NTT DATA 変える力を、ともに生み出す。
NTTデータ経営研究所
English  お問い合わせ  サイトマップ

戻る サイト内検索
戻る

英国の事例に見るネットスーパー展開のポイント

シニアコンサルタント 三ツ井 淳
『情報未来』No.35より

はじめに

近年、インターネットを通じて食品・日用品を注文できる「ネットスーパー」が注目されつつある。大手スーパーマーケットチェーンも本格的に展開を開始する等、市場は拡大傾向を見せている。市場調査会社富士経済の予測によると、2009年のネットスーパーの市場規模は284億円規模となり、2008年の227億円と比較して25%増となっている。

日本でネットスーパーが展開され始めたのは1990年代後半で、初期の大手の参入では2000年の西友、2001年のイトーヨーカ堂がある。その他、現在では多くのスーパーマーケットチェーンがネットスーパーに参入している。このうち、イトーヨーカ堂は現在ネットスーパーの最大手であり、2008年度の売上は120億円から130億円規模と見られている。一方で伊藤忠食品の子会社で複数の中堅スーパーマーケットチェーンにネットスーパーのシステム構築と宅配代行サービスを提供してきたグレースコーポレーションが2008年に撤退するなど競争も激化している。

海外の動向を見ると、英国では大手スーパーマーケットチェーン店を中心としてネットスーパーは比較的早い時期から展開されており、市場も大きく今後の成長も見込まれている。英国はOECD(経済協力開発機構)加盟国中で5番目のブロードバンドの契約数を誇っており、通信環境の整備状況やネットを通じた商品の購入に対する受容度を考えると日本と遜色ないレベルであると考えられる。そこで本稿では、まず英国のネットスーパー市場を概観し、次にその中でも最大手であり、かつ参入から拡大まで順調に展開してきたTescoの取り組みを紹介する。そして、これら英国ネットスーパーの事例を基に、今後の日本におけるネットスーパー展開のキーポイントを考察する。

英国におけるネットスーパー市場の概要

英国の食料品・日用品のオンラインでの販売額は2003年度時点で10億ポンド(約1,500億円)とされている。英国の調査会社であるBusiness Insightsの推計によると、2010年までに45億ポンド(6,750億円)規模になると予測されており、今後も急速に拡大する見込みである。また、別の英国調査会社Key Noteによると、2008年からの5年間でネットスーパー市場は2倍以上に拡大するとされている。

英国のネットスーパー市場は、Tesco、ASDA(Walmart傘下のスーパーマーケットチェーン)、Sainsburyなどの大手スーパーマーケットチェーン、および高級スーパーマーケットチェーンのWaitrose、オンライン専業のOcadoによって占められている。これらの5社を除いては、業界4位のMorrisons等の大手であってもネットスーパーへの参入は行っていない。これらの5つのネットスーパーはこれまでの間、いずれも配送ネットワーク、品揃え、Webサイトの機能性等を中心に競争を展開してきたが、近年の不況の影響によって現在ではお互いのネットスーパー間での価格競争をより重要視するようになってきているようである。これらのスーパーマーケットチェーンにとってネットスーパーの展開は、消費者への販売チャネル拡大の重要な1オプションと捉えられており、急速に拡大するネットスーパー市場のシェア争いは熾烈である。

Tescoのネットスーパー「Tesco.com」

Tescoは1919年にロンドンで創業された食品・日用品小売事業者である。現在は、世界第3位、英国最大手の小売企業となり、世界14ヶ国において4,331店舗を展開、総従業員数は470,000人に上る大企業である。ヨーロッパだけでなく、日本、中国等のアジア各国やアメリカでも事業を展開している。このTescoのネットスーパーであるTesco.comは世界最大級のオンライン食品・日用品販売サイトで、英国、およびアイルランドにおいてサービスを展開している。また、Tesco.comのサイト上では、食品・日用品だけでなく、電化製品、書籍、ブロードバンドネットワーク、生損保などTescoの幅広い製品やサービスが提供されている。

Tescoはネットスーパーの前身であるインターネットサービスを1994年に開始している。この時点で取扱品目は限定的ではあったものの、食品・日用品をすでに販売していた。1997年には、品目を拡大して食品・日用品以外の商品も扱うようになり、1999年にTesco.comとしてリニューアルしている。さらに2006年9月、カタログショッピング形式のTesco Directを開始し、カタログショッピングのサイトとネットスーパーのサイトを統合した総合的な販売チャネルを確立した。

図表1:Tesco.comの売上推移
出所:E-commerce-Europe, Retail Intelligence February 2008, Mintel

Tesco.comの売上は、2007年2月期までの5年間をみると順調に成長しており、2007年の売上は12億ポンド(1,800億円)に達し、営業利益は8,340万ポンド(125億円)に至った。Tescoによると、主要品目である食品・日用品、ワインの販売では、定期的に購入する顧客が85万人、1週間当たりおよそ25万件の注文を受けている。英国の調査会社のMintelによる予測では2008年のTesco.comの売上は15億ポンド(2,250億円)を越えると推計されている(図表1)。

※:1ポンド150円として換算(2009/09/15の概算レート)

Tescoは、英国で中流階級層のマスマーケットを主な顧客層としているが、この層内でもターゲットをさらに細分化し、商品のレンジを三階層に分けてプライベートブランド(PB)商品群を提供している。ネット上で販売している食品類の商品点数は、Tescoの全取扱商品約4万点のうち、約6割にあたる2万5,000点となっている。また、Tescoは全体で約900銘柄のワインを扱っているが、そのうち150銘柄はネットスーパー上のみで提供されている。食品以外については、ネット上での販売品目は約1万2,000点となっている。その他、Tesco.comではデジタルダウンロードも取り扱っており、DVDやゲームのタイトルなど約6,000点のダウンロードが可能となっている。

Tesco.comでの食品・日用品の配送手数料は、配送時間帯によって異なるが、3.75ポンドから6.25ポンド(560円から940円※)となっている。Tesco Direct(食品・日用品以外)での配送手数料は、翌日配送で5ポンド(750円※)、2時間単位で配送時間帯を指定する場合は6.85ポンド(1030円※)、希望する店舗で受け取りの場合は5ポンドで、25ポンド(3,750円※)以上の注文は無料となっている。

Tesco.comの取り組み

Tesco.comはインターネットからの注文に対し、店舗において商品をピッキングする方式を採用してきた。この点は、ASDA、Sainsbury等の競合大手スーパーチェーンが展開しているネットスーパー専用店舗(配送センター)を構築する形式と異なる。商品のピッキングは地区内の大型店舗で対応しており、店頭での商品ピックアップのための従業員が合計9,000名程度配置されている。

Tesco.comの1時間当たりの取り扱い注文数は4,000件を超えている(2007年時点)。これらの注文に対する配送は9時から23時までのあらかじめ決められた時間枠で行われ、商品のピッキングは朝の6時から開始されている。配送網はTescoが自社で構築しており、各店舗が小口配送車両を保有している。2008年度時点で、294の店舗においておよそ1,860台の配送車が操業している。また、食品以外については、小型商品は翌日配送、家具などの大型商品は5日から10日後の配送が標準である。また、Tesco Directでは店舗での受け取りも可能となっている。

Tescoでは、ネットスーパー専用の倉庫型の店舗を設置せず、地域の店舗がネットスーパーでの注文に対応する方針を採用しているが、唯一の例外として、英国で最も注文が集中するロンドン地域の顧客向けに2006年にロンドン南部のCroydonに倉庫型のネットスーパー専用店舗を設けている。この店舗では、十分に訓練されたピッキング担当者が宅配用のピッキングと梱包(袋詰め)を担当している。また、配送員の効率をさらに高めるため、PDA(携帯情報端末)を用いた配送員のルーティングや管理等の投資も行っている。

日本国内の今後のネットスーパー展開に向けて

これまで見てきたように、英国のネットスーパー市場は比較的早い時期から拡大してきている。その中でも導入期から拡大を順調に遂げてきたTescoの取り組みを振り返ることで、今後日本でのネットスーパー展開のキーとなり得るポイントがいくつか見受けられる。

Tesco.comの展開から判断すると、店舗の展開方針、地域特性への対応や柔軟かつ十分な投資はネットスーパーの成功要因であると思われる。このうち、特に店舗展開方針は重要な一因として考えられる。初期導入に当たって、Tescoではストアピッキング方式を採用してきた。一方、ASDA等、他のスーパーマーケットは倉庫型のピッキングセンターを構築する方針を採ったため、高い初期導入コストを強いられた。その結果、ネットスーパーの普及段階までの競争力を維持することが困難となり、その間にTescoがシェアを伸ばしたと言われている。初期の顧客へのリーチを考慮すると、食品等を扱うネットスーパーの業態においてはストアピッキング方式が適していると考えられる。次に、ピッキングスタッフや配送員への投資も重要な項目と考えられる。ネットスーパーで取り扱う商品は食品の占める割合も多く、商品や配送に不備があった場合などで一度顧客に悪いイメージを与えてしまうと、これを払拭することは難しい。Tescoでは、店舗への専属ピッキングスタッフの配置と訓練、配送システムへの投資を十分に行っており、こうした問題へ対応しようとする姿勢がうかがえる。

以上から分かるように、ネットスーパーの展開においては、実店舗とネットスーパーを独立して考えるのではなく、ネットと実店舗を状況に応じて適切に融合させることが他の業態にも増して重要な要素であり、この点を十分に考慮する必要がある。現在の日本のネットスーパー市場は発展途上であるが、今後各社がこうした点をどう乗り越えていくかがネットスーパーの成否を分けるポイントとなるだろう。

 

 

(参考文献)