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「人材開発」機能を強くする!

~Learning Management Officeの提案 (前編)

マネージャー 吉澤 牧人
「人材開発」機能を強くする!
【前編】
中編
後編

 

企業における「人」の重要性は言うまでもない。今、多くの企業で推進している変革やイノベーションを実現できるか否かも突き詰めていけば、「人」次第である。持っている資産の最大活用が求められているが、「人」についても同様である。

一方で「人」については課題も山積している。“疲弊する管理職の活性化”、“高齢者の活用”、“ジェンダーダイバーシティ(女性活用)の推進”、“若年層の早期戦力化”、“離職の防止/人材流動化への対応”、“メンタルヘルスの管理強化”、“崩壊する職場コミュニケーションの復活”、など挙げればきりがない状態である。

そうした中で、当然ながら人材開発の重要性もますます高まっており、山積する課題に対応するためには、人材開発機能の組み立て直しが求められている。

本レポートでは、予算や人員等の制約がある中で、いかにして人材開発機能を強化していくか?、いかにして人材開発担当組織(人材開発部、人事部教育担当等)の戦略組織化を実現するか?、について考えていきたい。

「人材開発」への要求レベルが上がっている

企業において、「人」の重要性、そして「人材開発」への重要性がますます高まっている中で、研修をはじめとして人材開発の施策や制度に対する、経営層や社員双方からの要求レベルが格段に向上していることを実感している。人材開発機能の強化を考えていくにあたっては、まずこうした変化を整理することから始めていきたい。

「経営層」からの要求レベルの向上

まずは、経営層からの人材開発への要求についてである。昔は「人材開発」と言えば長期的な投資の色合いが強く、必ずしも短期的な成果を強くは求められることはなかった(経営層から「成果」という言葉は出てはいても、今ほどのプレッシャーは感じなかったという声も多い)。また、事業や業務への直接的な成果よりも、むしろ研修等の機会(場)の提供そのものを評価する雰囲気もあった。

しかし近年では、長期的な投資としての重要性(例:長期にわたる人格形成や自社の価値観共有など)は認められながらも、もしくは社内の人材交流等の「場」としての重要性は認められながらも、機会事業や業務への短期的かつ直接的な成果が求められるようになってきている。事業計画や変革の実現への人材開発機能の寄与への要望も強まっている。典型例で言えば、多くの企業で課題テーマとなっている「新入社員の早期戦力化」や「管理職のビジョン策定や実現力強化」等であろう。また、さらに高い要求レベルとしては、変化に柔軟に対応できる人材の育成を求められるケースもある。

「社員」からの要求レベルの向上

一方で、社員からの人材開発への要求については、経営層のそれとは少し異なっているものの、そのレベルは上がっている。昔は同期や同じ職種、同じ階層など、社員自身が属する大きなくくりの中で、一律的な人材開発施策が施されていれば “それで十分である” と社員に受け止められていた感がある。

しかし近年では、社員一人ひとりが多様なキャリア志向を持っていたり、ワークライフバランスの考えの浸透と共に多様な “働き方” を実現したいと志望しており、そうしたことへの支援が顕在的・潜在的に求められるようになってきている。

このように、経営環境の厳しさが増している中、企業において経営層や社員からの「人材開発」への要求レベルが大幅に上がってきていることから、今一度、企業における人材開発機能は、組み立て直しの必要性に迫られていると言える。

考えるべき「要素」が格段に増えている

 人材開発機能の組み立て直しを考えるにあたっては、まずは人材開発を考える際の主要な要素である「(1)対象層」「(2)能力開発の対象領域」「(3)育成手法」「(4)育成体制」に分けていきたい。(1)~(4)それぞれについて、経営層や社員双方からの要求レベルへの対応の傾向や方向性を整理してみたい。

人材開発機能強化にあたっては、(1)~(4)それぞれについて増えている要素を考えなければならない上、(1)~(4)の膨大な組み合わせも考えなければならなくなっているのである。

(1) 対象層は細分化

研修を始めとする人材開発施策は、以前は「年代(入社年次)」「役職」「職種」といった基本属性でくくった対象群に対して、一律的に実施をしていたことが多かったであろう。例えば「年代」別で言えば、新入社員研修や “入社○年目研修” などが代表例であり、「役職」別については新任課長職向け研修やメンタリングなどが挙げられる。

しかし近年では、こうした基本属性軸に加えて、パフォーマンス別や事業領域別など、人材課題に合わせて多様な軸を “掛け合わせて” 考えなければならない。基本属性×パフォーマンス×事業領域×・・・・と掛け算で考えなければならず、思考すべき変数は格段に増えている。

なお、補足であるが、パフォーマンス軸とは、現在のパフォーマンス別(例えば、現在のローパフォーマーへの対応等)もあれば、将来のパフォーマンスの視点(例えば、将来の経営人材育成等)もある。事業領域軸についても、現在の事業領域に合わせるだけではなく、将来の事業展開(事業のシフト)に向け、現在の組織のくくりからは離れて対象社員を考える必要があるケースもある。

また、基本属性軸そのものについても細分化が進んでおり、「年代」ではなく「30歳」といった年齢でさらに対象を絞るケースがある。また、ダイバーシティ推進の視点で「性別」や「就業形態」といった軸も追加されていることが多い。

以上のように、人材開発施策の「対象者」(群)を企画設計するにあたっては、以前よりも格段に考えるべき要素が増えている。

(2)対象領域は多様化

【図表1】能力開発の対象領域の考え方
出所:NTT データ経営研究所にて作成

次に能力開発の「対象領域」についても対象者(1)同様に整理していく。「対象領域」については、一言で言えば多様化しており、対象者同様に企画設計や推進の複雑度合いが増している。

以前は、対象として「業務に直結」し、かつ「個人」のスキル習得に重きを置く傾向が強かった。技術系の研修はその典型例である。近年も、当然ながら「業務直結」「個人」といった対象領域は中心であるが、人材開発への要求レベルの向上に合わせて、「スキルを最大限発揮できる環境づくり」や「組織やチーム」としての学習までも考えなければならなくなっている。これについては、「個人-組織・チーム」「スキル-スキル発揮環境」を2つの軸としたマトリクスで考えるとイメージがしやすいため、図表1を参照されたい。

例えば、図中の(A)領域の「個人」「スキル発揮環境」には、キャリア開発やモチベーションコントロール等があり、同(B)領域の「組織・チーム」「スキル」については、事業創造やナレッジ創造等が対象となりうる。同(C)領域の「組織・チーム」「スキル発揮環境」では、近年特に重視されている組織風土や職場改善、コミュニケーション強化等がある。

従来からの中心領域である(D)「個人」「スキル」についても、以前よりも、さらに困難な現実課題の解決に直結したスキルであることが求められ、個人の専門性のさらなる追求が求められている。これは、施策設計にあたっては、対象者(群)のパフォーマンス分析などによって、より的確な現実課題の抽出が求められている。

このように、能力開発の対象領域の企画・設計についても、以前よりも格段に考えるべき要素が増えていると言える。

(3) 育成手法は複合化

育成手法については、種々多くの手法が開発されているが、近年は、これらの手法をいかに組み合わせて(複合化させて)考えていくか求められている。少なくとも、以前のように、OJTとして現場に任せるか、Off-JTとして研修を展開するか二分的なとらえ方ではなくなっていることは確かである。この複合化については、例えば次のような傾向が挙げられる。

1つ目は、アクションラーニングに代表されるような、OJTとOff-JTの連動である。Off-JT後の実践や定着に向けてOJTを位置付け、場合によっては受講者の上司まで巻き込んで行うなど、手法設計の複雑性が増している。

2つ目は、OJTとOff-JTだけでなく、その中間に位置するような数々の手法も取り入れられるようになってきていることである。一例を挙げれば、メンタリングや、社内コミュニティ活動の導入等である。

3つ目は、直接的もしくは間接的な人材開発の制度との連動である。多くの企業で人材像やスキル要件を何らかの形で定義しているが、そうした定義と各種施策との真の連動が必要であったり、その他、資格制度や評価制度、配置制度等との同期についても、育成効果を踏まえて精緻に考えていかなければならなくなっている。

育成手法を考えるに当たっては、もちろんこうした傾向をやみくもに追うのではなく、自社における「人の学習プロセス」(例えば、体験→内省→概念化→実験といったコルブの経験学習モデルの応用等)を定義した上で、最も効果のある育成手法を当てはめて(組み立てて)いく必要があることは言うまでもない。

(4)育成体制は分散化

【図表2】人材開発の担当者の広がり ~1人の社員の視点から見た人材開発担当者~
出所:NTT データ経営研究所にて作成

1人の社員の視点に立った場合、自身の育成の“担当者(支援者)” として、直接的・間接的に誰が見えているであろうか?

以前であれば、職場の上司(部課長)・先輩や教育担当部署の担当者・講師等であったであろう。しかし近年は、その数が格段に広がっている。図表2に1人の社員から見た育成担当者をイメージとして記してみたが、上司・先輩の他にも、経営者や幹部・部門長なども、社員との対話機会を通じて育成を支援しており、また、スタッフ部門についても教育担当部署だけでなく、キャリア開発担当、ダイバーシティ担当、現場の育成担当など広がりを見せている。

人材開発が社内施策として重要になり、人材開発の担当組織(人材開発部や人事部教育担当)以外にも多様な関係部署がそれぞれ人材開発施策を手がけるようになってきている。

社内で人材開発に携わる部署や担当者が増えることは、人材開発機能強化としては一見効果的ではある。しかし、彼らがバラバラの方針や思想で社員に接している場合は、必ずしも期待効果を生まない懸念もある。

社内の人材開発の直接的・間接的な人材開発関係者の間のベクトル合わせも、今後の人材開発機能強化を考える上では必須である。

考えるべきは、「メリハリの効いた人材開発投資」と「自律学習/知の創出の“場”の創出」

人材開発の予算や人材開発担当組織の人員等の制約がある中、膨大な考えるべき要素の存在を踏まえ、経営や社員の高まる要求に対応していくためには、次の2点の検討が重要である。

【図表3】考えるべき2つの方向性
出所:NTT データ経営研究所にて作成

1つは、「メリハリの効いた人材開発投資」、すなわち、やみくもな一律的な施策実施ではなく、必要な対象者に必要な対象領域について人材開発を実施するという戦略的な投資配分の検討が重要になる。前節の「対象者」と「能力開発の対象領域」について、課題に合わせてそれぞれを選定・検討し実施していくことが必要となる。

もう1つは「自律学習/知の創出の“場”の創出」として、組織内/職場内に「知」が流通している(いつでも活用できる)状態を創りだすことである。そうした視点で、「育成手法」を組み立て、また自律学習の支援体制としての「育成体制」を組織化していくことが、今後の検討の方向性になろう(図表3)。

念のため補足をさせて頂くが、「一律的」や「強制的(強制参加)」な人材開発施策を否定している訳ではない。むしろ、変革実現にあたって企業の方針や価値観等の企業メッセージの浸透には、一律的・強制的(強制参加)な人材開発施策が効果的である。要は、一律的・強制的であっても、その企画・設計にはこれまで以上の熟考が必要となると考えられる。

「中編」に向けて

本レポートでは、人材開発機能強化の方策を検討するにあたっての環境を整理した。最初に人材開発機能に対する会社(経営)と個人(社員)それぞれからの要求の変化・高まりを整理し、それに対応していくためには、対象者や能力開発の対象領域や育成手法、育成体制について、考えるべき変数が以前よりも格段に増加していることを整理した。

レポート「中編」では、以上を踏まえて、人材開発機能強化の方向性として、より重要性が高まっている人材開発担当組織の戦略組織化(LMO: Learning Management Office化)への方策や求められる機能を考えていきたい。

以上

 「『人材開発』機能を強くする! (中編)」へ続く

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