現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

管理職シリーズ 第4回

イノベーションを加速する組織マネジメント

シニアマネージャー 桃原 謙
【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?

1. はじめに

世界同時不況後、新興国が急速に台頭しており、環境・エネルギーをはじめとする技術・商品・ビジネスモデルのイノベーション競争が繰り広げられている。

激しいイノベーション競争に向けて、日本企業にとって、社員が生み出す知恵やノウハウ等の「個人力」を、組織の成果に結び付ける「組織力」が一層求められている。

それでは、日本企業の現場において、「組織力」は十分に機能しているのだろうか?

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「昇進・昇格実態調査2009」によると、管理職の課題として、第1位「昇進昇格しても実務を行う管理職が多く、職務意識が変わらない(66.5%)」、第2位「管理能力・専門性が期待する水準に少なからず達成していない(58.7%)」、第3位「マネジメント関連業務(コンプライアンス・メンタルヘルス対応等)に追われている(56.1%)」、第4位「部下・後輩への指導・育成に関心がない者が少なからずいる(54.2%)」が上位を占めている。

「組織力」を担う管理職は、組織マネジメント能力や管理職への意識が十分ではない中で、組織マネジメント業務に日々翻弄(ほんろう)され、部下育成もままならない姿を垣間見ることができる。

加えて、昨今、組織に対する利害関係者からの要請は、日に日に厳しさを増している。

例えば株主からは、時価会計や四半期決算等、短期利益に対する圧力は依然として厳しい。社会からは、地球温暖化に伴う地球環境への配慮等の社会的責任(CSR)が問われているし、政府からも、派遣労働者をはじめとした規制強化や法令順守(コンプライアンス)が求められている。さらに社員も、従来の「男性中心の年功序列」組織から、多様な年齢構成、性別、雇用、民族等、多様性のマネジメントが求められており、組織マネジメントは日増しに複雑かつ難しくなっているのが現実ではないだろうか。

昨今のグローバルにおける激しいイノベーション競争の中、社員一人ひとりが生み出す知恵やノウハウ等の「個人力」を組織の成果に結び付ける「組織力」の強化に向けて、今まさに、組織マネジメントのあり方を再考し、新たな組織マネジメントを再構築していく時期に来ているのではないだろうか。

本稿では、コンサルティングの現場を通じて、蓄積した経験や知見を参考にして、イノベーションを加速する「組織マネジメント」における、企業が抱える主要課題と解決の方向性を探っていきたい。

2.「組織マネジメント」の課題

組織マネジメントにおいて、(1)どのような人材が求められるか(人材像)、(2)いかに役割を果たしていくのか(役割分担)、および(3)いかに任用・育成するのか(任用・育成制度)の観点から、 主な課題を言及していきたい。

(1)人材像 ~どのような人材が求められるか

技術・商品・ビジネスモデルのイノベーションに向けて、知識労働者(ナレッジワーカー)を中心とした社員が生み出す知恵やノウハウを生かすにはどうすればよいのか。そのためにも、知識労働者の成果が「労働時間」との相関よりも「知恵やモチベーション」との相関が強まる中で、組織マネジメントにおいて何を見直せばよいのだろうか。

組織マネジメントの本質的な目的は、「メンバーの協業を通じて、メンバーの成果の総和よりも大きな組織成果を導き出すこと」にある。

ゆえに組織成果に向かって全メンバーが割り振られた成果を創出するだけでなく、イノベーションが求められる今、新たに必要な視点とは、「一部メンバーにおいて突出した成果をいかに創出させる」かどうかではないだろうか。

なぜなら、イノベーションとは過去の経験則からの飛躍である。飛躍の結果として、大成功することもあれば一時的に失敗する可能性もあり、メンバー全員が組織目標からブレークダウンされた基準点を目指すだけでは決して十分でないからである。

一部メンバーにおける突き抜けた成果の創出に向けて、メンバーの仕事(PDCAサイクル)を管理するだけでなく、メンバーをエンパワーメント(力づけ)する、すなわち「権限の委譲+情報の提供」を通じて、仕事に対する当事者意識(オーナーシップ)を持って取り組む環境を作り出すことが、今後一層求められる組織マジメントの姿であろう。

つまり、エンパワーメントを通してメンバーの心の中からわき出る「内発的な動機付け」を基にして、メンバーが仕事の目標やゴールを主体的に決めて、課題を解決するサイクルを自律的に回すことを目指すのである。

具体的には、課題に直面したメンバーに対して、指示・命令として過去の経験に基づいた解決策を与えることで、自ら考える機会を奪うのではなく、メンバーへの問いかけを通じてメンバー自らが考え抜き、実行する力を養うことが求められる。もちろん、解決不能の事態に陥っても上司が解決支援できるという、上司の高度な専門性に基づいた「信頼」が極めて重要である。部下支援を行う前提なく、エンパワーメントすることは単なる放任に過ぎないことは言うまでもない。

その結果、メンバーが主体的に課題に取り組み、自律的に問題解決サイクルが回ることで、マネジメントスタイルは、上司のマネジメントからメンバーのセルフマネジメントへと変わり、メンバーの仕事も、指示・命令に基づく形式的な仕事から、顧客価値や質を伴う仕事へ変化していくのである。

(2)役割分担 ~いかに役割を果たしていくのか

実際に、組織マネジメントの役割は明示され、十分に果たされているのだろうか。

通常、「組織マネジメント」の主な役割とは、(1)組織目標を設定し、(2)組織構造やメンバーを決め、(3)業務設計やアサインを行い、(4)部下の育成・活用を図り、(5)進ちょく管理を通じて成果を評価する、ことを意味するが、ブレークダウンされたタスクレベルでは、事業特性等に応じて各社各様である。

組織マネジメントの役割は、実務責任者として最前線にいる課長クラス(90年代入社世代)が中核となって担っている。この世代は90年代後半以降の組織フラット化によるプレーイングマネジャー化やバブル崩壊後の採用抑制によって、後輩の指導経験が不十分だった人材も少なくない。

組織マネジメントの強化に向けて、実践を通じた組織マネジメント力の強化を目指す一方で、一般社員を直接管理する課長クラスと、間接的に管理する部長クラス間の役割分担を見直しする余地もあるのではないだろうか。

例えば、一般社員のキャリア・人材育成は、部長やCoE(専門家集団)*といった上位管理職が行う事例も見られる。また課長クラスがプロジェクトリーダーとして顧客交渉の前面に立つ場合には、プロジェクトリーダーの課長とは別に、専属の組織マネジメント者を設置するケースも見られる。

冒頭に述べた通り、組織マネジメントが日々複雑で難しくなる中で、各社の現状に応じた組織マネジントの役割と役割分担を見直しする必要性が出てきている。
(*CoE(専門家集団)は、経営研レポート「高度な専門性を活かす管理職」をご参照ください)

(3)任用・育成制度 ~いかに任用・育成するのか

90年代半ば以降、人員削減による終身雇用が崩壊しキャリア自立を社員に求めるようになり、社員のキャリアへの意識が変化する中で、昨今、管理職への昇進・昇格に関心を持たない社員が増加している。

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「昇進・昇格実態調査2009」によると、「昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」が、前回調査(1991年)の11.8%から今回調査の33.3%に21.5ポイント増加している。
つまり、従来の企業が示す単線レールに乗ってより高いポストを目指すキャリア志向から、個人が選択する多様化したキャリア志向に変わってきており、管理職ポストを駆け上がることに魅力を感じない人材が急増していることを意味している。

組織マネジネント人材の適材任用に向けて、第一に、企業はキャリア複線化を社員に明示し、キャリアを社員にも主体的に選択させる必要性が求められているのではないだろうか。

キャリア複線化とは、まさしく必要とする人材を多様化することを意味し、例えば、組織成果を目指す「組織マネジメント人材」に加えて、高度な専門性を有する「専門性人材」、「経営・事業人材」等が考えられる。従来のように、優秀な一般社員から半自動的に組織マネジメント人材に任用するのではなく、複数のキャリア選択肢を提示して、会社の意思だけでなく、自分の意思も含めながら、自身のキャリアを決定することが求められる。

次に、組織マネジメント人材への任用を厳格化し、任用を通じて組織マネジメントへの役割のシフトチェンジを十分に認識させることが重要である。

管理職任用時に、年功の維持等の理由から組織マネジメントに向いていない人材に組織マネジメントを担わせるケースが聞かれるが、これは企業や本人双方にとっても悲劇である。部門から推薦された人材の中から選考する中で、短時間の人事面談等だけで、組織マネジメントの資質が十分に見分けることが難しいのも事実である。

従って、管理職任用前(主任クラス)の時点で、組織マネジメントの役割を明示した上で、後輩と共に仕事を行い指導する機会を与えて観察することで、中期的な視点で本人の資質を判断し、組織マネジメントの育成を図ることで、任用の精度を向上させることを可能にする。

同時に、主任クラス時から、組織マネジメントの役割を理解し、後進の面倒を見る体験を通じて、組織マネジメントへの適性を自省して、組織マネジメントの醍醐味(だいごみ)を体感することで、組織マネジメントへの任用や育成に対する効果が期待できよう。

3. 解決の方向性

組織マネジメントの強化に向けて、管理職におけるキャリアの全体像(キャリアマップ)、組織マネジメントの役割を担う人材像の再定義、および任用・育成への再設計の仕組みを構築して、個人の努力のみに頼らず、会社の仕組みを構築して実践していく必要がある。

(1)管理職キャリアマップの再定義

【図表1】
組織マネジメント強化 全体フレーム
出所:NTT データ経営研究所にて作成
  • 各社管理職に求められる機能を定義して、求められる人材を定義する
    (例:「組織マネジメント人材」、「経営・事業候補人材」、「専門性人材」等)
  • 特に、イノベーションやキャリアの多様化を念頭に、「専門性人材」のあり方も検討していく

(2)組織マネジメント人材像の再定義

  • 各社に求められる組織マネジメントの役割につき、外部環境も考慮しながら再定義する
  • 特に、事業や組織特性を踏まえて、課長層と部長層の役割分担を明確化する

(3)管理職任用・育成の再設計

  • 組織マネジメントの人材像(役割)に基づき、組織マネジメント人材の任用を行う
  • 特に管理職任用前(主任クラス)から、組織マネジメントの役割を理解した上で、後輩の面倒を見る体験を通じて、管理職の醍醐味や本人の適正を判断して、適材任用の精度を上げ、組織マネジメント力の育成を早期から始める

4. おわりに

1979年にエズラ・F・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を残してから30年間以上たつが、日本企業において、果たして組織マネジメントは進化しているのだろうか?

20世紀初頭、フレデリック・W・テーラーが、「知識を仕事に適用」することを通じて、マネジメント革命を起して、工場労働者の生産性を飛躍的に向上させたのが、1世紀前のことである。

その後、知識経済が進展し知識労働者が大半を占める中で、成果の源泉が、「労働時間」から「知恵やモチベーション」へ移り変わっているにも関わらず、組織マネジメントは対応しきれているのだろうか。いまだに、上層部から与えられた指示や枠組みに基づいて、過去の経験則を活かしながら、課題を効率よくさばくことを重視してはいないだろうか。

90年後半以降の終身雇用見直しに伴って企業と社員の関係が希薄になる中で、従来通用していた「家族共同体」的な組織マネジメントのあり方が、そのまま通用するとは考えにくい。

むしろ、グローバル競争を打ち勝つ鍵がイノベーションにある今、これまでの効率性に加えて、創造性を向上させるために、新たな組織マネジメントを再定義し、企業の仕組みとして任用・育成することで、「組織力」の向上を図る時期に来ているのではないだろうか。

以上

 (参考)

【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?
Page Top