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シニアが高める企業競争力シリーズ 第2回

SI企業におけるシニア活用の課題と展望

シニアコンサルタント 松尾 重義
【第1回】 事例に学ぶ役職定年制
【第2回】 SI企業におけるシニア活用の課題と展望
【第3回】 シニアのマインドセット

1.はじめに

独立行政法人労働政策・研究機構の推計※1によると、日本の労働力人口は、需給が2006年と同水準で推移した場合、2030年には15~29歳の労働力人口は400万人以上、30~59歳の労働力人口は700万人以上が減少することが予測されている。

このような状況下で、労働力不足解消の観点からも、高齢者の活用は必須であり、2006年には高齢者雇用安定法の改定が行われ、65歳までの継続雇用が社会的にも求められている。 本レポートシリーズ(シニアが高める企業競争力シリーズ)では、ますます注目されるシニア活用のための取り組み事例についての当社の考察を紹介する。第2回である本稿では、筆者がコンサルティングを最も多く手がける業界である、IT業界、特にSI企業におけるシニア活用への期待感や課題、取り組み事例を、SI企業11社へのヒアリング調査結果から紹介したい。

※1:独立行政法人労働政策・研究機構「労働力需給の推計」

2.SI企業におけるシニアへの期待

【図表1】
SI企業におけるシニアへの期待
出所:NTT データ経営研究所にて作成
【図表2】
SI企業におけるシニアへの期待(人員規模別)
出所:NTT データ経営研究所にて作成
【図表3】
SI企業におけるシニア活用の課題
出所:NTT データ経営研究所にて作成
【図表4】
シニア活用のための取り組み事例
出所:NTT データ経営研究所にて作成
【図表5】
シニアを活用するための3つの整理ポイント
出所:NTT データ経営研究所にて作成

SI企業において、特にシニアに求められる役割とは何だろうか。本レポートを作成するにあたり、数社のSI企業へヒアリング調査を実施した結果、最も多かった期待として「上流工程での(営業、提案、コンサルなどでの)付加価値創出」が挙げられた。また、次いで多かったのが「顧客との強力なリレーション」であり、受注に向けた貢献期待も伺える。この結果から、シニアに対する期待が、これまでの経験やノウハウを生かした後進指導というよりは、それらのノウハウを生かし、現役人材として、より一層貢献してもらいたいとの思いであることが伺えた。(図表1)

さらに企業規模(人員数)で期待感を分類したところ、1000人未満の企業については上流工程での付加価値が多く求められるが、1000人以上の企業になると(上流工程での付加価値よりは)事業創造などが求められる傾向にあることが分かった。(図表2) 調査を実施する中においても、1000人未満の企業はプライム受注の拡大を目指している企業が多く、その傾向が現れたものと推察される。また、1000人以上の企業においては、プライム受注がある程度しっかりとできており、さらに事業拡大のためにシニアを活用していきたいとの思いがあると考えられる。いずれの場合も次点には「顧客との強力なリレーション」が挙げられており、実行力の伴った人材への期待感が見受けられる。

3.現状の課題感

では、現状のシニアは上記の期待に応えることができているのだろうか、また、もし応えることが不十分であるとしたら、どのような課題があるのだろうか。 現状の課題感について調査したところ、最も多く挙がったのが「現業とのスキルアンマッチ」であった。次点以降に続く「環境変化適応力の不足」「プレーヤーとしての価値発揮不足」についても広く捉えれば現業とのスキルアンマッチであり、全体の約7割がその理由による課題である。(図表3) また、個人の課題だけでなく、IT業界の構造的な問題を挙げたコメントもあり、多重下請け構造の中で、階層の異なる企業に転職した場合の課題感(違いを考慮して行動ができない)や、そもそも変化の早い業界であり、長年蓄積したスキルのみで匠(たくみ)となることが難しいのでは、といった指摘も挙がった。(シニアが多重下請け構造の中で、階層の異なる企業に転職した場合のマインドセットについては、第3回「シニアのマインドセットを参照されたい)

シニアにとって現業とのアンマッチが課題感になってしまう理由としては、IT業界の変化の速さもその理由ではあろうが、筆者はこれまでのコンサルティング経験から「現場感がなくなってしまった管理職の再復帰の困難さ」も大きな理由であると考えている。IT業界で管理職になることは、初期段階ではプロジェクトのPM(プロジェクトマネージャ)と同一的な役割を担うことが多いが、職位が上がるにつれ、数字的な管理面が強くなり、また、顧客対応も直接的には対応しなくなることが、結果として企業が求めるシニアへの期待と乖離(かいり)してしまうのである。

4.取り組み事例

上記課題感を持ちながら、SI企業はシニアを活かすためにどのような取り組みを行っているのだろうか。課題感に対して、直接的に対応している事例は少なかったものの、多くの企業で「(シニアにより一層価値を発揮してもらうための)雇用延長制度」「(活躍できるシニアとなるための)キャリアデザイン、ライフデザイン制度」が備わっていた。(図表4)

ただし、これらの施策はあくまでもインフラとしての機能を主眼としており、依然として課題に対する打ち手の検討が必要である状況に変わりはないことが分かる。

5.シニアを活用するために

ここまでシニアへの期待と課題感および現状の取り組み事例を見てきたが、シニアとしての期待に応えるために、また現状の課題を払拭(ふっしょく)するために抑えるべきポイントはどのようなものであろうか。

これまでの調査結果およびコンサルティング経験から、シニアを活用するための共通ポリシーを以下のように整理することができる。

- 軸足のベースは「第一線で活躍できるプレーヤーとしての役割」であり、その役割を加速させるエンジンとして「マネジメントの役割」を担う -

このポリシーにしたがって、シニアの活用を促進するための3つのポイントを整理してみたい。 (図表5)

(1)プレーヤーとしての役割を軸足のベースとする意味の整理

これまで見てきた調査結果でも分かる通り、ビジネス上の貢献価値はマネジメント役割を担っていたとしても、プレーヤー視点である(管理のみに注力する人材は必ずしも戦力ではない)。IT業界の環境変化に対応していくためにも「個人が変化のある環境から一歩身を引いている状態」を避ける必要があり、世代に応じたプレーヤーとしての役割を担い、常に貢献できる人材であることが求められている。
(例えば、本調査結果を見る限りシニアに対する期待は必ずしもPMとしての役割のみならず、営業やコンサルタント、あるいはアーキテクトといった役割にも及んでいると想定される)

(2)プレーヤーとしてのベースに付加して、マネジメントの役割を担う意味の整理

マネジメントの役割を担うことで、プレーヤーとして、PJ単位での貢献だけでなく事業(ビジネス)単位での貢献ができる人材になることが求められている。よって今後求められるマネジメントの役割とは、あくまでもベースとしての軸足としてのプレーヤー視点での活躍を促進するエンジンとなることが求められている。

(3)マネジメントの役割を終える意味の整理(あるいは終えない意味の整理)

シニアが必ずしもマネジメント役割を終える必要があるかというと、継続的な事業貢献が可能であれば、必要な裁量としてのマネジメント役割を継続するという考え方もあり、理論的にはシニアが活躍すれば、事業が拡大しマネジメントポストが不足することはなくなるため、一律にシニアが後進に道を譲る、という概念は発生しない。

ただし、実際には能力のある若手・中堅人材の事業貢献性への期待から、後進に道を譲る(役職定年制)、あるいは実力本位で役職任用する(能力主義の徹底)運用がなされていることが実情であり、マネジメントの役割を終えたとしても、引き続きプレーヤーとしての継続的な能力発揮ができるための「プレーヤー視点でのマネジメント」が求められている。

6.終わりに

昨今の人材マネジメントの課題として「管理職のプレーヤー化回避」が挙げられることも多いが、「管理職“後“(シニア)」を考えたとき、管理職に求められる視点も変わっていくことが想定される。また、管理職”前“の人材(若手人材)についても同様で、シニアで活躍するためには、長いスパンでの動機付けや育成が重要であることは言うに難くない。シニアの活用については今まさにその取り組みが本格化してきた段階であり、体系的なキャリア開発のための取り組みが期待される。

以上

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