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データに基づく意思決定

No.67 (2021年6月号)
NTTデータ経営研究所 代表取締役社長 柳 圭一郎
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YANAGI KEIICHIRO
柳 圭一郎
NTTデータ経営研究所 代表取締役社長

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)は政策決定に際しての根拠をデータで明確に示し、行政に対する信頼性を向上させようという取り組みだが、緊急事態宣言の延長可否・延長期間、休業や休校要請の範囲、テレワークの7割実施要請などの国民に大きなインパクトを与える施策の決定の際、根拠となるデータがより多く提示されていれば国民の納得性はより高まったのではないかと思う。

今までのコロナ封じ込め対策は「行動抑制」が特に強調されてきた。リーダが自らポリシー(危機感)を提示し、企業や国民がリーダの意向を忖度し(あるいは空気を読み)、自主的に行動抑制するというものだ。強力なロックダウンなどを行わなくても、それなりに効果を発揮してきたのではないかと感じる。

ただ、ポリシー提示/忖度のやり方だとリーダが交代するタイミング以外では方針を転換するのはとても困難だ。結果としては、この原稿を記載している現在(6月上旬)、オリンピックを実施するのか、実施するとすれば観客数やパブリックビューイングをどうするかといった点に関しての国民の理解を得ることが難しくなっていると思われる。

これは企業においても同じことが言える。昔の社長は、例えば「3年で売上を50%アップさせるぞ!」などのビジョンを掲げ、それを社員が忖度し目標達成できると「強いリーダシップを発揮した」と高評価されてきた。しかし、目標が途方もないものだと、社員の忖度は働かない。結果として「頑張れば実現できそう」な予定調和の目標になりがちだ。昨今の社長は、データに基づいて「どうやって50%アップさせるか」を示し、リードすることが求められる。幸い、データ分析の技術は高度化し、未来のシミュレーションは昔に比べて容易になっている。

未来予測のためには、自社のデータのみならず世の中にあるデータをうまく活用することが重要だ。これは製造業において、いろいろな素材や部品を外部から調達しているのと同じだ。一方、自社のデータも、提供方法次第では世の中に役立つかもしれない。最近のニュースでは、「渋谷は前週比で人が何パーセント増加/減少した」などと報道されているが、携帯電話の位置情報がデータソースであることは皆さんもご存じだろう。しかし、携帯電話会社が数年前に「この情報はパンデミックの際の人流把握情報として活用できる」と考えただろうか? データ提供元で「何に使えるか」を完璧に考えることは難しいが、自社の強みを分析し、提供する準備をしておくことが重要ではないかと思う。

データに基づく未来シミュレーションも完璧ではないが、間違った箇所を修正していけば精度は向上する。私が子供の頃の天気予報は「晴時々曇り」とか「曇のち雨」といったアバウトな予報で、少なくとも日本では降水確率も時間毎の予報も無かったが、今は各段に進歩している。企業や行政がデータドリブンな意思決定をするようになれば、データ活用が高度化され、DXはもっと進むと思っている。

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