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情報未来

真の地域創生に地域金融機関はどう取り組むべきか

~広域でのインフラ整備支援のススメ~
No.70 (2022年12月号)
NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニット長/パートナー 大野 博堂
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OONO HAKUDO
大野 博堂
NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニット長
パートナー

1993年NTTデータ通信入社。その後、旧大蔵省でマクロ経済分析に従事。2006年より当社にて省庁や金融機関、自治体向けの政策課題解決のコンサルティングを担う。現在、都城市市政活性化アドバイザー、飯能信金監事、東工大サイバーセキュリティ経営戦略コース講師を務める。

地域金融機関は、少子高齢化が進展する厳しい地域部を営業基盤とするが、「地域の雄」として地元自治体や顧客からの地域活性化支援への期待は一層高まりつつある。本稿では、地域事情に精通した地域金融機関だからこそ可能となる地域貢献のあるべき姿を、地域の代表的な課題を取り上げ、整理してみたい。

期待される地域の特異な「資源」や差別化因子の導出

金融庁ではこれまで、地域金融機関に対し「融資量の拡大に依存したビジネスモデルは持続可能でない」といったメッセージを発信し続けてきた。併せて、地域の企業経営者を対象に、金融機能の改善に向けた示唆を得ることを目的とした実態調査を実施しており、この中で興味深い回答が多数寄せられている。例えば、地域企業の経営者は、金融機関を「資金面のほか、コンサルや海外展開支援などのサービス提供の面でも助けられている」と高く評価する一方、「資金の貸し借りがある金融機関は交渉相手であり、相談相手にはなり得ない」といった厳しい意見も確認できる。

こうしたデータも踏まえ金融庁は、金融機関が自ら掲げる目標の「量」から「質」への転換を促すことを目的に、地域貢献を通じたスキームとして出資規制を思い切って緩和した。地域における円滑な事業承継や事業再生等に地域金融機関が貢献できるよう、5%を超える出資を容認したわけだ。そのうえで地域金融機関に地域商社の設立などによる地域貢献を促してきたといえる。

地域商社には地域課題への取り組みが期待されているわけだから、実効性を確保するためには、地域商社のメンバー構成上の工夫が必要となる。ポイントは、「問題意識を有している人材」を外部から招聘し、スタッフに組み込むことである。専門人材は限られるものの、傘下のシンクタンクとの連携のほか、地元の地方公共団体からの派遣職員受け入れ、場合によってはワークショップなどを通じて地元の学生の意見を取り入れることも有効な一手だ。

しかしながら、多くの地域商社が「地元の特産物を全国へ」などと、遠隔地間での商材マッチングを目指しているようにみえてしまうのが実態だ。なかには、ふるさと納税の流通スキームに意図的に組み込まれることで、口銭ビジネスを指向しているだけにも見える例も存在する。本来、地域商社に求められるのは「地域の特異な資源を探索」する機能である。そのためには、特産品や珍品の発掘作業もさることながら、地域のこだわりや独自の工夫にも着目し、他地域における同等物との差別化因子を見出していく地道な作業が期待されるのである。徹底的に差別化が図られている地域の商材であれば、他地域の同等物に対し品質やこだわりの面で有意性を確保することが出来、新たな付加価値を与えることが可能となるはずだ。例えば、地元の和牛肥育農家がいかなる給餌手法を採用しているのか、といった点にも細かく目配せすることが、地域の新たな「資源」探索や「差別化因子」導出には有用となる。かかる作業は、まさに事業性評価そのものであり、本来は地域金融機関が得意とする領域である。そのうえで、「地元の女子高生が最近話題にしていることは何か」「生産者はどんな労苦を伴っていかなる独自色を打ち出そうとしているのか」といった地域情報の収集も有用だ。地域のツイッターでの「つぶやき」を収集し、インプット情報として活用するだけでも、地域独特の創意工夫や個有の課題、といった有意情報を吸い上げ、分析対象とすることも十分に可能な環境にあるのだから。

自治体の移住定住施策には「働く場」を生み出す努力で貢献可能

域内に固有な特異性や資源を見出すことが出来れば、単に観光収入や物品の販路拡大に結び付くだけでなく、移住・定住に向けた大きな誘引材料ともなるだろう。ここでも地域金融機関の活躍のフィールドは存在する。域内の人口増を目的に自治体が策定する地方版総合戦略および人口ビジョンにおいては、人口増加施策として多くの自治体が移住・定住促進策を掲げている。東京、大阪などの都市部で移住・定住フェアを開催する自治体が目につくのは「どの自治体でも同じことを考えている」ためだ。反面、こうしたイベントを推進する自治体の中には「65歳以上の流入人口ばかりが増加し、かえって社会保障負担が増した」といった悩みを抱える事例もみられるなど、新たな問題の芽ともなっていることに留意が必要だ。本来、自治体が望むのは若手人口の流入である。高齢者ばかりの流入にとどまれば、税収増も消費増も地域の活力となるであろう将来の子供の数の増加も期待しにくいのだから当然だ。また、地域部に移住を希望する方の多くが現地での職探しに苦慮しており、地元自治体も農業(ただし、就業自体にも古くからの慣習で制約が存在する)や林業といった特定職種しか対象者に紹介できない、といった悩みも抱えている。つまり、働く場が用意出来ないため、自治体は本来ターゲットとしたい若年層に訴求することが困難な状況にある。移住に占める高齢者の割合が増加するのは「職探しの必要がなく」ハードルが低いことが背景にあるのだ。

地元の地勢や実情に精通した地域金融機関には、このように自治体が陥りがちな「はじめに移住ありき」の現状を変え、「はじめに職ありき」を生み出す取り組みへの援護射撃が十分に可能だと筆者はみている。企業誘致活動は、自治体の首長が政治力学などによりトップダウンで活動を展開する例が多いとされる。そのため、まずは、地域に所在する企業群のサプライチェーン・バリューチェーンを業種別に分析し、不足する機能を補完することができる企業を特定することが大切だ。次に当該企業が必要とする資源を提供可能な場所、すなわち「用地」の探索、そして環境適応を踏まえたアセスメントやデューデリジェンスにかかる外部専門家の紹介、といった一連のプロセスで自治体の企業誘致活動そのものを「企画段階から」側面支援すれば良いのだ。その際、候補先企業からは「移転に際し、有意な補助金や助成を得られるのか」といった質問を必ず受けることだろう。あらかじめ国・都道府県・地元自治体が提供する補助金などの支援スキームを整理し、「なぜこの地を推奨するのか」を訴求することも欠かせない。

公的施設の集約と既存施設改修に向けた企画提案を

自治体が行う施設整備面としての官需(道路・橋梁工事などを除く)については、政府が各自治体に公用施設の床面積の2割削減を要請していることに注目せねばならない。筆者らのチームが支援中の複数の自治体からも、「市内に点在する公共施設の統廃合の検討」を要請されるケースが出てきたところだ。この床面積には廃校となった公立学校施設も算入されるなど、財政の脆弱化とも相まって、今後は自治体が新設設備を導入すること自体に制約がつきまとうこととなる。加えて、廃校を活用しようにも、設備が陳腐化し耐震基準を満たしていない場合については、相応の対応コストが伴い、「居抜き」での利活用もままならない。そしてさらなるハードルも立ちはだかる。施設に「アスベスト」が使われているケースだ。これを理由に取り壊しコストが倍増した結果、コストを理由に再開発自体が見送りとなる事例も確認されている。このように公共施設を取り巻く課題は、新設自体の制約ばかりでなく、耐震化、解体などのコストを背景に、統廃合を検討するにも自治体には避けて通れない課題があまた横たわっていることを意識する必要がある。

本来は、こうした場面で民間活力の導入が期待されるところだ。PPP(公民連携:Public Private Partnership)と言われるものが代表的であり、この中ではPFI(民間資金を活用した公共施設整備とサービス提供:Private Finance Initiative)のほか、最近では自治体と民間が同率出資で設備投資を行うLABV(官民協働開発事業体:Local Asset Backed Vehicle)という派生スキームにも期待されている。ところが昨今、民間セクターでの設備投資意欲も損なわれている。資材価格の急激な上昇なども一因だ。結果、新たな投資スキームを自治体側が組成しようとしても、協働可能な民間事業者が現れないという悩みが生じている。

好立地店舗の複合機能化も地域貢献となりうる

こうした足元の実情を勘案すれば、地域金融機関に期待されるのは、もはや新設設備に向けた単純なファイナンスプログラムの企画・提案ではない。それよりも、地域に不足する「場所」の提供に金融機関が直接に貢献出来るシナリオが存在する。最近の規制緩和により、店舗規制は大幅に緩和されつつある。交差点などに立地する路面店をビルとして建て直し、自らは空中店舗化したうえで空いたスペースを第三者に賃貸する方式での「不動産事業への進出」も可能となった。そもそもこうした発想は古くから金融庁内にあったものの、地域金融機関における不動産不正融資などが問題視された結果、見送られてきた経緯がある。規制緩和の進展で、地域創生と組み合わせた柔軟な店舗運営が可能となれば、欧米のように「保育施設のある営業店」などに加え、地域特性や地域の要望に合致した「図書館の分館を併設した営業店」「町役場の出先機関を併設した営業店」といった多機能店舗も期待出来よう。

地域金融機関は「広域インフラの再整備」に知恵を絞るべき

前述のように、自治体が単独で新設設備を導入するには、現状では制約が存在し、前提として既存庁舎の統廃合をセットで捉える必要がある。他方、地域にはかねて広域での自治体間連携のスキームが組み込まれていることを改めて認識する必要がある。その一つが広域防災連携だ。海沿いの自治体が仮に津波等によって指揮命令系統を一時的に喪失したとしても、住民避難の誘導や避難場所提供を他の自治体がカバーすることで、より広域で特定リスクに備えようといった取り組みだ。発展形態として、広域観光戦略(観光DMO)などが挙げられる。宿泊施設が不足する自治体が、隣接する自治体の宿泊施設に観光客を誘導するなど、広域で観光客を周遊させることで双方が不足するリソースや機能をカバーし合う格好だ。

地方版総合戦略策定に際し、域内の不足機能を自治体が独自に確保することを目標に掲げる例は数多くあるが、財源の手当てや集客力が常に課題としてつきまとう。「隣町が立派な図書館を作ったのでウチの町にも」と計画しても、そもそも投資に見合う集客が得られるとは限らない。

地域金融機関としては、目先の需要へのファイナンス面での貢献もさることながら、広域連携スキームを念頭に置いた「地域インフラの再整備」を自治体に提案することが肝要だ。複数の隣接自治体を束ねた広域でリソースの在り方を評価し、自治体を跨いだ人口分布と重ね合わせることで、「どこに何の機能を配置することが適切か」といった検討を俯瞰して行うのだ。これにより、隣接する各自治体が類似する施設整備に重複投資する「無駄」を排除し、個々の自治体の投資余力が確保される。ひいては、自治体がより地勢や地域性に根差した独自施策に限られた予算を投じることが可能となり、地域の特性もより際立つことだろう。

地域金融機関はこのような発想で、真の地域課題を「広域で」俯瞰したうえで、隣接自治体間での連携スキームによる合理化投資を支援すべきである。

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NTTデータ経営研究所

金融政策コンサルティングユニット

ユニット長/パートナー

大野 博堂

E-mail:onoh@nttdata-strategy.com

TOPInsight情報未来No.70真の地域創生に地域金融機関はどう取り組むべきか