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管理職シリーズ 第1回

次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵

シニアマネージャー 桃原 謙
【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?

1. はじめに

世界同時不況の余波が通りすぎ、経営環境にようやく薄日が差した昨今、経営者の関心はどこにあるのだろうか?

日本経済新聞社が3月に実施した社長100人アンケートによると、2010年の経営課題として、「新しい収益源の確立」や「製品・サービスの高付加価値化」が、それぞれ41%を占めて、首位となっている。

スマートグリッド・電気自動車等、既存産業の枠を超えて、環境・エネルギー分野を中心に既存の産業分野を超えた新しい産業が急成長している。新しい技術、商品、ビジネスモデル、そして事業のイノベーションに向けて、新興国を巻き込んだグローバル規模での激しい企業間競争に打ち勝つ必要性を、このアンケートは示唆している。

一方、現在、日本企業において、激烈なグローバル競争を担う「次世代の経営・事業幹部」は、果たして育成できているのだろうか?

日本能率協会が2009年に実施した「2009年度当面する企業経営課題に関する調査」によると、次世代の幹部育成が、「期待通りにできていない」が52.1%に達し、半数以上の企業が期待通りに育成できていない現状が明らかになっている。

今後、グローバル規模での新規事業の投資・拡大や成熟事業の整理・縮小といった、グループ事業ポートフォリオの再構築を担う経営・事業幹部が重要性を増していく中で、日本企業は、90年代以降、次世代幹部育成に注力しているにも関わらず、なぜ期待通りにできていないのだろうか?

 本稿では、コンサルティング現場を通して蓄積した経験を参考にして、「次世代経営・事業幹部育成」における、企業が抱える主要課題と解決の方向性を探っていきたい。

2. 次世代幹部育成の課題

次世代の経営・事業幹部の育成の課題を考えるに当たり、(1)どのような人材を育成すべきか(目指す人材像)、(2)いかに計画的に育成すべきか(育成制度)の観点から、現状の課題を言及していきたい。

(1)目指す人材像 ~どのような人材を育成すべきか?

リクルートマネジメントソリューションズが2009年実施した「昇進・昇格実態調査2009」によると、部長層における課題として、第1位「短期的な成果に注力するあまり、長期的な視点での取り組みができていない(42.4%)」、第2位「現状にとらわれず広い視野や高い視点から課題を設定していく力が不足している(41.1%)」が、上位を占めている。

つまり、現在の部長層において、中長期的な視点に立って、現状にとらわれることなく、高い視点や広い視野から課題を設定して、実行する力が欠如している問題点を示している。

特に、次世代幹部には、グローバル規模での企業競争の中、日本という一国の枠を超えてグローバルの視野に立って事業を構想し、企業が置かれる社会や環境に高い視点から配慮しながら、事業の方向性や課題を打ち出していく力が求められる。

それでは、このような能力が、現在の部長層になぜ不足しているのだろうか?

ひとつには、ミドル管理職に無意識に求めてきた行動が悪い影響を及ぼしているとも考えられる。つまり、組織マネジメントにおいて、効率性や生産性を重視するあまりに、仕事における本質的な背景や目的を考えることなく、仕事を「手際よく処理する力」を求めてきたことではないだろうか。

そして、枠組みを変えることなく、過去の経験則を活用して、目先の課題を効率よく、かつ手際よく処理できる人材を「優秀な人材」として、高い評価を与えてきたのではないだろうか。

グローバル規模での事業・ビジネスモデルのイノベーションが求められる今、従来の枠組みの中で手際よく処理する能力だけではなく、世界(空間の広がり)や歴史(時間の広がり)にアンテナを張って情報を集め、今・ここに存在する仕事の背景(Why)や目的(What)をゼロベースで考え抜いて課題を設定し、周りを巻き込んで実行できる力が一層求められるようになっていく。

必要な価値観として、「形式」よりは「質」であり、「効率」よりは「価値」が一層重要になるだろう。

「Do things right」 から、「Do right things」へ。

つまり、行動を、「物事を正しく処理すること」から「正しいことを実行すること」へ変革することこそが、激烈な経営環境を生き抜く次世代幹部にとって、まさに求められている。

(2)育成制度 ~いかに計画的に育成すべきか?

日本能率協会が2009年に実施した「2009年度当面する企業経営課題に関する調査」によると、研修対象者を選抜して教育する「選抜型研修」は「できている(32.8%)」は、「できていない(32.1%)」と拮抗(きっこう)しているものの、研修後の困難な業務への意図的な「配置」は、「できている(11.3%)」であり、「できていない(43.6%)」と比較して、32.3ポイントも下回る結果が出ている。

つまり、次世代幹部として研修受講者を選抜して、経営リテラシー研修や課題解決型アクションラーニング研修は実施されているものの、高い視点や広い視野を獲得できる職位への配置が十分に実現できていない現状が明らかになっている。

主な原因として、「(1)人員・組織構造」や「(2)育成制度」が考えられるのではないだろうか。

先ず、「(1)人員・組織構造」においては、企業における「人員構成の歪み」や「組織形態」が上げられる。

つまり、年功序列が完全には払拭(しょく)されない中では、上位年次層が厚いため、年次を逆転させて次世代にポストを譲る人事になかなか着手しづらい。さらに、事業別や機能別等、組織の壁が高くなることで、組織の壁を越えた異動を困難にしている側面も否めない。言うならば、人員・組織の構造上の問題から、「上への異動」や「横への異動」が阻止されているのである。

その結果、規模の大きな仕事や、職能の広がりを持つ職務に就く機会が少ないため、役員の過半数が、単一事業部門の職務しか経験できなかった企業も中には存在する。その役員会では、全社視点の議論よりは、自部門視点の議論に終始しがちであることは自明であろう。

従って、次世代育成に当たって、人員構成や組織形態の現状を把握し、必要によっては対応策を講じることが必要である。

さらに、「(2)育成制度」においては、次世代幹部育成が経営層からのトップダウンによって導入されるケースが多いため、旗振り役としての本社人事部門が、現場である所属部門のニーズや選抜者本人の動機に対して、十分配慮しきれていないことが上げられる。

所属部門は、自部門からエース級人材が突然引き抜かれてしまい、目先の事業に悪影響を及ぼしてしまうと当然警戒する。また選抜された本人も、選抜自体は名誉なことだが果たして自身のキャリアにとって最適な選択どうか判断できないため次世代幹部を志す腹が固まらない。さらに、本社人事部門も、選抜人材のマクロ(総数)管理だけでなくミクロ(個別)管理が不十分であり、選抜者一人ひとりの強みと弱みも把握できず、中期的な視点での育成効果を得るには至らない。

つまり、選抜人材、所属部門、本社人事部門が三位一体となった育成制度が設計しきれておらず、また運用も実施しきれていないのが現状ではないだろうか。

3. 解決の方向性

【図表1】
次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
出所:NTT データ経営研究所にて作成

次世代経営・事業幹部育成は、前述の通り、経営陣からのトップダウンだけでは実際に機能しにくい。育成の当事者となる選抜人材・所属部門・本社人事部門が三位一体で機能するためには、3つの鍵がある。

すなわち、「1.選抜人材のモチベーション」、「2.所属部門のインセンティブ」、「3.本社人事部門のモニタリング」である。そして、3つの鍵を満たす「次世代経営・事業幹部育成制度」を構築し、運用する必要ではないだろうか。

つまり、「次世代経営・事業幹部育成 フレームワーク」として、(1)人材像、(2)選抜、(3)配置、(4)研修、(5)モニタリングが常に連動する制度全体像の構築・運用が必要となる。

(1)人材像

【図表2】
次世代経営・事業幹部育成 フレームワーク
出所:NTT データ経営研究所にて作成
  • 自社経営環境の分析や、現行人材の特性を踏まえて、あるべき人材像を定義する
  • 特に、あるべき経営ボードの構成や、人材要件(必要とする経験・視点等)を明確化して、社内で共有する

(2)選抜 ~本人のモチベーションに留意

  • 人材像に基づいて、部門推薦のみに頼らず、多くの目線を通して選抜する
  • 特に、自社における多様なキャリアマップ(人材像のレベル別要件)を社員に明示することで、選抜人材は、キャリア面での不安を解消して、選抜への動機付け(モチベーション向上)を促進する

(3)配置 ~所属部門のインセンティブに配慮

  • 人材像に基づいて、配置要件(経験内容・時期・期間)を明確化して、的確な配置を行う
  • 特に、次世代選抜を役員任用の条件化や役員任用の既成事実化等を通じて、他部門配属へのインセンティブを提供する。またグループ企業間の配置を実施する場合、グループ企業間での等級制度(等級数・等級基準等)統一スケールの構築が望ましい

(4)研修 ~本社人事部門のモニタリングを徹底

  • 配置を踏まえて、職務を通じた成功・失敗経験を内省し、今後に向けた体系化を行う
  • 特に、研修を通して、選抜者育成状況のモニタリングや、将来経営チームを組む選抜者同士のネットワーク強化も図っていく

(5)モニタリング ~本社人事部門のモニタリングを徹底

  • 選抜人材について、個人ベース(強み・弱み、必要とする経験等)で把握して、配置・研修のアクションにつなげていく
  • 特に、ミクロ(個別)管理が重要であり、選抜人材数を育成の必要性や効果の観点から一定数に絞り込むことで、本社人事部門での一括管理を可能にする。また極力データベース化することで、人事部門内の継続性(担当者変更への対処)を担保する

4. おわりに

今から10年後の2020年、日本はどのような国になっているのだろうか?

日本企業の国外流出が加速して国内雇用も創出できず、国家財政は破たんし社会保障も満足に受けられない「希望のない国」になってしまうのだろうか。それとも日本企業が独自の強みを発揮して高い創造性や生産性を実現することで、「希望を持てる国」に変ぼうを遂げているのだろうか。

次世代の経営・事業幹部の育成とは、次世代の日本企業を創(つく)ることである。

つまり次世代育成が、企業や強いては国の命運を左右するのである。

そして次世代育成は、経営者が担う重要な責務であることは論をまたない。

その重要な次世代育成の仕事を、単に「手際よく処理する」だけに終始するのでなく、真の実現に向けて地道に取り組み続ける覚悟が、今まさに求められているのではないだろうか。

以上

 (参考)

【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?

 

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