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経営研レポート

インパクト投資の要件からみた地域貢献への期待

2023.08.10
金融政策コンサルティングユニット長/パートナー 地域公共政策チーム担当 大野博堂
金融政策コンサルティングユニット 地域公共政策チーム シニアマネージャー 坂田知子
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地域貢献の中身はCSRから経営目標へシフト

サスティナブルな社会に向け、環境や社会全般に与える効果を「インパクト」と呼んでおり、これを投資的活動で支えるのが「インパクト投資」だ。ただし、インパクト投資による地域課題解決に先行し、金融庁は金融機関が実施してきた「地域貢献」の中身の検証に着手予定とされている。

かねて地域商社の設立やマッチング支援をはじめ、地域創生への取り組みを推進してきた地域金融機関ではあるが、活動から得られる具体的な目標値が公表されない、といった指摘を受けてきた。

そこで金融庁は、現に地域を取り巻く内外環境の変化を勘案したうえで、「課題解決後の目指すべき姿を提示しているか」「その具体的な目標水準はどうか」といった点を検証するとみられる。これにより、従来はCSRの一環のように見えていた地域支援のメカニズムが、金融機関の経営目標そのものに昇華することになる。

あらゆるステークホルダーとのコミットが必要

今般、金融庁はインパクト投資の要件を示したが、前述の通りの前さばきがあってこそ、実効性のあるインパクト投資が地域課題を解決に導くものと解される。

実態をみると、欧米に比して我が国におけるインパクト投資の残高は少なく、ESG投資やサステナブルファイナンスといった投資手法との差異も理解されにくい状況にある。こうした認識課題を背景に、金融庁は基本的指針において、インパクト投資を「サステナブルファイナンスの1分野」として明確に位置付けたうえで、以下4つの構成要件を示した。

基本的指針におけるインパクト投資の4要件

<要件1>

実現を「意図」する「社会・環境的効果」や「収益性」が明確であること(intentionality)

<要件2>

投資の実施により、追加的な効果が見込まれること(additionality)

<要件3>

効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification / measurement / management)

<要件4>

市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性等を支援すること(innovation / transformation / acceleration)

インパクト投資は、「収益確保」を前提としつつ、個別の投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での「効果」と、これを実現する戦略等を主体的に「特定」のうえコミットする点に特徴がある。

つまり、インパクト投資において金融機関および投資家は、「具体的な社会・環境面での効果」の把握が求められるわけだ。さらに、「誰とコミットするのか」も重要な論点となる。金融庁が公表した要件を見る限り、当事者は複数挙げられる。

すなわち、金融機関は「投資家」「地域社会」「顧客」「職員」といった多様なステークホルダーとの間で「コミット」し、これを具体的な目標水準とともに対外公表することが期待されていると解釈すべきだろう。

社会・環境課題は振興総合計画から捕捉すべき

そのうえで注目すべきは、インパクト投資の基本的指針の<要件1>として、「社会・環境的効果」を掲げ、投資の結果として「事後的に社会課題が解決された」といったものは、本来インパクト投資が目指すべき姿ではない、と断じた点だ。今後は投資判断の際、「社会課題を念頭に、目指すべき課題解決後の姿を定量的に捕捉可能な形で示す」ことを前提に、事業主体・団体と金融機関・投資家は事前に協議を行うことが明確に示された。

地域金融機関としては、従前よりも深度を増して地域社会そのものを取り巻く環境変化に敏感でなければならず、個別具体的な地域課題を捕捉する必要があるわけだ。実はこうした地域を取り巻く環境分析は、かねて地方公共団体が数年おきに公表する「総合計画」の策定作業を通じて仔細に亘って実施されており、その結果として地方公共団体が認識する明確な地域課題が政策の「優先劣後の評価」と併せて表明されている。

筆者らは複数の地方公共団体のアドバイザーを努めており、当該事業においても総合計画に関する各種相談を受けているほか、実際に総合計画策定そのものを業務委託として支援している。その際、総合計画策定時には、計画策定に関する審議会が設置され、審議会委員には地域の各産業分野の支え手や有識者として、商工会、社会福祉議協議会、大学教員らと共に地域金融機関の支店長が委員を委嘱されるケースが少なくない。

当該審議会では、自治体における住民アンケートの結果が共有されることになる。アンケート調査は回答者の負担軽減、集計の容易さはもとより、自治体が想定する課題の検証といった意味合いから選択制の設問が多いのだが、回答選択肢の範疇にとどまらない住民の問題意識が匿名加工されたうえで自由記述意見として数多く寄せられることになる。

つまり、より仔細な地域の実情に接することが可能なわけだ。

したがって、こうした活動を通じて得られた地域情報(法的に容認される範囲内が前提である)や得られた示唆を金融機関内に共有することが重要である。

隣接する他自治体でも同様の課題が存在するならば、「広域連携のスキーム」を描くうえでの有意な提言も可能となろう。

定量把握に欠かせない自治体設定のKGI/KPI

総合計画などから捕捉される地域課題であれば、施策や事業による効果や達成水準を捕捉することは比較的容易だ。インパクト投資の<要件3>として、効果の「特定・測定・管理」を行うことが求められたわけだが、この対応の難易度はさほど高くない。

例えば、少子高齢化が進展し、将来世代を担う若年人口が減りつつある、といった地域社会の問題意識を念頭に、この解決を主眼に事業をなす事業者や民間活動団体などを投資的活動で地域金融機関が支援する場面を想定する。

金融機関・投資家は、こうした課題解決を担う事業者や民間活動団体などに対して資金を投じる際、明確に解決すべき課題とその達成水準(KGI)を双方で協議のうえ決定し、中間指標となるKPIを事業年度毎に点検・評価しつつ、投資対効果を「双方で」定量的に推し量る必要がある。

このケースでは、解決すべき課題は「若年人口の確保」であり、KGIは「5年後に若年人口を令和5事務年度比で200名増加」といった形で設定することが想定されるだろう。また、KPIは事務年度単位で「初年度は令和5事務年度プラス20名、2年度目は同プラス50名」といった年度刻みで定義すれば、定量的かつ客観的に捕捉・評価可能な指標を設定することが可能となる。

事業者は、これをよりどころに具体的な事業プランを描き、金融機関はこれをファイナンスで支援する格好だ。

広域連携が機能しないケースに注意が必要

他方、留意せねばならない点もある。前述のケースに絡み、地域によっては出生数の増加(あるいは人口の増加)をKPIとして設定し、これを実現するために婚活支援やマッチングサイトの運営を事業者に委ねる例も少なくない。要は

「人口増を叶えるためには出生数を増加させること、イコール婚姻数を増やせばよい」

という発想に基づいた事業とも言える。

こうした婚活事業の多くが県主催など「自治体を跨いだ広域で」実践されているが、本件事業を通じて婚活がマッチングした場合、必ずしも当該自治体内人口が増加するとは限らず、マッチングの結果、「相手が居住する他の自治体に人口が流出」するケースがあることを意識する必要がある。

こうしたプログラムをファイナンスなどを通じて金融機関が支援するシーンが想定されるものの、事業遂行の結果得られる効用の事前評価は欠かせない。

事業効果の測定には住民の幸福実感度の捕捉も重要

インパクト投資における効果の「特定・測定・管理」については、自治体が設定するKGIやKPIの活用の有用性は前述のとおりであるが、自治体のKGI/KPIには未だ成果物や事業量そのものを評価する「アウトプット」の視点のみにとどまっている現状に注意が必要だ。

例えば、先のとおり人口増を定量的なKGI/KPIとして設定した場合、本来であればその効果として社会的効果として何がもたらされたのかという「アウトカム」の視点でも事業を評価のうえ、改善のアクションにつなげることが本来は期待されている。

あくまで例示であるが、人口が増えたことによって、交通の混雑や病院の待ち時間の長時間化などのほか、ごみの無分別や不法投棄など生活の快適さ、いわゆる住民の幸福度が低下するようなことがあっては本末転倒だ。

ひるがえって、インパクト投資の本来主旨に「持続可能」な視点も重要要素として含まれていることに鑑みれば、その内容は当然に「域内」や「住民」そのものの幸福度を高める効果を発現する必要がある。

金融庁が示したインパクト投資における定量把握では、第三者による客観的評価に耐えうる目標指標の設定が肝要だ。本稿ではその活用イメージの一端を紹介したに過ぎないが、今後の活動の一考となれば望外である。

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