激甚化する風水害が示唆する“BCPの転換点” ~日本版タイムラインの展開と企業間連携で真の「儲かるBCP」へ~

1 はじめに

2019年は相次ぐ大型台風の到来で未曾有の風水害が我が国各地を襲った。特に台風19号の被害は甚大で、経済産業省の集計によると中小企業等の被害額だけで福島県は1065億円、宮城県970億円、長野県777億円、栃木県768億円など、14の都県で総額4767億円相当の被害が出た。昨今の台風の被害状況からわかるように、これらは地震による津波と変わらないくらいの甚大な被害をもたらしている。また、発生頻度の観点からすると、ほぼ毎年、しかも複数回にわたり我が国にダメージを与えている。この現状からすると、リスク評価(影響度×頻度)の考え方からすれば、災害リスクとしては地震や津波と同等、もしくはそれ以上の重大な脅威となりつつある。

2 「進行型災害」には従来の計画では不十分

近年の地球の温暖化に伴い、海水の温度上昇による台風の頻発化・大型化や、降雨の局所集中化によって、ひとたびダムや堤防が決壊すれば、津波と変わらない位の被害が出ることが2019年の災害でもはっきりと意識されることとなった。また、今後地球の温暖化が進めば進むほど、台風の発生回数の増加や巨大化した「メガ台風」の発生が予測されている。加えて、これらは地震のように「いつ来るのかどこで起こるのかわからない」災害ではなく、ほぼ確実に「毎年、しかも広域で起こりうる」災害である。

風水害いずれのケースも立てるべきBCPについてはある程度共通している。しかし、地震等の発生予測が困難な「突発型災害」と、発生予測が事前になされ被害規模もある程度想定できる風水害のような「進行型災害」では危機の発見のタイミングから被害進行まで大きな違いがある(図1)。地震の場合、地震発生時点で「危機の発見」となるが、台風の場合、熱帯低気圧の発生ののち、台風の想定進路が決まった時点が「危機の発見」となり、そこで災害への対応を開始する事が出来る。そのため長い場合には1週間近くの猶予があり、発生可能なリスクを想定し、人的・物的被害を最小限に抑える事がより容易になる。

図1|突発型災害と進行型災害との違い
突発型災害 進行型災害
地震、日本沿岸を震源地とする津波 台風、異例の量の降雪、海洋を挟んだ遠隔地で発生した地震による津波
被害発生の予測可能性 不可
(あったとしても数秒から数分)
ある程度予測可能
被害の進行速度 甚大な被害が直後に発生 突発型と比較して被害発生は緩やか
発生後にも被害は継続的に拡大

3 「タイムライン」の考え方をBCPに

米国では2005年ルイジアナ州に甚大な被害を及ぼしたハリケーン・カトリーナをきっかけに、ハリケーンの進行状況に応じて、どのような対応を実施するか等の防災行動をあらかじめ計画として策定した「タイムライン」整備の動きが高まった。その後2012年に発生した巨大ハリケーン・サンディは、大都市であるニュージャージー州・ニューヨーク州において地下鉄や地下空間への浸水をはじめ、交通機関の麻痺、ビジネス活動の停止など、近年発生した災害の中でも極めて甚大な被害をもたらした。しかし、タイムラインを元に住民避難に対する対策を行った結果、ニュージャージー州バリアアイランドでは4000戸の家屋が浸水した中でも、死者を出さない事に成功した。

このタイムラインの考え方は特に台風等の進行型災害に効果を発揮する。方法としては、まず台風上陸をゼロアワーとし、5日ほどさかのぼって、ゼロアワーの〇時間前にそれぞれ誰が何をするのかをリスト化。実際にそれにしたがって対策を進める。

先に述べたハリケーン・サンディでは、ニューヨーク市長が上陸3日前に避難すべき地域を発表し、沿岸部の病院に入院患者を退避させるよう呼びかけ、地下鉄の運行停止も予告した。

地下鉄ではあらかじめ電源を地上に運び出すなどの対策を行い、被災を最小限に抑えた。またコンビナートでも事前に製油を止めるなど、タイムラインにのっとった対策が注目を集めた。

我が国では2016年に国土交通省が「タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」をまとめ、氾濫の可能性がある中小河川を抱える1161市町村に対して2021年度までの計画策定を求めている。国土交通省の指針(参考:図2)は防災関係機関の連携を想定し、避難勧告・指示や浸水対策体制配備に重点をおいたものだが、民間企業の進行型災害対策においても非常に有効な考え方である。

企業による対策としては、事前に運べる資機材や在庫を上階にあげておく、工事用・運搬用車両や船舶等をあらかじめ安全な場所に退避させておく、浸水が想定される事業所業務を事前に停止する、風雨による被害が想定される前の時点で社員の出社を禁止し避難を勧告する等が挙げられる。

このタイムラインを導入してハリケーン被害からの回避に成功した民間企業が米・WALMARTである。予想進路上にある全ての店舗に対して、ハリケーン接近前に仮店舗用の大型トレーラーを派遣し店舗在庫を一部移行させた。水浸しになった店舗に代わって物資を消費者に販売できるようにし、営業を継続したという。

図2|大規模水災害に関するタイムライン(防災行動計画)の流れ
図2|大規模水災害に関するタイムライン(防災行動計画)の流れ

出典| 国土交通省ホームページ https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/bunkakai/dai50kai/siryou12.pdf

4 繰り返される調達機能不全に“代替策のジレンマ”

この度の台風15号・19号の被害の際にも、サプライヤーの機能不全により事業に大きな影響が出たケースがある。豊田自動織機は部品の仕入れ先が被災したことで愛知県高浜市の工場が一時操業停止。スバルも部品調達先の被災で群馬製作所の操業を一時見合わせ、1万数千台分の生産に影響が出た。

モノづくりの会社は、東日本大震災など過去の災害の教訓を踏まえ、BCPの強化を進めてきた。部品の代替調達先の確保などが柱だが、しかし、代替品を用意しようとしても操業停止を余儀なくされるケースもある。なぜならば、災害にあったA社から、あらかじめ代替調達先として計画していたB社に切り替えようと思っても、従来と同等の製品を作るためには、機器の調整や品質確認等も含め、一定程度の時間がかかるからである。そうなると、結果として操業できない期間が発生してしまう可能性が高い。

そのため、これからはA社がだめならB社といった代替調達の検討だけでなく、A社自体の事業継続力を高めることについて、調達元である企業が一定のコミットをすべきである。具体的には、自社内でのBCP策定経験を踏まえた実践的なノウハウ展開、情報システムや管理サービスの共同利用化、自社内施設や設備の一部オープン化等の動きが考えられる。

災害時には、一つの企業の中だけで対応するのではなく、外部連携の意識が必須である。サプライチェーン間、同業者・業界内、地域の中の連携等、いくつか連携形態はあるが、その中でも自律的に進みやすいのは利害一致要素が多いサプライチェーン間である。製造業など、サプライチェーンを築いていく企業は、彼らだけで対応していても、それだけではいけないということに気づきはじめた。しかし連携が本当に進んでいるかといえば、疑問であり、まだまだ連携は黎明期であろう。

なお、同業者間の連携ではノウハウは共有しやすいが、それぞれの利害が対立しがちである。そのため采配役のコーディネーターが必要であり、その役割が不在だと連携は進まない。これも今後の課題のひとつである。

5 中小企業にとっては「儲かるBCP」転換のチャンス

いつ来るかわからない災害に対して事前に策定するBCPは、コストと労力という観点で中小企業にはなかなか取り組み難いといわれてきたが、ここ数年は変化の兆しがみられる。

弊社がNTTコム リサーチと共同で2年に1度実施している調査「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査」では、BCPの策定企業の割合は上昇傾向にある事がわかった。我が国には約360万社の企業があるが、そのうちの9割以上を占める中小規模の企業(従業員数99人以下)での策定割合は27・4%と、2017年に比べて約7%上昇した。東日本大震災当時である2011年の9・3%から比べると目を見張るものがある。なお、地域別にみると、関東・中部・近畿での割合が増えており、明らかに「いつか必ず来る」と言われている南海トラフ地震を想定したものと考えられる。

中小企業のためのBCP策定ガイドは元々存在していたが、東日本大震災発生の2011年以降行われた商工三団体と大手損保各社との提携による中小企業のための策定取り組み施策や、2019年7月に施行された中小企業強靭化法といった中小企業の防災・減災対策を推進するための法整備もこれを後押ししているだろう。

さらに、災害の質に応じてタイムライン等を活用したBCPを考えることによって、従来のBCPで多重化や強靭化のために少なくない投資をしてきた事前対策(または危険を伴う事後対応)の一部を、“移動”“封鎖”“計画的停止”といったオペレーションコストで代替できる余地が多分にある。また、サプライチェーン等の連携を進める事によって発生する共同利用化やアウトソースは、そもそも平時の収益性に貢献する取り組みである。BCPは元来お金を生むものではない、しかし本稿で述べたようなしなやかな(=レジリエント)な対策を行う事によって、事業継続の実効性を保ちつつ、結果として投資の軽減と収益の貢献にもつながり、掛け声だけではない真の意味での、「儲かるBCP」になるのである。

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NTTデータ経営研究所 企業戦略事業本部 マネージングイノベーションユニット シニアマネージャー
白橋 賢太朗
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