1. はじめに
当社は令和5年度厚生労働省委託事業として「病院薬剤師を活用した医師の働き方改革推進事業一式」(以下、「本事業」)を実施した。
本事業の目的は、患者アウトカムの向上に資する医師の働き方改革の更なる推進、薬物療法の有効性安全性の更なる向上、病院薬剤師の確保などを実現するための方策の検討に資する情報を得るため、タスク・シフト/シェアの取り組み事例の収集、令和4年度に実施したタイムスタディ調査結果データの分析など、子育て世代の病院薬剤師に対する調査、病院への普及・啓発などを行うことである。
本事業の報告書は既に厚生労働省ウェブサイトで公開されている。したがって本稿では、令和4年度に実施したタイムスタディ調査の結果データを基に、タスク・シフト/シェアの取り組みがどのような効果をもたらしているのかについて、筆者の個人的見解を示したい。
2. タイムスタディ調査の概要
まずタイムスタディ調査について概要を説明する。タイムスタディ調査は令和4年度厚生労働省委託事業として、病院薬剤師の勤務実態を詳細に把握することを目的として行われた。調査対象は全国の病院8,194施設であり、これらの病院に所属する2万人超の薬剤師から回答が得られた。調査は「病院向け調査」と「個人向け調査」の2つで構成されている。「病院向け調査」は回答施設の基本的な属性を把握するもので、「個人向け調査」は薬剤師が行った1週間の業務内容(「処方監査・疑義照会」や「薬剤の取り揃え」など)を15分単位で把握するものである。
本事業では、タイムスタディ調査結果を基に主に以下(図表2)の分析を行った。本事業の目的はタスク・シフト/シェアや薬剤師確保の推進につながる情報を得ることであるため、タイムスタディ調査結果の分析もこれらの事業目的に沿ったものとした。
3. タイムスタディ調査結果の分析結果から得られた示唆
タイムスタディ調査結果の分析結果から多くの示唆が得られたが、そのうち主なものを示したい。
■医師から薬剤師へのタスク・シフト/シェアが業務効率化につながっていると考えられる
医師から薬剤師へのタスク・シフト/シェア 1 を行っている病院と行っていない病院を比較し、それぞれの病院に勤務する薬剤師が行った業務内容ごとの労働時間の全労働時間に占める割合の違いを分析した。
医師から薬剤師へのタスク・シフト/シェアを行っている病院では調剤関連業務の労働時間割合が低く、行っていない病院では高くなる傾向がみられた(図表3赤枠部分)。この理由は医師から薬剤師へのタスク・シフト/シェアが何らかの業務効率化につながっているためと考えられる。
さらにタスク・シフト/シェアを行っている病院では病棟関連業務の労働時間割合が高く、行っていない病院では低くなる傾向がみられた(図表3青枠部分)。この理由は調剤関連業務の業務効率化により病棟関連業務に充てる時間をより多く確保できているためと考えられる。
■主要加算の算定が薬剤師の充足状況に好影響を与えていると考えられる
病院薬剤師に関連する主要な診療報酬の加算の算定が病院薬剤師の充足状況に好影響を与えているか否かを分析した。
分析で使用した加算は「病棟薬剤業務実施加算1」、「薬剤管理指導料」、「退院時薬剤情報管理指導料」の3つ(以下、「主要加算」)である。また薬剤師の充足状況を示す指標として薬剤師常勤換算1人あたりの病床数カテゴリ(以下、「病床数カテゴリ」)を設定した。薬剤師常勤換算1人あたりの病床数が少ないほど、その病院の薬剤師の充足度が高いことを示している。主要加算を全て取得している病院(図表4で「あり」)と、いずれも取得していない病院(図表4で「なし」)を病床機能分類ごとに比較し、両者の間で薬剤師常勤換算1人あたりの病床数にどのような違いが出るかを分析した。
図表4中の赤枠は、病床機能分類と主要加算の取得有無ごとに見た際、病床数カテゴリにおける病院数の割合が高い1位と2位を示している。赤枠の状況をみると「あり」行の赤枠は、「なし」行の赤枠と同じ位置にあるか、右側にずれている傾向がみられた。
このことから、主要加算の算定が薬剤師の充足状況に好影響を与えていると考えられる。
4. まとめ
本稿では、本事業で行ったタイムスタディ調査の分析結果から2例を抜粋し、その解釈としてタスク・シフト/シェアが業務効率化につながっている可能性や、主要加算算定が薬剤師の充足状況に好影響を与えている可能性を示した。なお本事業では本稿で紹介した分析結果の他にも多くの分析を実施しているため、それらの分析結果については厚生労働省のウェブサイト(報告書)を参照いただきたい。
今後は、本事業で分析した結果を踏まえ、各方面で病院薬剤師のタスク・シフト/シェアや病院薬剤師確保の取り組みがより一層推進されることを期待したい。