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大震災で問われる自治体の震災対策強化の必要性

アソシエイトパートナー 武藤 健
『情報未来』No.37より

 

3.11に起こった東日本大震災において、社会・企業でさまざまな課題が顕在化された。本稿においては大震災後の状況を分析し、大震災後の特に地方自治体の震災対策のあり方についてさぐっていきたい。

想定外であった「広域型災害」と「大津波」

ここで、あらためて3.11の東日本大震災の概要を整理しておきたい。

「発生日時」 2011年3月11日 午後2時46分
「震源地」 三陸沖 牡鹿半島の東南東約130km付近
「地震の規模」 マグニチュード9.0( 国内観測史上最大級)
「余震回数」 4月6日までに、Mw 5.0以上の地震が400回以上

という概況である。

今回の震災の特徴的な点として、

(1) 被害が広範囲に及ぶ「広域型災害」であったこと
(2) 東北、北関東における「大津波」の被害
(3) 福島の「原発事故」による2次災害
図表1:東日本大震災における都道府県別の最大震度
出所:NTT データ経営研究所にて作成

の3点が挙げられるだろう。

(2)、(3)に関しては、新聞やニュースでも連日報道されており、記憶に新しいことと認識しているが、(1)の「広域型災害」であったという点も、今回の震災後の状況を分析するうえでは重要なポイントと考えている(図表1)。

これらの3つの特徴的な点が、今回だけの特殊ケースかというと、必ずしもそうではない。30年も前から「いつ起きても不思議ではない」と考えられている「東海地震」も、「東南海地震」、「南海地震」と連動して発生する可能性があることが指摘されている。

また、この場合に東海~紀伊半島~四国太平洋沿岸~九州太平洋沿岸の広い地域で大津波が発生する危険性もある。実際に1707年に発生した「宝永地震」は、東海・東南海・南海の連動型で、高知の種崎村においては、高さ23mの津波が発生したと推定されている。今回の東日本大震災のような「大津波」を伴う「広域型」の大震災が、今後も発生しうることを前提に、震災対策の見直しを進めるべきであろう。

行政機能停止による初動遅れ

図表2:東日本大震災にみる地方自治体災害対策の課題
出所:NTT データ経営研究所にて作成

今回の大震災において顕在化した課題(図表2)として、まず挙げられるのは「自治体機能の喪失」による初動の遅れであろう。

岩手県の大槌町においては、町役場が大津波に流され、町長自身が被害にあわれた。震災後の対応に陣頭指揮をとられていた最中に被害にあわれた町長のご冥福をお祈りするばかりであるが、町長が被害にあわれ自治体機能が喪失した結果、大槌町においては住民の半分が一時的に行方不明となった。

震災時に、「被災状況の把握」、「避難誘導」、「広域応援要請」、「避難者支援」等、被災地の住民にとって重要な機能を担う、市区町村等の自治体機能の喪失は、近隣住民の被害を大きく拡大するリスクをはらんでいる。

こういった「自治体機能の喪失」という万が一の事態に備えた対策が今後必要になる。

まだまだ課題がある重要情報のバックアップ

住民基本台帳や戸籍等の「重要情報の喪失」も、今回顕在化した大きな課題である。

沿岸にある、岩手県陸前高田市、大槌町、宮城県南三陸町、女川町の4市町村においては、津波により住民基本台帳のデータが喪失した。保守管理を委託されていたベンダーがバックアップデータを保管していたため復旧は可能であったが、復旧までに1ヵ月弱を要し、安否確認・行方不明者数の把握もこの期間不可能となった。

震災時の初動や、その後の各種支援の申し込み対応業務のことを考えると、データのバックアップはただ「ある」だけではなく、震災直後に「活用」できることが必要である。

初動時の情報収集にも課題


もう1つの大きな課題は「初動時の情報収集不足」である。

今回は「広域災害」であったこともあり、東日本全域にわたって約40万人にものぼった避難民への物資供給面での課題が大きくクローズアップされた。

どの避難所にどれだけの避難民の方がいるか、彼らの健康状態はどうか等の情報が十分に把握できていないうえ、道路交通網の被害状況も確認できなかったため、震災直後は、燃料、食糧などの物資供給が被災地域に十分に行き届かない状況が続いた。

今回のような「広域災害」のケースでは、被害地域も広域にわたり、避難民の方も大勢にのぼるため、マニュアルでの情報収集は困難であり、「ICT」を活用した情報の収集・管理プロセスの整備も大きな課題である。

自治体における震災対策強化の方向性

以上のような状況を踏まえ、自治体における震災対策強化のポイントとして、大きく左記の3点がある(図表3)。

(1) 自治体自身の被災を想定した自治体機能相互バックアップを視野に入れた、業務継続体制・プロセスの確立・強化
(2) 迅速で的確な情報把握・情報伝達・情報公開を可能とする情報システムの導入
(3) 住民基本台帳等の各種行政文書、行政システムのバックアップ強化
図表3:超広域災害に向けた想定される打ち手
出所:NTT データ経営研究所にて作成

(1)に関して、「自治体間での相互バックアップ」の体制を整えておくことが1つの解決策と考える。事前にある程度離れた市町村で、お互いの市町村が万が一被災した場合に、もう片方の市町村が被災時の重要機能を肩代わりするよう取り決めをしておくイメージである。

もちろん、取り決めだけでは有事の際に動かない。 どういうケースでバックアップ機能を発動するか? どのような機能を肩代わりするか? どういった情報を活用してどのように業務を行っていくか?等を、具体的な「業務継続計画」としてまとめて、実際に回るかを訓練で検証しておく必要がある。

(3)に関しては、ただバックアップをとるだけではなく、有事の際にすぐリストア・活用できるようにしておくことが重要となる。もちろん、パックアップセンター立ち上げによるシステムの二重化も有効な手段だが、コスト面がネックとなるのが現状である。

ポイントとなるのは、「簡単にリストア・参照ができるようにデータのバックアップをとっておく」ことなので、NTTデータの「Lindacloud」のような、その点に特化したバックアップシステムを安価に導入することが望ましい。

最後に・・・

以上、今回の大震災の状況を分析し、特に自治体における震災対策強化の方向性について整理をしてきた。

今後、復興に向けた動きが一層進められていくなか、これまで通りの各自治体による個々の取り組みだけでは、またいつ起こるかもしれない「広域災害」に立ち向かうことはできない。わが国全体を巻き込んだ制度・枠組みの見直しが必要だ。

現在、災害対策基本法に基づき、地方自治体各団体において策定が義務付けられている地域防災計画では、自治体自身の被災および自治体機能の低下・停止については、特に想定する必要がない状況である。地域防災計画に定められた業務を、大規模な災害発生の際でも円滑に実施するためには、災害対策基本法の改正等による、自治体自身の業務継続計画策定の法制度化が必要だと考える。

その一方で、自治体自身の業務継続計画策定については、投資体力・策定ノウハウの面が足枷(あしかせ)となり、いまだ多くの団体が未策定、もしくは策定公表段階に至っていないのも事実である。この点については、業務継続計画の策定義務付けと併せ、国レベルからの予算面・ノウハウ面からの業務継続計画策定を推進させる仕組みも必要ではないか。

また、中央防災会議(内閣府)での対策大綱・被害想定の見直しも早急に進めていく必要がある。今回の大震災は、これまで中央防災会議が対策大綱を策定してきた想定震災をはるかに超える規模・地域で発生しており、被害想定の見直しや、東海・東南海・南海連動型地震を想定した新たな対策大綱の策定が必要ではないかと考える。

 

今回の大震災においては、15,000人以上の尊い命が犠牲となったが、本稿をきっかけに議論が深まり、1人でも多くの命が救われるようになれば・・・ということを切に願いつつ、本稿を締めさせていただきたい。

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