世界中で活発化する脳科学研究
基礎から応用に至るまで脳科学研究を支援する政策が世界各国で策定・展開
各国政府の動向に目を向けると、脳科学研究やその応用及び将来の事業活用を支援する各種の研究政策が策定・展開されていることがわかります。
アメリカでは脳科学研究の役割に対する社会的認知の向上を図った「Decade of the Brain (1990~2000年)」を皮切りに、脳科学研究を支援する政策が約10年間隔 で次々に展開されています。さらに、個別の研究テーマや、各種脳関連データベースを整備する研究事業にも莫大な研究予算が準備され、NIH(アメリカ国立衛生研究所)だけでも日本の脳科学研究予算総額の約20倍の資金が投じられていると言われています。近年では、BRAIN Initiativeプロジェクトへ2014年度におよそ100億円(1億ドル)が投入されることが発表され、ヒトゲノム計画に続く大規模国家プロジェクトとして大きな注目を集めました。
またEU(欧州連合)においては、ニューロインフォマティックス(脳科学と情報科学を融合し、脳の構造と機能の解明、さらには脳疾患の治療、新しい情報技術の創出を目指した脳科学研究)と人工知能の融合領域に特化した支援戦略を展開しています。2012年に発表されたThe Human Brain Projectでは、今後10年間でおよそ1680億円(12億ユーロ)を投入し、脳の働きをシミュレートするスーパーコンピュータを開発、新しいICTインフラストラクチャーとして確立・普及することを目標としています。その他にも、ニューロ・テクノロジー産業を国家戦略としているイスラエルや、医療分野を中心に研究成果の商業化を目指すオーストラリアなど、脳科学研究に力を入れる政策が登場しています。
さらに、これらの西欧諸国に加え、近年は中国や韓国、シンガポールといったアジア圏において脳科学研究が非常に活性化しています。中国における脳科学関連の学術論文数は日本のそれに迫る勢いであると言われているほか、韓国では脳研究促進振興計画のもと、2009年度に610億ウォン(約45億円)の研究予算を投入、2011年には韓国脳研究院が設立されました。 シンガポールでも、2012年にニューロ・テクノロジー研究機関SINAPSEが設立されるなど、国策による研究支援政策が盛んです。
| 米国 | 医療、福祉、健康を軸に1990年から継続して国策として脳科学研究を支援。その成果は確実に産業界に波及。
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| 1990~2000年 | Decade of the Brain : 脳科学研究の社会への貢献についての社会的認識の向上 | この間に毎年1,000人以上の脳科学研究者が神経科学会に加わったといわれている。現在の会員数は4万人以上で、日本の神経科学学会員数の約8倍。 |
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| 1993年 | Human Brain project:NIH、NASA、NSF、DOEなどが助成し、10年間で百数十億ドルの研究資金を投資 | |
| 2000~2010年 | Decade of Behavior : 人間の行動がどのように起こるかを理解するための研究 | |
| 2005年 | NIH Blueprint for Neuroscience Research:神経科学研究における基盤技術の整備(マーカー探索、イメージング技術の開発、ニューロインフォマティクスの整備等) |
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| ※NIHの2007年の神経科学領域の研究費は約48億1000万ドル(当時、約5,700億円)。日本の脳科学研究予算総額(当時、約250億円)の約20倍 | ガン研究やヒトゲノムの研究にほぼ匹敵する規模 |
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| 2010~2020年 | Decade of the Mind : 人間の心や行動と脳の関係に関する科学的な理解の促進のための研究 | 研究者数は日本の8倍 研究予算は日本の20倍 |
| 2014年 | BRAIN Initiative : 時間・空間の両面から脳機能の全容解明を目指すプロジェクト 脳関連疾患の治療・予防やハイテク雇用の創出が期待できる 2014年度に1億ドルを投入 |
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Neuro-IT(ニューロインフォマティックスと人工知能の融合領域)⇒1998年からEU加盟各国が参加し、ライフサイエンスと情報工学を組合せて脳科学を推進
基本命題:脳科学はITのために何ができるか
Neuro-IT.net:組織、研究者間のネットワーク作りを行い、知財、人材の交流を図るとともに、基礎研究のポテンシャルを産業界、経済界の関連団体や企業に伝達
人材育成:大学院生、ポスドクを対象としたトレーニングコース創設(European School of Neuro-IT and Neuroengineering)
Bio-ICT:脳科学研究支援策として、Neuro-ITに加え、新たなコンセプトとして構築し、ライフサイエンスと情報通信技術の相乗効果を期待
2012年10月 Human Brain Projectを発表⇒10年間で総額12億ユーロの資金を獲得
背景:
1.ヒトの脳の卓越性にもかかわらず、脳の全体像が未明である現状。
2.脳の疾患がもたらす経済的コストの大きさ。(推定8000億ユーロ)
3.ヒトの脳の知識が限られている現状⇒ICTの発達の妨げ
目標:
今後10年で脳の情報を結集し、脳の働きをシミュレートするスーパーコンピュータを開発し、新しいICTインフラストラクチャーとして確立・普及
研究分野:
神経科学・医薬学・コンピュータ技術の三分野が共同研究
医療分野を中心に研究成果の商業化を目指す⇒大学、病院等をネットワークし、組織横断的コンソーシアムを推進
脳研究促進振興計画⇒2017年までに脳研究(科学技術論文と特許技術)で世界第7位に入ることを目標に2009年度に610億ウォンを投入。R&Dの中核人材1万人育成、脳関連市場規模を3兆ウォンに拡大するための基盤を整備する方針
また2013年には、1600億ウォンを投入して国策研究機関「韓国脳研究院(KBRI)」を建設。
ニューロ・テクノロジーを国家戦略化
シモン大統領の意向によりNPO「Israel Brain Technologies」を設立
100万ドルの賞金を懸けたBRAIN Prizeで商業化につながる優秀なアイデアを募集
アジア各国で脳科学研究が活発化
中国:中長期科学技術発展規画(2006~2020年)では、脳科学および認知科学分野の基礎研究強化へ取り組む。BMI研究では、既に世界的成果も発表し評価が上昇中。
シンガポール:2012年に、ニューロ・テクノロジー研究機関SINAPSEを設立。世界で唯一、異分野融合、脳科学技術の他分野への応用・発展に取り組む団体と公言。
日本国内における脳科学支援政策
一方、国内に目を転じてみると、基礎研究や医療・福祉分野への応用に注力した支援政策が展開されていることがわかります。
文部科学省では、平成20年に『脳科学研究戦略推進プログラム』が策定され、脳機能を理解し、脳機能や身体機能の回復・補完を可能とする「BMIの開発」や、脳科学研究の共通インフラとしての「独創性の高いモデル動物の開発」に研究予算が投じられています。さらに総務省では、脳と情報通信の融合や脳活動の省エネ性を模倣した革新的なICTの構築を目指す『脳の仕組みを活かしたイノベーション型研究開発』が平成23年度から開始されています。また、2014年度からは一元的に医療分野の研究開発を管轄する独立法人(日本版NIH)の設立も見込まれており、効率的に研究を行うための枠組みとして期待されています。
このように我が国においても近年急速に脳科学研究への支援政策が打ち立てられていますが、その規模や期間を考えると、前述の国々と比して必ずしも十分とは言えません。
| 文部科学省 | 研究基盤の充実化や医療分野への応用を目指した基礎研究テーマに投資。
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| 目的 | 脳機能を理解し、脳機能や身体機能の回復・補完を可能とする「BMIの開発」、研究の共通基盤となる「独創性の高いモデル動物の開発」を支援 |
| 特徴 | 国内の脳科学支援政策の中では最大規模のもの。主に、医療・福祉分野への応用を睨んだ基礎的な学術研究を支援。 |
| テーマ:基礎研究 | 脳研究に役立つ実験動物の開発 |
| 応用研究 | 脳の情報を計測し脳機能をサポートすることで、身体機能を回復・補完する機械を開発(情報脳) 社会性障害(自閉症、統合失調症等)の解明・診断等に資する先導的研究(社会脳) うつ病や睡眠障害、認知症等の予防・ 治療法に資する基礎・基盤研究(健康脳) ※2014年からは、『革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト』が理化学研究所を中核機関としてスタートするほか、 医療分野の研究開発プロジェクト(文科省・経産省・厚労省)を一元化する新独立法人の設立も検討されている(日本版NIH) |
脳と情報通信の融合や脳活動の省エネ性を模倣した革新的なICTの構築を目指す。
大阪大学と情報通信研究機構『脳情報通信融合研究プロジェクト』を平成21年スタート
| 目的 | 脳情報通信に関する研究開発により、「いつでも、どこでも、誰にでも、こころも」伝える新たな情報通信パラダイムを創出 |
| 特徴 | 大阪大学とNICTの連携を軸に、ATRをはじめとした脳情報通信分野で優れた実績を誇る研究機関の研究者と幅広く連携を目指す。世界最高水準の脳計測技術の実現を目指していることも大きな特徴。 |
| テーマ | 脳の機能に学んだ新世代のネットワークの実現 「こころ」を伝えることができる情報通信の実現 新しい情報通信パラダイムの創出 |
『脳とICTに関する懇談会』を平成22年スタート
| 目的 | チャレンジド(障がい者)及び高齢者への支援並びに超低消費エネルギー及び不測の事態でも柔軟に対応できる情報通信ネットワークの実現を討議 |
| 特徴 | 「脳とICT」というキーワードのもと、国外の脳神経科学の研究動向や計測技術の長所・短所の整理及び今後の研究・開発戦略について議論 |
| テーマ | 短・中期・・・脳活動を介して意図や動作を機械に伝える技術の高齢者・チャレンジド (障がい者)への適用方策 長期・・・・・・脳活動を介して意図や動作を機械に伝える技術の高度化方策 脳に学ぶ効率的な情報ネットワーク技術の実現に必要な要素技術の確立方策 |
『脳の仕組みを活かしたイノベーション創成型研究開発』を平成23年スタート
| 目的 | 脳と情報通信の融合や脳活動の省エネ性を模倣した革新的なICTの構築を目指す |
| 特徴 | 脳科学の知見を応用し、脳が語る内容の翻訳を日常的に可能とするネットワーク型BMI等、イノベーションを創成する脳情報通信技術の研究開発等を行う |
| テーマ | 1.利用者が頭の中で考えた動作・意図を推定し、ネットワークを介して機械に伝える技術(脳を読む) 2.脳の優れた特徴を活かした省エネで自律的に動くネットワークの制御技術(脳に学ぶ) 3.脳情報通信研究開発にかかる倫理・安全面に関する調査 |
| ※平成24年には研究委託を受けたATR、NTT、島津製作所、積水ハウス、慶應大学がネットワーク型BMIハウスの実証実験に成功 | |
脳科学の事業活用に関する調査研究や、脳科学をメインテーマとしたシンポジウムの開催。
アルツハイマーやうつ病等の疾患に関する基礎的な脳科学研究の個別テーマに助成。



