logo
Insight
コラム・オピニオン

夏の北海道

2022.09.01
heading-banner2-image

東京が猛暑にあえぐ8月初旬、出張で札幌周辺に4日間滞在した。最高気温が20度台で、朝夕は涼しい。

札幌の賑わい

出張の目的は、札幌とその周辺の不動産プロジェクトの視察と観光業界の現状把握である。札幌大通り周辺では、古いビル群の建て替えが進行し、タワーマンションも建設中。屋上や大通り公園のビヤガーデンも夜遅くまで賑わっていた。熱帯夜の東京では、屋外ビヤガーデンに行く気はしないが、夜風が涼しい札幌では快適だ。インバウンド観光が未復活でも、コロナ禍で行動制限のない夏を迎え、涼しい北海道は強い集客力を発揮しているようだ。

ニセコの夜

スキーリゾートで有名なニセコにも初めて訪れ、ゲレンデに隣接した外資系リゾートの施設を見学させて頂いた。コロナ禍に開業し、外国人客が来ない中でやや苦戦が続いていたが、今夏は日本人のホテル利用が活況とのこと。

意外なことに、スキー用のゴンドラが昼夜動いている。特に夜がお勧めなのだという。なぜ夜なのかと疑問に思ったが、乗ってみて納得した。スロープ上に、光ファイバー24本からなるアート作品が、1.3kmにわたり設置されている。夜は18万個もの小さなライトが灯り、風にゆられて草のように優しく動く。人口物とは思えないほど美しい光景に感動した(下の写真)。これは「Mountain Lights」という今夏限定のイベントで、光アートはイギリス人芸術家ブルース・マンロー氏の作品である。

content-image

(出所)筆者撮影。

また本年7月には、ゴンドラの横に、ロープに吊られ最高時速110kmで山を下る「メガジップライン」(全長2.6km)がオープンした。冬のスキーリゾートに、夏も集客する工夫。ゴンドラ設備をアイドリングさせず、夜も集客する知恵。周辺一帯の施設の経営者は外国人とのことであった。コロナ禍でも積極的な投資を行う姿勢もさることながら、「夏も冬も、昼も夜も稼ぐ」ダイナミックな発想に感服した次第である。

お土産の鮭

多くを学んだ出張の帰り、千歳空港で家族に頼まれたお土産を買い求めた。ロイズの生チョコ、もりもとのハスカップジュエリー、これらは全国的に有名だ。加えてわが家の定番は、鮭専門店「丸亀」の「鮭の円舞曲(ワルツ)」。鮭の身とイクラの親子漬で、鮭節、鮭魚醤を含め北海道産の鮭を丸ごと使っている。ご飯にのせて食べると至福である(下の写真)。

content-image

(出所)筆者撮影、のちに喫食。

鮭の漁獲高は減少

しかし、北海道産の鮭の漁獲高は減少が著しい。2012年は34百万尾であったものが、ここ3年間はいずれも15~16百万尾と、半分以下に激減しているのだ(図1)。

<図1>北海道産秋サケの漁獲高推移(千尾)

content-image

(出所)北海道連合海区漁業調整委員会のデータを基に、弊社作成。

鮭の生態系は複雑

減少の理由は何だろう。温暖化の影響でサンマやイカの生息域が変化し、不漁が続いていることと同様なのかと思ったが、そう単純ではないらしい。そもそも、日本産の鮭の生態系は複雑である。天然の鮭は、①川で産卵し、②ふ化し、③海に出る。④オホーツク海から太平洋、ベーリング海、アラスカ湾へと移動し、⑤約4年後に生まれた川へと回遊して産卵する(図2)。

<図2>日本の秋サケの回遊ルート(イメージ図)

content-image

(出所)NPO法人ウヨロ環境トラスト「ウヨロ川サケウォッチングガイド」、イヨボヤ会館「日本系サケの回遊経路の推定図」を参考に弊社作成。

鮭不漁の原因

従って、日本の鮭不漁の原因は①~⑤の各過程で生じ得る。川の環境が悪化すれば、ふ化や稚魚生育に影響する。海水温が上昇すれば、海に出た際に死滅する魚が増える。温暖化が海水温や海流に影響すると、海遊ルートに変化が生じ、日本海域に戻る前に他国に捕獲されたり、日本の沖合でサバやサンマ漁業者に捕獲される可能性がある。

元々、北海道では川での自然産卵が減少していた。このため、親魚から採取した卵を人工的にふ化して稚魚を川に放流し、日本の川に回帰する成魚を近海の定置網で捕獲する漁法が主流である。放流される稚魚数は概ね一定量が維持されているので、日本に回帰する成魚の減少(回帰率の低下)が問題とされている(図3)。その対策として、稚魚が海に出る最適な時期の研究を進めるとともに、餌の工夫により、海水温上昇に耐えられる強い稚魚を育成することなどが検討されている。

<図3>北海道における鮭の放流数と回帰率

content-image

(出所)水産教育研究機構「主な道県におけるサケの放流数と来遊数及び回帰率の推移」より弊社作成。回帰率は4年前の放流数に対する当年度回帰数の比率。

ただ、日本の上記漁法のサステナビリティについては、人口ふ化への依存度が高過ぎることなどから、国際的なMSC認証が得られていない。人口ふ化では親が生まれた川と無関係な川に放流され得るため、生存能力が自然産卵魚に劣るのではないかという説もある。

鮭の長く広大な行動領域を知って、日本の鮭ビジネスは、とてつもなく長くグローバルなサプライチェーンのようだと思った。しかも日本の主力漁法は人工+自然のハイブリッドモデルだ。これは、養殖モデルや沖合捕獲モデルよりも遥かに複雑なビジネスモデルといえる。放流数を維持することは一定の漁獲確保のために必要だと思うが、その多くが死滅または他地域で捕獲されているのだとすれば、ビジネスモデルの問題として捉える必要もあるのではないか。

スマート水産業

日本の鮭不漁問題への対応に当たっては、鮭の行動プロセスを踏まえた上で、気象・海洋・水産ビッグデータに基づいた科学的な原因究明を行い、適切な対策を見出す必要がある。NTTグループでは、NTT東日本とNTT西日本が、それぞれICTブイを用いた鮭の養殖プロジェクトに参画している*。弊社もビッグデータを活用したスマート水産業を支援しており、上記NTT西日本のプロジェクトのほか、水産庁の「スマートブイネットワーク」にも協力している。弊社は、こうした活動を通じて、日本産の鮭漁獲量の回復、ひいては良質でサステナブルな食料自給率向上に貢献したいと考えている。

*NTT東日本の参画プロジェクトは、「好適環境水を用いた完全閉鎖循環式陸上養殖ビジネス化に向けた実証実験の開始~世界初となる『ベニザケ』の養殖事業化に向けたチャレンジ~」参照。NTT西日本の参画プロジェクトは、同社プレスリリース「氷見市宇波沖のサーモン養殖におけるICTブイ実証を開始」参照。

おわりに

ところで、千歳空港では、「北菓楼」の「北海道開拓おかき」もお土産に買った。小さな揚げ煎餅で、秋鮭、ホタテ、ウニ、甘エビなど様々な味がある。家に帰り、甘エビ味のパッケージを見ると、大きな字で「増毛」と書いてある(写真)。

content-image

(出所)筆者撮影。

食べると髪の毛が増える夢の商品か・・・?と思いきや、増毛(ましけ)町でとれる甘エビを使っているということだった(下図参照)。しっかりと甘エビの味がして美味しく、ビールにも合う。お勧めの北海道土産のひとつである。

content-image

(出所)北菓楼HPより。許可を得て転載。

増毛町はかつてニシン漁で栄え、明治時代以降の歴史的な建物が多数遺されている。絵になりそうな町である。近年は若者の移住誘致にも熱心に取り組んでいるとのこと。是非一度訪問してみたいと思う。

Profile
author
author
Miyanoya Atsushi
宮野谷 篤
取締役会長
株式会社NTTデータ経営研究所
岩手県出身。1982年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。金融市場局金融調節課長、金融機構局金融高度化センター長、金融機構局長、名古屋支店長などを経て2014年5月理事(大阪支店長)。2017年3月理事(金融機構局、発券局、情報サービス局担当)。2018年6月から現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、決済・キャッシュレス化、金融政策・金融市場調節。
TOPInsight夏の北海道