背景に国際決済通貨のポジションを築き、国際経済社会に対して多大な影響力を行使してきた。かつてスペイン帝国や大英帝国などが世界覇権国の地位についてきたが、歴史の変遷とともに世界覇権国も変遷をとげてきた。これまでのアメリカ合衆国のやり方の行き詰まりとともに、次の世界覇権国はどこかなどの議論もあるようである。

しかし、強大な軍事力で他の国々に影響力を行使するという“Old Politics”のやり方はもう止めにしたいと多くの人々が感じているのであろう。もっとフェアで譲り合いの国際政治の枠組みを構築したいものである。このような“New Politics”がどのようなものかは、現時点では想像がつかないが、世界の国々・人々が納得できるような新たなスキームを構想することが求められている。

選挙によって選ばれた代議士による政治的な意思決定という仕組みも、20世紀的な時代背景において選択された“Old Politics”であるような気がする。交通手段や情報通信手段が発達していなかった時代においては代議士による間接民主制による政治的な意思決定も致し方なかったかもしれない。

しかし、交通手段や情報通信手段がこれだけ高度に発達した21世紀においては、例えば国民電子投票のようなスキームを構築して、国民投票という直接民主制での政治的な意思決定の仕組みを構築することが“New Politics”の世界観のような気がする。このことは、マスコミ各社が世論調査という形で内閣や首相の国民支持率を定期的に測定し、支持率が低いと世論として政策変更すべきとしたり、内閣総理大臣は交代すべきとしたりと、既に現在でも世論が政治的な意思決定に大きな影響力を持っている。そうだとすれば、マスコミとはいえ民間企業のサンプル調査結果ではなく、正式に公的な制度として国民電子投票のようなスキームを構築して、国民投票による直接民主制による政治的な意思決定の方がよりフェアではないだろうか。21世紀にふさわしい“New Politics”の枠組みを具体的に構想していくことが求められている。

“Old Economy”から“New Economy”への移行

1971年に米国政府は金1トロイオンス(31.1g)が1USドルで兌換(だかん)できるという金本位制を停止し、各国通貨の為替レートを外国為替市場における外貨の需要と供給の関係に任せる変動相場制に移行した。これにより通貨の大量発行が可能となり、金融資本主義のベースともなったと言えるであろう。行き過ぎたマネーゲームやカジノ経済と称された金融資本主義は2008年のリーマンショックで行き詰まりを見せ、加えて良好な地球環境を維持するには、行き過ぎた物質文明を是正する必要があることが、多くの人々に認識されはじめている。

図表4:“Old Age”から“New Age”へ
(個別分野1)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

しかし、ポスト金融資本主義のあるべき姿は今のところよく見えない。新興国の高度経済発展が地球文明の将来ビジョンかというと違和感がある。新興国も欧米先進国や日本と同じ高度経済成長の道をたどるべきなのであろうか。新興国が貪欲(どんよく)に経済発展を目指すと、地球温暖化問題は解決困難となり、良好な地球環境の維持はとてもできない。

このように今日ほどポスト金融資本主義のあるべき姿を構想する必要性に迫られている時はないと感じられる。(図表4)

“Old Industry”から“New Industry”への移行

さまざまな業界で“Old Industry”から“New Industry”に移行する萌芽が見受けられる。

例えば、電力業界では、石油・石炭などの化石燃料発電、原子力発電から、地球環境に優しい自然エネルギー発電への転換が急がれている。

自動車業界では、ガソリンエンジン自動車から電気モーター自動車への代替が急速に始まっている。

航空業界では、高コスト高運賃の伝統的な大手航空会社に対して、格安航空会社(Low-Cost Carrier)の台頭が著しい。

図表5:“Old Age”から“New Age”へ
(個別分野2)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

マスメディア業界では、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など従来型の一方通行の情報発信が主力であったが、インターネットのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのソーシャルメディアの進展が著しい。

業界ではないが、ベンチャービジネスを起業する姿勢も、株式公開(IPO)を目指す起業家から、社会問題を認識し社会変革を起こすために起業する社会起業家が注目を浴びている。

このようにさまざまな業界で“Old Industry”から“New Industry”に移行する萌芽が見受けられ、このような変革を具体的に構想していくことが求められている。(図表5)

“Old Age”から“New Age”へのパラダイムシフト

“Old Age”から“New Age”にパラダイムシフトする萌芽がさまざまな局面で既に見受けられるが、そこに至る過程においては、さまざまな混乱や痛みは不可避であろう。既に混乱期の萌芽も世界的なソブリンリスクやバブル経済崩壊リスクの高まり、エネルギー・食糧などの国際商品価格高騰、世界的な天変地異の頻発、長期独裁政権に対する打倒運動など既にみられている。

しかし、情報通信技術の進化だけでなくさまざまな分野での技術進化や人々の精神性の向上などにより、“New Age”へのパラダイムシフトは不可避であろう。現在求められているものは、“New Age”における新たな社会経済の仕組みを具体的に構想していくことだと思われ、当社でも検討を深めていきたい。

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